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犬の泌尿器トラブル完全ガイド【獣医師監修】症状・原因・検査・治療・費用・予防策まで

愛犬がおしっこに関する異変を見せたら、それは「泌尿器トラブル」のサインかもしれません。泌尿器トラブルとは、尿を作る腎臓から排泄する尿道までの尿路系に生じる様々な問題の総称です。具体的には、頻尿(何度も少量の尿をする)、血尿(尿に血が混じる)、排尿困難(尿が出にくい)、失禁(トイレ以外で漏らす)などの症状が含まれます 。こうした症状は単なる加齢現象ではなく、膀胱炎や結石、腎臓病やホルモン異常など重大な疾患のサインである可能性があります。飼い主としては症状を見逃さず、原因を見極めて適切に対処することが大切です。

本ガイドでは、犬の泌尿器トラブルについて症状や原因となる主な疾患をわかりやすく解説し、診断のための検査方法と費用, 治療法と費用目安, さらには自宅でできる予防・ケア方法まで網羅します。最新の獣医師監修情報に基づき、専門性を保ちつつ飼い主さんにも理解しやすい内容を心がけています。愛犬の健康管理にぜひお役立てください。

犬の泌尿器トラブルの主な症状とサイン

まずは飼い主が気づきやすい泌尿器トラブルの症状を整理しましょう。以下のようなサインが見られたら要注意です。

  • 頻尿・尿意切迫:短時間に何度もトイレに行き、少量の尿を頻繁に排泄する 。落ち着きなく排泄場所を探すこともあります。
  • 血尿:尿の色が赤や茶色に変色する。薄いピンクから濃い赤色まで様々ですが、明らかな血液混じりの場合は膀胱炎や結石、腫瘍などの可能性があります 。
  • 排尿障害:排尿姿勢を取ってもなかなか尿が出ない、少ししか出ない、尿線が細い等の様子が見られます 。痛みから排尿時に鳴くこともあります。
  • 不適切な排尿・失禁:トイレ以外の場所でおしっこを漏らしてしまう。おうちの中で粗相が増えたり、寝ている間に失禁するケースもあります 。特に高齢犬で見られがちですが、泌尿器の病気による二次的なお漏らしの可能性もあります。
  • 飲水量の増加:急に水を大量に飲むようになり、その結果おしっこの回数や量も増える(多飲多尿)場合、糖尿病や腎臓病、クッシング症候群などの内分泌疾患が疑われます  。1日あたり体重1kgあたり50ml以上の尿が出ていると多尿と判断されます 。

こうした症状はいずれも何らかの異常のサインです。特にオス犬で尿が全く出なくなる場合(無尿)は命に関わる緊急事態です 。愛犬に以上のような症状が一時的ではなく続く場合、様子見せずできるだけ早く動物病院を受診しましょう。

考えられる主な原因・疾患一覧

泌尿器トラブルの背景には様々な疾患が存在します。ここでは犬によく見られる主な原因疾患を解説します。愛犬の症状に近いものがないかチェックしてみましょう。

膀胱炎(ぼうこうえん)

膀胱炎は膀胱の粘膜に炎症が起きる病気で、犬では頻尿や血尿、排尿痛などの症状が特徴です 。原因の多くは細菌感染で、メス犬は尿道が短く太いため細菌が膀胱に侵入しやすく、オスより発症率が高い傾向があります 。実は約14%の犬が一生のうちに少なくとも1回は細菌性膀胱炎になるとも言われています 。その他、膀胱結石や腫瘍が膀胱炎を引き起こすこともあります 。

膀胱炎自体は抗生物質の投与で改善するケースが多いですが、重要なのは再発防止と原因への対処です。結石や腫瘍が潜んでいる場合はそちらの治療が優先されます。症状が軽度でも放置すれば慢性化し、何度も膀胱炎を繰り返すこともあります 。頻尿や血尿に気づいたら、早めに尿検査等で原因を突き止め、適切な治療と予防策を講じることが大切です。

尿石症(尿路結石)

尿石症は尿中のミネラルが結晶化して結石(石)ができる状態です。結石は膀胱結石として膀胱内にできるほか、腎臓(腎結石)や尿管、尿道に生じることもあります 。犬で特によく見られるのはストルバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム)とシュウ酸カルシウム結石の2種類で、全体の80%以上を占めます 。結石ができる要因としては、遺伝的な体質に加え、飲水量の不足による濃い尿、ミネラル過多の食事などが挙げられます 。またストルバイト結石は細菌性膀胱炎に伴い発生することが多い点も特徴です 。

尿石症の症状は血尿や頻尿、排尿痛が代表的ですが、結石が細かい砂状のうちは無症状の場合もあります 。しかし注意すべきは結石による尿道閉塞で、特にオス犬では小さな結石でも尿道に詰まりやすく、尿が出なくなる危険性があります 。尿道閉塞が丸一日以上続くと急性腎不全を招き命に関わる状態に陥るため、一刻も早い処置が必要です 。尿石症と診断されたら、レントゲンや超音波検査で結石の位置・大きさを確認し、尿検査や場合によって血液検査で結石の種類や関連疾患を調べます 。治療は後述しますが、食事療法や内科治療で溶解を目指す場合と、手術で物理的に除去する場合があります。

膀胱切開手術で摘出された犬の膀胱結石の一部(直径約1cmの結石)。再発防止のため、摘出後も療法食による管理が重要となる

尿石症は再発しやすい病気でもあります。一度結石ができた子は体質的にまた形成されることが多く、治療後も長期的な食事療法や定期検査によるフォローが欠かせません 。こまめな水分摂取や尿を酸性寄りに保つ工夫(必要に応じサプリメント併用)も再発予防に有効です 。

尿道閉塞(尿路閉塞)

尿道閉塞とは、その名の通り尿道(おしっこの通り道)が物理的に詰まってしまう状態です。多くは前述の結石や結晶が尿道に詰まることで起こりますが、まれに尿道腫瘍や重度の尿道炎による狭窄なども原因となります。オス犬はメス犬に比べ尿道が細長く湾曲しているため、結石が詰まりやすく閉塞リスクが高いとされています 。尿道閉塞になると排尿ができなくなる(無尿)ため、数時間〜1日程度で腎不全や尿毒症に陥り、嘔吐や昏睡など命に関わる症状を引き起こします 。具体的な症状としては、頻繁に排尿姿勢をとるのにほとんど尿が出ない、苦しそうに鳴く、お腹を触ると膀胱がパンパンに膨れている、といった様子が見られます。

尿道閉塞が疑われる場合、これは緊急疾患として即時対応が必要です。応急処置では尿道カテーテルという管を尿道口から挿入し、詰まりを押し戻したり尿を排出させたりします 。同時に腎臓への負担を軽減するため静脈点滴による補液・毒素排泄も行います 。カテーテルで除去できない場合や再発を繰り返す場合、外科手術(膀胱切開による結石摘出や、まれに尿道改造手術)が検討されます 。いずれにせよ飼い主による対処は難しいため、「おしっこが一滴も出ない」「明らかに排尿できず苦しんでいる」と感じたら夜間でも迷わず動物病院へ急行してください。

膀胱腫瘍(ぼうこうしゅよう)

膀胱腫瘍とは膀胱に発生する腫瘍性疾患で、良性の場合もありますが高齢犬では悪性腫瘍(特に移行上皮癌と呼ばれるタイプ)がしばしば認められます。膀胱腫瘍の主な症状もやはり血尿や頻尿です。膀胱炎と区別がつきにくいですが、抗生物質治療でも良くならない慢性的な血尿や頻尿が続く場合は要注意です。腫瘍が大きくなると尿の通り道を塞ぎ、尿道閉塞の原因にもなりえます 。また腫瘍からの出血で血尿がひどく貧血になるケースもあります。

膀胱腫瘍が疑われる場合、確定診断には画像診断(超音波検査やX線)のほか細胞診・生検による病理検査が必要です。治療は可能であれば外科手術での摘出が望ましいですが、腫瘍の位置や大きさによっては膀胱全摘出を伴う大きな手術になることもあります 。膀胱をすべて摘出した場合、尿をためる臓器がなくなるため常時体外への導尿カテーテル管理やおむつでの生活を余儀なくされます 。手術が難しいケースや転移が見られる場合には抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療が行われます。ただしこれらは費用も高額で、利用できる施設も限られます 。膀胱腫瘍は早期発見が何より重要です。慢性的な下部尿路症状がある場合、安易に「また膀胱炎だろう」と決めつけず、詳しい検査を検討しましょう。

糖尿病(犬の糖尿病)

糖尿病はインスリンの作用不足により血糖値が慢性的に高くなる病気です。中高齢の犬で発症しやすく、多飲多尿や体重減少が初期症状としてよく現れます 。高血糖になると体が余分な糖を尿中に排泄しようとするため、大量の糖と一緒に水分が失われます。その結果、尿量が増え(多尿)喉が渇いて水を大量に飲む(多飲)という症状が出るのです 。おしっこに糖が含まれるため尿がベタつくのも特徴です 。さらに進行すると食欲はあるのに体重が減り、白内障が急速に進行したり、重度では意識障害(ケトアシドーシス昏睡)に陥ることもあります 。

糖尿病が疑われる場合、血液検査で血糖値測定, 尿検査で尿糖確認を行い診断します 。治療の基本はインスリン注射による血糖コントロールです。軽症例では食事療法(高繊維質の食事で血糖値の急上昇を抑える)や経口血糖降下薬で様子を見ることもありますが、多くの犬ではインスリンの投与が必要になります 。インスリン注射は通常毎日2回行い、飼い主さんが自宅で皮下投与します 。適切なインスリン量は血糖値の推移を見ながら獣医師が調整します 。治療開始後も定期的な血糖曲線の測定やフルクトサミン(糖化アルブミン)の検査でコントロール状態をチェックし、投与量を調節していきます 。また食事療法食の利用や肥満管理も重要で、高繊維で糖質控えめの療法食を用いることで治療効果が高まります 。

糖尿病は完治が難しく、一生付き合う慢性疾患です。しかし適切な治療とケアで健康寿命を全うすることは十分可能です。毎日のインスリン注射や食事管理は手間がかかりますが、愛犬のために根気よく続けていきましょう。費用面については後述しますが、ペット保険の活用なども検討すると安心です。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は副腎から分泌されるコルチゾール(ステロイドホルモン)が過剰になる病気です。中高齢犬に多く、多飲多尿や多食、お腹が膨れる(腹部膨満)、左右対称の脱毛などが主な症状として現れます 。多飲多尿はコルチゾール過剰により脳の水分調節中枢が乱れ、腎臓での水分再吸収が抑制されるため起こります 。要するに尿量が増えて喉が渇き、異常に水を欲しがる状態になります。見た目の変化としては毛が薄くなり皮膚が薄い、お腹だけ太鼓のように膨れる、元気だけど老化が早まったような印象を受ける、などが典型です。

クッシング症候群の原因の多くは下垂体腺腫(脳内の良性腫瘍)で、これが副腎を刺激してホルモン過剰を引き起こします。もう一つは副腎腫瘍そのものがコルチゾールを過剰産生するケースです。診断には血液検査でのホルモン測定(ACTH刺激試験やデキサメタゾン抑制試験)や超音波検査で副腎のサイズ確認などが行われます 。治療は、下垂体性の場合は内科療法(コルチゾール合成を抑えるお薬の投与)が一般的です。代表的な薬にトリロスタン(商品名:Vetoryl)というカプセルがあり、これを毎日1~2回飲ませて過剰なホルモンを抑えます 。薬の効果と副作用を確認するため、治療中も定期的にホルモン検査を実施します。副腎腫瘍が原因の場合は外科的に副腎摘出手術を行う選択肢もあります(片側摘出で治るケースもあり)が、高度な手術であり費用負担も大きくなります 。

クッシング症候群も糖尿病同様に完治は難しい慢性疾患ですが、コントロールすることで症状を緩和し寿命を延ばすことができます。「歳のせいかな」と見過ごされがちな症状ですが、早めに対処すれば愛犬のQOL(生活の質)を維持できますので、気になる症状があれば早期に獣医師に相談してください。

慢性腎臓病(慢性腎不全)

慢性腎臓病は加齢やその他の病気を背景に腎臓の機能が徐々に低下していく疾患です。初期には多飲多尿が現れることが多く、これは腎臓の尿濃縮能力が落ちて大量に尿が出てしまうためです 。腎臓が十分に水分を再吸収できないので薄い尿を大量に排泄し、その結果脱水ぎみになって喉が渇き水をたくさん飲むようになります 。病気が進行すると食欲低下や体重減少、嘔吐、脱水、口臭(尿毒症によるアンモニア臭)など全身症状が現れます。最終的には尿毒症によって命に関わる状態になります。

慢性腎臓病は早期発見が難しく、飼い主が症状に気付いた時には腎機能の大半が失われている場合も少なくありません 。診断には血液検査で尿素窒素(BUN)やクレアチニン値を測定しますが、これらは腎機能が約3/4失われてから上昇すると言われています 。そこで近年ではSDMA(対称性ジメチルアルギニン)という新しいマーカーも用いられます。SDMAは腎機能が約40%低下した段階で上昇し始めるため、より早期の腎不全発見に役立ちます 。SDMA検査は外部検査で数日かかりますが、費用も数千円程度と比較的手軽です 。

治療においては完治させる方法はなく、食事療法と対症療法で進行を遅らせつつ症状を和らげるアプローチになります。具体的には腎臓療法食(低たんぱく質・低リンで高カロリーな処方食)への切り替え、必要に応じて皮下点滴や内服薬(利尿剤、胃腸保護剤、活性炭サプリなど)の投与です。高血圧や貧血など合併症の管理も重要です。慢性腎臓病は長い闘病になりますが、適切なケアで穏やかな状態を維持し寿命を延ばすことは可能です。定期的な血液・尿検査で愛犬の腎臓の状態を把握し、獣医師と相談しながら最善の管理を続けましょう。

検査方法と費用目安【尿検査・血液検査・画像診断など】

愛犬の泌尿器トラブルが疑われる場合、動物病院で行われる代表的な検査方法とその費用の目安を紹介します。どの検査が必要かは症状や疑われる病気によって異なりますが、費用をあらかじめ知っておくと安心です。

  • 尿検査:尿の色・濃さ(比重)・pHや沈渣中の細胞・結晶、さらには尿中のタンパク質や糖の有無を調べます。膀胱炎や結石の診断には欠かせません。費用は一般的に2,000~5,000円程度です 。尿を自宅で採取できない場合、病院でカテーテルや超音波ガイド下で採尿することもあります(採尿料が別途数百円かかることも )。
  • 血液検査:基本的な血液検査では、腎臓の値(BUN・クレアチニン)や血糖値, 電解質などをチェックします。また赤血球・白血球の数値から炎症や貧血の有無も分かります。費用は5,000~8,000円程度(基本項目)で、より詳細な項目まで調べる場合10,000~20,000円程度になることもあります 。腎不全の早期発見に有用なSDMA検査は追加で約1,500~2,000円ほどです 。糖尿病やクッシング症候群が疑われる場合、血糖値やホルモン検査(※ホルモン検査は6,000円前後~)を行います 。
  • 画像診断(超音波検査・レントゲン検査):お腹のエコー検査(超音波)では膀胱内の結石や腫瘍、腎臓や副腎の大きさなどを観察できます。費用は3,000~6,000円程度が目安です 。X線検査(レントゲン)では結石の位置・大きさや前立腺肥大などを確認します。通常2方向撮影で5,000~8,000円程度ですが、撮影枚数や麻酔の有無で変動します 。一部の結石はレントゲンに映らない種類もあるため、エコーと併用して診断精度を高めます 。
  • 特殊な検査:原因特定のため追加で行われることがある検査です。細菌培養検査(尿を培養して原因菌と適切な抗生剤を調べる)は6,000~8,000円程度 。クッシング症候群診断のACTH刺激試験は1~1.3万円 、低用量デキサメタゾン抑制試験は1.5万円前後 。腫瘍が疑われる際の細胞診・生検は1~2万円(外注病理検査込み)ほどかかります 。CTやMRIといった高度画像診断は1回数万円以上と高額ですが、一般的な泌尿器トラブルでここまで必要になるケースは多くありません。

※費用補足:上記はあくまで目安であり、動物病院や地域によって前後します。初診料(2,000~3,000円程度 )や再診料が別途かかることもあります。また夜間救急では通常の数割増しの費用になる場合もあります 。検査前に費用を確認したいときは、遠慮なくスタッフに相談しましょう。ペット保険に加入していれば検査費用も補償対象になる場合がありますので、合わせて確認してください。

治療法と費用の目安【軽度~重度の場合】

泌尿器トラブルの治療は、原因疾患や重症度によって大きく異なります。ここでは代表的な治療法と費用の目安を、軽度のケースから重度のケースまで解説します。愛犬の症状がどの程度に当てはまるか想像しながら参考にしてください。

軽度なケースの治療(内科治療中心)

比較的症状が軽く、入院や手術を要さない場合は内科的治療で対処します。例えば細菌性膀胱炎のみの場合、抗生物質の内服が主な治療です。動物病院で尿検査を行い(約2,000~5,000円 )、適切な抗生剤を1〜2週間処方してもらいます。薬代は1週間あたり1,000~2,000円程度で、再診料と合わせても1万円前後で治療可能なことが多いです 。

また初期の尿石症で、小さなストルバイト結石が疑われる場合には食事療法のみで様子を見ることもあります。尿を酸性に保ち結石を溶解できる処方食(後述の療法食)に切り替え、水分を多く摂らせることで対応します。この場合、フード代が月に数千円~1万円程度(通常のフードとの差額分)かかるほか、定期的な尿検査(数千円)で経過を追います。結石が溶ければ手術不要で治せますが、溶けない場合や結石の種類によっては早めに手術へ切り替える判断も必要です 。

軽度なケースでも診察料や検査料込みで合計1~2万円ほどかかるのが一般的ですが、ペット保険適用なら自己負担はその一部になります。例えばPS保険の調査では、犬の膀胱炎の1回あたり治療費は平均8,856円というデータもあります 。これは軽症例が多いためですが、症状が長引けばその分通院回数と費用も増える点は留意しましょう。

中程度のケースの治療(入院や継続治療が必要)

症状が中程度で入院治療や継続的な投薬が必要な場合です。例えば尿道閉塞になりかけの状態(結石が詰まりかけているが尿が少し出ている等)では、入院して点滴を行いながら経過観察し、場合によってカテーテル処置を行います。入院費は1日あたり3,000~10,000円程度が相場です 。点滴治療費用やカテーテル処置費用も加わるため、数日入院すれば数万円~十数万円になることもあります 。先述のように迅速に対処すれば短期入院で済むケースも多いので、早めの受診が結果的に費用負担を下げることにつながります。

糖尿病やクッシング症候群と診断された場合は、長期の通院治療が前提となります。糖尿病ではインスリン注射と定期的な血糖値チェックが必要で、インスリン製剤と注射器代で月に約6,000~10,000円、血糖値など検査費用を含めると1ヶ月あたり2~3万円ほどが目安です 。クッシング症候群の内服薬(トリロスタン)は1日あたり300~600円程度するため、小型犬でも月に18,000~36,000円程度の薬代がかかります 。そこに定期検査費用が加わるので、毎月2~4万円程度を見込んでおく必要があります 。いずれも症状や体重によって前後しますが、慢性疾患の管理には継続的な費用がかかることは念頭に置きましょう。

重度なケースの治療(手術・高度治療が必要)

重度のケースでは外科手術や高度医療を要し、費用も高額になります。代表例として膀胱結石の外科手術(膀胱切開術)があります。一般的な膀胱結石摘出手術の相場は15~20万円程度で、結石の場所や数、術後の入院日数により増減します 。実際、アニコム損保のデータでも膀胱結石手術の平均支払額はその程度と報告されています 。尿道結石を併発している場合は尿道切開術が追加され、さらに費用が上乗せされることもあります 。

膀胱腫瘍の手術では、腫瘍の大きさ次第で10~20万円程度の手術費がかかると考えられます 。加えて術後の病理検査や化学療法を行う場合、その費用も必要です。副腎腫瘍の摘出手術(クッシング症候群の一部ケース)は高度専門医療の領域で15~25万円ほどが目安と言われます 。腎不全の終末期における集中治療(静脈点滴を何日も継続、入院管理)も総額で十万円単位になる場合があります。

さらに重度の手術として会陰尿道瘻形成術(オス犬や猫で尿道を根本から体外に開口し直す手術)など特殊なケースもありますが、これは非常にまれで費用も数十万円に及びます。一般的な範囲ではありませんので、ここでは詳細は割愛します。

※費用の備えについて:重度の治療は突然必要になることが多く、高額な出費に戸惑う飼い主さんも少なくありません。ペット保険では手術費を50~70%補償してくれる商品もありますので、いざという時のために保険加入や貯蓄で備えておくと安心です 。「費用が理由で治療を諦めざるを得ない」という事態を避けるためにも、日頃から治療費の相場観を知り準備を整えておきましょう。

自宅でできるケア・予防法とおすすめ商品

泌尿器トラブルを防ぐため、また治療中の愛犬をサポートするために家庭でできる工夫や便利なケア用品を活用しましょう。症状や悩みに寄り添った対策で、愛犬の負担を軽減しつつ健康維持に役立てます。

水分摂取を促す工夫

十分な水分補給は尿を薄めて膀胱炎や結石の予防に繋がります 。特にあまり水を飲まない子には工夫が必要です。「もっと飲んで」と言っても犬には伝わりませんので、以下のような方法を試してみましょう。

  • 給水ポイントを増やす:家の中に水飲み場を複数設置すると、水を目にする機会が増えて飲水量アップに効果的です 。
  • 循環式給水器の利用:循環して常に新鮮な水が流れる給水器は、興味を引きやすく飲水量向上に役立ちます。「ジェックス ピュアクリスタル」シリーズは犬用サイズもあり、水をろ過して綺麗に保つのでおすすめです。(Amazonで見る / 楽天で見る)
  • フードに水分を混ぜる:ドライフードにぬるま湯をかけてふやかしたり、ウェットフードを取り入れることで食事から水分を摂らせる方法です 。味付きで飲む「犬用スープ」なども市販されています。

こうした工夫で愛犬が自主的に水を飲む量を増やすことができます。ただし飲み過ぎも良くないので、一日の適正飲水量(体重1kgあたり50ml程度 )を大きく超えない範囲で調整してください。

療法食の活用(食事によるケア)

泌尿器の健康管理には食事の果たす役割が非常に大きいです。動物病院で処方される療法食は、特定の疾患に対応した組成になっており、市販の通常フードとは目的が異なります。例えば以下のような製品があります。

  • 尿路ケア用療法食:ストルバイト結石や特発性膀胱炎の管理に用いられます。ロイヤルカナン ユリナリーS/O 犬用やヒルズ c/d マルチケアなどが代表です。尿を適切なpHに保ち結石の形成・再発を抑制するほか、マグネシウムなどのミネラル含有量も調整されています。(Amazonで見る / 楽天で見る)
  • 腎臓ケア用療法食:慢性腎臓病用にたんぱく質とリンを制限し、オメガ3脂肪酸など腎保護成分を強化したフードです。ロイヤルカナン 腎臓サポート, ヒルズ k/d, スペシフィック (キドニーサポート) などがあります。腎不全の進行抑制に必須の療法食です。(Amazonで見る / 楽天で見る)

療法食は獣医師の指導のもと与える必要があります。自己判断での使用や健康な子への継続給餌は推奨されません。「治療=薬」のイメージがありますが、泌尿器疾患では食事管理が治療の柱です 。市販の安価なフードでは代用できない効果がありますので、獣医師と相談しながら最適なフードを選びましょう。なお嗜好性の問題で食べてくれない場合、他社製品に切り替えたりウェットタイプを試すなど工夫してください。

サプリメントの活用

療法食に加えてサプリメントを併用することで、泌尿器の健康維持をサポートできる場合があります。代表的なものを挙げます。

  • クランベリー系サプリ:クランベリーに含まれるポリフェノール(プロアントシアニジン)は、膀胱壁への細菌付着を防ぎ、尿を酸性化して膀胱炎やストルバイト結石の予防に役立つとされています  。犬用には「PE クランベリーチュアブル」や「クランベリープラス」などの製品があります。(Amazonで見る / 楽天で見る) 日常的に与えておくと再発防止にプラスになるでしょう。
  • 腎サポート系サプリ:腎臓病の進行抑制目的で使われる補助剤です。活性炭(毒素吸着剤)の**「カリナール」シリーズ、オメガ3やビタミンB群を含む「レンジアレン」、腎機能サポートペプチドを含む「イーパック」**など様々です。(Amazonで見る / 楽天で見る) これらはあくまで補助であり、療法食と組み合わせて使います。獣医師に相談しつつ適切なものを選びましょう。
  • 尿ケア系サプリ:尿石の再発抑制や尿pH調整に用いるものです。メチオニンやシトラス成分で尿を酸性に保つ**「ウロアクト」、下部尿路の粘膜保護成分を含む「URサポート」**などがあります。(Amazonで見る / 楽天で見る) 泌尿器トラブルを繰り返す子に予防目的で与えることがあります。

サプリメントは薬ではないので即効性は期待できませんが、日々のケアの積み重ねが将来のトラブル予防につながります。ただし与え過ぎや組み合わせによっては逆効果の場合もあるため、かかりつけ獣医師と相談して導入してください。

排泄ケア用品の活用

排尿に問題を抱える愛犬の負担や、飼い主さんの世話の手間を軽減するため、排泄ケア用品も積極的に活用しましょう。特に高齢犬や術後の子には役立ちます。

  • 犬用おむつ・マナーウェア:失禁や粗相がある場合、犬用の紙おむつが便利です。オス用には巻くだけのマナーベルト(腹巻タイプ)、メス用や大型犬にはしっぽ穴付きのパンツタイプおむつがあります。ユニ・チャームの**「マナーウェア」**シリーズはサイズ・形状が豊富で装着しやすくおすすめです。(Amazonで見る / 楽天で見る) 使い捨てのほか洗って繰り返し使える布おむつも販売されています。
  • 防水シート・ペットシーツ:寝たきりや失禁のある子の寝床や床には、防水仕様のシートを敷いておくと掃除が楽になります。防水マットや**ペットシーツ(おしっこパッド)**を重ねて敷き、漏れをしっかりキャッチしましょう。(Amazonで見る / 楽天で見る) 最近は厚手で洗濯可能な防水マットも市販されており、経済的です。
  • 清潔保持グッズ:尿で汚れた被毛や皮膚を清潔にするためのケアも大切です。お散歩用の携帯洗浄液、尿焼け防止の被毛ケア用品なども利用すると良いでしょう。特に女の子でおむつを使う場合は、陰部周りの蒸れに注意し、こまめに取り換えて肌を清潔に保ってあげてください。

以上のような用品を上手に活用すれば、愛犬も飼い主も快適にケアを続けられます。押し売りのように無理に使う必要はありませんが、「こんな商品もあるんだ」と知っておくことで選択肢が広がります。愛犬の状態に合わせて取り入れてみてください。

Q&A ~犬の泌尿器トラブルに関する素朴な疑問~

最後に、飼い主さんから寄せられやすい泌尿器トラブルに関する質問とその回答をQ&A形式でまとめます。

Q1. 犬のおしっこの色が赤っぽいとき、必ず膀胱炎ですか?

A. 赤やピンク色の尿(血尿)は膀胱炎が原因であることが多いですが、結石や腫瘍など他の原因も考えられます 。血尿=膀胱炎と自己判断せず、必ず尿検査や超音波検査で原因を特定してもらいましょう。特にオス犬の血尿は結石による尿道損傷の可能性もあるため注意が必要です。

Q2. 愛犬が頻繁に水を飲みおしっこの量も多いです。病院に連れて行くべき?

A. 多飲多尿が続く場合、糖尿病や腎臓病、クッシング症候群などの内分泌疾患のサインの可能性があります 。一時的な暑さや運動後でない限り、体重1kgあたり1日50ml以上の尿が毎日出ているようなら受診をおすすめします 。早期発見できれば投薬でコントロール可能な病気も多いです。

Q3. おしっこを我慢させると泌尿器に悪いって本当?

A. はい、長時間の我慢は泌尿器に負担をかけます。尿が長く膀胱に滞留すると細菌が繁殖しやすく膀胱炎になりやすいです 。また尿中のミネラル濃度が上がって結石もできやすくなります 。日常的に排尿を我慢する習慣がつかないよう、適度にトイレに行かせてあげてください。留守番が長い場合はペットシーツを利用するなど工夫しましょう。

Q4. 療法食はずっと続けないといけませんか?普通のフードに戻せますか?

A. 病気の種類によりますが、基本的には獣医師の指示がある間は続けるべきです。結石症や腎臓病は療法食をやめた途端に再発するケースが非常に多いです 。症状や検査結果が安定し、医師が問題ないと判断すれば普通食に戻せる場合もありますが、自己判断で戻すのは危険です。愛犬のためにも根気強く続けましょう。

Q5. オス犬とメス犬で泌尿器の病気になりやすさに差はありますか?

A. 若干の傾向差はあります。メス犬は膀胱炎になりやすく、尿道が短く太いため細菌感染が起こりやすいです 。一方オス犬は結石による尿道閉塞を起こしやすい構造です 。また未去勢オスでは前立腺肥大による排尿障害が中高齢で出ることもあります。とはいえ個体差が大きいので、性別に関わらず日頃の観察とケアが重要です。

Q6. 尿のニオイや色で健康状態を判断できますか?

A. ある程度の手がかりにはなります。健康な尿は淡い黄色で強い臭いはしません。濃い黄色でアンモニア臭が強い場合は脱水傾向や膀胱炎の可能性があります 。血のような臭いや腐敗臭を感じる場合も膀胱炎が疑われます。反対に水のように無色透明な尿が大量に出る場合は腎不全の可能性も。あくまで目安なので、異常を感じたら検査で確認するようにしましょう。

以上、犬の泌尿器トラブルに関する包括的な情報をご紹介しました。早期発見・早期対処が愛犬の泌尿器の健康を守る鍵です。日々の排泄や飲水の様子を注意深く見守り、少しでもおかしいと感じたら獣医師に相談してください。適切なケアと予防で、愛犬が快適に過ごせるようサポートしていきましょう。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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