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犬のアジソン病

【獣医師解説】犬のアジソン病の診断方法|ACTH刺激試験・血液検査・電解質の見方

「うちの子、最近なんだか元気がない」「食欲が落ちたり戻ったりを繰り返している」。そんな愛犬の不調に気づいたとき、多くの飼い主さんはまず胃腸の問題や疲れを疑うのではないでしょうか。しかし、その症状の裏に「アジソン病(副腎皮質機能低下症)」という、見逃されやすい重大な病気が隠れていることがあります。

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アジソン病は、犬の副腎という小さな臓器が十分にホルモンを作れなくなる病気です。副腎は腎臓のすぐそばにある小さな臓器で、体のストレス反応や電解質のバランスを保つために欠かせないホルモンを分泌しています。この副腎の働きが低下すると、犬の体はさまざまな不調をきたします。

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厄介なのは、アジソン病の症状が非常にあいまいで、他の多くの病気と似ていることです。嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失といった症状は、胃腸炎や腎臓病、肝臓病など、さまざまな病気でも見られます。そのため、アジソン病は「偉大なる模倣者(グレート・ミミッカー)」とも呼ばれ、正しい診断にたどり着くまでに時間がかかることが少なくありません。

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この記事では、犬のアジソン病がどのように診断されるのかを、一般の飼い主さんにもわかりやすく丁寧に解説します。血液検査、電解質検査、尿検査、そして確定診断に使われるACTH刺激試験まで、検査の流れや費用、結果の見方を具体的にお伝えします。愛犬の不調が気になっている方、動物病院で「アジソン病かもしれない」と言われた方にとって、少しでも安心材料になれば幸いです。

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アジソン病の基礎知識:副腎の仕組みと役割

💡 ポイント

アジソン病の診断を理解するには副腎ホルモンの仕組みを知ることが重要です。副腎皮質はコルチゾール(グルココルチコイド)とアルドステロン(ミネラルコルチコイド)を産生し、これらが不足する状態がアジソン病です。ホルモンの役割を理解すると、なぜ多彩な症状が出るかが分かります。

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アジソン病の診断方法を理解するために、まず副腎の基本的な仕組みを押さえておきましょう。副腎は、左右の腎臓のすぐ上(頭側)に一つずつ、合計2つある小さな臓器です。サイズはとても小さく、小型犬では1cm程度、大型犬でも2〜3cm程度しかありません。しかし、この小さな臓器が体の恒常性(ホメオスタシス)を保つうえで非常に重要な働きをしています。

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副腎は大きく分けて「皮質(ひしつ)」と「髄質(ずいしつ)」の2つの部分から構成されています。アジソン病に関係するのは外側の「皮質」の部分です。副腎皮質はさらに3つの層に分かれており、それぞれ異なるホルモンを産生しています。

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  • 球状帯(きゅうじょうたい):最も外側の層で、アルドステロン(ミネラルコルチコイド)を分泌します。アルドステロンは腎臓でのナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を調節し、体内の電解質バランスと血圧の維持に重要な役割を果たしています。
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  • 束状帯(そくじょうたい):中間の層で、コルチゾール(グルココルチコイド)を分泌します。コルチゾールはストレスへの対応、血糖値の維持、免疫機能の調節、炎症反応の抑制など、多岐にわたる役割を担っています。
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  • 網状帯(もうじょうたい):最も内側の層で、性ホルモンの前駆物質を少量分泌しています。犬のアジソン病において、この層の機能低下が臨床的に問題になることはほとんどありません。
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コルチゾールの重要な役割

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コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれ、体がストレスに適切に対処するために欠かせないホルモンです。その作用は多岐にわたります。

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  • 肝臓での糖の産生を促進し、血糖値を維持する
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  • ストレス時に心拍数や血圧を適切に保つ
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  • 免疫機能を調節し、過剰な炎症反応を抑える
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  • たんぱく質や脂肪の代謝に関与する
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  • 赤血球の産生を促進する
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  • 消化管の機能を維持する
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コルチゾールが不足すると、これらの機能がすべて障害されるため、全身にさまざまな症状が現れます。特に、ストレスがかかった際にコルチゾールを適切に増やすことができないため、普段は元気でもストレスをきっかけに急激に体調が悪化するという特徴的なパターンが生じます。

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ホルモン分泌の調節メカニズム

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副腎からのコルチゾール分泌は、脳の視床下部と下垂体によってコントロールされています。この調節システムは「視床下部-下垂体-副腎軸」と呼ばれます。

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正常な状態では、視床下部が副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンを分泌し、これが下垂体に作用してACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌を促します。ACTHが血流に乗って副腎に到達すると、副腎はコルチゾールを分泌します。血中のコルチゾール濃度が十分に上昇すると、それが視床下部と下垂体にフィードバックされ、ホルモンの分泌が抑制されます。このフィードバック機構によって、コルチゾールの分泌量は常に適切な範囲に保たれています。

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アジソン病(原発性副腎皮質機能低下症)では、副腎そのものが破壊されているため、ACTHが届いてもコルチゾールを十分に産生できません。その結果、コルチゾール不足に対して脳がさらにACTHを分泌しようとしますが、副腎が応答できないという悪循環に陥ります。ACTH刺激試験は、まさにこの副腎の応答能力を直接確認する検査なのです。

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アジソン病の原因

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犬のアジソン病の原因は大きく分けて以下のようなものがあります。

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  • 免疫介在性(自己免疫性):最も多い原因で、全体の約85〜90%を占めます。犬自身の免疫系が誤って副腎の細胞を攻撃・破壊してしまう状態です。なぜ免疫系が副腎を攻撃するのか、その正確なメカニズムはまだ完全には解明されていません。
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  • 医原性(いげんせい):クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の治療に使用されるミトタンやトリロスタンといった薬剤が、副腎を過剰に抑制または破壊することで起こるアジソン病です。薬の用量管理が重要です。
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  • 感染症:真菌感染(ヒストプラズマ症、ブラストミセス症など)が副腎に及んで破壊する場合があります。日本では比較的稀です。
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  • 腫瘍の転移:他の臓器の腫瘍が副腎に転移して、副腎の組織を破壊する場合があります。
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  • 出血や梗塞:副腎への血流障害や出血により、副腎の機能が失われることがあります。
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原因にかかわらず、副腎皮質の機能が十分に低下すると、同様の臨床症状と検査異常が現れます。そのため、診断のアプローチは原因によらず共通しています。ここからは、アジソン病の診断がなぜ難しいのか、そしてどのような検査で診断にたどり着けるのかを順を追って見ていきましょう。

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アジソン病はなぜ診断が難しいのか

💡 ポイント

アジソン病は「グレートプリテンダー」と呼ばれるほど症状が多彩で、他の消化器疾患・腎疾患・感染症と区別がつきにくいです。症状が波状に現れる特徴もあり、「良くなったり悪くなったりを繰り返す若い雌犬」という病歴があればアジソン病を積極的に疑いましょう。

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アジソン病の診断が難しい最大の理由は、症状が非特異的であることです。つまり、「この症状があればアジソン病」と言い切れるような、特徴的なサインがほとんどありません。元気がない、食欲がない、吐く、下痢をするといった症状は、あまりにも多くの病気で共通して見られるため、最初からアジソン病を疑う獣医師は多くありません。

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さらに、アジソン病の症状は良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあります。ストレスがかかると悪化し、安静にしていると改善するというパターンを取ることが多いため、「一時的な体調不良だったのかな」と見過ごされがちです。動物病院を受診するころには症状が落ち着いていて、検査結果にも大きな異常が出ないということも珍しくありません。

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また、アジソン病には「定型」と「非定型」の2つのタイプがあります。定型のアジソン病では電解質の異常(ナトリウムの低下とカリウムの上昇)が見られるため、血液検査で手がかりがつかめることがあります。しかし非定型のアジソン病では電解質が正常なままであるため、通常の血液検査だけでは見抜くことが非常に困難です。

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このように、アジソン病は症状があいまいで、検査結果も決定的でないことが多く、診断には獣医師の経験と「もしかしたらアジソン病かもしれない」という疑いの目が重要になります。飼い主さんとしては、愛犬の症状のパターンや変化を細かく記録して伝えることが、早期診断への大きな助けとなります。

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よくある誤診のパターン

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アジソン病が見逃されやすい具体的なパターンをいくつかご紹介します。これらを知っておくことで、飼い主さんが「もしかしてアジソン病では?」と気づくきっかけになるかもしれません。

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  • 「胃腸が弱い子」として扱われる:繰り返す嘔吐や下痢に対して、制吐剤や整腸剤が処方され、一時的に改善するものの再発を繰り返すケースです。胃腸の薬で一時的に良くなるのは、ストレスが去ったタイミングと重なっていることが多いのです。
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  • 「腎臓が悪い」と診断される:BUNやクレアチニンの上昇、多飲多尿、尿比重の低下から慢性腎臓病と診断されるケースです。点滴治療で一時的に数値が改善するため、「初期の腎臓病」として経過観察されることがあります。
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  • 「ストレスに弱い子」として片付けられる:トリミングやペットホテルの後に毎回体調を崩すため、「繊細な子」「ストレスに弱い子」と考えられてしまうケースです。実際にはコルチゾール不足のためストレスに対応できていないのです。
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  • 「原因不明の虚脱」として記録される:アジソンクリーゼで緊急搬送されたものの、点滴と対症療法で回復したため、「原因不明の虚脱」として処理されるケースです。特に、緊急時にステロイドを投与して劇的に改善した場合、ステロイドの治療効果がアジソン病のサインであることに気づかれないことがあります。
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こうした誤診を防ぐためには、飼い主さんが症状の経過を詳しく記録し、「繰り返すパターン」や「ストレスとの関連」を獣医師に伝えることが非常に重要です。また、「アジソン病の可能性はないでしょうか」と質問することも、決して失礼ではありません。むしろ、飼い主さんの情報が診断のきっかけになることは珍しくないのです。

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アジソン病の初期症状と受診のタイミング

⚠️ 注意

「原因不明の繰り返す嘔吐・下痢・元気低下」が続いている場合は、アジソン病の可能性を考えて検査を受けることを強くお勧めします。特に他の消化器検査で異常が見つからないのに症状が続く場合は早めに血液検査・電解質検査を実施してください。初期に診断できれば重篤なクリーゼを防げます。

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アジソン病の初期症状は、日常的な体調不良と区別がつきにくいものが多いです。しかし、いくつかの特徴的なパターンを知っておくことで、早期に気づけるチャンスが高まります。以下に、アジソン病でよく見られる初期症状をまとめます。

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よく見られる初期症状

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  • 元気消失・活動量の低下:散歩に行きたがらない、遊ばなくなった、すぐに疲れるなど、以前と比べて明らかに活動量が減ります。
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  • 食欲不振:ごはんへの興味が薄れる、食べたり食べなかったりを繰り返す、好きだったおやつにも反応しなくなるなどの変化が見られます。
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  • 嘔吐・下痢:間欠的に(時々)嘔吐や下痢を起こします。一度治まっても、しばらくするとまた起こるという繰り返しが特徴的です。
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  • 水をたくさん飲む・おしっこが増える:多飲多尿(たくさん水を飲んで、たくさん尿を出す)の症状が見られることがあります。これは体内の電解質バランスが崩れることに関連しています。
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  • 体重減少:食欲不振や消化器症状が続くことで、徐々に体重が減っていきます。
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  • 震え・筋力低下:体がプルプルと震えたり、後ろ足がふらついたりすることがあります。特にストレスがかかった後に顕著になることがあります。
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  • 脱水:嘔吐や下痢が続くと脱水を起こしやすくなります。皮膚をつまんで戻りが遅い場合は脱水のサインです。
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受診を急ぐべきサイン

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アジソン病が急激に悪化すると、「アジソンクリーゼ(副腎クリーゼ)」と呼ばれる命に関わる緊急状態に陥ることがあります。以下のような症状が見られた場合は、すぐに動物病院を受診してください。

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  • ぐったりして動けない、立ち上がれない
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  • 激しい嘔吐や下痢が止まらない
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  • 体が冷たく、脈が弱い
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  • 意識がもうろうとしている
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  • ショック症状(歯茎が白い、呼吸が浅く速い)
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アジソンクリーゼは、適切な治療が行われなければ命を落とす危険がある緊急事態です。特に、引っ越しやトリミング、ペットホテルへの預け入れなど、犬にとってストレスがかかるイベントの後に急激に具合が悪くなった場合は、アジソン病の可能性を念頭に置いて、すぐに獣医師に相談しましょう。

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受診のタイミングの目安

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「ちょっと元気がないだけかな」と思っても、以下のような場合は早めに動物病院を受診することをおすすめします。

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  • 食欲不振や嘔吐・下痢が2〜3日以上続く
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  • 同じ症状が月に何度も繰り返される
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  • ストレスの後に毎回体調を崩す
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  • 体重が徐々に減っている
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  • 以前に比べて明らかに元気がなくなった状態が1週間以上続く
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受診の際は、症状がいつ頃から始まったのか、どのくらいの頻度で起こるのか、ストレスとの関連があるかなどを、できるだけ詳しく獣医師に伝えてください。メモや動画を準備しておくと、より正確な情報を伝えられます。

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一般血液検査でわかること

💡 ポイント

アジソン病の血液検査では「低ナトリウム血症・高カリウム血症(Na/K比<27が目安)・軽度の低血糖・高BUN・貧血」が見られることが多いです。これらは確定的ではありませんが、スクリーニングとして非常に有用です。Na/K比が20以下の場合はクリーゼのリスクが高まります。

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アジソン病が疑われる犬に対して、まず行われるのが一般血液検査です。これには血液中の細胞を調べる「血球計算(CBC)」と、臓器の働きや代謝の状態を調べる「生化学検査」が含まれます。アジソン病に特有の決定的な所見はありませんが、いくつかの項目で特徴的なパターンが見られることがあります。

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ナトリウムとカリウムの比(Na/K比)

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アジソン病の診断において、最も重要な血液検査の指標の一つが、ナトリウム(Na)とカリウム(K)の比率です。正常な犬では、ナトリウムとカリウムの比率(Na/K比)は通常27〜40の範囲にあります。

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定型のアジソン病では、副腎から分泌されるアルドステロンというホルモンが不足するため、体内のナトリウムが減少し、カリウムが上昇します。その結果、Na/K比が低下します。Na/K比が27未満、特に24未満になると、アジソン病の可能性が強く疑われます。

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ただし、Na/K比の低下はアジソン病だけに見られるわけではありません。腎不全、消化管の病気、体液の貯留など、他の原因でも起こりうるため、この数値だけでアジソン病と断定することはできません。あくまで「疑いを持つきっかけ」として重要な指標です。

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低血糖

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アジソン病の犬では、血糖値が正常よりも低くなること(低血糖)がしばしば見られます。これは、副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールが不足することで、肝臓での糖の産生が十分に行われなくなるためです。

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低血糖は元気消失やふらつき、震え、けいれんなどの症状を引き起こすことがあります。特に食欲不振が続いている犬では、血糖値の低下がより顕著になることがあります。血液検査で低血糖が見られた場合、獣医師はアジソン病を含むさまざまな原因を考慮して、追加の検査を検討します。

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軽度の貧血

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アジソン病の犬では、赤血球の数が正常よりもやや少ない「軽度の貧血」が見られることがあります。これは「非再生性貧血」と呼ばれるタイプで、骨髄からの赤血球の産生が十分でない状態を示しています。

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コルチゾールには赤血球の産生を促進する作用があるため、コルチゾールが不足すると赤血球の産生が低下します。ただし、アジソン病による貧血は通常軽度であり、重度の貧血がある場合は他の原因を考える必要があります。

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また、アジソン病では脱水を伴っていることが多いため、実際には貧血があっても、脱水による血液の濃縮によって赤血球の数値が正常に見えてしまうことがあります。点滴治療で脱水が改善された後に、初めて貧血が明らかになるケースもあります。

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好酸球増加とリンパ球増加

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通常、ストレスを受けた犬や体調不良の犬では、コルチゾールの作用により、血液中の好酸球(こうさんきゅう)やリンパ球が減少する傾向があります。これは「ストレス白血球像」と呼ばれるパターンです。

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しかし、アジソン病の犬ではコルチゾールが不足しているため、体調が悪いにもかかわらず、好酸球やリンパ球の数が正常または増加していることがあります。具合が悪い犬の血液検査でストレス白血球像が見られない場合、これはアジソン病を疑う一つの手がかりとなります。

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BUN(尿素窒素)とクレアチニンの上昇

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アジソン病の犬では、BUN(血中尿素窒素)やクレアチニンといった腎機能の指標が上昇することがあります。これは、脱水や循環血液量の減少によって腎臓への血流が低下する「腎前性高窒素血症」と呼ばれる状態です。

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このため、アジソン病が腎不全と誤診されることがあります。しかし、アジソン病による腎機能の数値上昇は、点滴治療で脱水を改善すると速やかに正常化するのが特徴です。一方、本当の腎不全では、点滴後も数値がなかなか下がりません。この違いは、鑑別診断において重要なポイントとなります。

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肝酵素の変動

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ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)やALP(アルカリフォスファターゼ)といった肝臓の酵素が、軽度から中等度に上昇することがあります。これは、循環不全による肝臓への血流低下や、全身状態の悪化に伴う二次的な変化と考えられています。

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肝酵素の上昇は多くの病気で見られるため、これだけでアジソン病を疑うことは困難です。しかし、他の所見と組み合わせることで、全体的な臨床像を把握するのに役立ちます。

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低アルブミン血症

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血液中のアルブミン(たんぱく質の一種)が低下することもあります。これは、食欲不振による栄養不足、消化管からのたんぱく質喪失、あるいは全身の代謝低下などが原因と考えられます。低アルブミン血症はアジソン病に特異的な所見ではありませんが、他の検査結果と合わせて評価する際に参考になります。

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高カルシウム血症

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アジソン病の犬の一部では、血液中のカルシウム値が上昇する「高カルシウム血症」が見られることがあります。この機序は完全には解明されていませんが、コルチゾール不足による腎臓でのカルシウム排泄低下や、腸管でのカルシウム吸収増加が関与していると考えられています。

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高カルシウム血症はリンパ腫などの腫瘍性疾患でも見られるため、鑑別が必要です。アジソン病による高カルシウム血症は、適切な治療を開始すると改善することが多いです。

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血液検査結果を見るときのポイント

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動物病院で血液検査の結果を受け取ったとき、数値の羅列に戸惑う飼い主さんも多いでしょう。ここでは、アジソン病の観点から特に注目すべきポイントをまとめます。

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  • 複数の「軽度異常」が重なっていないか:アジソン病では、一つひとつの検査項目は「軽度に異常」という程度であることが多いです。しかし、Na/K比の低下、低血糖、軽度の貧血、好酸球増加、BUN軽度上昇など、複数の軽度異常が同時に見られる場合は、アジソン病を強く疑うべきです。
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  • 「ストレス白血球像がない」ことに注目:通常、体調の悪い犬では好中球が増加し、リンパ球と好酸球が減少する「ストレス白血球像」が見られます。体調が悪いにもかかわらず、このパターンが見られない場合は、コルチゾール不足を示唆するサインとして重要です。
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  • 経時的な変化を追う:1回の検査結果だけでなく、過去の検査結果と比較することが大切です。以前は正常だった電解質のバランスが徐々に崩れてきている場合は、副腎機能の低下が進行している可能性があります。
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  • 点滴治療後の数値変化に注目:脱水で腎数値が上昇している犬に点滴治療を行った後、BUNやクレアチニンが急速に正常化する場合は、本当の腎不全よりもアジソン病による腎前性高窒素血症の可能性が高いです。
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血液検査の結果について不明な点がある場合は、遠慮なく獣医師に質問してください。検査結果のコピーをもらっておくと、セカンドオピニオンを求める際にも役立ちます。

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電解質異常の意味を詳しく知ろう

💡 ポイント

アジソン病でアルドステロンが不足すると、腎臓でナトリウムが排泄されカリウムが体内に貯留します。その結果、低ナトリウム・高カリウムが起こります。高カリウム血症は心筋の電気的活動を乱し、致死的な不整脈を引き起こすリスクがあります。これがクリーゼの心停止の主な原因の一つです。

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アジソン病の理解を深めるうえで、電解質の異常がなぜ起こるのか、そしてそれが体にどのような影響を与えるのかを知ることは重要です。ここでは、ナトリウムの低下とカリウムの上昇について、もう少し詳しく解説します。

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アルドステロンの役割

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副腎の外側の部分(皮質)から分泌されるアルドステロンは、腎臓でのナトリウムとカリウムの調節に重要な役割を果たしています。正常な状態では、アルドステロンは腎臓に対して「ナトリウムを体内に留めて(再吸収して)、カリウムを尿に排泄する」という指令を出しています。

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アジソン病でアルドステロンの分泌が低下すると、この調節がうまく働かなくなります。その結果、ナトリウムは尿と一緒にどんどん体の外に出てしまい、逆にカリウムは体内に溜まっていきます。これが、ナトリウム低下とカリウム上昇のメカニズムです。

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ナトリウム低下(低ナトリウム血症)の影響

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ナトリウムは体内の水分バランスを保つために欠かせない電解質です。ナトリウムが低下すると、体は水分を保持できなくなり、脱水が進行します。ナトリウムと一緒に水分も失われるため、循環血液量が減少し、血圧が低下します。

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低ナトリウム血症の症状としては、元気消失、食欲不振、嘔吐、筋力低下、場合によってはけいれんなどが見られます。重度の低ナトリウム血症は脳にも影響を及ぼし、意識障害を引き起こすことがあります。

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カリウム上昇(高カリウム血症)の影響

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カリウムは心臓の正常なリズムを保つために重要な電解質です。カリウムが上昇すると、心臓の電気的な伝導に異常をきたし、不整脈を引き起こす可能性があります。重度の高カリウム血症は、心停止に至ることもある非常に危険な状態です。

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高カリウム血症の症状としては、筋力低下、ふらつき、心拍数の低下(徐脈)などが見られます。心電図検査では、特徴的な波形の変化(T波の尖鋭化、P波の消失、QRS波の拡大など)が観察されることがあります。

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Na/K比の臨床的意義

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前述のとおり、ナトリウムとカリウムの比率(Na/K比)は、アジソン病のスクリーニング(ふるい分け)に非常に有用です。一般的な基準として、以下のように解釈されます。

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  • Na/K比 27以上:正常範囲。ただし、非定型アジソン病では正常なこともあるため、他の症状がある場合は注意が必要です。
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  • Na/K比 24〜27:ボーダーライン。アジソン病の可能性を含め、追加検査を検討する範囲です。
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  • Na/K比 24未満:アジソン病の可能性が高い。ACTH刺激試験による確定診断が強く推奨されます。
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  • Na/K比 20未満:アジソン病の可能性が非常に高い。緊急治療が必要な場合もあります。
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ただし、Na/K比の低下はアジソン病以外の原因でも起こりうることを覚えておいてください。腎不全、消化管からの体液喪失(重度の下痢など)、膀胱破裂、体腔液の貯留(胸水や腹水)なども、Na/K比を低下させる原因となりえます。そのため、Na/K比の異常が見つかった場合は、必ず追加の検査を行って原因を特定する必要があります。

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電解質の補正にはどのくらいかかるか

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アジソンクリーゼで緊急搬送された場合、まず行われるのが点滴による電解質の補正です。通常、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム液)の静脈内投与が行われます。これにより、ナトリウムの補充と循環血液量の回復が図られます。

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ナトリウムの補正は急激に行いすぎると脳に悪影響を及ぼす可能性があるため、慎重にモニタリングしながら行われます。カリウムの低下は、点滴による希釈効果と、治療薬(ステロイドホルモン)の投与によって徐々に改善していきます。多くの場合、適切な治療を開始すれば24〜48時間以内に電解質のバランスは改善傾向を示します。

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尿検査でわかること

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アジソン病の診断において、尿検査は血液検査を補完する重要な情報を提供します。特に注目すべきなのが「尿比重」の値です。

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尿比重とは

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尿比重(にょうひじゅう)とは、尿の濃さを示す数値です。正常な犬の尿比重は1.030以上が目安とされています。腎臓が正常に機能していれば、体が脱水状態にあるとき、腎臓は水分を再吸収して濃い尿を作ります。つまり、脱水しているのに尿比重が高くならない場合は、腎臓の濃縮能に問題がある可能性を示唆します。

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アジソン病における尿比重低下

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アジソン病の犬では、脱水しているにもかかわらず、尿比重が低い(尿が薄い)ことがしばしば見られます。これは以下の理由によるものです。

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  • ナトリウム喪失による影響:アルドステロン不足によりナトリウムが大量に尿から排泄されると、それに伴って水分も一緒に排泄されます。その結果、尿が薄くなります。
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  • 腎臓の髄質浸透圧勾配の低下:腎臓が尿を濃縮するためには、腎髄質に適切な浸透圧勾配(濃度の差)が必要です。ナトリウムの喪失によりこの勾配が減弱し、尿の濃縮能力が低下します。
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  • 循環血液量の低下:脱水と低血圧により腎血流が低下すると、腎臓の濃縮能がさらに障害されます。
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腎不全との鑑別における尿検査の重要性

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アジソン病は血液検査でBUN(尿素窒素)やクレアチニンが上昇するため、腎不全と混同されることがあります。ここで尿検査が鑑別に役立ちます。

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アジソン病では、尿比重が1.015〜1.030程度の「中程度の低下」を示すことが多いですが、腎機能そのものは保たれているため、治療により腎血流が改善すれば尿の濃縮能も回復します。一方、本当の腎不全では、尿比重が1.012以下と著しく低下し、治療後も改善しにくいという特徴があります。

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また、尿中のたんぱく質の有無も参考になります。アジソン病では通常、尿たんぱくは陰性または微量ですが、腎不全では尿たんぱくが陽性になることが多いです。これらの尿検査の結果を総合的に判断することで、アジソン病と腎不全の鑑別がより正確に行えます。

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尿検査の注意点

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尿検査を正確に評価するためには、尿の採取方法やタイミングも重要です。できれば朝一番の尿(早朝尿)が最も濃縮されているため、評価に適しています。また、自然排尿で採取した尿よりも、膀胱穿刺(ちょうぼうこうせんし:注射器で直接膀胱から尿を採る方法)やカテーテル採尿のほうが、より正確な評価が可能です。

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飼い主さんが自宅で尿を採取して持参する場合は、清潔な容器に採取し、できるだけ早く(2時間以内が理想)動物病院に届けるようにしましょう。時間が経つと尿の成分が変化し、正確な評価ができなくなることがあります。

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ACTH刺激試験の仕組みと手順

💡 ポイント

ACTH刺激試験はアジソン病の確定診断に最も信頼性の高い検査です。合成ACTHを投与して副腎がコルチゾールを産生できるか調べます。手順は「投与前のコルチゾール採血→ACTH投与→1時間後の採血」です。所要時間は約1〜2時間で、外来で実施可能です。

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アジソン病の確定診断に最も広く用いられているのが、ACTH刺激試験です。この検査は、副腎がホルモンを正常に分泌できるかどうかを直接調べるもので、アジソン病の診断において「ゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)」とされています。

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ACTH刺激試験とは

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ACTHとは、脳の下垂体から分泌される「副腎皮質刺激ホルモン」のことです。正常な状態では、ACTHが副腎に作用すると、副腎はコルチゾール(ストレスに対応するホルモン)を分泌します。

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ACTH刺激試験では、人工的に合成したACTH(合成ACTH)を犬に注射して、副腎が正常にコルチゾールを分泌するかどうかを調べます。健康な犬ではACTHの注射後にコルチゾール値が上昇しますが、アジソン病の犬では副腎が萎縮(いしゅく)しているため、ACTHを投与してもコルチゾールがほとんど上昇しません。

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検査の手順

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ACTH刺激試験は以下の手順で行われます。検査自体は比較的シンプルで、入院の必要はなく、通常は半日程度で完了します。

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  • ステップ1:投与前の採血:まず、ACTH投与前の血液を採取し、基礎コルチゾール値(安静時のコルチゾール値)を測定します。この値は「プレ値」と呼ばれます。
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  • ステップ2:合成ACTHの投与:コシントロピンまたはテトラコサクチドと呼ばれる合成ACTHを、静脈注射または筋肉注射で投与します。投与量は犬の体重によって調整されます。一般的には体重にかかわらず5μg/kgの用量で投与されることが多いです。
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  • ステップ3:投与後の採血:合成ACTHの投与から1時間後(製品によっては30分後)に再度血液を採取し、コルチゾール値を測定します。この値は「ポスト値」と呼ばれます。
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  • ステップ4:結果の評価:投与前と投与後のコルチゾール値を比較し、副腎の反応性を評価します。
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検査当日の流れ(飼い主さん向け)

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ACTH刺激試験を受ける当日の具体的な流れを知っておくと、飼い主さんの不安も軽減されるでしょう。ここでは、一般的な検査当日のスケジュールをご紹介します。

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まず、朝の時間帯に動物病院に来院します。獣医師から検査の目的と手順について改めて説明があり、同意書への署名を求められることがあります。最初の採血(プレ値の測定用)が行われた後、合成ACTHの注射が投与されます。その後、約1時間の待機時間があります。

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この待機時間中、犬は病院内のケージやキャリーで過ごすことが多いです。飼い主さんが一緒に待てる場合もあれば、一度帰宅して結果待ちとなる場合もあります。これは病院の方針や混雑状況によって異なりますので、事前に確認しておくと良いでしょう。

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1時間後に2回目の採血(ポスト値の測定用)が行われ、検査は終了です。犬は通常、検査後すぐに帰宅できます。結果は院内測定が可能な場合はその日のうちに、外部検査機関に送る場合は数日後に電話やメールで通知されるのが一般的です。

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検査当日は犬にとってストレスの少ない環境を心がけてください。お気に入りのブランケットやおもちゃを持参すると、待機時間中の犬の不安を和らげることができます。また、検査後は激しい運動を避け、安静に過ごさせましょう。

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検査前の注意点

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ACTH刺激試験を正確に行うためには、いくつかの注意点があります。

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  • ステロイド薬の影響:プレドニゾロンなどのステロイド薬を使用中の犬では、コルチゾールの測定値に影響が出る可能性があります。検査前にステロイド薬を中止する必要がある場合がありますが、これは獣医師の判断に従ってください。なお、デキサメタゾンはコルチゾールの測定系に交差反応しないため、デキサメタゾンを使用中でも検査は可能です。
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  • 食事制限:通常、ACTH刺激試験の前に食事制限は必要ありません。ただし、獣医師から指示がある場合はそれに従ってください。
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  • ストレスの軽減:できるだけ犬のストレスを少なくした状態で検査を受けることが望ましいです。極度の興奮やストレスはコルチゾール値に影響を与える可能性があります。
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ACTH刺激試験の費用

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ACTH刺激試験の費用は動物病院によって異なりますが、一般的な目安は以下のとおりです。

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  • 合成ACTHの薬剤費:合成ACTHは比較的高価な薬剤であり、これが検査費用の大きな部分を占めます。
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  • コルチゾール測定費:投与前と投与後の2回分の測定が必要です。院内でコルチゾールを測定できる病院と、外部の検査機関に送る病院があります。外部送付の場合は結果が出るまでに1〜3日程度かかることがあります。
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  • 総費用の目安:診察料、採血料、薬剤費、検査費を合わせて、おおよそ10,000円〜30,000円程度が一般的です。動物病院によって料金体系が異なるため、事前に確認されることをおすすめします。
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費用は決して安くはありませんが、アジソン病の確定診断に不可欠な検査であり、正確な診断が適切な治療につながることを考えると、非常に重要な検査です。費用面で心配がある場合は、事前に動物病院に相談してみてください。

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ACTH刺激試験の結果の見方

💡 ポイント

刺激後コルチゾール値が2μg/dL以下(または施設基準値以下)の場合、アジソン病と診断されます。刺激前・後ともに低値であることが典型的です。非定型アジソン病では電解質は正常でも、刺激後コルチゾールが低値を示します。結果の解釈は担当獣医師と十分に確認してください。

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ACTH刺激試験の結果は、投与前(プレ値)と投与後(ポスト値)のコルチゾール値を比較して評価します。ここでは、一般的な判定基準と、結果の解釈について詳しく解説します。

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正常な反応

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健康な犬では、ACTHの投与後にコルチゾール値が明確に上昇します。一般的な基準値は検査機関によって多少異なりますが、おおよそ以下のとおりです。

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  • 投与前のコルチゾール値(プレ値):1.0〜5.0 μg/dL(マイクログラム・パー・デシリットル)程度
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  • 投与後のコルチゾール値(ポスト値):6.0〜18.0 μg/dL程度
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つまり、正常な副腎はACTHの刺激を受けると、コルチゾールの分泌を大幅に増加させます。プレ値とポスト値の間に明確な差があることが、副腎が正常に機能していることの証拠です。

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アジソン病を示す結果

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アジソン病の犬では、以下のような結果パターンが見られます。

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  • 投与前のコルチゾール値が非常に低い:多くの場合、1.0 μg/dL未満であり、しばしば測定限界以下(検出不能)となります。
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  • 投与後のコルチゾール値も低いまま:ACTHを投与しても、コルチゾール値がほとんど上昇しません。ポスト値が2.0 μg/dL未満の場合、アジソン病と診断されます。
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  • プレ値とポスト値に差がない:副腎がACTHの刺激に反応できないため、投与前後でコルチゾール値にほとんど変化が見られません。
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典型的なアジソン病の結果では、プレ値もポスト値も1.0 μg/dL未満(しばしば0.5 μg/dL以下)という、非常に低い値を示します。これは副腎が高度に萎縮しており、ホルモン産生能力がほぼ失われていることを意味します。

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グレーゾーンの結果

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ときに、結果が明確にアジソン病とも正常とも判断できない「グレーゾーン」に該当する場合があります。例えば、ポスト値が2.0〜5.0 μg/dLの範囲にある場合です。

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このような場合、獣医師は以下のような対応を取ることがあります。

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  • 再検査:2〜4週間後にACTH刺激試験を再度行い、結果の推移を確認します。
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  • 臨床症状との総合判断:検査結果だけでなく、犬の症状、他の血液検査結果、電解質のパターンなどを総合的に判断して、診断を下します。
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  • 試験的治療:アジソン病の治療薬を試しに投与してみて、症状が改善するかどうかで診断的治療を行うこともあります。
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結果に影響を与える可能性のある因子

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ACTH刺激試験の結果は、いくつかの因子によって影響を受ける可能性があります。

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  • ステロイド薬の使用:プレドニゾロンやヒドロコルチゾンを投与中の場合、コルチゾールの測定値が見かけ上高くなることがあり、アジソン病の診断が覆い隠される可能性があります。
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  • 合成ACTHの保存状態:合成ACTHは温度に敏感な薬剤であり、不適切な保存条件下では効力が低下することがあります。効力の低下した合成ACTHを使用すると、健康な犬でもコルチゾールの上昇が不十分に見えてしまう可能性があります。
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  • 検査のタイミング:アジソンクリーゼの急性期に検査を行う場合と、安定期に行う場合で、結果が若干異なることがあります。
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  • 極度のストレス:稀ではありますが、極度のストレスにより副腎が一時的に疲弊し、本来は正常な副腎でもACTHへの反応が低下することがあるとされています。
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結果を受け取ったら

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ACTH刺激試験の結果は、必ず獣医師から詳しい説明を受けてください。数値の解釈は犬の臨床状態や他の検査結果と合わせて行う必要があるため、自己判断は避けましょう。結果がアジソン病を示していた場合は、速やかに治療計画について相談することが大切です。

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もし結果が正常だった場合でも、症状が続いている場合は他の病気の可能性を含めてさらなる検査が必要になることがあります。獣医師と十分に相談して、次のステップを決めていきましょう。

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非定型アジソン病(電解質正常型)の診断

⚠️ 注意

電解質が正常なアジソン病(非定型)はより診断が困難です。電解質異常がないからといってアジソン病を除外できません。「繰り返す消化器症状+原因不明の虚脱」があれば電解質正常でもACTH刺激試験を実施することを推奨します。非定型は確定診断が遅れやすく、ストレス下でクリーゼに移行することがあります。

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アジソン病の中でも特に診断が難しいのが「非定型アジソン病」です。一般的なアジソン病ではナトリウムの低下とカリウムの上昇という特徴的な電解質異常が見られますが、非定型アジソン病ではこれらの電解質が正常範囲内にとどまります。そのため、通常の血液検査だけでは手がかりが得られず、診断が遅れやすいタイプです。

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非定型アジソン病とは

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非定型アジソン病は、副腎皮質の中でもコルチゾールを産生する部分(束状帯・網状帯)の機能が低下しているものの、アルドステロンを産生する部分(球状帯)の機能がある程度保たれている状態を指します。アルドステロンの分泌が維持されているため、ナトリウムやカリウムの調節機能が比較的保たれ、電解質に明らかな異常が出ません。

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アジソン病と診断される犬の約25〜30%が非定型とされており、決して稀なタイプではありません。非定型アジソン病の犬は、定型と同様に元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少などの症状を示しますが、電解質異常がないため、診断の手がかりが少ないのが特徴です。

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非定型アジソン病を疑うべき状況

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以下のような状況では、電解質が正常であっても非定型アジソン病の可能性を考慮する必要があります。

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  • 繰り返す嘔吐・下痢・食欲不振で、原因が特定できない
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  • ストレスの後に体調を崩すパターンがある
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  • 血液検査で低血糖が見られる
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  • 体調不良にもかかわらず、ストレス白血球像(好中球増加・リンパ球減少・好酸球減少)が見られない
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  • BUNやクレアチニンの上昇があるが、点滴で速やかに改善する
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  • 基礎コルチゾール値が非常に低い(2.0 μg/dL未満)
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  • 若い〜中齢のメス犬である(アジソン病はメスに多い傾向があります)
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基礎コルチゾール値のスクリーニング

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非定型アジソン病の診断において、「基礎コルチゾール値」の測定がスクリーニング検査として有用です。基礎コルチゾール値とは、ACTHを投与する前の安静時のコルチゾール値のことです。

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基礎コルチゾール値が2.0 μg/dL以上であれば、アジソン病の可能性は非常に低いと考えられます(陰性予測値が高い)。逆に、基礎コルチゾール値が2.0 μg/dL未満の場合は、アジソン病の可能性を否定できないため、ACTH刺激試験による確定診断が推奨されます。

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この基礎コルチゾール値のスクリーニングは、ACTH刺激試験よりも安価で手軽に行えるため、「アジソン病かもしれないけれど確信が持てない」というケースにおいて、追加検査を行うかどうかの判断材料として非常に有効です。

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非定型から定型への移行

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非定型アジソン病として診断された犬が、時間の経過とともに定型アジソン病に移行することがあります。これは、副腎の破壊が進行し、最初は保たれていたアルドステロンの産生能力も徐々に失われていくためです。

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そのため、非定型アジソン病と診断された犬では、定期的に電解質のモニタリングを行い、ナトリウムとカリウムの変化に注意を払う必要があります。一般的には、最初の6ヶ月間は月1回、その後は3〜6ヶ月ごとに電解質検査を行うことが推奨されます。

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もし経過中に電解質異常が出現した場合は、治療内容の見直し(ミネラルコルチコイドの追加)が必要になります。獣医師と相談しながら、定期的な検査を継続することが大切です。

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非定型アジソン病の治療上の特徴

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非定型アジソン病では、電解質の異常がないため、ミネラルコルチコイド(フルドロコルチゾンやデソキシコルチコステロンピバレートなど)の投与が必ずしも初めから必要ではありません。多くの場合、グルココルチコイド(プレドニゾロンなど)の補充のみで症状が改善します。

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ただし、前述のとおり将来的に定型に移行する可能性があるため、電解質の継続的なモニタリングは欠かせません。治療方針については、獣医師と十分に相談して決めていきましょう。

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画像検査でわかること

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アジソン病の診断においては、血液検査やACTH刺激試験が中心的な役割を果たしますが、レントゲン検査や超音波検査(エコー検査)などの画像検査も、補助的な情報を提供してくれます。

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レントゲン検査

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アジソン病の犬のレントゲン検査では、以下のような所見が見られることがあります。

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  • 心臓の縮小(小心症):循環血液量の減少と低血圧により、心臓が通常よりも小さく見えることがあります。これは「マイクロカーディア」と呼ばれ、アジソン病を疑う手がかりの一つとなります。ただし、痩せた犬や脱水の犬でも心臓が小さく見えることがあるため、これだけでアジソン病と診断することはできません。
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  • 後大静脈や肺血管の狭小化:循環血液量の減少に伴い、大きな血管の径が細くなって見えることがあります。
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  • 食道の拡張:稀にではありますが、アジソン病の犬で食道が拡張する「巨大食道症」が報告されています。これは筋力低下や自律神経の機能異常に関連していると考えられています。
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レントゲン検査はアジソン病の確定診断には使えませんが、他の病気の除外や、全身状態の評価に役立ちます。例えば、誤嚥性肺炎の有無、消化管の異常、胸水や腹水の有無などを確認できます。

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超音波検査(エコー検査)

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超音波検査は、アジソン病の診断において非常に有用な画像検査です。特に注目されるのが、副腎のサイズです。

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  • 副腎の萎縮:アジソン病の犬では、副腎が正常よりも小さくなっている(萎縮している)ことが多いです。正常な犬の副腎の幅は犬種や体格によって異なりますが、一般的に左副腎の尾側極の幅が5〜7mm程度です。アジソン病の犬ではこれが3〜4mm以下に縮小していることがあります。
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  • 両側性の萎縮:自己免疫性のアジソン病(最も一般的なタイプ)では、左右両方の副腎がともに萎縮します。片側のみの萎縮は、腫瘍や他の原因を考慮する必要があります。
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  • 副腎の形態変化:萎縮した副腎は、正常な豆のような形状が失われ、薄く平たくなっていることがあります。
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ただし、副腎のサイズの測定には経験と技術が必要であり、すべての動物病院で正確に評価できるわけではありません。また、副腎は体の奥深くにあり、犬の体格やガスの貯留などによって描出が難しいこともあります。

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心臓超音波検査

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アジソン病の犬では、心臓の超音波検査で以下のような所見が見られることがあります。

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  • 循環血液量の減少を反映した所見:心臓の各部屋(心房・心室)のサイズが小さく見えたり、大動脈の径が細くなったりすることがあります。
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  • 心嚢液貯留:ごく稀にですが、心臓を包む膜(心嚢膜)の中に液体が溜まる「心嚢液貯留」が見られることがあります。
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CT検査・MRI検査の役割

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一般的なアジソン病の診断では、CT検査やMRI検査が必要になることは多くありません。しかし、特殊なケースでは、これらの高度画像検査が有用となる場合があります。

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例えば、二次性アジソン病(下垂体の異常が原因で副腎機能が低下するタイプ)が疑われる場合、脳のMRI検査で下垂体の腫瘍や構造異常を確認することがあります。また、副腎腫瘍が原因の場合には、CT検査で腫瘍の範囲や転移の有無を詳しく評価することがあります。

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ただし、これらの検査は全身麻酔が必要なこと、費用が高額であること(一般的に50,000円〜150,000円程度)、実施できる施設が限られていることなどから、すべてのケースで行われるわけではありません。通常のアジソン病の診断においては、血液検査、電解質検査、ACTH刺激試験、そして通常の超音波検査で十分に診断が可能です。

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画像検査の限界

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画像検査はあくまでも補助的な診断ツールであり、アジソン病の確定診断にはACTH刺激試験が必要です。画像検査で副腎が正常なサイズに見えても、アジソン病を否定することはできません(特に非定型や初期の場合)。逆に、副腎が小さく見えても、他の原因で萎縮している可能性もあります。

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画像検査の真の価値は、アジソン病以外の病気を除外するのに役立つことと、副腎の状態を視覚的に確認できることにあります。特に、副腎腫瘍やその他の腫瘍性疾患との鑑別において重要な情報を提供します。

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他の病気との鑑別

⚠️ 注意

アジソン病と症状が似ている主な疾患に腎不全・慢性腸炎・肝疾患・低血糖・敗血症があります。特に腎不全との鑑別は重要で、どちらも嘔吐・元気低下・脱水が見られます。アジソン病では治療への急速な反応(輸液とステロイドで劇的改善)が鑑別の重要なヒントになることがあります。

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アジソン病は「偉大なる模倣者」と呼ばれるように、さまざまな病気の症状に似ています。正確な診断のためには、他の病気との鑑別(区別)が重要です。ここでは、アジソン病と混同されやすい代表的な病気について解説します。

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慢性胃腸炎・炎症性腸疾患

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アジソン病で最も多い症状である嘔吐、下痢、食欲不振は、慢性胃腸炎や炎症性腸疾患(IBD)でも見られます。特に、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す場合、慢性胃腸炎と診断されてしまうことがあります。

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鑑別のポイントとしては、以下の点が挙げられます。

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  • 慢性胃腸炎では通常、電解質異常や低血糖は見られません。
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  • 慢性胃腸炎の治療(食事療法、消化器系の薬)で改善が見られない場合は、アジソン病を疑う必要があります。
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  • ストレスとの明確な関連がある場合は、アジソン病の可能性を考慮すべきです。
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慢性腎不全(慢性腎臓病)

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アジソン病ではBUNやクレアチニンの上昇、多飲多尿、脱水など、腎不全に似た症状や検査異常が見られるため、腎不全と誤診されることがあります。

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鑑別のポイントは以下のとおりです。

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    n

  • アジソン病による腎数値の上昇は、点滴による脱水の改善で速やかに正常化しますが、本当の腎不全では改善が緩やかです。
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  • アジソン病では尿比重が中程度に低下(1.015〜1.030)しますが、進行した腎不全では著しく低下(1.012以下)します。
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  • Na/K比の低下が見られる場合は、アジソン病の可能性を強く考慮すべきです(腎不全単独ではNa/K比の著明な低下は起こりにくい)。
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  • 腎不全では通常、リンの上昇や対称性ジメチルアルギニン(SDMA)の上昇が見られますが、アジソン病単独ではこれらの異常は顕著ではありません。
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たんぱく漏出性腸症(低たんぱく腸症)

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たんぱく漏出性腸症(PLE)は、消化管からたんぱく質が異常に漏出する病気で、低アルブミン血症、下痢、体重減少、腹水などの症状が見られます。アジソン病でも低アルブミン血症や下痢、体重減少が見られるため、鑑別が必要です。

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  • PLEでは通常、アルブミンの低下が著しく(1.5 g/dL以下)、腹水や浮腫を伴うことが多いです。
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  • PLEではコレステロールやカルシウムも低下していることが多いです。
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  • アジソン病ではアルブミンの低下は軽度〜中等度であることが多く、腹水を伴うことは稀です。
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  • ACTH刺激試験で鑑別できますが、両疾患が併存することもあるため注意が必要です。
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膵炎

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急性膵炎は嘔吐、腹痛、食欲不振、下痢などを引き起こし、アジソンクリーゼと症状が類似することがあります。実際に、アジソン病と膵炎が併発することもあります。

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  • 膵炎では膵特異的リパーゼ(犬膵リパーゼ免疫反応性:cPLI)が上昇します。
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  • 超音波検査で膵臓の腫大や周囲脂肪の変化が見られることがあります。
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  • 膵炎の治療で改善しない場合や再発を繰り返す場合は、背景にアジソン病がないか検討する必要があります。
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肝臓病

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アジソン病では肝酵素の上昇が見られることがあるため、肝臓の病気と混同されることがあります。また、低血糖や低アルブミン血症も肝機能障害で見られる所見です。

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  • 肝臓病では胆汁酸の上昇やアンモニアの上昇が見られることが多いですが、アジソン病単独ではこれらの異常は通常見られません。
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  • 超音波検査での肝臓の形態評価が鑑別に役立ちます。
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甲状腺機能低下症

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甲状腺機能低下症も、元気消失、体重増加(アジソン病とは逆ですが)、皮膚の異常など、アジソン病と一部症状が重なります。また、自己免疫疾患という共通点があるため、アジソン病と甲状腺機能低下症が併発することもあります(「シュミット症候群」と呼ばれます)。

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  • 甲状腺機能低下症では高コレステロール血症が見られることが多いですが、アジソン病では通常見られません。
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  • 甲状腺ホルモン(T4、fT4)の測定で鑑別できます。
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  • アジソン病が存在すると甲状腺ホルモンの値が低く出ることがあるため(「ユーサイロイドシック症候群」)、アジソン病の治療を開始してから甲状腺機能を再評価する方が正確です。
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感染症

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レプトスピラ症やエールリヒア症などの感染症は、嘔吐、下痢、元気消失、腎機能障害などを引き起こし、アジソン病と類似した臨床像を呈することがあります。

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  • 感染症では発熱が見られることが多いですが、アジソン病では通常体温は正常か低体温です。
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  • 抗体検査や遺伝子検査(PCR検査)で感染症の診断が可能です。
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  • 旅行歴やダニへの暴露歴などの情報も鑑別に重要です。
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低血糖を起こすその他の病気

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アジソン病で見られる低血糖は、他のいくつかの病気でも起こりうる症状です。低血糖を示す犬に対しては、以下の病気との鑑別も考慮されます。

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  • インスリノーマ(膵臓のインスリン産生腫瘍):膵臓にできたインスリンを過剰に分泌する腫瘍により、重度の低血糖が起こります。血中のインスリン濃度の測定やCT検査で診断されます。中高齢の犬に多く見られます。
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  • 敗血症:重度の全身感染症では、ブドウ糖の消費が亢進し、低血糖を引き起こすことがあります。発熱や白血球数の著しい変動が見られることが多いです。
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  • 肝不全:肝臓は糖の貯蔵と産生の中心的な臓器であるため、重度の肝不全では低血糖が起こることがあります。肝機能検査(胆汁酸、アンモニアなど)の異常が見られます。
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  • 子犬の低血糖:特に小型犬の子犬では、空腹時間が長くなると低血糖を起こしやすい傾向があります。これは成長に伴い改善するのが通常です。
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  • 運動性低血糖:猟犬など、長時間激しい運動をする犬で見られることがあります。運動後の疲労と区別が必要です。
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低血糖の原因を特定するためには、血糖値だけでなく、インスリン濃度、肝機能、感染の有無、そしてコルチゾール値を総合的に評価することが重要です。

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鑑別診断のまとめ

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アジソン病の鑑別診断において最も重要なのは、「アジソン病かもしれない」という可能性を常に念頭に置くことです。特に、以下のような場合はアジソン病を積極的に疑い、ACTH刺激試験を含む精密検査を検討すべきです。

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  • 消化器症状が原因不明で繰り返される
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  • ストレスとの関連が疑われる体調不良がある
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  • 治療に対する反応が乏しい
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  • Na/K比の低下がある
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  • 低血糖やストレス白血球像の欠如がある
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  • 若い〜中齢のメス犬で原因不明の体調不良がある
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診断確定後の次のステップ

💡 ポイント

ACTH刺激試験でアジソン病が確定したら、ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドの補充療法を開始します。初回投与後から速やかに状態が改善することが多いです。また、定型か非定型かによって必要な薬の種類が異なるため、治療計画について獣医師と詳しく相談してください。

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ACTH刺激試験でアジソン病の診断が確定した場合、次に大切なのは適切な治療を開始することです。ここでは、診断後に飼い主さんが知っておくべきことをまとめます。

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治療の基本方針

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アジソン病の治療は、不足しているホルモンを薬で補うことが基本です。アジソン病は完治する病気ではありませんが、適切な治療を続ければ、多くの犬が通常と変わらない生活を送ることができます。

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治療に使われる主な薬剤は以下のとおりです。

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  • ミネラルコルチコイド:アルドステロンの代わりに電解質のバランスを保つ薬です。フルドロコルチゾン(フロリネフ)の内服薬、またはデソキシコルチコステロンピバレート(DOCP、パーコーテン)の注射薬が使用されます。定型アジソン病では必須の薬です。
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  • グルココルチコイド:コルチゾールの代わりにストレスへの対応を助ける薬です。プレドニゾロンの内服が一般的です。すべてのタイプのアジソン病で必要となります。
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緊急治療(アジソンクリーゼの場合)

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アジソンクリーゼで緊急搬送された場合は、まず命を救うための緊急治療が行われます。

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  • 生理食塩水の大量静脈内投与(循環血液量の回復と電解質の補正)
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  • デキサメタゾンまたはヒドロコルチゾンの静脈内投与(急性のコルチゾール不足への対応)
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  • 低血糖がある場合はブドウ糖の投与
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  • 高カリウム血症が重度の場合は、インスリン・ブドウ糖療法やカルシウム製剤の投与
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  • 心電図モニタリング
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多くの場合、適切な緊急治療が行われれば、数時間〜24時間以内に劇的な改善が見られます。アジソンクリーゼからの回復後は、維持治療への移行が行われます。

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治療開始後のモニタリング

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治療を開始した後は、薬の用量が適切かどうかを確認するために、定期的な検査が必要です。

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  • 治療開始後1〜2週間:電解質(ナトリウム、カリウム)の再検査。薬の用量調整が必要かどうかを確認します。
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  • 治療開始後1ヶ月:血液検査(電解質、腎機能、血糖値など)の総合評価。症状の改善具合も確認します。
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  • 安定後は3〜6ヶ月ごと:定期的な血液検査と全身の健康チェック。DOCPの注射を使用している場合は、注射のスケジュール(通常25日ごと)に合わせて検査を行うこともあります。
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日常生活での注意点

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アジソン病と診断された犬との生活では、以下のような点に注意しましょう。

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    n

  • 薬の確実な投与:毎日の薬の投与を忘れないことが最も重要です。薬の飲み忘れは、症状の悪化やアジソンクリーゼの引き金になりかねません。
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  • ストレスへの配慮:ストレスはアジソン病の症状を悪化させます。引っ越し、来客、花火、雷、動物病院への通院など、犬にとってストレスとなるイベントの前後は、獣医師と相談してステロイド薬の一時的な増量を検討することがあります。
  • n

  • 体調変化の観察:食欲、元気、排便の状態、飲水量などを日々観察し、変化があれば早めに獣医師に相談しましょう。
  • n

  • 緊急時の備え:万が一のアジソンクリーゼに備えて、かかりつけ以外にも緊急対応可能な動物病院(夜間救急病院など)を事前にリストアップしておくと安心です。
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  • 旅行やペットホテルの利用:旅行に連れて行く場合やペットホテルに預ける場合は、必ず薬を持参し、投薬スケジュールを明確に伝えましょう。また、獣医師にアジソン病であることを示す情報(診断書やお薬手帳)を準備しておくことも大切です。
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治療費の目安

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アジソン病は生涯にわたる治療が必要なため、経済的な負担も考慮する必要があります。治療費の目安は以下のとおりです。

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  • フルドロコルチゾン(内服薬):月あたり3,000円〜15,000円程度(犬の体重や用量による)
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  • DOCP注射:1回あたり5,000円〜20,000円程度(25日ごとに投与)
  • n

  • プレドニゾロン(内服薬):月あたり500円〜2,000円程度
  • n

  • 定期検査費:1回あたり5,000円〜15,000円程度(3〜6ヶ月ごと)
  • n

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ペット保険に加入している場合は、アジソン病の治療が保険適用になるかどうかを確認しましょう。保険会社やプランによって対応が異なるため、事前に確認しておくことをおすすめします。

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予後(今後の見通し)

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アジソン病は適切な治療と管理を行えば、予後は良好な病気です。多くの犬が治療開始後に劇的に元気を取り戻し、通常の寿命を全うすることができます。

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治療を開始してから1〜2週間で目に見える改善が見られることが多く、数週間以内に食欲や活動量が回復するケースがほとんどです。飼い主さんの中には、「こんなに元気になるなんて思わなかった」「以前は体調が悪かったのだと改めてわかった」と驚かれる方も少なくありません。

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ただし、薬の投与を自己判断で中止したり減量したりすることは非常に危険です。症状が改善しても副腎の機能が回復したわけではないため、薬は生涯にわたって必要です。必ず獣医師の指示に従って治療を続けてください。

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診断から治療までの全体の流れ

⚠️ 注意

アジソンクリーゼが疑われる緊急状態では、ACTH刺激試験の結果を待たずにデキサメタゾンによる緊急治療を開始することが一般的です。デキサメタゾンはACTH刺激試験の結果に影響しないため、検査と治療を同時並行で進めることができます。緊急時は「まず治療・検査は並行」という原則を覚えておいてください。

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ここまで個々の検査について詳しく解説してきましたが、実際の診断から治療開始までの全体の流れを時系列でまとめます。飼い主さんが「今どの段階にいるのか」「次に何が行われるのか」を把握するのに役立ててください。

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ステップ1:初診と基本検査(初日)

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まず、飼い主さんからの問診(症状の経過、ストレスとの関連、食欲や排便の変化など)が行われます。その後、身体検査(体温、心拍数、血圧、脱水の程度、粘膜の色など)が実施されます。基本検査として、一般血液検査(血球計算と生化学検査)、電解質検査、尿検査が行われます。

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この段階で、Na/K比の低下、低血糖、ストレス白血球像の欠如など、アジソン病を疑わせる所見が見つかれば、次のステップに進みます。

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ステップ2:追加検査と鑑別診断(初日〜数日後)

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基本検査の結果を踏まえて、アジソン病の可能性が浮上した場合、基礎コルチゾール値の測定や画像検査(レントゲン、超音波検査)が行われることがあります。同時に、他の病気を除外するための検査(膵臓の検査、感染症の検査など)も並行して行われます。

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基礎コルチゾール値が2.0μg/dL未満であれば、ACTH刺激試験が強く推奨されます。

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ステップ3:ACTH刺激試験(予約制、半日程度)

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確定診断のためのACTH刺激試験が実施されます。検査は約1〜2時間で完了し、結果は当日〜数日後に判明します。この間、犬の状態に応じて支持療法(点滴、制吐剤など)が行われることがあります。

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ステップ4:診断確定と治療開始

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ACTH刺激試験でアジソン病が確定したら、治療薬の処方が開始されます。通常、グルココルチコイド(プレドニゾロン)は直ちに開始され、必要に応じてミネラルコルチコイド(フルドロコルチゾンまたはDOCP注射)も開始されます。初期の用量は体重に基づいて設定され、その後の検査結果に応じて微調整されます。

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ステップ5:初期モニタリング(治療開始後1〜4週間)

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治療開始後は、1〜2週間ごとに電解質と臨床状態のチェックが行われます。薬の用量が適切かどうかを確認し、必要に応じて調整します。多くの犬は治療開始から数日〜1週間で明らかな改善を示します。食欲が戻り、元気が出て、飼い主さんも「見違えるようだ」と感じることが多いです。

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ステップ6:長期管理(安定後)

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病状が安定したら、3〜6ヶ月ごとの定期検査に移行します。電解質のモニタリング、全身の健康状態の確認、薬の用量の微調整が継続的に行われます。季節の変わり目やストレスフルなイベントの前後は、特に注意深い観察が必要です。

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この一連の流れは、緊急搬送の場合はステップ1と2が同時進行で迅速に行われます。一方、慢性的な不調で来院した場合は、段階的に検査が進められることが一般的です。いずれの場合も、飼い主さんと獣医師のコミュニケーションが円滑な診断と治療の鍵を握っています。

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飼い主さんにお願いしたいこと

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最後に、アジソン病の診断と治療において、飼い主さんにぜひお願いしたいことをまとめます。

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  • 症状の記録をつけてください:いつ、どんな症状が、どのくらいの期間続いたか、何がきっかけだったかなどを記録しておくと、獣医師の診断に大いに役立ちます。スマートフォンのメモ機能や日記アプリを活用するのも良いでしょう。
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  • 動画を撮影してください:震えやふらつきなど、受診時には見られなくなることがある症状は、動画で記録しておくと獣医師に正確に伝えられます。
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  • 過去の検査結果を保管してください:以前の血液検査の結果があれば、数値の経時的な変化を追えるため、非常に参考になります。
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  • 疑問は遠慮なく質問してください:検査の目的、結果の意味、治療の方針など、わからないことがあれば何でも獣医師に質問してください。理解が深まることで、より良い治療パートナーになれます。
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  • 治療は根気よく続けてください:アジソン病は生涯にわたる治療が必要ですが、適切に管理すれば犬は元気で幸せな生活を送ることができます。「治らない」ではなく「管理できる」病気だと前向きに捉えていただければ幸いです。
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よくある質問(FAQ)

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Q1. アジソン病はどのくらいの確率で犬に発症しますか?

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アジソン病は比較的まれな病気で、犬全体における発症率は約0.06〜0.28%程度と報告されています。ただし、特定の犬種(スタンダードプードル、ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグ、ノバスコシア・ダック・トーリング・レトリーバー、グレートデン、ビアデッド・コリーなど)では発症率が高いことが知られています。性別ではメスの発症率がオスの約2〜3倍高く、発症年齢は2〜7歳が多いとされています。

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Q2. ACTH刺激試験以外にアジソン病を診断する方法はありますか?

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ACTH刺激試験が最も信頼性の高い確定診断法ですが、補助的な検査として以下のものがあります。基礎コルチゾール値の測定はスクリーニングとして有用で、2.0 μg/dL以上であればアジソン病はほぼ否定的です。また、内因性ACTH濃度の測定も参考になります。原発性アジソン病では副腎からのフィードバックが低下するため、脳下垂体からのACTH分泌が増加し、血中ACTH濃度が高値を示します。ただし、この検査は特殊な検査機関でしか行えないため、一般的にはACTH刺激試験が推奨されます。

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Q3. ACTH刺激試験は痛みや副作用がありますか?

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ACTH刺激試験で犬が受ける苦痛は、主に採血と注射の際の痛み程度です。合成ACTHの投与による重篤な副作用は非常に稀です。まれにアレルギー反応が報告されていますが、頻度は極めて低いです。検査後に一時的に元気がなくなることがありますが、通常は数時間で回復します。全体として、安全性の高い検査と言えます。

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Q4. アジソン病の検査結果が出るまでにどのくらいかかりますか?

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ACTH刺激試験自体は約1〜2時間で終了します。コルチゾールの測定については、院内で測定できる動物病院ではその日のうちに結果が出ます。外部の検査機関に送る場合は、1〜3営業日程度かかることがあります。緊急性が高い場合は、院内測定が可能な病院を選ぶか、獣医師に相談してください。電解質や一般血液検査の結果は、多くの動物病院でその日のうちに得られます。

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Q5. アジソンクリーゼで救急に行った場合、どんな検査をされますか?

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アジソンクリーゼが疑われる緊急時には、まず生命を安定させるための処置が優先されますが、同時に以下の検査が行われることが一般的です。血液検査(電解質、腎機能、血糖値、血球計算)、心電図検査(高カリウム血症による不整脈の評価)、血圧測定、尿検査、場合によってはレントゲン検査や超音波検査が行われます。ACTH刺激試験は、ステロイド薬を投与する前に採血しておき、後から結果を確認する方法がとられることもあります。

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Q6. 一度アジソン病と診断されたら、定期的にACTH刺激試験を受け続ける必要がありますか?

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一般的に、アジソン病の診断が確定した後は、ACTH刺激試験を繰り返し行う必要はありません。治療のモニタリングには、電解質(ナトリウム、カリウム)の測定が中心となります。ただし、DOCP注射を使用している場合は、投与スケジュールの調整のために電解質の定期的な測定が重要です。フルドロコルチゾンを使用している場合も同様に、電解質の変動を確認しながら用量を調整していきます。

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Q7. 他の病気の治療中でもACTH刺激試験は受けられますか?

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多くの場合、他の病気の治療中でもACTH刺激試験は実施可能ですが、いくつかの注意点があります。特にステロイド薬(プレドニゾロン、デキサメタゾンなど)を使用中の場合は、コルチゾールの測定値に影響を与える可能性があるため、獣医師に使用中の薬をすべて伝えてください。プレドニゾロンはコルチゾール測定に交差反応するため、検査前に中止が必要な場合があります。一方、デキサメタゾンは交差反応しないため、検査への影響は少ないとされています。

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Q8. アジソン病と診断された犬は食事に気をつけることはありますか?

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アジソン病そのものに対する特別な食事療法は確立されていませんが、いくつかのポイントがあります。まず、良質なたんぱく質を含むバランスの良い食事を与えることが基本です。電解質のバランスが不安定な時期は、塩分を制限する必要はなく、むしろ適度な塩分摂取が推奨されることもあります。消化器症状がある場合は、消化の良い食事を少量ずつ頻回に与えると良いでしょう。食事内容について不安がある場合は、獣医師や動物栄養学の専門家に相談することをおすすめします。

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Q9. アジソン病の犬に手術やワクチン接種は可能ですか?

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適切にコントロールされているアジソン病の犬は、手術やワクチン接種を受けることが可能です。ただし、手術や麻酔は大きなストレスとなるため、事前にステロイド薬の増量(ストレスドーズ)が必要です。手術前に獣医師にアジソン病であることを必ず伝え、周術期の管理計画を立ててもらってください。ワクチン接種についても、体調が安定しているときに行うことが望ましいです。接種後は数日間、体調の変化に注意して観察してください。

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Q10. アジソン病は遺伝しますか?将来的に予防することはできますか?

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アジソン病には遺伝的な要因が関与していると考えられています。特定の犬種で発症率が高いことや、家族内発症の報告があることがその根拠です。しかし、遺伝様式は複雑であり、単一の遺伝子変異だけで説明できるものではありません。現時点では、確実な予防法は確立されていません。ただし、発症リスクが高い犬種の飼い主さんは、早期発見のために定期的な健康診断を受け、アジソン病の初期症状に注意を払うことが大切です。繁殖を考えている場合は、家族歴を確認し、アジソン病の既往がある犬同士の交配は避けることが推奨されます。

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Q11. アジソン病の犬がストレスを受けた場合、どのように対処すればよいですか?

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アジソン病の犬にとって、ストレス管理は非常に重要です。健康な犬であれば、ストレスがかかると副腎がコルチゾールの分泌を増やして対応しますが、アジソン病の犬はこの反応ができません。そのため、予定されているストレスフルなイベント(トリミング、旅行、来客、雷の予想など)の前に、獣医師に相談してプレドニゾロンの一時的な増量を検討することが一般的です。通常、イベントの前日から当日にかけて通常量の2〜3倍に増量し、イベント後1〜2日かけて通常量に戻す方法がとられます。ただし、増量の判断は必ず獣医師の指示に従ってください。

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Q12. セカンドオピニオンを求めるべきタイミングはいつですか?

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以下のような場合は、セカンドオピニオンを検討する価値があります。治療を開始しても症状の改善が見られない場合、頻繁にアジソンクリーゼを起こす場合、薬の用量調整が難しく安定しない場合、診断に疑問がある場合(特にACTH刺激試験を受けずに診断された場合)、他の病気の合併が疑われる場合などです。内分泌学を専門とする獣医師や、大学付属の動物病院に相談することも選択肢の一つです。セカンドオピニオンはかかりつけ獣医師との関係を損なうものではなく、よりよい治療のための前向きなステップです。

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  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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