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犬の外耳炎:原因・治療・アレルギーとの関係

「耳を頻繁に掻いている」「頭を振っている」「耳から異臭がする」「耳の中が赤くなっている」——犬の外耳炎は、犬の皮膚疾患の中で最も多い疾患のひとつで、適切に管理しないと慢性化・重症化します。単なる「耳が汚れた」という問題ではなく、根本原因(アレルギー・感染・構造的要因)を特定することが完治への鍵です。

外耳炎とは

外耳炎(Otitis Externa)とは、耳介から鼓膜までの「外耳道」に生じる炎症です。犬では全皮膚疾患の約10〜20%を占めるとされており、非常に一般的な疾患です。放置すると中耳炎・内耳炎(前庭疾患)へと進行し、永続的な聴力障害・神経症状につながることがあります。

外耳炎の多因子的な原因:POPERフレームワーク

外耳炎は「一つの原因で起こる」疾患ではなく、複数の因子が複雑に絡み合っています。臨床では「POPER(素因・一次因子・二次因子・外因子・内因子)」フレームワークで評価することが重要です。

素因(Predisposing factors):外耳炎を起こしやすい状態

  • 垂れ耳(耳介が下がっている犬種):コッカースパニエル・バセットハウンド・ゴールデン・ラブラドール→通気性が悪く湿気がこもりやすい
  • 外耳道内の多量の被毛:プードル・シュナウザー→毛が通気を妨げる
  • 狭い外耳道:シャーペイ・ブルドッグ→構造的に清潔に保ちにくい
  • 水泳・頻繁な入浴:耳内への水の侵入→湿気・細菌増殖
  • 過剰な耳掃除:正常な保護機能を破壊

一次因子(Primary factors):外耳炎を直接引き起こす原因

  • アレルギー(最も多い):アトピー性皮膚炎(約80%が外耳炎を合併)・食物アレルギー。アレルギーによる外耳道粘膜の炎症が二次感染を招く
  • 耳ダニ(ミミヒゼンダニ):子犬・多頭飼育・外出する猫から感染。強いかゆみ・黒い耳垢が特徴
  • 異物:草の種(ノゲシ・ムギ類など)・砂・虫が耳道内に入る
  • ポリープ・腫瘍:耳道内腫瘤による慢性炎症
  • 角質化異常(皮脂漏):コッカーに多い原発性皮脂漏症など
  • 内分泌疾患:甲状腺機能低下症・クッシング症候群→皮膚・耳道の環境異常

二次因子(Secondary factors):既存の炎症に便乗して増殖する感染

感染菌 特徴 耳垢の特徴
マラセチア(Malassezia pachydermatis) 最も多い酵母菌。常在菌が過増殖。特有の「イースト臭」 茶褐色〜黒色のクリーム状・蜂蜜色
ブドウ球菌(Staphylococcus) 二次感染で最多の細菌。化膿性炎症 黄色〜黄褐色・膿性
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa) 難治性外耳炎の代表的原因菌。抗菌薬耐性が多い 黄緑色・水様性・悪臭
プロテウス・変形菌 慢性・難治性外耳炎に関与 膿性・悪臭

内因子・外因子(Perpetuating factors):慢性化を引き起こす因子

  • 内因子:慢性炎症による外耳道の変化→上皮の肥厚・石灰化・腺組織の拡大→耳道狭窄。この段階になると原因を除去しても改善しにくい
  • 外因子:不適切な耳掃除(綿棒で耳道内を傷つける)・不適切な耳洗浄剤(刺激性のもの)・残留水分

症状

  • 掻痒(強いかゆみ):耳を後肢で頻繁に掻く・床に耳を擦りつける
  • 頭振り:耳の中の違和感・不快感
  • 耳からの分泌物(耳垢・膿):分泌物の色・臭いが原因の手がかりになる
  • 耳の臭い:マラセチアは甘酸っぱいイースト臭・細菌は膿性臭
  • 耳介・耳道の発赤・腫脹
  • 耳を触ると痛がる・嫌がる
  • 耳介の血腫(耳血腫):強い頭振りや掻痒で耳介の軟骨間に血が溜まる→耳介の腫脹。外耳炎の続発症として起こる

慢性外耳炎の症状(進行した場合)

  • 外耳道の著しい狭窄(耳道が腫脹・肥厚して閉塞)
  • 外耳道の石灰化(画像でわかる)
  • 中耳炎・内耳炎への進行:頭を傾ける(捻転斜頸)・眼振・回転(前庭疾患)・顔面神経麻痺
  • 難聴

診断

耳鏡検査

耳道内の直接観察。鼓膜の状態(穿孔の有無)・耳道内の異物・ポリープ・耳道の状態を確認します。

耳垢検査(細胞診)

綿棒で採取した耳垢をスライドグラスに塗布・染色して顕微鏡で観察。マラセチアの数・細菌の種類・炎症細胞の評価をします。

  • マラセチア:400倍視野で5個以上で異常増殖と判断(施設により異なる)
  • 桿菌(棒状):緑膿菌等のグラム陰性菌を示唆
  • 球菌:ブドウ球菌等を示唆

耳垢培養・薬剤感受性試験

難治性・慢性外耳炎では細菌培養を行い、有効な抗菌薬を同定します。特に緑膿菌は多剤耐性のことが多く、感受性試験が治療の根拠となります。

ビデオオトスコープ

高解像度カメラで耳道内を詳細に観察。中耳への評価・異物除去・耳道洗浄などの処置に用います。

CT(頭部)

中耳炎・内耳炎・外耳道の石灰化・腫瘍の評価に有用。慢性・難治性外耳炎での外科適応の判断に必要です。

アレルギー検査

再発性外耳炎では基礎疾患としてのアレルギー評価が不可欠です。除去食試験(食物アレルギーの評価)・アトピーの評価を行います。

治療

外耳道の洗浄

治療の第一歩は外耳道の適切な洗浄です。耳垢・分泌物を除去することで抗菌薬の効果が高まります。

  • 動物病院での洗浄:鎮静・麻酔下でビデオオトスコープを使用した徹底的な洗浄。鼓膜穿孔がある場合は水溶性の洗浄剤のみ使用可能
  • 自宅での耳洗浄:洗浄液を耳道内に入れ、耳の根元をやさしくもんで耳垢を浮かせ、コットンで拭き取る。綿棒は耳道内に入れない

局所(点耳)療法

感染の種類 使用薬剤(例) 投与期間目安
マラセチア感染 抗真菌薬(クロトリマゾール・ミコナゾール・ニスタチン)含有点耳薬 2〜4週間
細菌感染(ブドウ球菌等) 抗菌薬(エンロフロキサシン・ポリミキシンB等)含有点耳薬 2〜4週間
緑膿菌感染 感受性試験に基づく。チカルシリン・アミカシン・ポリミキシンBなど 4〜8週間以上
炎症(かゆみ)のコントロール ステロイド(デキサメタゾン・トリアムシノロン)含有点耳薬 短期使用
耳ダニ 殺ダニ薬含有点耳薬または全身投与(セラメクチン・モキシデクチン等) 2〜4週間(同居動物全頭治療)

全身投与(重症例・慢性例)

  • 全身抗菌薬:点耳薬のみでは効果不十分な中耳炎合併例・広範な感染
  • 全身抗真菌薬(イトラコナゾール):重症マラセチア感染
  • ステロイド(全身投与):耳道狭窄の軽減・強い炎症の抑制
  • アポキル(オクラシチニブ)・サイトポイント:アレルギー性外耳炎の基礎疾患(アトピー)の治療

外科的治療(難治性慢性外耳炎)

慢性化による外耳道の石灰化・狭窄・腫瘍が存在し、内科療法に反応しない場合に検討されます。

  • 外側耳道切除術(Zepp法):外耳道の外側壁を切除し通気性を改善。軽度〜中等度の狭窄
  • 全耳道切除術(TECA)+鼓室形成術:重度の慢性変化・腫瘍・中耳炎合併例。外耳道全体と中耳を切除する根治手術

再発予防と日常ケア

定期的な耳の確認

  • 週1〜2回、耳介内側・耳道入口の状態を目視・臭いで確認
  • 異常(発赤・耳垢増加・臭い)があれば早めに受診

適切な耳洗浄

  • 健康な犬への過剰な耳洗浄は逆効果(正常な保護機能を壊す)
  • 水泳・入浴後は耳道内の水分をコットンで拭き取る
  • 外耳炎の既往がある犬では定期的な洗浄(月1〜2回)が有益なことがある

アレルギーの管理(根本治療)

再発性外耳炎の多くはアレルギーが原因です。アトピーまたは食物アレルギーの適切な管理なしに外耳炎を根治させることはできません。

  • アトピー:アポキル・サイトポイント・アレルゲン免疫療法(減感作療法)
  • 食物アレルギー:除去食試験による原因食材の特定と除去

垂れ耳犬種の管理

  • 入浴・水泳後は耳介を持ち上げて耳道内を乾燥させる
  • プードル・シュナウザーの耳道内被毛は必要に応じて除毛(やりすぎると刺激になる)

まとめ

犬の外耳炎は「再発を繰り返す厄介な耳の問題」ではなく、背景にある一次原因(アレルギーなど)を特定して管理することで、根本的に改善できる疾患です。単に点耳薬で症状を抑えることを繰り返していても、慢性化・外耳道の不可逆的な変化(石灰化・狭窄)に至ってしまいます。

耳をよく掻く・頭を振るという症状が繰り返す場合は、アレルギー評価を含めた根本原因の精査を受診時に相談することをお勧めします。

犬の外耳炎・アレルギーについて個別に相談したい飼い主様は、獣医師への個別相談もご活用ください。

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