獣医師、ペット栄養管理士が犬と猫の病気と食事について徹底解説しています!

カテゴリー

最新記事 高齢犬の病気

【獣医師解説】犬の前庭疾患:ふらついて歩けない症状の原因と治療法(老犬に多い)

突然、犬がふらついてまっすぐ歩けなくなったら、飼い主さんはとても不安になりますよね。

特に年齢を重ねたシニア犬に多く見られる症状の一つに「前庭疾患」があります。

犬の前庭疾患とは、耳や脳の一部である「前庭」がうまく働かなくなる病気の総称です。

平衡感覚をつかさどる前庭に異常が起こることで、めまいやふらつきなどが現れます。今回の記事では獣医師が解説する形で、犬の前庭疾患の原因や症状、適切な治療法、自宅でのケア・予防法、おすすめのフードとサプリメントまで幅広くご紹介します。どうぞワンちゃんの大事な体調管理にお役立てください。

犬の前庭疾患とは?

犬の前庭疾患は、平衡感覚を担う「前庭」と呼ばれる器官に問題が生じる病気です。前庭には主に耳の奥(内耳)と脳の一部(延髄や小脳)の2つの領域があり、これらに障害が起こるとバランスが乱れます。

そのため、原因が耳(末梢性前庭疾患)なのか脳(中枢性前庭疾患)なのかで治療法も異なります。また、多くの老犬で見られる原因不明の特発性前庭疾患もあります。どの場合も、急に発症しやすいのが特徴です。

末梢性前庭疾患

内耳(三半規管や蝸牛)や内耳神経に異常が生じるタイプです。多くは中耳炎・内耳炎などの感染症が原因で、耳のトラブルがきっかけとなります。

中枢性前庭疾患

延髄や小脳など脳の前庭中枢に異常が起きた状態です。脳腫瘍や脳血管障害(脳梗塞・脳出血)、炎症性疾患が原因となることがあります。

特発性前庭疾患

特に原因がはっきりしないものです。高齢犬に多く、ウイルス感染や内耳組織の老化説などが考えられていますが明確な要因は不明です。このケースは「老犬性前庭疾患」「突発性前庭疾患」とも呼ばれます。

前庭疾患の原因

前庭疾患を引き起こす原因にはいくつかのタイプがあります。

まず、耳の感染症が大きな原因です。外耳炎・中耳炎・内耳炎などの炎症が進行すると、内耳の前庭機能に障害を起こします。ワンちゃんは耳が奥深いので、耳のトラブルに飼い主さんが気づきにくい場合もあります。

脳の疾患も前庭症状の原因になります。特に脳腫瘍や脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)、脳炎などが挙げられます。これらは中枢性前庭疾患を引き起こし、症状が重くなる傾向があります。薬剤の副作用や頭部外傷が原因となることもあります。

さらに、高齢犬に見られる特発性前庭疾患は、はっきりした原因がわかっていませんが、老化現象の一つと考えられています。どのタイプであっても、前庭疾患は突然症状が現れることが多く、原因特定のために動物病院での検査が重要です。

主な症状

前庭疾患の症状は、平衡感覚の異常によって突然あらわれます。飼い主さんが気づきやすい代表的な症状には以下のようなものがあります:

  • ふらつき・よろめき:まっすぐ歩けず体が傾き、ふらつきます。
  • 旋回・ぐるぐる回る:一方向にぐるぐる回ってしまうことがあります。
  • 斜頸(しゃけい):頭が左右どちらかに傾いたままになります(斜頸とも呼ばれます)。
  • 眼振(がんしん):目が左右・上下に小刻みに揺れている状態です。
  • 食欲不振・嘔吐:めまいや吐き気があり、食欲が落ちたり吐いたりすることがあります。

これらの症状は急に発生し、また数日から数週間かけて徐々に回復していくことが多いです。ただし、症状が重い場合や長引く場合は早めに動物病院で診てもらいましょう。

治療法と対応策

前庭疾患は原因によって治療方法が変わります。まずは動物病院で獣医師による診断を受けることが大切です。問診・血液検査・神経学的検査を行い、必要に応じて画像検査(レントゲン、CT、MRI)で詳しく調べます。

治療では、原因に応じた対処を行います。感染症が原因の場合は抗生物質や抗炎症薬を使用し、内耳炎などの炎症を抑えます。脳腫瘍や脳血管障害であれば、外科的手術や放射線治療、ステロイド投与などの治療が検討されることもあります。特発性前庭疾患の場合は、根本的な原因がわからないため、対症療法が中心になります。

一般的な対症療法としては、次のようなものがあります:

  • 点滴・輸液:脱水予防や栄養補給のために行います。
  • 抗吐剤・制吐薬:吐き気や嘔吐を抑えて楽にします。
  • ステロイド薬:炎症を抑え、腫れや浮腫を軽減することがあります。
  • 安静・入院治療:体力消耗を防ぐため、安静室での管理が必要な場合があります。

早期に適切な治療を行うことで、症状は改善することが多いです。特に老犬で多い特発性前庭疾患では、数週間から数ヶ月で徐々に回復してくるケースが少なくありません。ただし、治療には時間がかかる場合もありますので、獣医師の指示に従って根気強くケアしてあげましょう。

自宅でできるケアと予防法

前庭疾患で平衡感覚が乱れている間は、ワンちゃん自身は自分の体の傾きに気づけない場合があります。そのため、転倒によるケガを防ぐ工夫が大切です。自宅でできるケアとして、次のような点に注意しましょう:

  • 滑りにくい床材・カーペットを敷く:足元の安定性を高め、転倒リスクを減らします。
  • 階段や段差に近づけない:階段は特に危険です。ゲートを設置して出入りを制限しましょう。
  • 家具の角を保護する:ぶつかってケガをしないようクッション等でガードします。
  • 落ち着ける休憩場所を用意:静かで暗めの場所を作り、安静にできます。
  • 介助用ハーネス・スロープの利用:起立や移動時に補助できるグッズを使うと便利です。
  • 餌・水の工夫:床に食べ物や水を置き、頭をあげずに摂取できるようにします。
  • 声かけや優しいケア:不安が強い場合は落ち着かせるために優しく声をかけ、安心感を与えましょう。

また、予防の観点では、耳の健康管理が重要です。定期的に耳の中をチェックし、清潔に保つことで中耳炎・内耳炎のリスクを下げられます。過度な肥満を避ける、バランスの良い食事や適度な運動で体調を整えることも大切です。

ストレスを減らし、定期的に健康診断を受けることも、犬の体全体の健康維持につながり、結果的に前庭疾患の予防につながる可能性があります。

おすすめのフードとサプリメント

前庭疾患の直接的な予防や治療に「これを食べれば絶対大丈夫」という特定の食べ物はありませんが、高齢犬の健康をサポートする栄養は役立ちます。

消化吸収のよい高品質なシニア用ドッグフードを選び、必要な栄養素を補いましょう。特に、抗酸化成分や良質な脂肪酸を含むものは脳や全身の健康維持におすすめです。ウェットフードを混ぜるなどして、食べやすくするのも効果的です。

サプリメントでは、次のような成分が役立つことがあります:

  • オメガ3脂肪酸(DHA・EPA):魚油由来の脂肪酸で、脳神経や血流の健康維持をサポートします。
  • 抗酸化ビタミン(ビタミンE・ビタミンC):細胞の酸化ストレスを抑え、免疫機能を助けます。
  • ビタミンB群:神経の健康維持に重要なビタミン群で、食欲減退や疲れへの回復を助けます。
  • グルコサミン・コンドロイチン:関節用サプリですが、体全体の動きをサポートし、高齢犬におすすめです。

これらのサプリメントは、市販の総合栄養サプリなどで摂取できます。ただし、サプリメントはあくまで補助的なものですので、与えすぎに注意し、獣医師とも相談しながら利用しましょう。

まとめ

犬の前庭疾患は、特に老犬で急にふらついたり、斜頸になったりする原因としてよく知られています。

症状が出たら慌てず、まずは動物病院でしっかり診断と治療を受けることが重要です。早期治療と家庭での丁寧なケアで、多くのワンちゃんは徐々に回復していきます。

長い目で見れば、日ごろの耳の健康チェックやバランスの良い食事、適度な運動といった生活習慣の管理が、前庭疾患だけでなく全身の健康維持につながります。今回の内容が、愛犬との暮らしを安心・安全にするヒントになれば幸いです。大切なワンちゃんのために、ぜひ予防とケアを心がけてくださいね。

  • この記事を書いた人
アバター

DrVets

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

-最新記事, 高齢犬の病気