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犬の泌尿器疾患

【獣医師監修】愛犬が腎臓病と診断されたら?症状・原因・治療法・対処法を徹底解説

愛犬が「腎臓病」と診断されたら、飼い主としては不安でいっぱいになるでしょう。

腎臓は生命維持に重要な臓器であり、腎臓病は放置すれば命に関わる深刻な病気です 。一度損なわれた腎臓の組織は元に戻らないため早期発見・早期治療が鍵となります 。しかし適切な管理を行えば、腎臓病の進行を遅らせて愛犬の寿命を延ばすことも可能です 。

本記事では、獣医師の視点から犬の腎臓病について「症状」「治療法」「自宅でのケア」を徹底解説します。焦らず正しい知識を身につけ、愛犬に最善の対応をしてあげましょう。

犬の腎臓病とはどんな病気?

犬の腎臓病とは、腎臓の機能が低下していく病気です。その原因は加齢による臓器の老化、感染症、中毒(有害な植物や薬剤の誤飲)など様々ですが、特に高齢犬で発症しやすい傾向があります 。腎臓病には進行の速さにより急性腎臓病と慢性腎臓病の2種類があります。

急性腎臓病は数日以内という短期間で腎機能が急激に低下するもので、原因を特定して適切に治療すれば回復の可能性があります。一方、慢性腎臓病は数ヶ月~数年かけてゆっくり進行し、完治が難しいため長期的な管理が必要となる病気です 。

一般的に慢性腎臓病はシニア犬(7歳以上)に多いですが、若い犬でも持病や腎臓に負担のかかる薬の長期投与などにより発症リスクがあります 。腎臓は本来、血液をろ過して老廃物や毒素を尿として排出し、体内の水分・電解質バランスや血圧の調整など重要な役割を担っています 。その腎臓の機能が低下すると、不要な老廃物が体に蓄積し様々な不調を引き起こします 。また腎臓は一度ダメージを受けると元の状態には戻らないため、できるだけ早期に異常に気づき適切な対処をすることが肝心です 。

なお、犬の腎臓病は猫ほど知られていないかもしれませんが犬の死亡原因の上位に入る重要な病気です 。特に症状が出にくい初期のうちに見逃され、発見時にはかなり進行しているケースも少なくありません 。日頃から愛犬の様子を注意深く観察し、後述する症状に心当たりがあれば早めに動物病院で検査を受けるようにしましょう。

腎臓病のステージや余命については、別記事の「【獣医師監修】犬の腎臓病の余命は?ステージ別の目安と飼い主ができる5つのこと」で詳しく解説していますので参考にしてください。

主な症状と診断のポイント

犬の腎臓病では、初期には気付きにくい症状が現れることがあります 。典型的な症状としては次のようなものがあります :

  • 多飲多尿(飲水量・尿量の増加):水をたくさん飲み、おしっこの量が増える。腎機能低下で尿を濃縮できず大量に排泄してしまうためです。尿の色が薄くなることもあります 。
  • 食欲低下・体重減少:腎臓病になると食欲不振が続き、徐々に痩せてくることがあります。老廃物の蓄積により気分不良や吐き気が生じ、食べられなくなることが原因です。
  • 元気消失(沈うつ):なんとなく元気がなく、遊んだり運動したがらなくなります。「年のせいかな?」と思われがちですが、腎臓病の初期サインの可能性があります 。
  • 嘔吐・下痢:進行すると尿毒症状で吐く、軟便や下痢になるケースもあります。これらも特異的ではありませんが、他の症状と併せて注意が必要です。
  • 口臭の悪化・口内炎:腎臓の機能低下により体内に毒素がたまると、アンモニア臭のような強い口臭が出たり、口腔内に潰瘍(口内炎)ができることがあります 。

これらの症状は急性腎臓病でも慢性腎臓病でも共通して見られます。ただし急性の場合は数時間~数日のうちに症状が一気に悪化し、食欲不振や嘔吐が急激に進行してぐったりすることもあります。一方、慢性腎臓病ではゆっくりと進行するため症状が目立ちにくく、「歳のせい」と見過ごされがちです 。実際に診察では「最近なんとなく元気がないが高齢だから仕方ないと思っていた」「フードを食べなくなったけど飽きただけだと思った」という飼い主さんの声がよく聞かれます 。愛犬の日頃の飲水量や排尿回数、食欲や活力の変化には注意し、少しでもおかしいと感じたら早めに動物病院を受診しましょう 。

獣医師による診断では、まず詳細な問診と身体検査を行った上で血液検査や尿検査を実施します。血液検査では、腎機能の指標であるクレアチニン(CRE)や尿素窒素(BUN)の値を調べます。さらに最近ではSDMA(対称性ジメチルアルギニン)という新しいマーカーも測定されます 。SDMAは従来のクレアチニンより早期に腎機能低下を検知できる指標で、腎臓病の早期発見に役立つ検査項目です 。尿検査では尿の比重(濃さ)が低下していないか、尿中にタンパク(蛋白尿)が漏れ出ていないかを確認します 。これらの異常が認められれば腎臓に何らかの障害が起きている可能性が高いでしょう。また必要に応じて超音波検査やレントゲン検査で腎臓の形や大きさ、結石の有無などを調べることもあります 。検査結果に基づき、獣医師は腎臓病の重症度(ステージ)を評価して今後の治療方針を立てます。早期であればあるほど治療の選択肢が広がり予後(治療後の経過)も良好になりますので、不安な症状を見逃さず検査を受けることが大切です。

犬の腎臓病の治療法(急性腎不全と慢性腎不全)

腎臓病と診断された場合、治療の目的は損なわれた腎機能を元に戻すことではなく、これ以上の悪化を防ぎできるだけ維持することにあります 。残念ながら慢性腎臓病を完全に治す特効薬はありませんが、適切な治療とケアにより愛犬のQOL(生活の質)を保ちながら寿命を延ばすことが可能です 。治療法は大きく分けて動物病院で行う治療(専門的な処置や投薬と、ご自宅で行う日々の管理(食事療法や投薬、ケア)に分けられます 。

急性腎不全

急性腎臓病の場合(急性腎不全)は、まず原因疾患への対処が最優先です。例えば感染症が原因であれば抗生物質などで治療し、中毒(毒物の摂取)が原因なら解毒処置を行います 。尿路結石や腫瘍による尿路閉塞があれば外科的に結石や腫瘍を除去して尿の通り道を確保します 。同時に、腎臓が十分に尿を作れず体内に老廃物が蓄積している場合には点滴などの輸液療法で血液を洗い流すサポートを行います 。重症例では一時的に透析療法(腹膜透析や血液透析)を実施して体内の毒素を物理的に除去することもあります 。急性腎不全は放置すれば命に関わるため、ICU管理など集中的な治療が行われます。

慢性腎不全

[ひと目で分かる:犬の慢性腎臓病ケア早見表]

ケア項目目的動物病院でやることおうちでやることコツ・続ける工夫
🍚 食事療法(中心)腎臓の負担を減らし、進行をゆっくりにする腎臓用フードの選定、切替プラン作成、数値に応じた調整腎臓食へ完全切替、間食は許可されたもののみ、1〜2週間かけて段階的に切替香りを立たせる(少し温める)、水でふやかす、砕く、許可トッピングで食べやすく
💧 水分管理脱水予防と老廃物の排泄サポート補液の要否を判断(院内点滴/在宅皮下補液)新鮮な水を複数箇所に、ウェットの活用、ぬるま湯やスープ風(塩分・味付けなし)器の形や高さを変えて飲みやすく。飲水量は毎日メモ
💊 薬のコントロール血圧・蛋白尿・吐き気・貧血などの合併症を抑える薬の選択と用量調整、定期モニタリング飲み忘れ防止(投薬カレンダー/ピルポケット)、副作用サインを観察自己判断で増減・中止しない。食欲↓/下痢/ぐったりは連絡
🧴 在宅の皮下補液おうちで安全に水分補給手技指導、量・頻度・使用液を設計、初回は院内練習清潔手順で実施、左右の部位を交替、投与量と様子を記録しこり・痛み・むくみ・発熱があれば中止してすぐ相談
📈 定期チェック早めにズレを直して安定を保つ血液・尿・血圧・体重/BCSを1〜3か月ごとに評価(不安定時は短縮)体重は週1、食欲/飲水/尿/便/元気は毎日メモ、気になる時は写真や動画も「数値」と「元気さ」の両方で見る。小さな変化も立派な情報
🏠 生活環境体力温存とストレス軽減家庭環境のアドバイス寒暖差を避け保温、段差の解消、静かで休める場所、清潔なトイレ・食器、短めでも楽しい散歩香りの強い洗剤・消臭剤は控えめに。“安心できるリズム”を作る

慢性腎臓病の場合(慢性腎不全)は、内科的治療と生活管理によって腎機能の温存を図ります 。まず可能であれば腎不全を悪化させる原因(基礎疾患)への治療を行います。例えば慢性的な腎臓への負担要因として高血圧や泌尿器の感染症などが見つかればそれに対処します。それと並行して、腎臓病そのものへの対症療法・支持療法を行います。中心となるのが食事療法(療法食による栄養管理)です 。腎臓に負担をかけるタンパク質・リン・ナトリウム(塩分)を制限した処方食に切り替えることで、腎機能の低下スピードを緩やかにします 。特にリンの制限は重要で、リンを適切に制御することで腎不全の進行を遅らせられることが臨床的にも知られています。また十分な水分を摂取させることも大切です。脱水は腎臓に大きなダメージを与えるため、新鮮な水をいつでも飲めるようにし、必要に応じてウェットフードの活用やスープ状の水分補給食を与えるなど工夫します 。

食事以外の内科的治療としては、腎臓病に伴って起こる様々な合併症をコントロールする薬物療法があります 。例えば腎不全が進行すると老廃物の蓄積で貧血になったり、塩分排泄の異常から高血圧を併発したり、腎臓のろ過機能低下により尿中にタンパク(蛋白尿)が漏れ出たりします。これらに対し、エリスロポエチン製剤や鉄剤で貧血を改善したり、高血圧を抑える降圧薬(ACE阻害薬やARBなど)を使用したり、尿タンパクを減らす薬を使うことがあります 。症状に合わせて必要な薬を投与し、愛犬が少しでも楽に過ごせるようサポートします。

さらに、慢性腎臓病の末期や脱水が顕著な場合には皮下点滴(補液)も行われます 。皮下点滴とは、点滴用の液体(電解質や糖を含む補液)を皮下に週数回注入する処置で、自宅で飼い主さんが行うことも可能です 。皮下にゆっくり吸収される液体が体内の水分量を補い、腎臓から老廃物を排泄する手助けをします。獣医師の指導のもとで練習すれば、自宅で定期的に皮下補液をしている飼い主さんも多くいらっしゃいます。これにより通院間隔を延ばし、ワンちゃんの脱水症状を緩和できるメリットがあります。

☆食事療法は効果絶大!

慢性腎臓病の管理において特に重要なのが前述した療法食への切り替えです。実は、腎臓病のワンちゃんに適切な食事管理を行うことで予後が大きく改善することがわかっています。 ある研究では、慢性腎臓病と診断された犬に通常のフードを与えた場合と、腎臓ケア用の療法食に切り替えた場合とで余命を比較したところ、療法食にしたグループは平均して約3倍長生きしたというデータもあります 。それだけ腎臓にやさしい食事が治療の柱になるということです。処方された療法食は必ず獣医師の指示通りに与えましょう。市販の一般食やおやつを与えるとせっかくの食事療法の効果が薄れてしまいます。腎臓病の犬に適したフード選びや栄養管理については、別記事の「腎臓病の犬に良い食事とは?獣医師おすすめの療法食&サプリ5選」で具体的な製品と併せて詳しく解説していますので参考にしてください。

自宅でできるケアと看護のポイント

腎臓病の治療では、動物病院での専門的な処置以上に家庭でのケア(看護)が非常に重要です。飼い主さんが日常生活の中で愛犬のためにできる工夫をいくつかご紹介します。

犬の慢性腎臓病(CKD)おうちケア早見表

ケア項目やる目的おうちでの実践絶対NG/注意獣医師と相談する場面つづけるコツ
🍚 処方食の徹底管理腎臓の負担を減らし進行を遅らせる獣医師指定の腎臓用療法食を主食に。おやつ・ご褒美も低タンパク/低塩分に限定。家族全員でルール統一塩分・リンが多い食品、人の食べ物(加工食品/お菓子)は厳禁。「少しくらい…」の例外を作らない療法食を食べない/急に食欲が落ちた/嗜好が合わないときは別フードや切替プラン、サプリの是非を相談温めて香りUP、水でふやかす、許可トッピング、少量多回など「食べやすさ」を工夫
💧 水分を十分に脱水予防と老廃物の排出サポート新鮮な水を常時。家の数カ所に給水ポイント、高齢犬は近くまで水を運ぶ。循環式給水器も◎。ウェットや薄めたスープ(許可制)で摂水UP味付き/塩分入りの人用飲料はNG。飲水が極端に多い・少ない状態の放置もNG1日の飲水が「体重(kg)×100ml以上」など極端な変化、飲まない/飲み過ぎが続く、シリンジや氷舐め等の使い方を確認したいとき器の形/高さを替える、ぬるま湯にする、飲んだ回数や量をざっくりメモ
💊 投薬・サプリ合併症(血圧・蛋白尿・貧血・吐き気など)をコントロール指示通りに確実投与。ピルポケット活用、砕いてフードに混ぜる等で飲ませやすく自己判断の増減/中止。市販サプリを勝手に開始リン吸着剤やオメガ3などサプリの適否・用量、飲みにくい薬の代替や剤形変更投薬カレンダー/タイマーで習慣化。副作用サイン(食欲↓/下痢/ぐったり)をメモして共有
🏠 生活環境ストレス軽減・体力温存静かで落ち着ける環境、柔らかいベッド、保温(冬場)。短時間の散歩や軽い遊びで無理なく運動、こまめに休憩激しい運動や長時間の外出/寒暖差。嫌がる日の無理強い運動量の目安、散歩時間、暑さ寒さ対策の相談同じリズムで生活。香りが強い洗剤/消臭剤は控えめに
🦷 口腔ケア・清潔感染予防・口内の痛み軽減可能なら歯みがき継続。難しければガーゼ拭き/デンタルガム活用。寝床や体を清潔に、尿汚れはすぐ拭き取り口内の痛み/潰瘍の見逃し、尿で皮膚がただれるまで放置口臭悪化/口内炎・潰瘍で食べにくそう、歯周病のケア方針歯みがきは短時間で成功体験を。ごほうびで前向きに
📝 観察と記録変化を早期に捉え治療に活かす毎日の食事量、飲水量、尿/便の回数と性状、体重、元気度を簡単にメモ体重の急減、食欲不振の長期化、無/乏尿の放置記録を持参して診察へ。変化が続く/悪化する時は早めに受診スマホのメモ/表を活用。写真・動画も大きな助け

毎日のミニチェック表(保存して使えます)

項目ふだんの目安赤信号のサイン記録のコツ
食欲ほぼ完食/嗜好の範囲内24〜48時間ほぼ食べない/急な強い偏食量・時間・トッピングの有無をメモ
飲水季節差はあるが大きな変動なし「体重(kg)×100ml以上」の多飲が続く、またはほとんど飲まないコップ何杯/器の補充回数でもOK
尿回数・量・色がいつも通り出ない/極端に少ない、血尿、いきむ/痛がる回数と量の感覚、写真が役立つ
便/吐き気形状安定、吐き戻しは時々下痢/嘔吐が反復、水も飲めない/血混じり回数・内容・直後の様子も
体重/元気体重は週1同条件、散歩は無理なく短期間で急減、ぐったり/ふらつき抱っこ体重でOK。グラフ化で見える化

✅すぐ相談・受診の目安

  • 24〜48時間食べない、飲めない
  • くり返す嘔吐/下痢、水も受け付けない、血が混じる
  • 無尿・乏尿、血尿、強い排尿痛
  • ぐったり、ふらつき、失神、けいれん
  • 体重の急な減少
  • 薬後の強い食欲低下/下痢/元気消失
  • 皮下補液後の強い痛み・熱感・広いむくみ・発熱

以下詳細となります。

  • 処方食の徹底管理
    • 獣医師から指示された療法食を中心に与え、間食やご褒美のおやつも低タンパク・低塩分のものに限定しましょう。特に塩分やリンの多い食品は腎臓に負担をかけるため厳禁です 。人の食べ物(加工食品やお菓子)を与えるのも避けてください。食事は愛犬の腎臓を守る上で最も大切な要素なので、家族全員で協力して管理しましょう。「かわいそうだから少しくらい…」と与えてしまうと、結果的に愛犬の体に負担をかけることになります。どうしても療法食を食べてくれない場合は、獣医師に相談して別のフードやサプリメントの検討をしてもらいましょう。
  • 水分を十分に摂らせる工夫
    • 常に新鮮で清潔な飲み水を用意し、好きなときに飲めるようにします。腎臓病の子は脱水を起こしやすいため、水飲み場を家の数カ所に設置したり、高齢犬で動きがゆっくりなら近くまで水を持っていってあげるなど工夫しましょう 。可能なら循環式の給水器でいつでも冷たい水が飲める環境も良いでしょう。またウェットフードや水分の多い食べ物(薄めたスープや犬用ポカリなど獣医師許可のもと利用)を与えて水分補給量を増やす方法もあります。「体重(kg)×100ml以上」の水を1日に飲んでいる場合、多飲傾向と考えられます 。逆に腎不全が進むと食欲低下で水も飲まなくなることがあるので、シリンジで少しずつ飲ませる、氷を舐めさせる等も有効です。愛犬の1日の飲水量を把握し、多すぎても少なすぎても早めに獣医師に相談しましょう。
  • 投薬とサプリメントのケア
    • 処方された薬は獣医師の指示通りに確実に投与します。腎臓病では長期的な投薬(血圧管理や貧血改善薬、リン吸着剤など)が必要になることがあります。一度にたくさんの薬を飲むのが難しい場合はピルポケット(お薬包み用のおやつ)を利用する、砕いてフードに混ぜるなど工夫しましょう。サプリメントについては、リンを吸着する薬剤やオメガ3脂肪酸(抗炎症効果)などが使用されることがありますが、自己判断で市販サプリを与えるのは禁物です。必ず主治医に相談し、有効性が確認されたものを使用してください。
  • 快適な生活環境
    • 腎臓病の愛犬にはストレスや過度な運動は禁物です。静かでリラックスできる環境を整え、柔らかいベッドを用意してゆったり休めるようにしましょう。冬場は冷えも大敵なので暖かくしてあげてください。ただし全く運動しないと筋力が低下するため、犬の体調に合わせて無理のない範囲で散歩や軽い遊びを続けることも大切です。疲れやすいので休憩をこまめに挟み、嫌がる日は無理をしないようにします。
  • 口腔ケア・清潔管理
    • 可能であれば歯磨きや口腔ケアを継続しましょう。歯周病など口の中の感染は腎臓病のリスク要因にもなり得ます し、腎不全になると口臭や口内炎が出やすくなります。毎日の歯磨きが難しい場合も、ガーゼで歯を拭く、デンタルガムを活用するなどして口腔内を清潔に保つ習慣が望ましいです。また尿毒症状があると口の粘膜が荒れやすいので、口内の潰瘍が痛んで食事が摂りにくくなっていないか、ときどきチェックしてあげてください。清潔面では寝床を清潔に保ち、おしっこで体が汚れたらこまめに拭き取りましょう。皮膚に尿が付着したままだと炎症やただれの原因になります。
  • 日々の状態観察と記録
    • 自宅で介護していると、愛犬の些細な変化にも気付けるのは飼い主さんの強みです。毎日の食事量・飲水量・尿や便の回数、体重の増減、様子の変化(いつもより元気がない等)を簡単にメモしておきましょう。定期検診時にその記録を見せれば、獣医師が治療効果や病状をより正確に判断する助けになります。「前回より体重が○○kg減っている」「ここ2日全然フードを食べない」といった情報は治療プランの見直しにも重要です。

以上のように、家庭でのケアは手間もかかりますが、愛犬の安定した体調維持には欠かせません。特に食事管理と水分補給は飼い主さんにしかできない大切なケアです。最初は戸惑うかもしれませんが、獣医師や動物看護師に相談しながら無理のない範囲で続けていきましょう。

獣医師からのアドバイス:不安に寄り添い早期発見・早期対応を

腎臓病と聞くと「もう長く生きられないのでは」「苦しむのでは」と心配になるかもしれません。しかし、腎臓病は「上手に付き合っていける病気」でもあります。実際、腎不全と診断されても適切な治療とケアによって数年間穏やかに生活しているワンちゃんもたくさんいます。大切なのは焦らずに現状を受け止め、これから何ができるか前向きに考えることです。

● 定期検診と早期発見の重要性

腎臓病は早期発見・早期治療によって進行を遅らせることが可能です 。症状が出にくい病気だからこそ、日頃からの健康チェックが何より大切になります。特に7歳以上のシニア期に入った犬は、年に1~2回は血液検査と尿検査を含む健康診断を受けることを強くお勧めします 。最近は前述のSDMA検査を含めた腎機能チェックも可能になり、さらに精度の高い早期発見が期待できます 。定期検診によって腎臓の数値変化を追っていけば、たとえ腎臓病になっても初期のうちに対処でき、重症化を防ぐことができます。「うちの子は元気だから大丈夫」と思わず、元気なうちから健診を習慣化することが最大の予防策です。

● 主治医との二人三脚でケアする

慢性腎臓病は長い闘いになることが多いため、主治医との十分なコミュニケーションが不可欠です。定期的に通院して血液値のチェックを受け、治療方針の見直しや投薬量の調整を行いましょう。疑問や不安な点は遠慮なく獣医師に相談してください。最近は腎臓病の新しい治療薬や療法も登場しており、獣医療は日進月歩で進化しています。最新の知見を取り入れつつ、その子に合ったオーダーメイドのケアを一緒に考えてくれる獣医師をパートナーに、二人三脚で愛犬の腎臓病と向き合っていきましょう。

● 飼い主さん自身のケアも大切に

看病をする飼い主さん自身も、心身のケアを忘れないでください。愛犬の病気に寄り添うのはとてもエネルギーが要ることです。「自分のせいで腎臓病にさせてしまったのでは…」と自責の念に駆られる方もいますが、加齢による腎不全はある意味避け難い面もあります。大事なのは見つかったこれからどう対処するかなのです。頑張りすぎて飼い主さんが倒れてしまっては元も子もありません。ときには周囲の家族や友人、プロのペットシッターなどに頼りながら休息を取り、長期戦に備えてください。愛犬は飼い主さんの笑顔が大好きです。あなたが元気でいることが、愛犬の闘病生活を支える力になります。

● 希望を持って愛犬と向き合おう

腎臓病と診断されたからといって、すぐに絶望する必要はありません。確かに完治は難しい病気ですが、今は療法食や皮下点滴、良い薬もあり、以前なら命を落としていたようなケースでも助かる可能性が高まっています。大切なのは「現状でできる最善を尽くす」ことです。愛犬にとって一番つらいのは、飼い主さんが悲観的になってしまうことかもしれません。どうか適度に肩の力を抜いて、「一日一日を大事に、一緒にがんばろうね」と前向きな気持ちで愛犬に寄り添ってあげてください。

なお、腎臓病のステージごとの平均余命や、少しでも寿命を延ばすために飼い主ができる工夫については、別記事「犬の腎臓病の余命は?寿命を延ばすために飼い主ができる5つのこと【獣医師解説】」で具体的に紹介しています。気になる方はこちらも参考にしてください。

まとめ:焦らず正しく対処しよう

犬の腎臓病は確かに油断できない病気ですが、適切な治療とケア次第で愛犬との大切な時間を延ばすことができます 。診断を受けた直後は不安で頭が真っ白になるかもしれませんが、まずは獣医師の話に耳を傾け、できることから一つずつ取り組んでいきましょう。食事管理や投薬など大変な面もありますが、愛犬はきっとあなたの愛情に応えてくれるはずです。もし悩んだときは一人で抱え込まず、獣医師や動物看護師、同じ経験を持つ飼い主仲間に相談してみてください。正しい知識と周囲のサポートがあれば怖がることはありません。

腎臓病と上手に付き合いながらも、愛犬との穏やかな日々を楽しむことは十分に可能です。焦らず慌てず、しかし見逃さずにケアを続けていきましょう。飼い主さんの笑顔と頑張りが、何よりも愛犬の力になります。あなたと愛犬が少しでも長く、健やかで幸せな時間を過ごせるよう心から願っています。

(※本記事で触れた以外にも、「腎臓病の予防策・初期症状のチェックポイント」について詳しく解説した「高齢犬の腎臓病を防ぐには?初期症状と早期発見のポイント【獣医師解説】」などの関連記事もぜひご覧ください。)

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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