
猫の慢性膵炎とは?
猫の膵臓は消化酵素やホルモンを分泌する重要臓器ですが、膵炎とは膵臓に炎症が起こる病気です。慢性膵炎は急性膵炎とは異なり、膵臓の組織が繰り返し傷ついて線維化し、長期的に機能低下を招く病態です。獣医療では非常に多くの猫で膵炎が確認されており、「慢性膵炎は猫で一般的にみられる複雑な病気」と報告されています 。症状があいまいなことも多く、発見が難しいため、飼い主さんは日頃から注意深く愛猫の変化を観察しましょう。
原因とリスク要因
猫の膵炎の原因はほとんどの場合不明(特発性)であり、実に95%以上が明確な原因を特定できないとされています 。加齢や性別、品種による素因は明らかではなく、遺伝性・感染性・薬剤性など特定の誘因との関連も証明されていません。ただし、次のような要因がリスクとして考えられています。
• 併存疾患:慢性腸炎(IBD)や胆管炎、肝疾患、糖尿病など他の疾患を同時に抱える猫では、膵炎が起こりやすくなります。特に膵炎・胆管炎・腸炎が合併する「三臓器炎」では、膵炎発症が非常に多く報告されており、ある研究では47匹中27匹が三臓器炎だったと報告されています 。膵炎と腸炎の併発例ではコバラミン(ビタミンB12)不足が生じやすく、その場合はコバラミン補充が推奨されます 。
• 食事内容:高脂肪食が慢性膵炎のリスクになる可能性も指摘されています。ただし猫の場合、犬ほど脂肪制限の明確なエビデンスはなく、まだ議論が分かれています 。しかし糖尿病の猫などでは低脂肪食への切り替えが望ましく、実際、慢性膵炎を伴う糖尿病猫では低脂肪食が有用とされています 。
• ストレス:猫のストレス自体が直接膵炎を引き起こす明確な証拠はありません。ただし、ストレスで食欲不振や脱水、脂肪肝などが起こると膵臓への負担が増すため、ストレスケアは間接的に膵臓の健康を維持するうえで重要です。
三臓器炎
膵炎・胆管炎・腸炎が同時に起こる状態を「三臓器炎(Triaditis)」と呼びます。猫では膵臓、胆管(肝臓近くの胆汁の通り道)、腸管が連携している解剖学的構造のため、1つの臓器の炎症が他臓器に波及しやすいです 。三臓器炎になると全体的な炎症反応が強くなり、治療にはそれぞれの炎症に対処する必要があります。胆管炎や腸炎の治療としてステロイド剤など免疫抑制薬が用いられることも多いため、膵炎治療でも獣医師と相談のうえ包括的な管理が求められます。
主な症状
猫の膵炎の症状は非常に多様かつ非特異的です。典型的な兆候としては元気消失(無気力)や食欲不振が最も多くみられ、50~100%の猫に見られます 。その他、嘔吐(35~52%)や下痢(11~38%)、体重減少、脱水、脱力感などもよく認められます 。膵炎の痛みは猫が隠しやすいため、飼い主さんは以下のような変化に注意しましょう。
• 元気・活気の低下、ぐったりした様子
• 食事量の減少や食べない
• 嘔吐を繰り返す
• 便が緩い・下痢(とくに脂肪便)
• 体重減少、筋肉の痩せ
• 脱水症状(皮膚をつまむと戻りが遅い、歯茎が白っぽいなど)
これらの症状はすべての猫に起こるわけではなく、膵炎でも元気がある程度ある場合もあります。症状が出ていないときでも定期健康診断や血液検査で異常をチェックすることが大切です。
黄疸・末期症状
膵炎が進行して胆道が詰まると、体や目の白目が黄色くなる黄疸が見られることがあります。黄疸が認められた場合、肝臓にも大きな負担がかかっている可能性が高く、急いで治療する必要があります。また末期になると、激しい痛みや重度の脱水、衰弱が進行します。できる限りの鎮痛・点滴・栄養管理を行い、安楽に過ごせる環境を整えましょう。
診断
膵炎の診断には血液検査や画像検査を組み合わせますが、特有のマーカーはなく、複数の検査結果を総合的に判断します。血液検査では、膵炎の際に 膵臓由来の酵素(リパーゼなど)の上昇や、関連する肝酵素・総ビリルビンの上昇、脱水によるBUN・クレアチニン上昇などが見られることがあります 。中でも猫専用の**膵リパーゼ測定検査(Spec fPL)**は感度・特異度が高く、結果が異常なら膵炎の可能性が高いとされています 。ただし軽症例では陰性になることもあるため、他検査と合わせて判断します。
画像検査では超音波検査がよく用いられます。膵臓の腫大や周囲脂肪の浮腫、膵周囲液の貯留などがあれば膵炎を示唆しますが、軽症例では見逃されることもあります。確定診断には膵臓の組織検査(生検)が必要ですが、開腹や内視鏡下生検は侵襲的なため、一般的には緊急時や他の方法で判断がつかない場合の最後の手段となります。
治療・ケア
慢性膵炎に対する特異的治療法はありませんが、サポート療法で症状管理と再発防止を図ります。以下のような対策が重要です。
• 水分補給:膵炎では脱水になりやすいため、点滴などで十分な水分補給を行います。水分をこまめに摂れるよう、常に新鮮な水を用意しましょう。
• 鎮痛・制吐剤:嘔吐や痛みがある場合は、獣医師の指導で制吐剤(マロピタントなど)や鎮痛剤(ブプレノルフィンなど)を使用します。特に膵炎の痛みは猫が隠しがちなので、見た目でわからなくても痛み緩和を行うことが大切です。
• 食事療法:消化に負担の少ない食事に切り替えます。具体的には低脂肪・高消化性の療法食が推奨されることが多く、猫用の消化器ケア用療法食(例:ヒルズi/d 低脂肪缶など)が用いられます 。ヒルズのi/d療法食は「優れた消化性と混合食物繊維」で腸内環境を整え、消化器症状のケアに役立つと科学的に証明されています 。療法食は動物病院で入手できるほか、ネットで購入できる場合もあります。
• 栄養・サプリメント:慢性腸炎を伴う猫ではコバラミン(ビタミンB12)欠乏が起こりやすく、コバラミン注射やサプリメントで補給します 。また、膵臓機能維持のために市販の補助サプリメントを併用することも検討されます(後述の商品紹介参照)。必要に応じて、整腸剤やプロバイオティクスで腸内環境を整えることもあります。
• 免疫抑制療法:膵炎や併発する腸炎・胆管炎に免疫異常が関与すると考えられる場合、プレドニゾロンなどステロイド剤を投与して炎症を抑えることがあります 。使用には副作用リスクもあるため、獣医師と相談しながら慎重に行います。
• 併存疾患の管理:糖尿病が併発している場合はインスリン療法と食事管理が必要です。肝臓病や腎臓病がある場合はそれぞれに応じた治療を併行します。
獣医師のアドバイス
獣医師としては、慢性膵炎は「生活上のケア」と「定期検査」が非常に重要と考えます。症状が落ち着いているうちは定期的に血液検査や尿検査を行い、膵酵素や肝酵素、コバラミン値などをチェックします。また食事はできるだけ回数を分けて少量ずつ与え、腹部への負担を減らす工夫をしましょう。ストレス軽減のために環境を整えたり、こまめにスキンシップして安心させることも大切です。飼い主さんの不安には十分寄り添い、不明点は遠慮せず獣医師に相談してください。
予後(余命)・回復期間
慢性膵炎そのものは緩やかに進行するため、適切なケアで生活の質を保てる場合が多いとされています 。重度の急性期発作で臓器不全に至る場合を除けば、長期的な余命に直ちに影響するケースは少ないでしょう。一方で、急性膵炎の死傷率は重症度によって報告では9~41%に及ぶとされており 、特に多臓器不全や合併症を伴う場合は危険度が高まります。一般に、軽度から中等度の膵炎であれば数日~数週間で改善し、定期的に再発予防をしながら管理することが可能です。末期に近づくほど症状が増悪するため、末期徴候に気づいたら安楽死も検討する必要があります。慢性膵炎では生活の質(QOL)をいかに保つかが重要です。
猫の慢性膵炎ケアにおすすめのサプリ・療法食3選
症状管理をサポートするための製品も活用できます。ここでは猫の膵炎ケアに役立つおすすめのサプリメント・療法食を3つ紹介します。
順位 | 商品名 (ブランド) | 製品タイプ | 主な効果・特徴 | 主要成分 | 容量・価格 | 購入難易度 | おすすめポイント |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1位 | インスラクト (日本全薬工業) | サプリメント | 膵臓の健康維持 血糖値・脂質代謝サポート | サラシア、サポニン コロソリン酸、ビオチン クロム | 100粒入り(30日分) 約4,900円 | ⭐⭐⭐ | 総合的な膵臓サポート 手軽に購入可能 |
2位 | コバリン (VetPlus) | サプリメント | ビタミンB12・葉酸補給 食欲・体重維持 | コバラミン(B12)0.5mg 葉酸 0.2mg | 60カプセル(1-2ヶ月分) 約5,280円 | ⭐⭐ | 専門獣医師推奨 長期投与に適している |
3位 | ヒルズ 猫用i/d 低脂肪 (缶詰) | 療法食 | 消化器ケア 消化性向上・腸内環境改善 | 混合食物繊維 ビタミンB群 電解質 | 156g×24缶セット 約10,000円 | ⭐⭐ | 嗜好性が高い 水分補給も同時に可能 |
• インスラクト(1位):膵臓の健康維持を目的としたサプリメントです。主成分のサラシアやクロムなどは血糖値や脂質の代謝をサポートする作用が期待でき、総合的に膵臓負担を軽減します。獣医師の視点でも「膵臓のサポートに役立つ」とされ、実際に糖尿病や膵炎の猫に使われる例が見られます。摂取しやすい錠剤で、Amazonやペット通販で手軽に購入できます。
• コバリン(2位):膵炎や腸疾患ではビタミンB12吸収が低下しやすく、食欲不振や貧血を招くことがあります。コバリンはビタミンB12と葉酸をバランス良く補うカプセルで、獣医師も「慢性腸炎や膵炎の猫には長期投与が必要」と推奨します 。動物病院専用品ですが、信頼できるサプリとして多くの専門家が支持しています。定期的な投与で食欲や体重の維持に貢献します。
• ヒルズ 猫用i/d 低脂肪(3位):膵炎の猫に配慮した低脂肪処方の療法食です。ヒルズ独自のプレバイオティクス繊維配合で消化性を向上させ、消化管症状のケアに役立つことが科学的に証明されています 。缶詰は嗜好性が高く、水分補給にもなるため、食欲が落ちている猫にも適しています。動物病院で購入できるほか、一部は公式サイトや通販でも取り扱いがあります。
これらの商品は膵炎そのものを治す薬ではありませんが、膵臓への負担軽減や栄養補給に役立ちます。獣医師の指導のもと、療法食やサプリを適切に併用することで、愛猫の回復をサポートしましょう。
まとめ
猫の慢性膵炎は原因が不明なことが多く早期診断が難しい一方で、継続的なケアと食事管理で猫の生活の質を大きく改善できる病気です。元気消失や食欲不振などの兆候を見逃さず、定期検診で血液検査・画像検査を受けることが重要です。診断がついたら、水分補給・栄養管理・適切な薬剤治療に加えて、低脂肪で高消化性の療法食や補助サプリを活用しましょう。膵炎は単独だけでなく腸炎・胆管炎・糖尿病など合併症も起こりやすいため、獣医師と協力して総合的に治療・管理していくことが大切です。