愛犬が痩せてきた、と感じたことはありませんか?普段と変わらない食生活なのに体重が減少していれば、とても心配になるでしょう。
犬は自分で不調を言葉にできないため、体重の変化は重要なサインです。
本記事では、犬の急な体重減少の原因となる病気や考えられる要因を獣医師監修のもと詳しく解説します。愛犬の健康を守るために、基礎知識やチェックポイントを押さえ、早めの対処につなげましょう。
犬の体重減少の基礎知識
犬の体重は、年齢や犬種、運動量によって個体差がありますが、理想的な体型は肋骨のラインがわずかに触れる程度です。
急に体重が落ちる、あるいはやせて肋骨が浮き出ている場合は、異常のサインと受け止めてください。
まずは食事量が足りているか、消化は正常か、また加齢による筋肉量の低下や生活環境の変化がないか確認しましょう。特に、1週間で体重が5%以上減ったり、1カ月で10%近く減った場合は注意が必要です。食欲が普通なのに体重だけが減少する「多食にもかかわらず痩せる」症状は、糖尿病や悪性腫瘍など病気の可能性が高いため、早めの受診が望まれます。
犬が急に痩せる原因として、病気や体調不良が隠れていることがあります。次項では、体重減少につながる主な病気について詳しく見ていきましょう。
急激な体重減少の主な原因となる病気
犬が急激に体重減少する原因は多岐にわたります。特に代表的な疾患として、次のようなものが挙げられます。
口腔・歯科の疾患
歯周病や口内炎など口腔内の疾患は、食事を痛がって摂りにくくなる原因です。
歯が抜けかかっていたり、歯茎が赤く腫れていたりすると、食べる量が自然と減り、体重減少につながります。口を触らせて嫌がる、よだれや口臭が強いといったサインも要注意です。日ごろから歯磨きを習慣化し、気になる症状があれば早めに動物病院で診てもらいましょう。
消化器疾患
腸炎や慢性胃腸炎、炎症性腸疾患(IBD)、膵炎、膵外分泌不全(EPI)などの消化器疾患も体重減少の原因になります。これらの病気では、栄養の消化・吸収がうまくいかなくなるため、食べても体重が増えない、あるいは痩せていくことがあります。下痢や嘔吐を繰り返すことが多く、便秘や食後の不快感の有無にも注意が必要です。
寄生虫感染
回虫、鉤虫、コクシジウムなどの内部寄生虫に感染すると、腸管での栄養吸収が妨げられ痩せていくことがあります。また、ノミやダニが大量に寄生すると貧血や脱水を招き、体重減少の要因になることもあります。特に子犬は母体からの感染もあるため、定期的な駆虫は欠かせません。
慢性腎臓病
慢性腎不全では、尿毒素が体内に蓄積し、食欲不振と体重減少を引き起こします。初期ではあまり目立たないものの、進行すると体内の水分バランスが崩れて脱水を起こし、さらに痩せやすくなります。多飲多尿や口臭、嘔吐なども見られるため、これらの症状と体重減少が併発する場合は要注意です。
肝臓疾患
慢性肝炎や肝硬変、肝臓への腫瘍(肝臓がん)など肝臓の病気も体重減少を招きます。肝臓は栄養を代謝し解毒する臓器ですが、機能が低下すると食欲不振・嘔吐・元気消失(嗜眠)などが現れ、徐々に痩せていきます。肝性脳症が出るとふらつきやけいれんを起こし、最終的には命にかかわる危険があるため、早期発見が大切です。
心臓病
心臓病になると全身に送り出す血液量が減少し、少しの運動でも疲れやすくなります。ポンプ機能が落ちると末梢血管に水分が溜まりやすくなる一方で、代謝が悪化してやせることがあります。また心不全が進行すると腹水がたまり見かけ上体重が増えることもありますが、実際には筋肉量が減っている場合があります。咳や呼吸困難、失神などの症状がないかも含め、注意深く観察しましょう。
悪性腫瘍(ガン)
犬の悪性腫瘍(リンパ腫、骨肉腫、肝臓がんなど)は進行すると食欲不振や全身衰弱を招き、体重減少を引き起こします。初期には目立った症状が無いことも多く、診断が遅れる場合があります。肝臓や肺など生命維持に重要な臓器に腫瘍ができると、痩せが著しくなるため早期発見が困難です。体調の変化やしこり、下痢や血便、嘔吐などが見られる場合は、早めの検査を検討してください。
糖尿病
糖尿病ではインスリンが不足して血糖値が高くなるため、多食多飲になりますが、筋肉の分解が進むために痩せていきます。摂取カロリーが十分でもエネルギーを利用できない状態になるため、体重が減るのです。典型的な症状は、よく水を飲む、多量のおしっこをする、食べているのに痩せるという“三大多飲多尿多食”です。これらの症状が認められる場合は、早めに血液検査で糖尿病の有無を確認しましょう。
内分泌疾患(アジソン病、クッシング症候群)
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は通常体重増加や多飲多尿を伴いますが、アジソン病(副腎皮質機能低下症)は逆に食欲不振と体重減少が進むことがあります。アジソン病では、元気消失、嘔吐、下痢、低血糖などの症状が現れ、放置すると急性アジソン危機を起こす危険があります。特に若い中型犬やコッカースパニエルなどに多く見られる病気です。
症状チェックリスト
愛犬の体重減少とあわせて、以下のような症状が出ていないか観察しましょう:
- 食欲:いつもの食事を食べるかどうか
- 飲水量:水を大量に飲む(多飲)
- 排泄:嘔吐や下痢が続く、便に血や異物が混じっていないか
- 元気・行動:遊びたがらない、元気がない、散歩で疲れやすい
- 呼吸・脈拍:咳や息切れ、速い呼吸、異常な心音
- 体型・皮膚:あばらが浮き出ていないか、毛並みが悪くないか、お腹が膨れていないか
病院受診のタイミングと診察の流れ
愛犬が痩せてきたと感じたら、早めに動物病院で相談することが大切です。
特に体重が1週間で5%以上減ったり、食欲低下・嘔吐・下痢などの症状が続く場合は、すぐに受診しましょう。
受診時には、いつ頃から痩せ始めたか、食欲や排泄、普段の運動量の変化など飼い主さんが気づいたことを伝えます。獣医師は身体検査(体重測定、聴診、触診、口腔内・皮膚のチェックなど)を行い、必要に応じて血液検査や尿検査、レントゲンや超音波検査を実施します。
これらの検査により、糖尿病、腎臓病、肝臓病、消化器系の異常、腫瘍の有無などさまざまな原因を調べます。
診察の結果、特に異常が見つからない場合もありますが、定期的に体重測定を行い経過を観察することが推奨されます。
また、原因が特定され治療が始まった場合は、獣医師の指示に従い投薬や食事管理を行いましょう。早期に原因を発見し対処するほど、治療効果は高まります。愛犬の体調や生活習慣を正確に把握しておくことが、適切な診断につながります。
自宅でできるケアと注意点
動物病院の診断を受けるまで、飼い主さんにできることはいくつかあります。
まず、愛犬の体重を定期的に測定しましょう。体重計がなくても、同じ条件で抱っこして測る方法や動物病院で定期的に量る方法があります。食欲がある場合は、一回の食事量を減らして回数を分けるなど食事方法を工夫し、少量ずつ数回食べさせると消化に負担がかかりません。
食べたがらないときは嗜好性の高いウェットフードや温めたフードを試してみましょう。また、水分補給をしっかり行うために、新鮮な水を常に用意し、必要であればペット用の保水補助食品を与えることも考えてください。
口腔の問題が疑われる場合は、柔らかい食事やパウチタイプのフードを与えると良いでしょう。トイレや寝床の環境を整え、愛犬がストレスを感じないよう静かな場所で休ませてあげてください。過度な運動は避け、散歩のペースや距離を調整しましょう。体重減少が著しい場合は、無理に家で対処しようとせず早めに獣医師に相談しましょう。
おすすめの食事管理とサプリメント紹介
痩せている犬には、まず質の良い栄養をしっかり摂ることが大切です。
高齢犬や消化器に不安のある犬には、消化の良い療法食や高カロリー栄養補助食がおすすめです。筋肉を維持するために良質なタンパク質を含むフードを選びましょう。ウェットフードを混ぜたり、愛犬の食いつきが良くなるようにトッピングを工夫したりするのも有効です。
サプリメントでは、消化酵素やプロバイオティクス(乳酸菌サプリ)を取り入れることで消化吸収を助ける場合があります。
また、ビタミンB群やL-カルニチンなどのエネルギー代謝をサポートする栄養素、皮膚・被毛の健康を保つオメガ-3脂肪酸(フィッシュオイル)などを含むサプリメントも体調維持に役立ちます。ただし、持病がある場合や他の薬を飲んでいる場合は、必ず獣医師に相談してから与えてください。
予防法と日常ケア
日頃からのケアで体重減少を防ぎましょう。まず、定期的に体重測定を行い健康手帳などに記録することで、少しずつの変化にも気づきやすくなります。口腔内ケアも大切です。歯磨きを習慣化し、デンタルケア用フードや歯磨きガムで歯石・歯垢の蓄積を防ぎます。
さらに、犬の年齢や体調に合ったバランスの良い食事を提供しましょう。肥満を防ぐことも重要ですが、必要以上のダイエットは体重減少を招くため注意してください。予防接種と定期健診で病気の早期発見に努め、フィラリアやノミ・マダニ予防で寄生虫感染を防ぎます。適度な運動と愛情あふれるスキンシップでストレスを軽減し、規則正しい生活を心がけましょう。
まとめ(愛犬の健康を守るために)
犬の急な体重減少は、悪性腫瘍や糖尿病、腎臓病など多くの病気のサインであることが考えられます。
愛犬の体重や体型の変化に敏感になり、早期に気づくことが重要です。普段から体重管理や健康チェックを習慣づけ、体調に異常があればすぐに獣医師に相談しましょう。定期的な検診と適切なケアで、大切な愛犬の健康を守っていきましょう。