獣医師、ペット栄養管理士が犬と猫の病気と食事について徹底解説しています!

カテゴリー

犬の泌尿器疾患

【獣医師監修】高齢犬の腎臓病を防ぐには?初期症状と早期発見のポイント

高齢のワンちゃん(一般に7歳以上)は腎臓病を発症しやすく、気づかないうちに進行しているケースも少なくありません 。しかし飼い主さんが正しい知識を持ち、日頃から対策をとれば腎臓病の予防や早期発見につなげることができます。ここでは獣医師の視点から、シニア犬の腎臓病について原因や初期症状、そして飼い主さんができる具体的な予防策・早期発見の方法をわかりやすく解説します。愛犬の健康寿命を延ばすために、ぜひ参考にしてみてください。

腎臓病はシニア犬に多い:発症リスクと原因

シニア期に入った犬では腎臓の機能が徐々に低下し、腎臓病(特に慢性腎臓病)のリスクが高まります 。腎臓病の発症にはさまざまな要因が関与しますが、特に注意したい主なリスク要因は次のとおりです。

  • 加齢(老化):年齢を重ねるにつれて腎臓のネフロン(腎臓の機能単位)が少しずつ損傷・減少し、腎機能が低下します 。7歳を過ぎた高齢犬では、若い頃よりも腎臓への負担に対する予備力が低下し、腎臓病を発症しやすくなります 。そのためシニア犬では定期的な健康チェックが欠かせません 。
  • 脱水(水分不足):慢性的な脱水状態も腎臓病の原因となりえます。暑さや病気で脱水が起こると腎臓への血液供給が滞り、腎機能が障害されることがあります 。特に慢性腎不全では尿中に水分が多く出ていって脱水が進み、それがさらに腎機能低下を悪化させる悪循環が知られています 。日頃から新鮮な水を十分に飲める環境を整え、愛犬が水分不足にならないよう注意しましょう。
  • 歯周病(口腔内の感染):意外かもしれませんが、歯周病など口の中の慢性感染も腎臓病のリスク要因です。歯石に繁殖した細菌が放出する毒素は血流に乗って全身に回り、心臓や腎臓に炎症を起こす原因となり得ます 。特に歯周病菌は腎炎(腎臓の炎症)の誘因となる可能性が指摘されています 。口腔ケアを怠ると歯周病が進行し、その影響で腎臓にも負担がかかる恐れがあります。
  • 薬剤性の腎障害:長期間の投薬や誤飲にも注意が必要です。腎毒性のある一部の薬剤(鎮痛消炎剤など)を慢性的に使用すると腎臓にダメージを与える可能性があります。また、人間用の医薬品や有害な物質を犬が誤って口にすると急性腎不全を引き起こすことがあります  。例えばユリ科の植物(ユリの花)や不凍液(エチレングリコール)は犬にとって腎臓に深刻な毒性を持つ代表例です  。家庭内の薬品や植物は犬が口にしないよう管理し、獣医師の指示なしに安易に薬を与えないようにしましょう。

以上のように、加齢による臓器の老化に加えて脱水・歯周病・薬剤や毒物など様々な要因がシニア犬の腎臓病につながります。一つひとつの原因に気を配ることで、腎臓病の予防や発症リスクの低減につなげることができます。

腎臓病の初期サイン(見逃しやすい症状)

腎臓病は初期段階では症状がわかりにくい病気です 。そのため飼い主さんが早期に異変を察知するには、普段の様子の中で現れる小さなサインを見逃さないことが大切です 。「歳のせいかな」と見過ごされがちな次のような症状は、腎臓病の初期兆候かもしれません。

  • 多飲多尿:飲水量が増え、おしっこの量や回数が普段より多くなる。 腎臓の機能低下により尿を濃縮できなくなると、大量の薄い尿が出て犬は常に喉が渇く状態になります 。シニア犬で急に水をよく飲むようになった場合は注意が必要です。
  • 食欲低下と体重減少:なんとなく元気がなく食べる量が落ち、体重が少しずつ減ってくる。 腎臓病では老廃物の蓄積により気分不良や吐き気が生じ、食欲不振につながることがあります。その結果、痩せてきたり筋肉が落ちたりする場合があります。
  • 口臭の悪化:口が臭うようになる、アンモニア臭のような独特の臭いがする。 腎臓の機能低下で尿毒症(排泄されるべき毒素が体にたまる状態)になると、肺や口腔からアンモニアのような臭いが漏れ出し、口臭が強くなることがあります 。普段と比べて明らかに口臭がひどい場合は要注意です。
  • 嘔吐や下痢:ときどき吐く、軟便・下痢になるなど消化器症状が見られる。 腎臓病が進行すると体内に毒素が溜まる影響で胃腸障害を起こしやすくなります。その初期段階として軽い吐き気や下痢が出る場合があります。頻繁に嘔吐するようならば病気が進んでいる可能性があります。
  • 元気消失:何となく疲れやすく、以前より遊ばなくなったり寝ている時間が増える。 シニア期の行動変化は老化現象と紛らわしいですが、腎臓病の始まりでも同様に活動性の低下が起こります 。「歳だから仕方ない」と決めつけず、少しでも様子がおかしいと感じたら早めに獣医師に相談しましょう 。

これらの症状は初期には軽度で見逃されがちですが、腎臓病では徐々に悪化していく兆候です 。特に多飲多尿は比較的早期から現れる代表的なサインで、「最近水をたくさん飲む」「トイレの回数が増えた」という場合には一度健康チェックを受けることをおすすめします 。初期段階で発見できれば、その後の管理によって腎臓病の進行を大きく遅らせることが可能です 。

飼い主ができる早期発見の方法(定期健診・検査の活用)

愛犬の腎臓病を早期に見つけるためには、定期的な健康診断と日常の健康チェックの両面からアプローチすることが重要です。シニア犬では特に計画的に検査を受け、初期の異常を見逃さないようにしましょう。

  • 定期健診(年1~2回)と血液・尿検査の実施:7歳以上のシニア期に入ったら、年に1~2回は動物病院で健康診断を受けることが推奨されます 。血液検査では腎機能の指標となるクレアチニン(CRE)や尿素窒素(BUN)の数値をチェックし、異常の有無を確認します 。さらに近年ではSDMA(対称性ジメチルアルギニン)という新しい血液マーカーも利用できます。SDMAは腎機能低下を従来より早期に検出できる指標であり 、CREやBUNが正常範囲でもSDMAの上昇で初期の腎臓ダメージを察知できる場合があります 。尿検査も早期発見に有用です。尿の比重(濃さ)が低下していないか、尿中にタンパクが漏れ出ていないか(蛋白尿)などを調べることで、腎臓の異常をいち早く捉えられます 。こうした検査項目を含めた定期健診を計画的に受けることで、腎臓病の兆候を見逃さずに済む可能性が高まります 。
  • 日常的な排泄・飲水量のチェック: 普段から愛犬のおしっこや水の飲み方に注意を払うことも早期発見の鍵です。たとえば「最近おしっこの回数や量が増えていないか」「尿の色がやけに薄くないか」「急に水を飲む量が増えていないか」などを観察しましょう 。これらの小さな変化は腎臓機能低下のサインである可能性があります 。異常を感じたら速やかに動物病院で検査を受けることが重要です 。「ちょっと変だな」と思った段階で行動することが、結果的に愛犬の健康寿命を守る近道になります。

定期的な健診では血液検査や尿検査のほか、必要に応じて画像検査や血圧測定なども行います。写真は動物病院でワンちゃんの血圧を測定している様子(前肢にカフを装着して測定)です。異常がなくてもシニア犬では年1~2回の健診を受け、基礎データを蓄積しておくと安心です 。

定期検診と日々の観察を組み合わせることで、「いつもと違う」変化を早期にキャッチしやすくなります 。腎臓病は見た目だけで判断するのが難しい病気ですが 、血液・尿検査と飼い主さんの気づきを合わせれば初期段階で発見できる可能性が高まります。早期に見つけて適切な対策を始めれば、腎臓病の進行を遅らせることが十分可能です 。

腎臓病を予防する生活習慣(食事、水分、歯のケア、ストレス軽減、サプリメント)

腎臓病の予防には、日頃の生活習慣の積み重ねがとても大切です。シニア期に入った愛犬の生活を見直し、腎臓に優しいケアを心がけましょう。「何をすれば予防できるのか…」と不安に思う飼い主さんも、以下のポイントを実践することで愛犬の腎臓をいたわる助けになります。

🛡️ 愛犬の腎臓病予防ケア完全ガイド

予防ケア項目具体的な実施方法予防効果実践のコツ
🍽️ 食事の見直し・塩分控えめの総合栄養食を選択
・高品質なタンパク質を適量摂取
・おやつは塩分・リンの少ないものを
・人の食べ物は基本的に与えない
・シニア用フードへの切り替え検討
・腎臓への負担を軽減
・栄養バランスの適正化
・腎臓病発症リスク低下
・長期的な腎機能保護
・継続的な食事管理が重要
・急激な変更は避ける
・獣医師と相談して選択
・ライフステージに応じた調整
💧 水分摂取の工夫・常に新鮮な水を複数箇所に設置
・循環式給水器の活用
・少量の鶏ガラスープを混ぜる
・ウェットフードへの切り替え
・ドライフードを水でふやかす
・慢性脱水の防止
・腎臓へのダメージ蓄積軽減
・老廃物の効率的な排出
・腎機能の維持・向上
・水は毎日新鮮なものに交換
・愛犬の好みに合わせた工夫
・飲水量の日常的な観察
・季節に応じた温度調整
🦷 歯と口腔ケア・毎日の歯磨き(理想)
・デンタルガムや口腔ケア用品活用
・定期的な歯科検診受診
・必要に応じてスケーリング実施
・歯周病の早期発見・治療
・歯周病による腎臓病リスク軽減
・口腔内細菌の全身への影響防止
・炎症性物質の産生抑制
・腎臓への間接的な負担軽減
・歯ぐきの出血や口臭をチェック
・無理強いしない段階的なケア
・専用の犬用歯磨き用品を使用
・異常発見時は早めに受診
😌 ストレス軽減・安心できる静かな休息場所の確保
・環境変化を最小限に抑制
・過度な運動や温度変化を避ける
・適度なスキンシップの提供
・長時間の留守番を避ける
・ホルモンバランスの安定
・免疫力の維持・向上
・高血圧の予防
・腎機能への悪影響防止
・愛犬のストレスサインを観察
・規則正しい生活リズム維持
・シニア犬は特に配慮が必要
・穏やかな環境づくりを継続
💊 サプリメント活用・腎臓サポート用サプリメント摂取
・活性炭やキトサン(毒素排出)
・乳酸菌(腸内環境改善)
・オメガ3脂肪酸(抗炎症作用)
・抗酸化成分(腎臓保護)
・腎機能低下の予防
・老廃物排出の促進
・炎症反応の抑制
・腎臓病進行の抑制
・獣医師に相談してから開始
・信頼できるメーカー製品を選択
・即効性は期待せず継続摂取
・愛犬の状態に応じた調整
  • 食事の見直し(腎臓に負担をかけない栄養バランス):毎日のフードを塩分控えめ・高品質なたんぱく質を適量含むバランスの良い内容にすることが基本です。塩分や過剰なたんぱく質は腎臓への負担を増やすため、与えすぎに注意します 。市販の総合栄養食であれば基本的な栄養バランスは満たされていますが、おやつや人の食べ物を与える場合は塩分・リンの多い食品を避けましょう。腎臓病の療法食は主に病気発症後の管理用ですが、リスクが高い場合には獣医師と相談のうえシニア用フードへの切り替えを検討しても良いでしょう。重要なのは「腎臓に負担をかけない食事」を継続することで、結果的に腎臓病の予防につながります 。
  • 十分な水分摂取(工夫して水を飲ませる):腎臓の健康維持にはしっかり水を飲むことが不可欠です。常に新鮮な水を用意し、いつでも飲めるようにしておきます 。水飲みが少ない子には器を複数置いたり、循環式の給水器や少量の鶏ガラスープを混ぜる等の工夫で興味を引くとよいでしょう。食事をドライフードから水分の多いウェットフードに変えたり、フードに水をかけてふやかすのも有効です。慢性的な脱水を防ぐことで腎臓へのダメージ蓄積を減らし、腎臓病の発症リスクを下げる効果が期待できます。
  • 歯と口腔のケア:前述の通り歯周病は腎臓病のリスクを高める可能性があるため、口腔内の健康を保つことも重要な予防策です 。理想は毎日の歯みがきですが、難しい場合もデンタルガムや口腔ケア用品を活用し、歯垢・歯石の蓄積を防ぎましょう。定期的に歯科検診やスケーリングを受けて歯周病を予防することが、ひいては腎臓への負担軽減につながります 。「歯ぐきから出血しやすい」「口臭が強い」など歯周病の兆候が見られたら放置せず、早めに対処してください。
  • ストレスの軽減:実はストレスも犬の腎臓の敵です。強いストレスが続くとホルモンバランスの乱れや免疫力低下を招き 、高血圧などを通じて腎臓の状態を悪化させる一因となりえます 。特に持病があるシニア犬では、環境の変化や過度な運動・温度変化などが大きな負担になることがあります。日頃から安心できる環境づくりを意識し、犬がリラックスして過ごせる静かな休息場所を用意しましょう  。また過度な留守番やスキンシップ不足にも注意し、適度に構ってあげることも精神的安定につながります 。ストレスの少ない穏やかな生活は、結果的に腎臓病の予防・進行抑制につながると考えられます 。
  • サプリメントの活用:近年は犬の腎臓サポート用サプリメントも充実しています。サプリメントは薬ではないため即効性はありませんが、必要な栄養素を効率良く補給して腎機能の低下を防ぐ目的で用いられます 。普段の食事だけでは摂りきれない成分(老廃物の排出を助ける食物繊維、腎臓を守る抗酸化成分など)を補うことで、腎臓病の予防や進行抑制に役立つとされています  。例えば、体内の余分なリンや毒素を吸着して排出を促す活性炭やキトサン 、腸内の善玉菌を増やして窒素老廃物を減らす乳酸菌 、血行促進や抗炎症作用を持つオメガ3脂肪酸 などが代表的な成分です。それぞれ腎臓へのサポート効果が期待され、慢性腎臓病の子はもちろん発症していない段階から使用して予防に役立てるケースもあります 。ただしサプリメント選びに迷ったときは獣医師に相談し、信頼できるメーカーの製品を用いるようにしましょう。

以上のような生活習慣の改善をシニア期から実践することで、腎臓への負担を減らし病気の予防につながります。大切なのは毎日コツコツ継続することです。「これで絶対防げる」という万能策はありませんが 、小さな積み重ねが愛犬の腎臓を守り、健康寿命を延ばす結果につながります。

兆候に気付いたときの対処(受診のタイミングと早期治療の利点)

愛犬に「もしかして腎臓が悪いのでは?」という兆候を見つけたら、できるだけ早く動物病院を受診してください 。特に以下のような症状が見られる場合は、迷わず獣医師の診察を受けることをお勧めします。

  • 多飲多尿が顕著に続いている(水を異常に欲しがり、大量の尿が出る)
  • 食欲不振や嘔吐が続く(ご飯をあまり食べず、繰り返し吐く)
  • 著しい元気消失(呼んでも反応が鈍く、ぐったりしている)
  • 尿の量や色の異常(尿がほとんど出ない、または血尿が出る)
  • ひどい口臭や口内炎(アンモニア臭がする、歯ぐきに潰瘍ができている)

これらは腎臓病がかなり進行した状態や急性腎不全の可能性もある深刻なサインです 。放置すると命に関わるケースもありますので、できるだけ早く獣医師の診断を仰いでください。

早期に受診し適切な治療を開始することで、腎臓病の進行を大幅に遅らせることが可能です 。腎臓の組織は一度損なわれると完全には元に戻りませんが 、その残された機能を守ることが治療の最大の目的となります 。例えば初期の段階であれば、腎臓に優しい食事療法や必要な投薬を始めることで愛犬の体調を安定させ、症状の悪化を防ぐことができます 。実際、慢性腎臓病と診断された犬でも、治療とケア次第では数年~十年以上にわたり安定した状態を保ち元気に生活できるケースも報告されています 。逆に発見が遅れて尿毒症など重篤な状態に陥ると、できる治療も限られて延命措置が中心になってしまいます 。

このように**「早めの受診・治療開始」が愛犬の命と生活の質を守る上で極めて重要です 。高齢犬の些細な体調変化を見逃さず、「おかしいな」と思ったら先延ばしにせず検査してもらうという姿勢が、結果的に愛犬の負担を最小限にし長生きにつなげる秘訣**と言えるでしょう 。

まとめ:シニア期からの意識が、愛犬の健康寿命を左右する

シニア犬の腎臓病について、原因から予防策・早期発見のポイントまで解説しました。高齢期からの飼い主さんの意識と行動が、愛犬の健康寿命を大きく左右します。 日々のちょっとした変化に気づき適切に対処することで、腎臓病の発症を防いだり進行を食い止めたりすることができます 。大切なのは、「歳だから仕方ない」と思わずに積極的にケアしてあげることです。定期的な健康診断を欠かさず、食事・水分・口腔ケアなど生活習慣にも気を配り、万一サインがあれば早めに受診するようにしましょう。

腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、症状が出にくい分、飼い主さんの観察力と予防意識が何より重要です 。シニア期からの丁寧なケアと見守りが、愛犬にとって健やかで幸せな時間を1日でも長くプレゼントしてくれるはずです 。愛犬の未来のために、今日からできる腎臓ケアを始めてみましょう。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

-犬の泌尿器疾患