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【獣医師監修|猫伝染性腹膜炎】FIPの原因と症状、3つの治療法(GS、レムデシビル、モルヌピラビル)について解説

【獣医師監修|猫伝染性腹膜炎】FIPの原因と症状、3つの治療法について解説

あなたの愛猫がFIPに罹った場合、どうしますか?

 FIPは猫にとって死の危険性がある感染症であり、猫の飼い主様が理解しておくべき病気です。

数年前まで、これといった治療法がなく、致死率は100%でしたが、GSと呼ばれる治療薬の発見によってFIPは“治る病気“へと変化しました。

本記事では、FIPの原因、症状、そして現在行われている3つの治療法(GS、レムデシビル、モルヌピラビル)について詳しく説明します。

FIPとは

FIP(伝染性腹膜炎)は、一般に猫に感染する猫コロナウイルス性が突然変異したことで起こる全身の炎症性疾患で、通常は腹膜や胸膜の炎症を引き起こします。

この病気は、世界中の猫に感染する可能性があり、特に若い猫やストレスを受けた猫、免疫抑制状態にある猫が感染しやすいとされています。

無治療の場合、ほとんどの猫が病気の数週間から数ヶ月後に亡くなります。

FIPの原因、感染経路

FIPは猫コロナウイルスという一種のウイルスによって引き起こされます。 

猫コロナウイルス自体には、多くの猫が生涯で一度は感染しますが、その大半は無症状または軽度の症状にとどまります。

しかし、一部の猫では猫コロナウイルスが突然変異を起こし、この突然変異したウイルスがFIPを引き起こすと考えられています。

感染経路としては、感染猫の唾液や排泄物に含まれるウイルスを介して他の猫に感染します。また、共有のトイレを使用することでウイルスが拡散しやすくなります。

FIPの症状

FIPの症状は初期段階では一般的には

  • 元気・食欲不振
  • 体重減少
  • 40℃以上の高熱

といった症状が見られます。

これらの症状は他の病気でも起こることがあるため、初期のFIPを診断することは難しいです。

病気が進行すると、より特異的な症状が現れ、病気のタイプ(ドライタイプまたはウェットタイプ)により症状が異なります。

最近では、ウェットタイプとドライタイプが両方とも起こる場合もあることが分かっています。

ドライタイプの症状

ドライタイプのFIPでは、体内に液体が蓄積することは少なく、炎症反応は主に体の特定の器官に限局します。

よく見られる症状は神経系の症状(失調、痙攣等)、黄疸、眼の炎症(うっ血、水疱等)です。

これらの症状は徐々に悪化し、無治療のままでいると猫の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

ウェットタイプの症状

ウェットタイプのFIPは体内(主に腹腔や胸腔)に液体が蓄積し、腹水や胸水が認められます。

腹水や胸水により、腹部の膨らみや呼吸困難などが見られることが多いです。

また、高熱や食欲不振といった全身症状も見られます。ウェットタイプは通常、ドライタイプよりも急速に進行するため、余命は短いです。

FIPの診断

FIPの診断は一般的には複数の手段を組み合わせて行われます。

血液検査で特定の血液マーカー(たとえば、炎症マーカーやアルブミンとグロブリンの比率等)の変化、体腔液の検査で特異的な細胞の増加や蛋白質の増加、PCR法によるウイルスの検出などが行われます。

これらの検査結果を組み合わせて、獣医師はFIPの可能性を評価します。

FIPの3つの治療法

FIPは、一般的には致命的な疾患であると認識されていますが、近年の化学的進歩により新たな治療法が開発されつつあります。

最も注目されている3つの治療法は

  • レムデシビル
  • GS-441524
  • モルヌピラビル

です。 

これらの治療法は、ウイルスの複製を阻害することで、FIPの進行を遅らせ、完治できる可能性があります。

FIPに対して、推奨されている治療はレムデシビル、GS-441524ですが、コストや入手性の観点からモルヌピラビルを使用する病院もあります。

ですが現状、FIPへの第1選択薬はGS-441524です。

レムデシビルによる治療

レムデシビルは、本来は人間のコロナウイルス感染症の治療薬として開発されましたが、その効果は猫のFIPにも及びます。

レムデシビルは基本的にGS-441524に細胞内浸透性を改善するためにリン酸基を追加したもので、FIPウイルスの生物学的な特性を利用してその生存を阻止します。

治療の初期段階では、高用量のレムデシビルを静脈内に投与し、その後は皮下療法に移行します。これにより、FIPウイルスに対する迅速な抗ウイルス効果を得ることが可能になります。

レムデシビルは元々エボラウイルスの治療に使用されていた抗ウイルス薬で、FIPに対しても効果が見られます。

レムデシビルは、ウイルスのRNA複製を阻害することで作用します。そのため、ウイルスの複製を防ぐことで、病気の進行を遅らせる可能性があります。

レムデシビルは、通常は点滴として静脈投与し、状態が落ち着けば皮下注射へと移行していぎす。

副作用としては、注射部位の痛みや炎症、食欲不振、嘔吐などが報告されています。

GS-441524による治療

GS-441524は、レムデシビルと同じく抗ウイルス薬で、FIPの治療に効果があることが報告されています。

GS-441524は経口薬として利用できるため、注射が難しい場合や家庭での投与を希望する飼い主にとっては好都合です。投薬は基本的に空腹時に行うことが推奨されています。

副作用としては肝酵素の上昇が報告されていますが、軽度の上昇であれば経過観察で問題ないことが多いです。

モルヌピラビルによる治療

モルヌピラビルは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に使われる抗ウイルス薬で、FIPへの適応が研究されています。

モルヌピラビルはウイルスが自己複製する際のエラー率を増加させることで、ウイルスの複製を阻止します。

しかし、まだFIPへの有効性については完全には確認されていません。副作用や投与方法についてもまだ完全には解明されていないため、使用は獣医師との相談の上、細心の注意を払うべきです。

現在行われているFIPを発症した猫へのモルヌピラビルの投与量は、FIPのタイプによって異なります。ウエットタイプやドライタイプのFIPの場合は、12時間ごとに体重1kgあたり4.5mgを与えます。

目に影響を及ぼすFIP(眼性)では、12時間ごとに体重1kgあたり8mgを、脳に影響を及ぼすFIP(神経性)では、12時間ごとに体重1kgあたり10mgを投与します。

また、モルヌピラビルはGSが効かなかった場合の「レスキュー療法」としても有効です。

レスキュー療法は症状が重い状態でも効果を期待できる治療法のことを指します。

その場合、12時間ごとに体重1kgあたり12-15mgの投与量で、副作用の報告はほとんどありません。この治療により、FIPの症状が和らぎ、生存率を高めることが期待されます。

GSとレムデシビルを組み合わせた治療法の報告(2023年度)

2023年度にGS-441524とレムデシビルの効果と安全性について、Cogginsらとgreenらの2つの研究が行われ、その結果が示されています。

Cogginsらの研究では、28頭のFIP猫が対象とされ、導入用量としてレムデシビル10~15mg/kgを24時間ごとに静脈内または皮下に4回投与しました。

その後、維持用量としてレムデシビル(6~15mg/kg 皮下注射)またはGS-441524(10~15mg/kg )を24時間ごとに少なくとも84日間継続投与しました。

6ヵ月間の治療の結果、24頭の猫が生存し(86%)、56%(14/25頭)で寛解が得られました。

治療成功の指標としては、治療期間の前半では発熱、胸水などといった症状が消失し、治療期間の後半ではグロブリン濃度が正常化し、体重が増加し続けたことが挙げられました。

一方greenらの研究では、ドライタイプまたはウェットタイプのFIPと診断された32頭の猫が対象とされました。

治療法としてはレムデシビルの静脈内投与、レムデシビルの皮下注射、GS-441524の経口投与が10~20mg/kgで併用されました。

治療を始めて1〜5日で、32頭中28頭(87.5%)で治療効果が認められました。

12週間の治療期間の結果、87.5%の猫で早期の治療効果が認められ、81.3%の猫が生存し、寛解状態にあったと報告されました。

これらの2つの研究結果から、レムデシビルとGS-441524の併用治療は、FIP治療において有効であると結論づけることができます。

ただし、治療開始時の症状や病態により、必要な投与量や治療期間は異なる可能性があります。また、副反応としては、レムデシビルの注射によって注射部位の不快感と皮膚刺激が副作用として報告されています。

FIPの予防法

FIPの予防法としては、感染源となる猫との接触を避ける、トイレを清潔を保つ、適度な運動と良質な食事で免疫力を高める等が有効です。

また、ストレスは免疫力を下げる一因となるため、猫がストレスを感じない生活環境を整えることも大切です。

ただし、現在のところFIPを完全に予防するワクチンや治療法は存在しないため、適切な管理と定期的な健康チェックが重要です。

本記事のまとめ

FIPは猫コロナウイルスによる疾患で、感染が進行すると食欲不振、元気消失といった症状から様々な特異的な症状に進行します。

現在、レムデシビル、GS-441524、モルヌピラビルの3つの治療法が開発されており、これらはウイルスの複製を阻害することで病気の進行を遅らせ、完治できる可能性があります。

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【参考文献】

•Green, J,  Syme, H,  Tayler, S.  Thirty-two cats with effusive or non-effusive feline infectious peritonitis treated with a combination of remdesivir and GS-441524. J Vet Intern Med.  2023; 1- 10. doi:10.1111/jvim.16804

•Coggins, SJ,  Norris, JM,  Malik, R, et al.  Outcomes of treatment of cats with feline infectious peritonitis using parenterally administered remdesivir, with or without transition to orally administered GS-441524. J Vet Intern Med.  2023; 1- 12. doi:10.1111/jvim.16803

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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