猫は泌尿器系のトラブルをかかえやすい動物です。
特に室内飼いの猫は水分摂取が不足しがちで、膀胱炎や尿路結石、慢性腎臓病などのリスクが高まります。
「何度もトイレに行く」「おしっこが出ない」といった症状が見られたとき、何が起きているのかを正しく知ることが早期対応につながります。
この記事では猫の泌尿器トラブルの種類・症状・緊急度・予防策を獣医師の視点でわかりやすく解説します。
猫の泌尿器トラブルとは
💡 ポイント
猫はもともと砂漠出身で尿が濃くなりやすい体質です。室内飼い・去勢避妊後の猫は特に水分不足になりがちで、膀胱炎・尿路結石・腎臓病のリスクが高まります。「おしっこの変化」に敏感になることが早期発見の鍵です。
猫はもともと砂漠に生息していた動物で、水分をあまり摂らなくても生きていける体の仕組みを持っています。
その反面、尿が濃くなりやすく、泌尿器系のトラブルをかかえやすい体質でもあります。
特に室内飼いや避妊・去勢後の猫は運動量が減り、水分摂取も不足しがちなため、泌尿器疾患のリスクが高まります。
この記事では「どんな病気があるのか」「症状の緊急度はどのくらいか」「何をすれば予防できるのか」を、獣医師の視点からわかりやすく解説します。
代表的な泌尿器疾患の種類
💡 ポイント
猫の泌尿器疾患は大きく①FLUTD(下部尿路疾患)②腎臓病③尿道閉塞の3カテゴリに分かれます。特にFLUTDは室内猫に非常に多く、ストレス・水分不足・肥満がリスク因子です。早期発見・早期治療が重篤化を防ぎます。
1. 猫下部尿路疾患(FLUTD)
FLUTDとは、膀胱・尿道など下部尿路に起こるさまざまな疾患の総称です。
猫の泌尿器トラブルで最も多く見られる分類で、以下の原因が含まれます。
- 特発性膀胱炎:明らかな感染・結石がないのに繰り返す膀胱炎。ストレスが主な誘因。
- 尿路結石(ストルバイト・シュウ酸カルシウム):ミネラルが結晶化し尿路に石ができる。
- 尿道栓子:タンパク質やミネラルの塊が尿道に詰まる。オス猫に多い。
- 細菌性膀胱炎:細菌感染による炎症。高齢猫や免疫低下猫に多い。
2. 腎臓病(慢性腎臓病・急性腎障害)
猫は7歳以上になると慢性腎臓病のリスクが急増します。
初期は多飲多尿、後期は食欲不振・体重減少・嘔吐が現れます。
腎臓病が進行すると二次的に尿量異常や膀胱炎が起きることもあります。
3. 尿道閉塞(尿閉)
尿道閉塞はオス猫に起きやすく、放置すると48時間以内に死亡するリスクがある最も危険な泌尿器緊急症です。
尿道が結石・栓子・腫瘍などで完全に詰まり、おしっこが出なくなる状態です。
膀胱が破裂したり、尿毒症に陥ったりすることがあります。
⚠️ 注意
「おしっこが全く出ない・いきんでも出ない」「ぐったりして嘔吐している」状態はどちらも最高レベルの緊急事態です。これらの症状は数時間単位で命に関わります。夜間・休日であっても夜間救急動物病院に今すぐ連絡してください。
症状と緊急度の一覧
💡 ポイント
猫のおしっこトラブルは症状によって緊急度が大きく異なります。「おしっこが全く出ない」は最高レベルの緊急事態、「血尿・頻尿」は当日〜翌日受診が必要です。上の表を参考に愛猫の状態を正しく評価しましょう。
以下の表を参考に、愛猫の症状を確認してください。
| 症状 | 緊急度 | 対応 |
|---|---|---|
| おしっこが全く出ない・いきんでも出ない | 最高(緊急) | 今すぐ夜間救急へ |
| ぐったり・嘔吐・食欲ゼロ+泌尿器症状 | 最高(緊急) | 今すぐ病院へ |
| 血尿(鮮血が混じる) | 高 | 当日〜翌日中に受診 |
| 頻尿・少量しか出ない | 高 | 1〜2日以内に受診 |
| トイレ外での粗相 | 中 | 数日以内に受診 |
| 外陰部・包皮を頻繁に舐める | 中 | 数日以内に受診 |
| 多飲多尿(水をよく飲む) | 中 | 早めに受診(腎臓病の疑い) |
| 尿の色が濃い・臭いが強い | 低〜中 | 様子見しながら早めに受診 |
尿道閉塞(尿閉)は命に関わる緊急事態
⚠️ 注意
尿道閉塞(尿閉)はオス猫に起きやすく、放置すると24〜48時間以内に死亡する最も危険な緊急事態です。「何度もトイレに行くがおしっこが全く出ない」「お腹を触ると痛がる」「ぐったりして動かない」これらのサインが見られたら深夜でも夜間救急病院に今すぐ連絡してください。絶対に様子見はしないでください。
オス猫は尿道が細く曲がりくねった構造のため、メス猫に比べて尿閉になりやすい傾向があります。
去勢済みのオス猫はさらに尿道が細くなるため、特に注意が必要です。
以下のサインが見られたら、深夜であっても夜間救急病院を受診してください。
- 何度もトイレに行くが全くおしっこが出ない
- お腹を触ると痛がる・緊張している
- ぐったりして動かない・呼びかけに反応しない
- 嘔吐を繰り返している
尿閉は治療開始が遅れるほど腎臓へのダメージが大きくなり、最悪の場合24〜48時間以内に死亡します。
「様子見しよう」は絶対にやめてください。
⚠️ 注意
猫の泌尿器症状(頻尿・血尿・排尿困難)が繰り返す場合、慢性的な疾患や尿路結石が背景にある可能性があります。「また膀胱炎か」と自己判断して受診を遅らせると、尿道閉塞や腎臓病の悪化につながることがあります。2回以上同じ症状が繰り返す場合は必ず検査を受けましょう。
主な疾患の症状と特徴
💡 ポイント
猫の泌尿器疾患は「特発性膀胱炎・尿路結石・腎臓病・尿道閉塞」が主なものです。症状が似ていても原因が異なるため、正確な診断のためには尿検査・血液検査・画像検査が必要です。自己判断せず動物病院での診断を受けましょう。
特発性膀胱炎(FIC)
猫の泌尿器トラブルで最も多い原因が特発性膀胱炎です。
感染や結石がないにもかかわらず膀胱に炎症が起きる病気で、ストレスが最大の引き金とされています。
引っ越し・新しいペットの導入・工事の騒音・トイレの変化などがきっかけになることがあります。
主な症状は頻尿・血尿・排尿時の痛み(鳴き声、うずくまる)・粗相などで、多くは数日〜1週間で自然回復しますが、再発しやすいのが特徴です。
尿路結石(ストルバイト・シュウ酸カルシウム)
ミネラルが結晶化して尿路に石ができる病気です。
ストルバイト結石はフードや感染が原因で形成されやすく、療法食での溶解が可能な場合があります。
シュウ酸カルシウム結石は溶解できないため外科手術や内視鏡での除去が必要になることがあります。
症状は血尿・頻尿・排尿困難などで、膀胱炎と区別するためにはレントゲン・エコー検査が必要です。
腎臓病(慢性腎臓病)
猫の腎臓病は7歳以上の猫の30〜40%に見られるという報告もあり、高齢猫では非常に多い病気です。
初期は多飲多尿が特徴的で、「最近やたら水を飲む」「おしっこの量が増えた」という飼い主さんの気づきが早期発見につながります。
進行すると食欲不振・体重減少・嘔吐・口臭(アンモニア臭)が現れます。
定期的な血液検査・尿検査が早期発見に有効です。
泌尿器トラブルの予防策
💡 ポイント
泌尿器トラブルの予防策は①水分摂取を増やす(ウェットフード・流水器)②ミネラルバランスの良いフード選び③ストレス管理④体重管理⑤定期的な尿検査の5つです。特に「水をたくさん飲む環境づくり」が最も重要な予防策です。
水分摂取を増やす
猫に十分な水を飲ませることが泌尿器トラブルの最も基本的な予防策です。
ドライフードのみの食事は尿量が減り、尿が濃縮されやすくなります。
以下の工夫が効果的です。
- ウェットフード(缶詰・パウチ)をメインまたは混合で与える
- 流水式給水器を使用する(動く水を好む猫が多い)
- 水入れを複数箇所に置く
- 水入れを食器とは別の場所に置く
フードの選び方
泌尿器の健康を意識したフード選びが重要です。
ミネラルバランスが整ったフードを選び、過剰なリン・マグネシウムを含むフードは避けましょう。
すでに結石の経験がある猫には、泌尿器ケア専用の療法食を獣医師の指導のもとで与えることが推奨されます。
ストレス管理
特発性膀胱炎の最大の引き金はストレスです。
以下の環境づくりを心がけましょう。
- トイレを頭数+1個以上設置し、常に清潔に保つ
- 高い場所(キャットタワーなど)に隠れ場所を作る
- 多頭飼いの場合は、猫同士の関係に注意する
- 生活リズムの急激な変化(引っ越し・リフォームなど)の際は特に注意
定期的な健康診断・尿検査
泌尿器疾患は初期段階では症状が出にくいことがあります。
年に1〜2回の健康診断と尿検査で、早期発見・早期治療につなげましょう。
7歳以上の猫は年2回の血液検査・尿検査を強くお勧めします。
まとめ:猫の泌尿器トラブルのポイント
💡 ポイント
猫の泌尿器トラブルは早期発見・早期治療がポイントです。日常的にトイレの回数・尿の色・量を観察する習慣をつけましょう。特にオス猫は尿道閉塞のリスクがあるため、「おしっこが出ない」状態は一刻を争う緊急事態として対応してください。
猫の泌尿器トラブルは種類も緊急度もさまざまです。
「おしっこが出ない」という症状だけは絶対に様子見せず、すぐに受診してください。
血尿・頻尿もそのまま放置せず、1〜2日以内に病院を受診するのが安心です。
日常的な水分摂取・適切なフード・ストレス管理によって、多くの泌尿器トラブルは予防または再発防止が可能です。
愛猫の排尿状態を日頃から観察しておくことが、早期発見への最短ルートです。
動物病院での診断の流れ
💡 ポイント
診断の基本は尿検査・血液検査・エコー検査の3本柱です。自宅でできる尿採取(採取後2時間以内を持参)が診断の質を高めます。受診前に「トイレ回数・尿の色・飲水量の変化」をメモしておくと診断がスムーズになります。
猫の泌尿器疾患が疑われるとき、動物病院ではどのような検査が行われるのでしょうか。
事前に流れを知っておくことで、スムーズな受診につながります。
問診と視診(触診)
まず獣医師が症状・発症時期・食事内容・水分摂取量・排尿回数・尿の色などについて詳しく聞き取ります。
普段より水を飲む量・おしっこの量・回数の変化を事前にメモしておくと診断に役立ちます。
視診・触診ではお腹を触って膀胱の大きさ・圧痛・腎臓の大きさを確認します。
「最近ストレスになるような出来事はありましたか(引っ越し・新しいペット・フードの変更など)」という質問も重要で、特発性膀胱炎の判断に役立ちます。
受診前チェックリスト
・いつから症状が出たか(発症日時を具体的に)
・1日のトイレ回数と1回の尿量の変化(多い・少ない・全く出ない)
・尿の色(透明・黄色・ピンク・赤・白濁など)
・食欲と飲水量の変化(増えた・減った)
・最近のストレス要因(引っ越し・新しいペット・フード変更・工事など)
尿検査(最重要の検査)
泌尿器疾患の診断で最も基本的かつ重要な検査です。
自宅採取の新鮮尿(採取後2時間以内)を持参できると、より正確な結果が得られます。
検査では以下の項目を確認します。
- pH(酸性・アルカリ性):正常は6〜7.0。アルカリ性に傾くと細菌感染・ストルバイト結石のリスク増加
- 比重:尿の濃さ。腎機能が低下すると比重が下がる(薄い尿になる)
- タンパク・潜血:腎臓病・出血・炎症のサイン
- 白血球・細菌:細菌性膀胱炎の指標
- 結晶の種類:ストルバイト結晶・シュウ酸カルシウム結晶など結石の原因になる結晶
病院で採取する場合は、カテーテルや膀胱穿刺(エコーガイドで針を使った採取)が行われることもあります。
💡 尿の採取方法
システムトイレ使用の場合:シートを裏返して砂の上に置き、猫がトイレをしたら上澄みを清潔な容器に移す。砂トイレの場合:清潔なラップを砂の上に敷いて採取する方法も可能。採取後は冷蔵保存(4℃)して2時間以内に病院へ。時間が経つと結晶が増えたり細菌が増殖したりして結果が変わる可能性があります。
血液検査
腎臓の機能評価や全身状態の把握に重要な検査です。
- BUN(尿素窒素)・クレアチニン:腎機能の指標。数値が高いほど腎機能が低下している
- SDMA:腎臓病の早期マーカー。クレアチチンより早い段階で異常値になることが多い
- 電解質(カリウム・リン・ナトリウム):腎臓病や尿道閉塞で異常値になりやすい
- 血糖値:糖尿病性膀胱炎の除外のため
腎機能の低下が疑われる場合や高齢猫(7歳以上)の場合は必ず実施することが推奨されます。
エコー(超音波)検査・レントゲン
尿路結石・膀胱腫瘍・腎臓の形態変化・膀胱壁の肥厚などを視覚的に確認します。
エコー検査は放射線被曝がなく繰り返し行えるため、定期的なモニタリングにも向いています。
ただしストルバイト結石など石灰化した結石はレントゲンの方が発見しやすいケースもあります。
膀胱腫瘍が疑われる場合は細胞診(膀胱穿刺で採取した尿の細胞検査)も行われます。
✅ 診断の流れまとめ
1. 問診・触診(症状確認・お腹の触診で膀胱・腎臓を確認)
2. 尿検査(自宅採取が理想・pH・比重・白血球・細菌・結晶の確認)
3. 血液検査(腎機能評価・全身状態・BUN・クレアチニン・SDMA)
4. エコー・レントゲン(結石・腫瘍・腎臓の形態変化の確認)
5. 必要に応じ細菌培養・感受性検査・細胞診
猫の泌尿器疾患の治療費の目安
💡 ポイント
猫の泌尿器疾患の治療費は初診の尿検査・エコーで5,000〜15,000円程度、尿道閉塞の緊急入院では50,000〜200,000円以上になることがあります。慢性腎臓病は月額15,000〜50,000円の継続治療が必要なことも。ペット保険への加入を検討する場合は「泌尿器系疾患が補償対象かどうか」「通院補償があるか」を確認しましょう。
猫の泌尿器疾患の治療にかかる費用は、病気の種類・重症度・病院によって大きく異なります。
以下はあくまで目安です。
| 診察・処置内容 | 費用の目安(目安) |
|---|---|
| 初診料 | 500〜3,000円 |
| 尿検査(尿沈渣・pH・比重) | 2,000〜5,000円 |
| 血液検査(腎機能含む) | 5,000〜15,000円 |
| エコー検査 | 3,000〜8,000円 |
| 投薬(抗生物質・痛み止めなど) | 3,000〜8,000円/週 |
| 点滴処置(通院・入院) | 5,000〜20,000円/日 |
| 尿道閉塞の緊急処置・入院(2〜5日) | 50,000〜200,000円以上 |
| 尿路結石の外科手術(膀胱切開) | 80,000〜200,000円 |
| 慢性腎臓病の継続治療(月額目安) | 15,000〜50,000円/月 |
⚠️ 注意
猫の泌尿器疾患(特に慢性腎臓病・繰り返す膀胱炎・尿路結石)は長期治療になることが多く、月の医療費が数万円になるケースがあります。ペット保険の加入を検討する際は「泌尿器系疾患が補償対象かどうか」「通院補償があるか」を事前に確認することをおすすめします。早期発見・早期治療開始の方が長期的な治療費を大幅に抑えられます。
猫の年齢・性別による泌尿器リスクの違い
💡 ポイント
猫の泌尿器リスクは年齢・性別によって大きく異なります。若〜中年(1〜5歳)の去勢済みオス猫はFLUTD・尿道閉塞リスクが最も高く、シニア(7歳以上)は慢性腎臓病リスクが急増します。それぞれのリスクに合わせた定期検査と予防策が重要です。
子猫(〜1歳未満)に注意すること
先天性の尿路奇形や細菌感染が見つかることがあります。
頻尿や血尿が見られたら早めに受診してください。
子猫の頃からウェットフードに慣れさせておくと、将来の泌尿器疾患予防につながります。
若〜中年期(1〜7歳)の去勢済みオス猫に多いFLUTD・尿道閉塞
この年齢帯の去勢済みオス猫は特発性膀胱炎・尿路結石・尿道閉塞のリスクが最も高い時期です。
去勢後は尿道がさらに細くなることがあり、尿道閉塞リスクが高まります。
ストレス管理・水分摂取促進・年1〜2回の定期的な尿検査が特に重要です。
室内飼育・運動不足・ドライフードのみの食事はリスクをさらに高めます。
💡 去勢済みオス猫への注意点
去勢後のオス猫は尿道が細くなりやすく、尿道閉塞リスクが特に高まります。ドライフードのみ・運動不足・肥満の組み合わせはリスクを大幅に上げます。ウェットフードの導入・適切な体重管理・年1回以上の尿検査が基本的な予防策です。
シニア期(7歳以上)に急増する慢性腎臓病
7歳を超えると慢性腎臓病(CKD)のリスクが急増し、10歳以上では約50%が何らかの腎機能低下を持つとされています。
腎臓病は初期段階では無症状のことが多く、症状が出た時点ですでに腎機能の70%以上が失われているケースも少なくありません。
7歳以上の猫は年2回の血液検査・尿検査が強く推奨されます。
早期発見・早期治療開始で進行を大幅に遅らせることが可能です。
⚠️ シニア猫の異変サイン
7歳以上の猫で「水をよく飲むようになった」「おしっこの量が増えた」「少しやせてきた」「嘔吐が増えた」「食欲が落ちた」というサインが見られたら、すぐに血液検査を受けましょう。症状がなくても年2回の定期検査が早期発見への最善策です。腎臓病は早期発見で大幅に進行を遅らせられます。
メス猫に多い細菌性膀胱炎
メス猫はオス猫より尿道が短く、細菌が膀胱に入りやすいため細菌性膀胱炎になりやすい傾向があります。
特に高齢のメス猫・糖尿病を持つメス猫は免疫力が落ちやすく、再発性の細菌性膀胱炎のリスクが高まります。
陰部の清潔維持・定期的な尿検査が予防に有効です。
猫の泌尿器疾患:よくある飼い主さんの誤解
💡 ポイント
「前も膀胱炎ですぐ治った」「猫は水を飲まなくても大丈夫」「老猫が水を飲むのは老化だから仕方ない」などの誤解が、病気の悪化・再発につながることがあります。正しい知識を持って愛猫の健康を守りましょう。
誤解1:「また膀胱炎、すぐ治るから様子見しよう」
膀胱炎を繰り返す場合、毎回原因が同じとは限りません。
前回は特発性膀胱炎でも、今回は結石が詰まりかけている可能性があります。
「また膀胱炎だろう」という思い込みで様子を見ていると、尿道閉塞に進展して命に関わる事態になることがあります。
繰り返す症状こそ、必ず受診して原因を確認することが重要です。
誤解2:「猫は水を飲まなくても大丈夫」
猫はもともと水を多く飲まなくても生きられる体質ですが、現代の室内飼育環境では水分不足が泌尿器疾患の主要因となっています。
「ドライフードのみで問題なし」という考えは誤りで、ウェットフードの導入・流水給水器の設置で尿量が増え、泌尿器疾患リスクが大幅に低下します。
誤解3:「老猫が水を飲むのは老化だから仕方ない」
多飲多尿は腎臓病・糖尿病・甲状腺機能亢進症などの疾患のサインであることが多く、「老化だから」と放置するのは危険です。
7歳以上の猫で多飲多尿が見られたら必ず検査を受けてください。
誤解4:「市販の泌尿器ケアフードを食べていれば安心」
市販の「泌尿器ケア」フードは予防的なアプローチであり、すでに疾患がある猫への対処にはなりません。
結石・膀胱炎がある場合は獣医師が処方する療法食が必要です。
自己判断での療法食選びは逆効果になることがあるため、必ず獣医師の指示に従ってください。
誤解5:「血尿が出ても翌日には治る、大丈夫」
猫の血尿は特発性膀胱炎の場合、数日で自然回復することもありますが、毎回必ず良性の原因とは限りません。
繰り返す血尿は結石・腫瘍・腎臓病のサインであることがあります。
「また血尿が出た」という状態が2回以上繰り返されたら必ず受診して原因を特定してください。
猫の泌尿器疾患に使われる主な薬と注意点
💡 ポイント
猫の泌尿器疾患に使われる主な薬は①抗生物質(細菌性膀胱炎)②鎮痛剤・抗炎症薬(排尿痛)③利尿薬(腎臓病)④療法食(結石・膀胱炎)の4種類です。薬は自己判断で変更・中断せず、処方された期間・量を必ず守りましょう。人間用の薬を猫に与えることは絶対にしないでください。
抗生物質(細菌性膀胱炎に使用)
細菌性膀胱炎の治療に使用します。
主に使われる抗生物質はアモキシシリン・エンロフロキサシン・マルボフロキサシンなどです。
治療期間は通常7〜14日間で、症状が改善しても必ず最後まで投薬してください。
途中でやめると耐性菌が生まれ、次回の治療が難しくなります。
再発を繰り返す場合は尿培養・感受性検査で最も効果的な薬を特定してから投薬することが重要です。
⚠️ 注意
猫に人間用の抗生物質(アモキシシリン・セファレキシンなど)を自己判断で与えることは絶対にしないでください。用量の誤り・成分の違い・添加物(キシリトールなど)で中毒を起こす危険があります。また、抗生物質で下痢・嘔吐・食欲不振が続く場合は薬剤の変更が必要なことがあるため、かかりつけ医に連絡してください。
鎮痛剤・抗炎症薬(排尿痛・炎症に使用)
特発性膀胱炎や急性膀胱炎の排尿痛緩和に使用します。
猫に使える鎮痛剤は犬や人間と異なります。
猫はNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の代謝が遅く、過量投与で腎障害・消化管障害を起こしやすいため、使用は短期間・少量に限定されます。
ブプレノルフィン(オピオイド系)やメロキシカム(少量・短期)が使われることがあります。
絶対にイブプロフェンやアセトアミノフェン(人間用)を猫に与えないでください。命に関わる中毒が起きます。
抗コリン薬・α受容体遮断薬(排尿困難に使用)
膀胱の痙攣・過活動膀胱の症状緩和に使用します。
プラゾシン(α受容体遮断薬)は尿道括約筋を弛緩させることで、尿道閉塞の治療後の再閉塞予防に使われます。
尿道閉塞の再発リスクが高い猫では退院後もプラゾシンを継続投与することがあります。
腎臓病の薬(慢性腎臓病に使用)
慢性腎臓病の進行を遅らせるための薬が複数あります。
- ベナゼプリル・テルミサルタン(ACE阻害薬・ARB):タンパク尿を減らし腎臓への負担を軽減
- アルミニウムゲル・炭酸ランタン(リン吸着薬):リンの吸収を抑えて腎臓病の進行を遅らせる
- カリウムサプリメント:腎臓病では低カリウム血症が起きやすく、補充が必要なことがある
- 皮下点滴:腎臓病中期〜後期では自宅での皮下点滴が勧められることがある。週1〜3回の皮下輸液で体液バランスを保つ
猫の泌尿器疾患を予防するフードの選び方
💡 ポイント
泌尿器トラブルを予防するフードの基本条件は①水分含有量が多い(ウェットフード推奨)②マグネシウム・リン・ナトリウムが適切な範囲内③尿pH調整機能あり④高品質なタンパク質源の4点です。「泌尿器ケア」と書かれた市販フードでも成分を確認することが重要です。既に疾患がある場合は必ず獣医師の指示する療法食を使用してください。
ウェットフード vs ドライフード
泌尿器疾患予防の観点から最も重要なのが「水分摂取量」です。
ドライフードの水分含有量は約10%以下であるのに対し、ウェットフード(缶詰・パウチ)は70〜80%の水分を含みます。
ウェットフードをメインに与えることで尿量が増え、尿が希釈されることで結晶・結石の形成が抑えられます。
「ドライフードのみで育てている」という場合は、少なくとも1食をウェットフードに置き換えることを検討しましょう。
ドライフードとウェットフードの水分比較
・ドライフード(カリカリ):水分含有量 約8〜12%
・ウェットフード(缶詰・パウチ):水分含有量 約75〜85%
・必要摂取水分量の目安:体重1kgあたり40〜60ml/日
・ドライフードのみで必要量を確保するには別途の飲水が必須
確認すべき成分表示ポイント
フードの成分表示で以下のポイントを確認しましょう。
- マグネシウム(Mg):0.1%以下が理想。高いとストルバイト結石のリスク増
- リン(P):特に腎臓病がある猫は低リンフードが推奨(0.5%以下)
- ナトリウム(Na):心臓病・高血圧がある場合は低ナトリウムを選ぶ
- タンパク質:猫は肉食動物なので動物性タンパク質が主成分のフードを選ぶ
- 尿のpH調整機能:「尿pH調整」「泌尿器ケア」と表示があるものはpHを弱酸性に保つ設計
療法食の種類と目的
疾患がある場合は獣医師が処方する療法食が最も確実です。
- ロイヤルカナン ユリナリーS/O:ストルバイト・シュウ酸カルシウム両結石の予防・ストルバイト溶解
- ヒルズ c/d マルチケア:多因子性下部尿路疾患(FLUTD)全般に対応
- ロイヤルカナン 腎臓サポート:慢性腎臓病向け。低リン・低タンパク
- ヒルズ k/d:腎臓病向け療法食。リン・タンパクを制限
療法食は処方された疾患に対応したものを選び、おやつや他のフードを混ぜないようにしましょう。
避けるべき食べ物
泌尿器疾患がある猫には以下の食べ物を避けましょう。
- 塩分の多いもの(鰹節・塩干物・ちりめんじゃこ・チーズなど):尿の浸透圧に影響
- 硬水(ミネラルウォーター):カルシウム・マグネシウムが多く結石リスク増。軟水を使用すること
- 尿をアルカリ性にするもの:野菜・炭酸水など。ストルバイト結石がある場合に特に注意
- 猫に有毒な食べ物:玉ねぎ・ニンニク・ブドウ・レーズン・チョコレート・キシリトール含有食品は絶対に与えない
猫の泌尿器疾患:緊急時の対処法
⚠️ 緊急時の対処法
「おしっこが出ない・いきんでも出ない」「ぐったりして動かない・嘔吐を繰り返す」これらの症状は尿道閉塞または重篤な腎機能低下のサインです。命に関わる緊急事態として、今すぐ動物病院または夜間救急病院に電話してください。「様子を見よう」「明日まで待とう」は絶対にしてはいけません。
夜間・休日に救急受診すべき症状
以下の症状が見られた場合は夜間・休日を問わず今すぐ夜間救急病院を受診してください。
- 何度もトイレに行くがおしっこが全く出ない・12時間以上出ていない
- ぐったりして動かない・呼びかけに反応が弱い
- 嘔吐を繰り返している(特に泌尿器症状と同時に)
- お腹(膀胱部)を触ると激しく痛がる
- 食欲が全くなく元気がない状態が12時間以上続く
数日以内に受診すべき症状
緊急ではないが、早めに受診してください。
- 血尿が1日以上続く(ピンク・赤・茶色の尿)
- 頻尿が2日以上続く(血尿なし)
- 陰部を頻繁にしつこくなめる
- トイレ以外での粗相が増えた
- 尿の色が明らかに異常(白く濁るなど)
受診時に持参すると役立つもの
可能であれば以下を準備して受診すると診断がスムーズになります。
- 新鮮な尿サンプル(採取後2時間以内・清潔な密閉容器に入れる)
- 症状の記録メモ(いつから・何回トイレに行ったか・尿の色・食欲・飲水量)
- 普段のフード名と量(療法食・サプリメントも含む)
- 最後の受診日と処方薬の内容(お薬手帳・処方箋のコピーがあれば)
- 過去の検査結果(血液検査・尿検査の結果をスマホで写真に撮っておく)
猫の泌尿器疾患の管理カレンダー
💡 ポイント
泌尿器疾患の管理は「日常観察→定期検査→適切な治療→再発予防」のサイクルが基本です。年齢・疾患の種類によって検査頻度が異なります。下の管理カレンダーを参考に、愛猫に合ったケアプランを獣医師と一緒に作成しましょう。
| 対象 | 推奨検査頻度 | 推奨内容 |
|---|---|---|
| 健康な若猫(〜6歳) | 年1回 | 一般健康診断・尿検査 |
| 去勢済みオス猫(1〜7歳) | 年1〜2回 | 尿検査・尿pH確認・体重管理 |
| FLUTD既往歴あり | 2〜3か月に1回 | 尿検査・環境ストレス評価 |
| シニア猫(7歳以上) | 年2回 | 血液検査・尿検査・血圧測定 |
| 慢性腎臓病(CKD) | 1〜3か月に1回 | 血液検査・尿検査・血圧・体重 |
| 尿路結石治療中 | 1〜2か月に1回 | 尿検査・エコー・レントゲン |
日常的なモニタリング(毎日できること)
以下のチェックを毎日の習慣にしましょう。
- トイレの回数:正常は1日2〜4回。増えたら要注意
- 尿の色:正常は薄い黄色〜黄色。赤・ピンク・白濁は受診サイン
- 尿の量:砂トイレは固まりの数・大きさを確認
- 飲水量:急に増えたら腎臓病・糖尿病の可能性
- 食欲・体重:月1回の体重測定が早期発見につながる
猫の泌尿器疾患:品種・遺伝的素因と発症リスク
💡 ポイント
猫の泌尿器疾患は特定の品種に発生リスクが高い疾患があります。品種の遺伝的特徴を知ることで、早期発見・予防管理に役立てることができます。
品種別の泌尿器リスク
| 品種 | 高リスクな疾患 | 注意点 |
|---|---|---|
| ペルシャ・エキゾチックショートヘア | 多発性嚢胞腎(PKD) | 遺伝子検査で事前確認可能。進行すると腎不全 |
| メインクーン・ラグドール | 多発性嚢胞腎・尿路結石 | 大型猫種は結石も発生しやすい傾向 |
| スコティッシュフォールド | 骨軟骨異形成症に伴う慢性疼痛→ストレス性膀胱炎 | 疼痛管理がストレス性膀胱炎の予防につながる |
| アビシニアン・ソマリ | 腎アミロイドーシス | 若齢〜中年齢でも腎不全が起きることがある |
| バーミーズ | シュウ酸カルシウム結石 | 中年齢以降の定期尿検査が特に重要 |
| 混血猫(雑種) | 特発性膀胱炎・ストルバイト結石 | 品種問わず最多。去勢オス猫全般に注意 |
多発性嚢胞腎(PKD)について
多発性嚢胞腎はペルシャ系猫に最も多い遺伝性腎疾患です。
腎臓に嚢胞(液体の詰まった袋)が多数形成され、徐々に腎臓の正常組織を圧迫・破壊します。
遺伝形式は常染色体優性遺伝(親の一方が罹患していると50%の確率で子に遺伝)です。
超音波検査で10か月齢以降に診断可能で、遺伝子検査も利用できます。
PKDと診断された場合でも、慢性腎臓病と同様の管理(低リン食・水分補給・定期検査)で進行を遅らせることができます。
猫の泌尿器疾患に関する最新研究トピック
💡 ポイント
猫の泌尿器疾患に関する研究は近年急速に進んでいます。特にSDMA(腎臓病の早期マーカー)の導入・フェロモン療法の科学的エビデンス・腸内細菌と腎臓病の関係など、新しい知見が臨床に活かされています。
SDMA:腎臓病の超早期マーカー
SDMA(対称性ジメチルアルギニン)は従来のクレアチニンより早い段階で腎機能低下を検出できる血液マーカーです。
クレアチニンが上昇するのは腎機能が75%低下してからですが、SDMAは腎機能が25〜40%低下した段階で異常値を示します。
これにより従来より数か月〜1〜2年早く慢性腎臓病を発見できる可能性があります。
2015年以降、多くの動物病院で定期血液検査のパネルに組み込まれています。
シニア猫の定期健診でSDMAを含む血液検査を選択することを推奨します。
腸内細菌叢と腎臓病の関係
近年の研究で、腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)が腎臓病の進行に影響することが示されています。
腸内細菌が産生するウレアーゼという酵素が尿素を分解してアンモニアを生成し、腎臓に負担をかけることがわかっています。
また、腸粘膜のバリア機能低下により細菌毒素が血中に流入し、腎臓の炎症を悪化させる可能性があります。
プロバイオティクス(乳酸菌・腸内環境改善サプリメント)が腎臓病の補助療法として研究されています。
ただし、現時点では補助的な位置付けであり、主治医に相談してから使用してください。
ラパマイシン(mTOR阻害薬)と腎臓保護
抗老化薬として注目されているラパマイシンが、多発性嚢胞腎の進行抑制に効果を示す研究報告が出ています。
また、猫の慢性腎臓病全般に対する腎保護効果も研究されています。
現時点では実験段階で一般臨床では使用されていませんが、今後の治療選択肢として注目されています。
よくある質問(FAQ)
Q. 猫の泌尿器トラブルの症状にはどのようなものがありますか?
頻尿・血尿・排尿困難(トイレで長時間いきむ)・おしっこが出ない(尿閉)・粗相・外陰部や包皮を頻繁に舐めるなどが主な症状です。
なかでも「おしっこが全く出ない」状態は緊急症のサインで、すぐに受診が必要です。
Q. 猫の泌尿器疾患はどのような種類がありますか?
猫下部尿路疾患(特発性膀胱炎・尿路結石・尿道栓子・細菌性膀胱炎)、腎臓病(慢性腎臓病・急性腎障害)、尿道閉塞などが代表的です。
オス猫は尿道が細いため、尿閉のリスクが特に高くなります。
Q. 猫の泌尿器トラブルの緊急サインは何ですか?
トイレで何度もいきんでもおしっこが全く出ない・ぐったりしている・食欲がない・嘔吐を繰り返すなどの場合は尿閉の可能性があります。
この状態は48時間以内に命にかかわるため、深夜でも夜間救急を受診してください。
Q. 猫の泌尿器疾患の予防方法は?
水分を多く摂らせる(ウェットフード・流水給水器の活用)、ストレスを減らす環境づくり(トイレの数・清潔さ・隠れ場所の確保)、適切なフード選び、年1〜2回の尿検査が有効な予防策です。
特に7歳以上の猫は定期的な血液検査と組み合わせた健康管理が重要です。
Q. 猫がトイレ以外でおしっこをするのはなぜですか?
医学的原因(膀胱炎・結石・尿道閉塞)とストレス・行動的原因(トイレの清潔さ・場所・砂の種類への不満・縄張り問題)の両方が考えられます。
まず動物病院で尿検査を行い医学的原因を除外してください。
検査で異常がない場合はトイレ環境の改善(個数増加・砂の変更・場所の移動)を試みましょう。
Q. 猫の尿が臭いのですが病気ですか?
猫の尿はもともとアンモニア臭が強いため、通常の状態でも臭いを感じることがあります。
ただし「以前より臭いが強くなった」「甘い臭い(アセトン臭)がする」「腐敗したような強烈な臭い」は異常のサインです。
甘い臭いは糖尿病・ケトアシドーシスの可能性、腐敗臭は細菌性膀胱炎・膿尿の可能性があります。
臭いの変化が2〜3日以上続く場合は尿検査を受けることをお勧めします。
Q. 猫の水飲み量が急に増えましたが大丈夫ですか?
急激な飲水量の増加(多飲)は腎臓病・糖尿病・甲状腺機能亢進症・子宮蓄膿症などの重要な疾患サインです。
「よく水を飲むようになった」と気づいたら2〜3日観察して変化がない場合は受診してください。
特に7歳以上のシニア猫・避妊手術をしていないメス猫は早めの受診が推奨されます。
多飲多尿(水を飲む量と尿量の両方が増える)が同時に起きている場合は内分泌疾患の可能性が高く、血液検査・尿検査が必要です。
Q. 去勢・避妊手術は泌尿器疾患の予防になりますか?
去勢手術はオス猫の生殖器関連疾患(前立腺肥大・精巣腫瘍)の予防には有効ですが、泌尿器疾患全般の予防という点では注意が必要です。
去勢済みのオス猫は尿道が細くなる傾向があり、尿道閉塞のリスクが去勢していないオス猫より高くなるという報告があります。
避妊手術はメス猫の子宮蓄膿症予防に明確な効果がありますが、泌尿器症状の直接的な予防効果は限定的です。
去勢・避妊後はフードの切り替え(避妊去勢猫用)と体重管理が泌尿器疾患予防につながります。
猫の泌尿器疾患:ストレスと環境エンリッチメントの関係
💡 ポイント
猫の特発性膀胱炎(FIC)の発症には「ストレス」が深く関与しています。引っ越し・新しいペット・家族構成の変化・工事音など環境の変化がトリガーになります。環境エンリッチメント(猫が精神的に満足できる環境づくり)は薬と同等の予防効果があることが研究で示されています。
ストレスが膀胱炎を引き起こすメカニズム
猫は環境の変化に非常に敏感な動物です。
ストレスを感じると交感神経が活性化し、副腎皮質からコルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。
このストレス反応が膀胱の粘膜保護層(GAGレイヤー)を傷つけ、炎症を引き起こすと考えられています。
特発性膀胱炎は「原因不明」と言われますが、約半数がこのストレス関連メカニズムで説明できます。
室内飼いの猫・多頭飼いの猫・肥満の猫は特発性膀胱炎のリスクが高いとされています。
主なストレス要因
以下のような変化がストレスのトリガーになります。
- 環境の変化:引っ越し・模様替え・新しい家具・リフォーム工事音
- 家族構成の変化:新しいペット(犬・猫)・赤ちゃんの誕生・家族の入院・離婚
- ルーティンの変化:飼い主の帰宅時間の変化・フードの急な変更・留守番の増加
- 社会的ストレス:多頭飼いでの縄張り争い・他の猫に食事やトイレを占領される
- 感覚刺激:大きな音(花火・雷)・外の見知らぬ猫・獣医師への通院
環境エンリッチメントの具体的な方法
環境エンリッチメントとは、猫が「猫らしい行動」を自然に取れる環境を整えることです。
トイレ環境の改善
- 猫の数+1個のトイレを用意する(2頭飼いなら最低3個)
- トイレは静かで人の動線から外れた場所に置く
- 1日1〜2回の砂の清掃・週1回の全量交換を目安にする
- 蓋つきトイレと蓋なしトイレの両方を試して猫の好みを確認する
- 砂の深さは5cm以上が理想(浅すぎると使いたがらない猫もいる)
給水環境の改善
- 複数箇所に水飲み場を設置する(フードボウルとは別の場所に)
- 流水式給水器(ウォーターファウンテン)は飲水量を増やす効果が高い
- 水は毎日新鮮なものに交換する
- ガラス・陶器・金属など複数素材のボウルを試す(プラスチックを嫌う猫もいる)
- フードに水分を混ぜる・ウェットフードを活用する
縄張りと隠れ場所の確保
- 高い場所(キャットタワー・棚)を設置して縄張りを立体的に広げる
- 隠れられる場所(ダンボール箱・猫ベッド・テントなど)を複数用意する
- 多頭飼いの場合は各猫が逃げ込める「聖域」を確保する
- 窓から外が見える場所を作る(バードウォッチング台として機能する)
遊びと運動
- 1日2回・各10〜15分の遊び時間を設ける
- じゃらし玩具・フェザーワンド・猫じゃらしなどインタラクティブな玩具を使う
- パズルフィーダー・フードボールで食事に刺激を加える
- 猫草・またたびで嗅覚を刺激する
フェリウェイ(合成フェロモン)の活用
フェリウェイは猫が顔をこすりつける際に分泌するフェイシャルフェロモンを合成したものです。
このフェロモンは猫に「ここは安全な場所」というシグナルを送り、ストレスを軽減する効果があります。
コンセント型ディフューザー・スプレー・首輪タイプがあります。
引っ越し・新しいペットの導入・通院前などのストレスイベント前から使用すると効果的です。
特発性膀胱炎の再発予防にも有効とされており、獣医師から勧められることがあります。
猫の泌尿器疾患:多頭飼いでの注意点
💡 ポイント
多頭飼いの環境は縄張り争い・トイレの独占・食事の競争がストレスになり、特発性膀胱炎のリスクが高まります。「どの猫がトイレを使っているか」「誰が血尿を出しているか」の把握も難しくなります。多頭飼いでは各猫を個別に観察できる環境づくりが特に重要です。
多頭飼いで泌尿器疾患に気づきにくい理由
複数の猫が同じトイレを共有している場合、どの猫が異常な排尿をしているか判断が難しくなります。
「トイレに血が混じっていた」「砂が固まらない(尿量低下)」「回数が増えた」という変化を猫ごとに追跡するのは困難です。
症状に気づかないまま尿道閉塞が進行してしまうケースもあります。
多頭飼いでの対策
- トイレを各猫専用に分ける:1頭ずつ個別のトイレを使うよう配置を工夫する
- 食事も個別に管理する:食事のときに別室に分けて1頭ずつ摂取量を確認
- 体重管理を個別に行う:月1回体重を測り急激な変化がないか確認
- 新しい猫の導入は段階的に:突然同じ部屋に放たず、2〜4週間かけて徐々に慣らす
- 縄張りを立体的に分ける:棚・タワーで高さ方向に縄張りを分散させる
オス猫同士の多頭飼いは特に注意
去勢済みオス猫同士の多頭飼いは縄張り意識が残ることがあります。
特に体格差がある場合、弱い方の猫がトイレを避けるようになる「トイレ回避行動」が起きることがあります。
これが引き金となって膀胱炎・尿道閉塞につながることがあるため、トイレの使用状況を個別に把握することが大切です。
猫の泌尿器疾患:手術が必要になるケース
💡 ポイント
大部分の猫の泌尿器疾患は内科治療(薬・療法食・点滴)で管理できますが、①結石が大きく薬で溶けない②尿道閉塞を繰り返す③腫瘍がある などの場合は手術が必要になります。手術のリスク・費用・回復期間を事前に獣医師から説明を受けて理解しておきましょう。
手術が検討される主な状況
1. シュウ酸カルシウム結石
シュウ酸カルシウム結石は薬で溶かすことができません。
結石が大きい場合・尿道を塞いでいる場合は外科的摘出(膀胱切開術)が必要です。
膀胱切開術は全身麻酔下で行われ、手術時間は約60〜90分です。
入院期間は通常2〜4日で、回復後は再発予防の療法食が終生必要になります。
2. 尿道閉塞の繰り返し(会陰尿道瘻術)
尿道閉塞を3回以上繰り返す・カテーテル処置が困難な場合は、会陰尿道瘻術(PU手術)が検討されます。
これは尿道の細い部分を切除して尿道口を広げる手術です。
手術後は尿道閉塞のリスクが大幅に低下しますが、細菌性膀胱炎のリスクが高まるため定期的な尿検査が必要です。
費用は病院により異なりますが、70,000〜120,000円程度が目安です。
3. 膀胱腫瘍
膀胱腫瘍は比較的まれですが、老齢猫(10歳以上)では発生することがあります。
血尿・頻尿・排尿困難が長期間続く場合はエコー・膀胱鏡・細胞診で腫瘍を除外することが重要です。
腫瘍の種類・大きさ・位置によって外科切除・化学療法・放射線治療の組み合わせが決められます。
手術前後の注意点
手術を受ける際は以下の点を獣医師に確認しましょう。
- 術前検査:血液検査・尿検査・レントゲン・エコーで全身状態を確認
- 絶食・絶水時間:全身麻酔前は通常12時間の絶食・水は2〜4時間前まで
- エリザベスカラー:術後の傷口の自傷を防ぐため2〜4週間装着
- 術後の食事:消化しやすい食事から再開し、術後2〜3日は摂食量が減ることが多い
- 抜糸:吸収糸の場合は不要、非吸収糸の場合は7〜14日後に受診
猫の泌尿器疾患:老齢猫(シニア猫)特有の注意点
💡 ポイント
7歳以上のシニア猫は慢性腎臓病(CKD)・甲状腺機能亢進症・糖尿病などの内分泌疾患の発症率が高まります。これらの疾患は泌尿器症状(多尿・頻尿・失禁)として現れることが多く、「年のせいだ」と見逃されやすいです。シニア猫の泌尿器症状は必ず血液検査と組み合わせて評価してください。
シニア猫に多い泌尿器関連疾患
慢性腎臓病(CKD)
15歳以上の猫の50〜80%が慢性腎臓病を抱えているとされます。
初期症状は多尿・多飲(水をよく飲む・尿量が増える)で始まり、徐々に食欲低下・体重減少・嘔吐・脱水が加わります。
IRISステージ1〜4に分類され、ステージによって治療方針が異なります。
定期的な血液検査(BUN・クレアチニン・SDMA)と尿検査(尿比重・タンパク尿)が早期発見の鍵です。
甲状腺機能亢進症
10歳以上のシニア猫に多い内分泌疾患で、甲状腺ホルモンの過剰分泌が起こります。
症状は食欲増加にもかかわらず体重減少・多飲多尿・活動性増加・嘔吐・下痢などです。
多尿症状が腎臓病と似ているため混同されやすく、両疾患を合併していることもあります。
甲状腺ホルモン(T4)の血液検査で診断します。
治療は内服薬(チアマゾール)・放射性ヨード治療・手術があります。
糖尿病
猫の糖尿病は肥満・高齢・オス猫に多い疾患です。
多尿・多飲・食欲増加にもかかわらず体重減少が三大症状です。
血糖値測定・尿検査(尿糖・ケトン体)で診断します。
インスリン注射が主な治療で、飼い主が自宅でインスリンを投与することになります。
早期に発見してインスリン治療を開始することで、糖尿病が「寛解」する(インスリン不要になる)ケースもあります。
シニア猫の定期健診スケジュール
7歳以上のシニア猫は以下のスケジュールでの定期健診を推奨します。
- 7〜10歳:年2回の血液検査・尿検査・血圧測定・体重測定
- 11〜14歳:年3回の血液検査・尿検査・血圧・体重・甲状腺ホルモン検査
- 15歳以上:3〜4か月に1回の総合チェック(血液・尿・血圧・体重・エコー)
「元気そうだから大丈夫」ではなく、症状が出る前に定期検査で早期発見することが最も重要です。
シニア猫の給水・排尿サポート
老齢猫は腎機能低下に伴い尿量が増えるため、脱水が起きやすくなります。
以下のサポートで水分補給を助けましょう。
- 複数箇所に水飲み場を設置する(体が痛くてもどこかで飲めるように)
- 流水式給水器を活用する
- ウェットフードをメインにする
- 食事にぬるま湯を少量混ぜて水分量を増やす
- トイレは入りやすい浅型・段差なしのものにする(関節炎があると段差が障壁になる)
- 寝床の近くにトイレを設置する(遠くまで移動できない場合がある)
猫の泌尿器疾患:自宅でできるモニタリング方法
💡 ポイント
泌尿器疾患の早期発見は「日常の小さな変化」に気づくことから始まります。毎日のトイレ掃除の際に排尿量・色・回数を確認する習慣をつけることが、早期発見の最大の武器です。スマートフォンのメモアプリにトイレ記録をつけておくだけで、受診時の情報収集が格段に楽になります。
尿の色でわかること
正常な猫の尿は薄い黄色〜黄色です。
以下の色の変化は異常サインです。
| 尿の色 | 考えられる原因 | 対応 |
|---|---|---|
| 薄い黄色〜黄色 | 正常 | 経過観察 |
| ほぼ無色(水のよう) | 多尿・腎臓病・糖尿病・尿崩症 | 数日以内に受診 |
| 濃い黄色〜オレンジ | 脱水・濃縮尿・肝臓疾患 | 飲水を促す・2日以上続くなら受診 |
| ピンク・赤 | 血尿(膀胱炎・結石・腫瘍) | 数日以内に受診(繰り返しは早急に) |
| 茶色〜暗赤色 | 重篤な血尿・横紋筋融解症・溶血 | 今すぐ受診 |
| 白く濁る | 細菌性膀胱炎・尿道栓子・膿尿 | 数日以内に受診 |
自宅での尿採取方法
受診前に尿サンプルを採取できると診断がスムーズになります。
以下の方法で採取してください。
- トイレの砂を全て取り出してきれいに洗い、乾燥させる
- 砂の代わりに市販の「採尿用トレイシート」または清潔なビニール袋・ラップを敷く
- 猫がトイレで排尿した際、シリンジや清潔なスプーンで尿を採取する
- 密閉できる清潔な容器(ジップロックなど)に入れ、採取時刻を記録する
- 採取後2時間以内に持参する(それ以上経過すると検査結果が変わる)
難しい場合は「採尿キット貸出」を行っている動物病院もあります。受診前に電話で確認しましょう。
体重モニタリングの重要性
体重の変化は泌尿器疾患・内分泌疾患の重要な早期サインです。
月1回の定期的な体重測定を習慣にしましょう。
人間用の体重計でも「まず人間だけで乗り、次に猫を抱っこして乗り、その差を計算する」方法で測定できます。
体重が1か月で5%以上変化した場合は受診のサインです。
例:5kgの猫の場合、250g以上の増減で受診を検討してください。
飲水量の測定方法
腎臓病・糖尿病・甲状腺機能亢進症では飲水量が増加します。
多飲多尿が疑われる場合は以下の方法で測定してください。
- 朝に水容器に入れる水の量を計量カップで測定して記録する
- 翌朝、残りの水の量を測定する
- 差分が1日の飲水量(別途ウェットフード由来の水分を除く)
- 目安:体重1kgあたり40〜60ml/日が正常範囲。70ml/日以上は多飲の可能性
例:4kgの猫で160〜240ml/日が正常。280ml/日以上が続く場合は受診を検討してください。
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