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猫の泌尿器疾患

【獣医師監修】猫のおしっこに血が混じる(血尿)の原因と受診すべきサイン

猫のトイレに血の混じった尿を見つけたら、飼い主さんは驚き心配になるでしょう。

尿に血が混ざる「血尿」は、放置すると命に関わる重大な病気が隠れている場合もあり、早急な対応が必要です 。本記事では、血尿とは何かという基礎から、考えられる原因疾患、見分け方と緊急度の高いサイン、家庭での応急処置、動物病院での診断・治療、予防法まで、獣医師の知見に基づいてわかりやすく解説します。

血尿とは何か?正常な尿との違いと注意点

猫の血尿とは、文字通り猫のおしっこに血液が混ざった状態を指します 。健康な猫の尿は通常、澄んだ淡黄色~濃い黄色をしています。しかし血尿になるとピンク色や赤色、時に茶色がかった色に変化し、肉眼でも確認できるようになります 。ごく少量の出血では尿の色が明らかに変わらない場合もありますが、その場合でも尿検査をすると赤血球が検出される「顕微鏡的血尿」という状態になっています 。

いずれにせよ、尿に血が混じるのは体からの異常サインです。猫は犬とは異なり発情による出血(いわゆる生理出血)が起こらないため、もし未避妊のメス猫で陰部から出血が見られる場合も、何らかの病気による出血と考えられます 。

尿自体が赤く見える場合は、本当に尿に血液(赤血球)が混じっている血尿のほかに、血液が壊れることで赤い色素が尿中に出る血色素尿や、筋肉由来の色素や食べ物の色素で赤く見えるケースもあります 。たとえば長時間トイレを我慢して尿が非常に濃く茶褐色になる、あるいは餌の色素で一時的に赤っぽく見える場合などは、必ずしも血尿ではありません 。

しかし専門家でないと区別は難しく、異常の見逃しに繋がりかねません。「もしかして血尿かも?」と思ったら、早めに動物病院で検査を受けることをおすすめします 。日頃から愛猫の尿の色や量をチェックする習慣をつけ、少しでも普段と違う様子に気付いたら注意深く観察しましょう。

猫のおしっこに血が混じる主な原因・考えられる病気

猫の血尿の原因として多いのは、泌尿器系(腎臓・尿管・膀胱・尿道)や生殖器系の病気、または外傷による出血です 。ここでは主な原因となる疾患や要因を順に解説します。なお、下記のような疾患名が出てきますが、詳細は各トピックごとの関連記事(「猫の膀胱炎の症状と対処法」「尿路結石の治療と予防」「猫の頻尿の原因」など)も参照してみてください。

膀胱炎・尿道炎(下部尿路の炎症)

膀胱炎および尿道炎は、猫の血尿の原因として最も頻繁に見られる下部尿路の病気です 。膀胱や尿道に炎症が起きると粘膜から出血し、尿に血が混ざります。膀胱炎・尿道炎が起こる原因は大きく3つのタイプに分類されます 。

  • 感染性膀胱炎:通常無菌である膀胱内に尿道から細菌が侵入し感染を起こすタイプです。高齢のメス猫などでは細菌性膀胱炎になることがあります。細菌の感染により膀胱粘膜が傷み、血尿や膿尿(尿が白く濁る)が見られることがあります 。
  • 結石性膀胱炎:尿中のミネラル分が結晶化して結石となったり、あるいは小さな結晶が大量にできたりすることで膀胱粘膜が刺激され、炎症を起こすタイプです 。結石や結晶が膀胱壁や尿道を傷つけ出血の原因となります 。**尿路結石(尿石症)**については後述します(詳しくは『猫の尿路結石の治療と予防』記事も参照してください)。結石性膀胱炎では、血尿のほかに頻尿や排尿痛がみられ、大きな結石がある場合はお腹を触って確認できたりレントゲン検査で写ったりすることもあります  。
  • 特発性膀胱炎(ストレス性膀胱炎):明らかな原因(細菌感染や結石など)がないのに膀胱炎症状が起こるタイプです 。猫の下部尿路疾患の中で最も多いタイプで、報告によれば猫の下部尿路症候群(FLUTD)の約60%を占めるとも言われます 。近年の研究では環境の変化や多頭飼育による緊張などストレスが大きく関与していることがわかっています 。血尿や頻尿、排尿時の痛みなどの症状を示しますが、細菌や結石は検出されません 。再発しやすい傾向がありますが、ストレス軽減や適切な食事療法によって症状が落ち着くケースが多いです 。猫の膀胱炎全般について詳しく知りたい方は『猫の膀胱炎の症状と対処法』の記事も参考にしてください。

膀胱炎・尿道炎自体はオス・メスどちらの猫でも起こりますが、オス猫の場合は要注意です。オスの尿道はメスに比べて細長く狭いため、炎症で生じた粘液や剥がれた組織片、さらには結石・結晶の小さな塊が詰まりやすく、尿道閉塞を起こすリスクが高いのです 。この尿道閉塞は猫の命に関わる非常に危険な状態で、次の項で詳しく説明します。

尿石症(尿路結石)

尿石症とは、尿中のミネラル成分が結晶化して結石(石)を形成する病気です 。猫ではストルバイト結石(リン酸マグネシウムアンモニウム)やシュウ酸カルシウム結石が代表的で、これらが膀胱や尿道など下部尿路にできることで様々な症状を引き起こします 。結石そのもの、あるいは結晶の細かな粒が粘膜を傷つけることで膀胱炎を起こし、血尿の原因になります 。特に雄猫では尿道が細く長いため、結石の破片や結晶が詰まりやすく注意が必要です 。尿石症による血尿には頻尿や排尿痛(痛がって鳴く)を伴うことが多く、放置すれば上述の尿道閉塞に繋がるおそれがあります 。尿石症の治療・予防については『猫の尿路結石の治療と予防』で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

尿道閉塞(オス猫に多い緊急疾患)

尿道閉塞とは、尿道の内部が結石や結晶の固まり、粘液栓(タンポ)などで塞がってしまい、尿が全く出せなくなる状態です 。特にオス猫で発生しやすく、上記の尿石症や特発性膀胱炎が悪化した結果として起こるケースが多いです 。雄猫の細長い尿道は非常に詰まりやすいため、一度閉塞が起こると数時間~半日程度で急性腎不全に陥る可能性があり、大変危険です 。具体的な症状としては、何度もトイレに行っていきむのに一滴も尿が出ない、苦しそうに鳴く、お腹が硬く張ってくる、元気消失や嘔吐が見られる、といった様子が典型です 。オス猫でこうした尿が出ない状態や激しい症状が見られた場合、一刻も早く動物病院で処置を受ける必要があります 。尿道閉塞は文字通り命に直結する緊急疾患なので、迷わず緊急対応を行いましょう。

膀胱腫瘍など泌尿器の腫瘍

腎臓・膀胱・尿道など泌尿器系のどこかに腫瘍(良性/悪性の新生物)ができている場合も、組織が破壊されたり腫瘍が自潰することで出血を引き起こし、血尿の原因となることがあります 。猫の泌尿器系の腫瘍は犬ほど多くありませんが中高齢の猫では稀に発生します 。たとえば膀胱に腫瘍(膀胱腫瘍)ができると粘膜から慢性的に出血し、血尿が続くケースがあります 。腫瘍そのものは頻度は低いものの、見逃さないよう注意が必要です。高齢猫で血尿が続く場合や他の原因が見当たらない場合、腫瘍の有無を調べるため画像検査(超音波検査やX線検査、必要なら内視鏡など)が行われます 。

腎臓の病気(腎結石・腎炎・腎不全など)

血尿は腎臓や尿管など上部尿路の異常によっても引き起こされます 。代表的なものに腎結石(腎臓や尿管に結石ができる)、腎盂腎炎(腎臓の細菌感染)、慢性の腎臓病などがあります。腎臓や尿管に結石ができた場合、初期には血尿以外の症状が出にくく気づきにくいですが、進行すると腎臓の機能障害や水腎症(腎臓に尿がたまる状態)を起こし重篤化することがあります 。腎臓自体に炎症や損傷が起これば尿中に赤血球の塊が出ることもあります 。

また猫の腎不全(腎臓病)は血尿の直接の原因というより、血尿の背景にあることがある病態です。腎臓の機能が低下すると尿を作る能力が失われ、老廃物を排出できなくなる病気で、急性腎不全と慢性腎不全に分類されます 。腎不全では食欲不振や体重減少、元気消失、体温低下、嘔吐や下痢など様々な症状が現れ、尿量にも異常(極端に増えるか減る)が生じます 。急性腎不全は尿路閉塞や中毒などで突然起こり、適切な治療で回復が期待できます。一方、慢性腎不全は完治しない進行性の病気で、生涯にわたり食事療法や投薬などで進行を遅らせる管理が必要です 。いずれの場合も放置すれば命に関わるため、血尿に加えて多飲多尿や食欲低下、嘔吐など腎不全を疑わせる症状が見られたら早急に受診しましょう 。腎臓病について詳しくは『猫の腎不全』に関する記事も参考にしてください。

生殖器の病気(未避妊のメスの場合)

未避妊(避妊手術を受けていない)のメス猫の場合、ごく稀に生殖器系の疾患で出血が起こり、それがあたかも尿に血が混じっているように見えることがあります 。猫は発情期に生理出血がないため、陰部からの出血が見られるときは子宮や卵巣の病気、膣炎などが疑われます 。たとえば子宮に膿がたまる子宮蓄膿症では血混じりの膿が外陰部から排出されるケースがあります。また高齢の未避妊メスでは子宮や膣の腫瘍が発生し出血する可能性もあります。出血が尿と混ざっているのか、生殖器から単独で出ているのかは専門的な判断が必要ですので、少しでも疑わしい場合は早めに獣医師の診察を受けてください。

外傷・その他の原因

上記以外にも、体の外傷や全身的な病気によって血尿が起きる場合があります。代表的なのは交通事故や高所からの落下による外傷です 。腎臓や膀胱などお腹の中の臓器が強く損傷すると内部出血を起こし、尿に血が混じることがあります 。重度の場合、腎臓や膀胱が破裂して腹腔内に尿が漏れ出す危険もあり、猫が事故に遭った直後から血尿や排尿困難が見られる際は直ちに救急処置が必要です 。外傷では血尿以外にも体表の傷や痛み、歩行困難、腹部膨満など明らかな異常が現れるでしょう。

また、全身性の疾患による尿の赤色変化も考えられます。例えば猫がタマネギ中毒に陥った場合や、猫伝染性貧血(ヘモバルトネラ症)といった疾患では、赤血球が大量に破壊されて血中のヘモグロビンが尿中に出る血色素尿が起こります 。この場合、尿は赤~赤褐色になりますが膀胱炎とは原因が異なり、重度の貧血症状(ふらつき、粘膜が白っぽい等)を伴います 。いずれにせよ猫の尿が赤い場合、軽い原因(例:慢性膀胱炎)から重篤な原因(腎破裂や急性の溶血など)まで様々で、命を脅かすケースも少なくありません 。原因の見極めには詳細な検査が必要になるため、少しでも尿の色に異常が見られたら自己判断せず必ず動物病院で診察を受けるようにしましょう 。

血尿とともに現れる症状と緊急度の見極め

血尿に気付いたとき、同時に猫の行動や体調にも普段と違う症状が出ていないか観察することが重要です。特に以下のような下部尿路症状が伴っていれば、血尿の原因は膀胱炎や尿石症など泌尿器トラブルの可能性が高いでしょう 。併せて、猫の全身状態や出ている尿の量によって緊急性の判断をします。

血尿に伴ってよく見られる症状

  • 頻尿(ひんにょう):何度もトイレに行くが一度の尿量が少ない 。出たり入ったりを繰り返す様子が見られる 。(頻尿の詳しい原因は『猫の頻尿の原因』の記事も参照してください)
  • 排尿困難・排尿時のいきみ:トイレで長時間いきむがなかなか尿が出ない 。尿意はあるのにスムーズに出せず苦しそうに踏ん張る。
  • 不適切な排尿(粗相):トイレ以外の場所でおしっこをしてしまう 。トイレに間に合わず少量の尿を漏らすことも。
  • 疼痛のサイン:排尿時に痛がって鳴く、唸る 。排尿中に姿勢を低くしてうずくまるように動かなくなる 。
  • 点滴状の尿:おしっこがポタポタと滴る程度で少しずつしか出ない 。
  • 尿の変色・混濁:尿に血が混じってピンク~赤色に変わる(血尿) 。膿や結晶によって白く濁る場合もある。
  • 尿閉(にょうへい):尿が全く出なくなる 。
  • 全身状態の悪化:元気や食欲の低下、嘔吐が見られる 。ぐったりして動かなくなる。発熱することもある。

以上のような症状が1つでも見られたら注意が必要です 。特に雄猫で「尿が全く出ていない」場合は前述の尿道閉塞による緊急事態の可能性が非常に高いので、一刻を争います 。次のチェックリストも参考にして、急いで受診すべきか判断しましょう。

緊急受診が必要な危険なサイン

以下のような症状・徴候が猫に見られるときは、すぐに動物病院へ連れて行ってください 。

  • まったく尿が出ていない(トイレに頻繁に行くのに一滴も出ない) 
  • 血尿の程度がひどい(尿のほとんどが血液のように赤い) 
  • 何度も吐いている 
  • 元気や食欲がない、ぐったりしている 
  • 腹部が膨れて硬く張っている  
  • 排尿しようと苦しそうに鳴く(強い痛みのサイン)
  • 尿が赤い上に白く濁っていたり腐敗臭がする  

これらは血尿を引き起こす病気が相当進行・重症化していることを示します 。例えば、嘔吐を伴い尿がほとんど出ない場合は急性腎不全に陥っている疑いがあります 。炎症による産物や結石・腫瘍などで尿路が完全に塞がれてしまうと、作られた尿を排出できず老廃物が体内に蓄積します。尿が出せない状態が半日ほど続くと腎臓に負担がかかり**腎不全状態(尿毒症)**となり、全身に命の危険が及ぶ深刻な症状が現れます 。実際、尿道閉塞で排尿できないまま放置すると膀胱破裂や尿毒症により死亡するリスクもあります 。こうなる前に、少しでも異変があればできるだけ早く動物病院を受診して治療を開始することが大切です 。血尿が出ていて元気がない場合は「明日まで様子を見る」は禁物です。

一方、猫がケロッとして元気そうに見える場合でも油断はできません。猫は体の不調を隠すことが得意な動物で、平静を装っているだけのこともあります 。見た目は元気でも血尿が出ていたら放置せず早めに獣医師に相談してください 。軽度のうちに治療を開始すればそれだけ早く楽に治せる可能性が高まります。

血尿に気付いたときの飼い主の対処法・応急処置

愛猫のおしっこに血が混じっているのを発見したら、飼い主さんは慌てず落ち着いて次のように対処しましょう。

緊急度症状対応
🔴 最緊急全く尿が出ない即座に動物病院へ連絡・受診
🟡 早急少量でも尿が出る早めの受診(数時間~1日以内)
🟢 継続観察症状改善傾向定期的な経過観察と予防策
  1. 猫の様子とトイレ状況を詳しく観察する
    • まずいつから異常が始まったか、1日に何回くらいトイレに行っているか、そのうち何回で血尿が出たか、排尿姿勢を取ってから実際に尿が出るまでの様子、痛がっていないか、普段と比べた元気・食欲はどうか、といった点をできるだけ詳細に観察・記録します 。これらの情報は受診時に獣医師への説明に役立ちます。
  2. 排尿できているか確認し受診の緊急度を判断する
    • 猫が少量でも尿を出せているかを確認します 。少しでも出ているようなら尿道が完全閉塞している可能性は低く、緊急度は幾分下がります。ただし血尿が出た時点で基本的には早めに受診すべきなのは間違いありません 。一方、トイレに行っても全く尿が出ていない場合は尿道閉塞が強く疑われます 。その際は時間外でも夜間でも迷わず動物病院に緊急連絡・受診してください 。
  3. 尿のサンプルを採取して持参する
    • 可能であれば、猫砂を使っていない清潔なトイレやトレーを用意し、猫のおしっこを少量採取して病院に持参しましょう 。難しい場合は血尿のしみた猫砂やペットシーツ部分を写真に撮って見せるだけでも構いません 。新鮮な尿があればその場で尿検査ができ、原因解明に役立ちます 。尿の採取方法については、ラップをかけたおたまを排尿中のお尻の下に差し込む、システムトイレのトレーから直接集める等の方法があります 。5~15mL程度採れれば十分検査可能なので、採れた尿は清潔なフタ付き容器に入れ、涼しい場所に保管しつつ採取から3時間以内に病院へ提出しましょう (時間が経つと尿の成分が変化して正確な検査ができなくなります)。
  4. 水分補給を促す
    • 猫が水を飲めているようであれば、ウェットフードを与えるなどして普段より水分摂取量を増やす工夫をしましょう 。水分を多くとることで尿量が増え、膀胱内の洗浄につながります。ただし前述のように尿が全く出ていない場合は、飲ませても排泄できず危険なので無理に飲ませず直ちに受診してください 。少しでも尿が出ている場合でも症状が改善しない限り自己判断で様子を見続けるのはリスクがあります。早期受診を基本と考えてください。

以上の対処を行ったら、なるべく早く動物病院で診察を受けてください。血尿は一度だけでも念のため受診したほうが安心です 。猫は泌尿器系のトラブルが非常に多い動物です。放置すれば症状が悪化して取り返しのつかない事態になる恐れもあります 。大切な愛猫を守るため、「そのうち治るだろう」と楽観視せずに早めに獣医師に相談しましょう 。

動物病院で行われる診断と治療

動物病院では、まず飼い主さんから詳しく問診を行い、猫の全身状態をチェックします。そのうえで主に以下のような検査によって血尿の原因を調べます 。

  • 尿検査: 採取した尿を用いて、尿中に赤血球が含まれているか(潜血反応)、結晶や細菌が存在しないか、尿のpH(酸性度)はどうか、蛋白や糖は出ていないか等を調べます 。これにより膀胱炎なのか尿石症なのか、感染症かどうかといった鑑別が可能です 。
  • 画像診断: 超音波エコー検査やレントゲン検査によって、膀胱内に結石や腫瘍がないか、腎臓や尿管の状態(腫れや結石の有無)はどうかを確認します 。結石はX線や超音波で写る種類も多く、腫瘍やポリープ、膀胱壁の肥厚なども超音波で評価できます。
  • 血液検査: 全身の健康状態を調べるため血液検査も行います。腎臓の値(BUNやクレアチニン)が高ければ腎不全が示唆されますし、赤血球や白血球の数値から貧血や感染の有無がわかります。必要に応じて感染症の有無(例:猫伝染性貧血の病原体検査など)も追加されます。

これらの検査結果に基づき、総合的に診断を下します。診断名が確定したら、それに応じた治療方針を立てます。治療法は原因や症状の重さによって大きく異なります 。主な例を挙げましょう。

  • 細菌性膀胱炎と診断された場合: 抗生剤による内科治療が中心となります 。膀胱炎による痛みが強ければ鎮痛剤や抗炎症剤も使用します。また、水分摂取を促したり尿を酸性に保つ食事管理が指導されることもあります。
  • 尿石症(結石症)と診断された場合: ストルバイト結石であれば、尿石を溶解するための療法食を与える食事療法が第一選択です 。ストルバイトは尿pHを下げることで溶ける可能性があるため、処方食による治療が効果を発揮します 。一方、シュウ酸カルシウム結石は溶解できないため手術で摘出するしかない場合もあります。いずれの場合も結石が大きかったり尿道に詰まっている場合は、カテーテルで尿道を洗浄して結石や閉塞物を除去する処置や、外科手術による結石摘出が必要になることがあります 。結石による膀胱炎には抗生剤や抗炎症剤も併用します。
  • 尿道閉塞を起こしている場合: 何より優先すべきは膀胱に溜まった尿を排出させる処置です 。猫を鎮静・麻酔下に置き、カテーテル(細いチューブ)を尿道に挿入して閉塞物を水で押し流し、膀胱内の尿を体外に排出させます 。カテーテルで通せない重度の閉塞では、皮膚越しに針を膀胱へ刺して直接尿を抜く処置(膀胱穿刺)を行うこともあります 。閉塞が長時間続いて腎不全や電解質異常を起こしている場合には、静脈点滴や強制利尿、血液中のカリウム値を下げる治療など全身管理も並行して行います 。
  • 特発性膀胱炎と診断された場合: 病原体や結石がないタイプの膀胱炎です。この場合、多くは内科的な対症療法(鎮痛剤や抗不安薬の投与など)と生活環境の改善によるケアを行います 。ストレスの軽減が重要なポイントで、必要に応じて精神安定作用のあるサプリメントや、ストレス緩和成分が含まれた処方食を用いて再発予防に努めます  。
  • 腫瘍が見つかった場合: 腫瘍の種類や進行度により治療法は様々です。手術で切除可能なものであれば外科手術を検討します。難しい場合は抗がん剤治療や対症療法(止血剤や鎮痛剤、抗炎症剤など)で症状緩和を図ります。
  • 腎臓病(腎不全)がある場合: 急性腎不全であれば原因(尿路結石の除去や中毒解消など)の治療とともに、輸液療法や利尿剤投与で腎機能の回復を促します 。慢性腎不全ならば残念ながら完治は望めませんが、点滴や腎臓療法食、腎保護剤の投与などで病気の進行を遅らせながら生活の質を維持する治療を行います 。

治療期間は原因と重症度によって様々です。膀胱炎や軽度の血尿なら内科治療と生活改善で比較的短期間で回復が期待できます 。一方、尿石症の再発や特発性膀胱炎は再燃を繰り返すことが多く、症状が治まった後も長期的なケアが必要です 。どの場合でも、飼い主さんが治療方針を理解し適切なケアを続けることが猫の快復にとって重要です。

猫の血尿を予防する方法(再発防止の生活ケア)

猫の下部尿路の病気は再発しやすい傾向があります。そのため、日頃から生活環境を見直し予防と再発防止に努めることが大切です 。以下に主なポイントを挙げます。

水分を十分に摂らせる工夫

飲水量の確保は泌尿器の健康維持に欠かせません。水分摂取が不足すると尿が濃くなり膀胱や腎臓に負担がかかり、結石や膀胱炎の原因になります 。猫は本来あまり水を飲まない動物ですが、以下のような工夫で無理なく水分を多く摂れるようにしてみてください 。

  • 部屋の複数箇所に新鮮な水を用意する(猫は気まぐれなので、いつでもどこでも飲めるようにする)。
  • 流水を好む猫にはペット用ファウンテン(水飲み器)を設置する。
  • ドライフード中心であれば、一部または全部をウェットフード(缶詰やパウチ)に切り替える 。ウェットフードには水分が多く含まれるため、食事からの水分摂取量が増えて尿量を確保できます 。
  • 水に風味をつける(鶏の出汁を薄めたものなど、獣医師と相談の上で)。

トイレ環境を清潔に保つ

猫はキレイ好きで神経質な動物です。トイレが少しでも汚れていたり気に入らない状態だと、ストレスを感じて排泄を我慢してしまうことがあります 。排尿を我慢すると膀胱に尿が溜まりすぎて膀胱炎を起こしやすくなるほか、尿が濃縮されて結晶ができやすくなります 。こうした悪循環を防ぐため、トイレはいつも清潔に保ち、猫が快適に使える状態にしておきましょう 。1頭で複数のトイレを用意する、一日に何度か排泄物を取り除く、定期的に砂を全替えして容器も洗浄する、といった管理を徹底します。また多頭飼育の場合、トイレの数が少ないとストレスになります。頭数+1個以上のトイレを設置し、それぞれ十分なプライバシーを確保してあげましょう。

ストレスの少ない環境作り

ストレスは猫の特発性膀胱炎の大きな要因であり、全身の免疫力低下にも繋がります。できるだけ猫にストレスを与えない環境を整えてあげることが予防には重要です 。例えば以下のような点に注意しましょう。

  • 生活環境を急激に変えない: 引っ越しや模様替え、新しい家族(赤ちゃんや他のペット)の迎え入れなど、大きな変化は猫にとってストレスです。避けられない場合は事前にフェロモン製剤を使う、少しずつ慣らす期間を作るなど配慮します 。
  • 安心できる居場所を用意: 家の中に静かで落ち着ける隠れ家や、高い場所の寝床を用意してあげましょう 。怖がりな猫は人の来客時などによく隠れますが、そういった時に逃げ込める安心スポットがあるとストレス軽減になります。
  • 遊びや運動の時間を確保: 遊び不足はストレスや肥満の原因になります。飼い主さんが毎日適度に遊んであげて、猫のエネルギーを発散させましょう。レーザーポインターや猫じゃらしなどを使って室内でも運動させる工夫が大切です。また十分な運動は肥満予防にもなり、一石二鳥です  。
  • 多頭飼育の場合の対策: 相性の悪い猫同士を無理に同居させない、エサや水は頭数分+余分に用意して競争心を煽らない、トイレや寝床もそれぞれの猫が安心して使える数と配置にする、といった工夫をします。

食事管理と体重コントロール

下部尿路トラブルを予防するには、適切な食事管理と体重コントロールも欠かせません 。特に一度尿石症や膀胱炎を経験した猫では、獣医師から指示された療法食の継続が重要です 。療法食の給餌をやめて以前の食事に戻すと約半数で再発したとの報告もあるため、勝手にフードを切り替えないようにしましょう 。また栄養バランスの取れた食事は尿のpHやミネラルバランスを適切に保ち、結石形成を防ぎます。おやつの与えすぎにも注意し、尿路に負担をかけない質と量の食事を心がけてください。

加えて肥満にならないよう体重管理も大切です 。太り過ぎは猫の活動性を低下させ、飲水や排尿の意欲も減らしてしまいます 。適正体重を維持することで、猫がトイレに行くのを億劫に感じないようにし、全身の健康増進にも繋がります 。肥満気味の場合は食事の見直しと運動量アップでスリムな体型を目指しましょう。

以上のような生活ケアを続けることで、膀胱炎や尿石症の再発リスクを減らし、愛猫の泌尿器の健康を守ることができます 。日々の小さな工夫の積み重ねが、大きな病気の予防につながるのです。

まとめ:早期発見・早期受診で愛猫を守ろう

猫のおしっこに血が混じる症状(血尿)は、見逃せない重要なサインです 。軽微なものから重篤なものまで様々な原因がありますが、放置すれば命に関わる状態に進行する恐れもあります 。したがって、日頃から愛猫の排泄の様子や尿の状態をよく観察し、少しでも異変に気付いたら**「様子見」をせず迷わず早めに受診すること**が何より大切です 。

適切な治療を受ければ、膀胱炎や尿石症といった病気の多くは回復が見込めます 。愛猫の健康を守るため、飼い主さんの素早い対応と日頃の予防ケアを心がけましょう。そして治療中も獣医師の指示を守り、必要な生活管理を続けてください。血尿という異常が再発せず、猫が快適に過ごせるようサポートすることが飼い主さんの務めです。

猫の尿トラブルは飼い主さんにとって不安なものですが、正しい知識と適切な対策があれば怖がることはありません。おかしいなと感じたら早めに専門家に相談し、愛猫にベストなケアを提供してあげてください。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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