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【獣医師解説】猫が口で呼吸をしている!呼吸が荒い・開口呼吸の原因と緊急度

愛猫が口を開けてハァハァと呼吸しているのを見つけると、とても心配になりますよね。

これは「口呼吸(開口呼吸)」といって、猫にとってはとても珍しい状態なんです。猫は通常、鼻から静かに呼吸する動物なので、「猫の呼吸がおかしいのかもしれない」と不安に感じる飼い主さんも少なくありません。

この記事では、猫が口呼吸や呼吸が荒い状態になる原因、そして緊急度の見極め方について獣医師の視点でわかりやすく解説します。

猫の正常な呼吸とは?

まずは正常な状態を知ることが大切です。

猫の安静時の呼吸数は1分間に約20〜30回程度が目安です。寝ているときは15〜25回ほどまで落ち着くこともあります。飼い主さんは、普段から愛猫の呼吸のペースを観察しておくと、不調のサインに早めに気づきやすくなります。

また、猫は運動や興奮、暑さで呼吸が速くなることがあります。たとえば遊んで興奮した直後や、気温の高い夏の日には一時的に呼吸が荒くなり、口を開けて舌を出して呼吸することもあります。少し休ませて様子を見て、呼吸が元に戻れば心配いらないケースもあります。

猫の呼吸が荒い・口呼吸は異常のサイン

ただし、安静時や睡眠中に呼吸が荒かったり、長時間口呼吸が続いている場合は要注意です。

猫は犬と違い、本来鼻呼吸なので、口を開けて呼吸する「開口呼吸」は非常に苦しい状態を示すサインと考えられています。肩で息をするようなしぐさや、ヒューヒュー、ゼーゼーといった異常な呼吸音が聞こえる場合も、呼吸器に負担がかかっている可能性があります。

さらに、舌や歯茎の色が青紫になっている、目や鼻から泡の混じった唾液が出る、異常な嘔吐やけいれんを伴うなどの症状が見られたら、直ちに受診が必要です。こうしたサインは猫が「呼吸困難」に陥っている恐れがあり、一刻も早く専門家の手当てが必要な緊急事態です。苦しそうな様子が長引く場合は、すぐに受診しましょう。

主な原因:呼吸器・心臓の病気

呼吸が荒い・口呼吸が起こる原因はさまざまですが、代表的なのは呼吸器や心臓の病気です。

猫がかかりやすい呼吸器疾患としては、ウイルスや細菌による「猫風邪」(猫ウイルス性鼻気管炎)や「気管支炎・肺炎」があります。これらは鼻水やくしゃみ、目やになどの症状とともに、鼻道の詰まりで呼吸がしにくくなり、開口呼吸や呼吸の増加を引き起こすことがあります。

また、「猫喘息(猫気管支炎)」も注意が必要です。こちらはダニやほこり、花粉などアレルゲンが原因と考えられ、急にヒューという音を立てるぜいぜいとした咳をしたり、呼吸が苦しそうになる特徴があります。猫喘息の場合、気道が狭くなることで呼吸困難に発展することもあります。

このほか、猫特有の「胸水・腹水」や「心臓病(心筋症など)」による呼吸困難もあります。心臓病が進行すると、肺や胸腔に水がたまり、胸が苦しくなるため急に呼吸が荒くなります。中年以降の猫種(メインクーンやノルウェージャンフォレストキャットなど)は心臓疾患が多いので、定期検診で心臓の健康を確認しておくと安心です。

その他の原因:熱中症やケガ、ストレス

呼吸が荒い原因は病気だけではありません。炎天下で長時間過ごしたり、熱い部屋に閉じ込められた場合には「熱中症」で呼吸が速くなることがあります。

また、何かに驚いて走り回った直後や高いところから落ちた場合なども、一時的に呼吸が上がることがあります。こうした場合は、涼しい場所で休ませてあげることで落ち着くことが多いです。

痛みやケガが原因で呼吸が速くなることもあります。たとえば交通事故や喧嘩での外傷、骨折などで痛みがあると、興奮状態で呼吸が荒くなることがあります。万一、外傷や出血が見られるときは、すぐに動物病院を受診してください。

さらにストレスや激しい運動で呼吸が一時的に速くなる場合もあります。

トイレ掃除や環境の変化で不安になっているときは、飼い主さんが優しく声をかけて落ち着かせてあげましょう。普段から猫ちゃんの行動に気を配り、ストレス要因を取り除いてあげることも大切です。

自宅でできる緊急対処とケア

呼吸が荒い症状に気づいたら、まずは落ち着いて猫ちゃんを安静にさせてあげましょう。大声で叱ったり抱き上げて大きな動きをさせると、かえってパニックを悪化させてしまいます。静かな場所に移動し、換気扇や扇風機で室温を適度に下げ、涼しい環境を作ってあげるとよいでしょう。

猫が口呼吸をしているときには、舌を出しっぱなしで乾きやすく、脱水が起こりやすくなります。水分補給が必要ですが、無理に飲ませるのは逆効果な場合もあるので、猫が自分で飲めるように新鮮な水を近くに置いておきましょう。扇風機で冷やすときは、直接風が当たらない位置に置いて低めの温度を保ちます。

もし酸素室や酸素ハウスが手元にあれば、慌てずにその中で猫ちゃんを休ませてあげてください。市販のペット用酸素キットは獣医師への連絡を待つ間の応急手段として使えます。しかし、これはあくまで一時的な対処に過ぎませんので、状態が改善しない場合はすぐに獣医師の診察を受けてください。

獣医師の診断と検査

動物病院に着いたら、まずは獣医師による聴診や視診が行われます。聴診器で肺や心臓の音を聞き、ゼーゼー音や雑音の有無を確認します。また、必要に応じて胸部のレントゲン撮影や超音波検査で肺や心臓の状態を詳しく調べます。

血液検査やレントゲンで病原体の検出や肺炎、胸水などの確認を行うこともあります。

呼吸が極端に苦しい場合は、鎮静剤を用いてCT検査や気管支鏡検査を行うこともあります。これにより、気管や肺の詳細な状態がわかり、ピンポイントで治療を行いやすくなります。これらの検査により原因が特定され、治療法が決められます。

治療法:原因に合わせた対処

治療は原因に合わせて行われます。猫風邪や細菌性の肺炎であれば、抗ウイルス薬や抗生物質、消炎薬での治療が中心です。猫喘息にはステロイドや気管支拡張薬の投与が効果的で、投薬に加えてほこりやタバコなどアレルゲンを取り除く環境整備も行います。

心臓病による胸水・腹水の場合は、利尿剤で余分な水分を排出したり、酸素室で酸素吸入しながら入院治療を行うことがあります。状況によっては、心臓の薬や手術が必要になるケースもあります。

治療と併せて、キャリヤーやケージに入れて静かな環境で休ませることが大切です。家に戻った後も室温や湿度に注意し、無理に運動させずゆっくり休養させてあげてください。栄養補給のために食欲が落ちている場合は、少量のウェットフードや栄養補助食を与えると良いでしょう。

緊急度の見極め

猫ちゃんの呼吸異常は、緊急度の高いサインである場合が多いですが、すべてが即入院というわけではありません。遊んで興奮した後や暑い日に一時的に息が荒いだけの場合は、まずは猫ちゃんを休ませてあげましょう。一時的に収まるようなら経過観察でも大丈夫です。

ただし、以下のような症状がある場合はすぐに動物病院を受診してください:開口呼吸が続く、舌や歯茎が紫色になっている、苦しそうに伸びあがって呼吸している、ぐったりして反応が鈍い、嘔吐や震えを伴うなど。これらは放置すると命に関わる場合がある緊急サインです。

猫は生来、体調不良を隠す動物です。普段元気な子が急に呼吸が荒くなるのは大きな変化です。飼い主さんの観察によって早期発見・治療ができれば、命を守ることに繋がります。

まとめ:愛猫の呼吸に注意を向けてあげて

猫の呼吸が荒かったり、口呼吸をしているのを見つけると、飼い主さんはついパニックになりがちですが、まずは冷静に状況を確認しましょう。

原因は一時的な興奮や環境要因の場合もあれば、猫風邪や喘息、心臓病といった呼吸器・循環器疾患の可能性もあります。早めに獣医師に相談して適切な治療を受ければ、多くの場合回復が期待できます。

大切なのは、普段から愛猫の呼吸数や様子を観察し、いつもと違うサインにすぐ気づいてあげることです。猫ちゃんも家族の一員。飼い主さんが優しく見守り、必要なケアをしてあげれば、愛猫もきっと安心してくれるはずです。何か気になる症状があれば、ためらわず動物病院で相談してくださいね。

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DrVets

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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