「副腎の病気」には大きく分けて2種類あります。ホルモンが不足する「アジソン病(副腎皮質機能低下症)」と、ホルモンが過剰になる「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)」です。この2つはまったく逆の方向に副腎機能が異常をきたす病気ですが、一部の症状が似ているため混同されることがあります。本記事では2つの病気の違いを症状・治療の観点から詳しく比較します。
副腎と2つの正反対の病気
副腎皮質ホルモンの役割
副腎皮質は主にコルチゾール(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)を分泌しています。これらのホルモンは血糖・血圧・免疫・ストレス応答などを調節する重要な役割を果たします。これらが不足するのがアジソン病、過剰になるのがクッシング症候群です。
発症の仕組みの違い
アジソン病は副腎が免疫介在性などの原因で破壊・萎縮し、ホルモンを作れなくなることで発症します。一方クッシング症候群は、脳の下垂体の腫瘍(下垂体性)や副腎自体の腫瘍(副腎性)によって副腎皮質刺激ホルモンが過剰に出続け、コルチゾールが慢性的に過剰分泌される状態です。長期間の過剰なステロイド投与によっても発症します(医原性クッシング症候群)。
好発犬種・年齢の違い
アジソン病は平均4歳半前後の比較的若い雌犬に多く見られます。クッシング症候群は8歳以上の中〜高齢犬での発症が多く、ミニチュア・ダックスフント、トイ・プードル、ビーグル、ボクサーなどに好発する傾向があります。この年齢・犬種の違いも鑑別の参考になります。
症状の比較
アジソン病の主な症状
アジソン病の症状は「ホルモン不足」に由来します。食欲不振・体重減少・嘔吐・下痢・元気消失・脱水・筋力低下・徐脈(脈が遅い)などが代表的です。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返す経過をたどることが多く、ストレスがかかった際に悪化します。進行すると急性副腎不全(クリーゼ)に至る危険があります。
クッシング症候群の主な症状
クッシング症候群の症状は「コルチゾール過剰」に由来します。多飲・多尿(水をよく飲む・尿が多い)、食欲の増加、お腹が膨れる(腹部膨満)、体幹部の脱毛、筋肉の萎縮、皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなりシワになる)、左右対称の脱毛などが典型的です。コルチゾールが免疫を抑制するため、感染症にもかかりやすくなります。
共通して見られる症状と鑑別ポイント
両疾患で見られる共通の症状として「元気がない」「筋肉の問題(低下/萎縮)」があります。ただし食欲についてはアジソン病では「食欲不振」、クッシング症候群では「食欲亢進」と逆方向であることが多く、この点が鑑別のポイントとなります。また多飲多尿はクッシング症候群に特徴的です。
診断と治療の違い
診断方法の違い
アジソン病の確定診断は副腎皮質刺激ホルモン刺激試験でコルチゾールの反応不良を確認することで行います。クッシング症候群の診断には、同じ刺激試験のほか「低用量デキサメタゾン抑制試験」が用いられます。クッシング症候群では刺激試験後のコルチゾール値が正常より著しく高い反応を示します。
治療方法の違い
アジソン病の治療は「不足しているホルモンを補充する」補充療法(フルドロコルチゾン・プレドニゾロンなど)が基本です。一方クッシング症候群の治療は、過剰なコルチゾール産生を「抑制する」ことが基本となり、トリロスタンという副腎皮質合成阻害薬が使用されます。下垂体腫瘍や副腎腫瘍が確認された場合には外科的切除が検討されることもあります。
治療の方向性がまったく逆である
最も重要な点は、アジソン病とクッシング症候群は治療の方向性がまったく逆であるということです。アジソン病にクッシング症候群の治療薬を投与したり、クッシング症候群の犬にアジソン病の治療薬を与えたりすることは、病態を著しく悪化させる危険があります。正確な診断なく治療を行うことは禁物です。
まとめ
アジソン病とクッシング症候群は同じ副腎の病気でも、ホルモンの過不足・症状・好発年齢・治療法がまったく異なります。食欲の方向性(不振か亢進か)、多飲多尿の有無、発症年齢などを総合的に判断し、適切な検査で正確に診断を受けることが最も重要です。気になる症状がある場合は早めに動物病院を受診し、どちらの疾患なのかを確認してもらうようにしてください。
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