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【獣医師監修】犬の腎臓病(慢性腎不全)完全ガイド|初期症状・食事療法・予防

犬の腎臓病(腎不全)とは、腎臓の機能が低下し、血液中の老廃物や余分な水分、電解質(ナトリウム・カリウムなど)の調整が十分に行えなくなる状態を指します。腎臓は尿を作って老廃物を排出し、体内の水分バランスや血圧を調節する重要な臓器です。

また、赤血球を作るエリスロポエチンというホルモンを分泌し、活性型ビタミンDを合成するなど全身の健康に大きく関わっています。これらの機能が障害されると体内に有害物質が蓄積し、疲れやすさや体調不良などさまざまな症状が現れます。

腎臓病には急性と慢性があります。急性腎不全は毒物や感染症、薬剤の中毒などが原因で急激に腎機能が低下するタイプです。短期間で激しい嘔吐や脱水など重篤な症状を引き起こすため、緊急の処置が必要になります。

一方、一般的に多いのは高齢犬にみられる慢性腎臓病(慢性腎不全)です。

慢性腎臓病は年齢とともに徐々に腎機能が低下していくもので、最初は自覚症状が少ないまま進行します。特に柴犬やミニチュアダックスフンドなどの一部品種は遺伝的な要因で腎疾患になりやすいといわれています。早期発見には、定期的な健康診断が重要です。

症状(初期〜末期まで)

初期症状

腎臓病の初期段階では、腎機能の低下により尿を濃縮する力が弱まり、体内の水分をうまく再吸収できなくなります。そのため、薄い尿を大量に排泄する「多尿」と、体内の水分不足を補おうとする「多飲」が起こります。飼い主が気付きやすいサインとして、突然水をよく飲んだり、頻繁に排尿するようになることがあります。初期は元気や食欲はほぼ正常なことも多く、「なんとなく水を飲む量が増えたかな?」程度の変化に留まる場合があります。

  • 多飲多尿(飲水量・排尿量が増える)
  • 尿が薄くなる
  • 元気・食欲は比較的普通

進行期の症状

腎臓の障害が進行すると、老廃物が体内に蓄積し始め、徐々に全身症状が現れます。体重が減少したり筋肉量が落ちてきて、見た目にも痩せてきます。食欲不振や吐き気が出て、食べる量が減ることがあります。また、口臭が強くなったり、口内炎・歯肉炎になることもあります。腎臓病に伴う高血圧が起こると、網膜や脳に影響が出ることがあり、視力低下や軽い痙攣などが見られることもあります。血液検査ではクレアチニンやBUN(尿素窒素)の上昇が確認できるようになります。

  • 体重減少、筋肉量減少
  • 食欲低下(食べムラ、好き嫌いが出る)
  • 嘔吐・下痢
  • 口臭・口内炎
  • 高血圧による網膜症状(視力低下)

末期症状

腎機能が著しく低下し尿毒症の状態になると、体内に有害な老廃物が大量に溜まり、全身の機能が乱れます。激しい嘔吐や重度の下痢、口内粘膜のただれなど消化器症状が出るとともに、極度の食欲不振と脱水が見られます。また、腎臓で作られるエリスロポエチンの不足により重度の貧血が起こり、粘膜(歯茎など)が白くなることもあります。さらに痙攣や意識混濁などの神経症状が現れ、適切な治療を行わないと生命を維持できない状態になります。

  • 激しい嘔吐・下痢
  • 口内炎・歯茎のただれ
  • 極度の食欲不振・重度の脱水
  • 貧血(歯肉蒼白)
  • 痙攣・昏睡などの重篤症状

原因

犬の慢性腎臓病(慢性腎不全)はさまざまな原因で起こります。大きな原因としては加齢や遺伝的要因による腎組織の変性があります。高齢になるほど腎臓の糸球体や血管が傷みやすく、特定の品種では先天的な腎疾患を持つ場合もあります。

その他の原因には、細菌・ウイルス感染(糸球体腎炎や腎盂腎炎)や重度の脱水、心疾患・ショックなどで腎臓への血流が低下することがあります。内分泌疾患ではクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)などホルモン異常が二次的に腎障害を招くことがあります。また、尿路結石や腫瘍によって尿の流れが閉塞されると腎臓に負担がかかります。さらに薬剤や毒物による中毒も腎臓を損傷する原因です(例:NSAIDs、抗生物質、ブドウや玉ねぎなど)。

  • 加齢・遺伝的要因:年齢とともに腎組織が減少し、柴犬など特定品種で発症リスク上昇
  • 感染症:糸球体腎炎、腎盂腎炎など細菌・ウイルス感染
  • 中毒:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、一部の抗生物質、ブドウ・玉ねぎなどによる中毒
  • 循環不全:重度の脱水、心疾患やショックによる腎血流低下
  • 内分泌疾患:クッシング症候群などホルモン異常による二次的腎障害
  • 尿路障害:尿路結石や腎臓腫瘍による閉塞

診断

腎臓病の診断には血液検査と尿検査が欠かせません。血液検査ではクレアチニン(CRE)や尿素窒素(BUN)、SDMAなどの腎機能マーカーを調べ、基準値より高いか確認します。SDMAは早期に腎機能低下を検出できる新しい指標です。

血中の電解質(リン、カリウム、ナトリウム)や赤血球数の減少(腎性貧血)も評価します。尿検査では尿比重(SG)の低下や尿蛋白の有無を確認し、尿中の結晶や円柱(円筒状成分)がないか調べます。尿蛋白の有無は糸球体の損傷のサインです。加えて血圧測定を行い、腎性高血圧の有無も確認します。

  • 血液検査:CRE、BUN、SDMA、リン・カリウムなどの電解質
  • 尿検査:尿比重(SG)、尿蛋白/クレアチニン比(UPC)、尿中結晶・円柱の有無
  • 血圧測定:腎性高血圧の有無をチェック
  • 画像診断:超音波検査やX線で腎臓の大きさ・形態、結石や腫瘍の有無を確認

診断後はIRIS(国際獣医腎臓病研究)によるステージ分類を行い、ステージ1~4で病状を評価します。一般的にステージ2以上で治療を開始し、特にステージ3からは栄養療法や薬物療法を本格的に行います。ステージ分類には複数回の検査結果を総合することが重要です。

治療

腎臓病は一度損傷した組織を完全に回復させるのは難しいため、治療の目的は血液中の老廃物や毒素を可能な限り溜めないようにし、病気の進行を緩やかにすることです。具体的な治療法は次のとおりです。

  • 補液療法:脱水を防ぐため病院での点滴や在宅での皮下輸液を行い、水分を補給します。十分な水分補給によって尿量が増加し、老廃物の排泄が促進されます。皮下輸液は獣医師から方法を習えば飼い主でも実施可能で、週に数回から毎日行うことがあります。
  • 投薬療法:症状に応じて各種薬剤を使用します。
    • 制吐薬・胃腸薬:嘔吐を抑えるセレニア(マロピタント)やメトクロプラミド、胃粘膜保護薬のファモチジンやオメプラゾールを使用します。
    • 降圧薬:高血圧があればベナゼプリル(ACE阻害薬)、テルミサルタン(ARB)、アムロジピン(Ca拮抗薬)などで血圧を管理します。
    • 造血ホルモン:重度の貧血にはエリスロポエチン製剤を投与し、必要に応じて鉄剤を併用します。
    • 栄養補助:ビタミンB群・ビタミンE、EPA/DHAを含むオメガ3脂肪酸などのサプリメントで体力維持と抗酸化作用をサポートします。
    • アシドーシス対策:尿毒症に伴う代謝性アシドーシスがあれば、重炭酸ナトリウムでpH補正を行います。
    • 食欲増進薬:食欲が低下している場合はミルタザピンなどを使用し食欲を刺激します。
    • リン吸着薬:高い血中リンを下げるため、炭酸カルシウムやリン吸着剤(リン吸着樹脂など)を投与します。
  • 尿路障害への対応:結石や腫瘍が原因で尿流が妨げられている場合は、外科手術でこれらの原因を取り除くことがあります。
  • 腎代替療法:専門病院では血液透析や腹膜透析を行い、体外で老廃物を除去する方法があります。ただし国内で対応できる施設は限られます。

これらの治療を組み合わせることで脱水や高血圧、電解質異常を防ぎ、体調管理を行います。早期から適切に治療を開始すれば、症状の悪化を遅らせて生活の質を維持しやすくなります。

食事療法

腎臓病治療で最も重要なのが食事療法です。腎臓に配慮した療法食は一般食とは成分バランスが大きく異なります。具体的には、たんぱく質やリン、ナトリウムを抑え、高エネルギー・高脂肪で必須栄養素を強化した設計です。これにより腎臓への負担を減らしつつ、必要な栄養とカロリーを確保します。

療法食の必要性

一般のドッグフードにはタンパク質・リン・塩分が比較的多く含まれており、腎不全犬に与えると腎臓に大きな負担がかかります。腎機能が落ちると尿素やクレアチニンが排泄できず血中に溜まるので、これを抑える必要があります。

療法食では高品質で消化性の良いタンパク質を使用し、量を抑えて腎臓負担を軽減します。また、療法食は嗜好性にも配慮されており、食べやすい香りや粒の形状で工夫されています。獣医師と相談しながら早めに療法食へ切り替え、食いつきや体調を見ながら進めましょう。

栄養成分の特徴

腎臓病用療法食には次のような特徴的成分バランスがあります:

  • 低タンパク質・高消化性:良質なたんぱく質を使用しつつ量を減らし、腎臓への負担を和らげます。
  • 低リン:リンの含有量を厳しく制限し、血中リンの上昇を防ぎます​。
  • 低ナトリウム:塩分を控え、高血圧の悪化を抑制します。
  • オメガ3脂肪酸強化:DHA・EPAなど抗炎症作用のある成分を豊富に含み、腎臓や血管の健康維持をサポートします。
  • 高エネルギー:エネルギー密度を高め、小さい食事量でも必要カロリーを摂取できるようにします。
  • ビタミン・ミネラル強化:ビタミンB群やミネラル(カルシウム、マグネシウムなど)を調整し、不足を防止します。
  • 可溶性食物繊維:フラクトオリゴ糖などを配合し腸内環境を整えて老廃物の排泄を助けます。

主要ブランド比較

代表的な療法食ブランドの特徴を挙げてみましょう。

ヒルズ(Hill’s)

ヒルズの「k/d(ケイディー)腎臓ケア」は、リン・ナトリウムを低く抑え、オメガ3脂肪酸を強化した療法食です。プレバイオティクス繊維を配合し、腸内フローラのバランスもサポートします。必須アミノ酸バランスの良い高品質タンパク質で筋肉量を維持しながら腎臓への負担を減らします。ドライタイプのほか、缶詰のシチュータイプもあり、食いつきが落ちた犬にも食べやすい工夫がされています。

ロイヤルカナン

ロイヤルカナンの「腎臓サポート」は非常に低リンで高消化性のタンパク質を使用しています。また犬が好む香りと粒の形状で嗜好性を高め、少量でも必要な栄養が摂れるよう高カロリーに調整されています。ウェットタイプの缶フードも展開されており、食欲の落ちた犬にも対応可能です。

ピュリナ プロプラン ベテリナリーダイエット

ピュリナの獣医師専用療法食にも腎臓病用があります。低リン・高オメガ3脂肪酸が特徴で、リン吸着成分やビタミンB群を強化し、慢性腎不全下での代謝と免疫をサポートします。また缶詰タイプのウェットフードも用意されており、嗜好性重視の製品です。

ドクターズケア

ペットライン社の国産ブランド「ドクターズケア キドニーケア」は、リン・タンパク質・ナトリウムを大幅に制限し、オメガ3脂肪酸を約2.4倍に強化した療法食です。可溶性食物繊維(フラクトオリゴ糖)を配合し腸内環境を整えます。ドライとウェットの両タイプがあり、味も数種類から選べます。

一般食との違い

一般のドッグフードは健康な犬向けにたんぱく質やリン、塩分が多めに配合されており、腎不全犬に与えると腎臓の負担を増やしてしまいます。これに対し療法食は腎臓に優しい成分配合になっており、エネルギーやビタミン・ミネラルは維持しながら過剰な負担を減らすよう設計されています。また、療法食は獣医師の処方が必要な「療法食」ですので、まずはかかりつけ獣医師に相談のうえ、導入を進めてください。

手作り食のリスク

腎臓病の犬に手作り食を与える際は栄養バランスに特に注意が必要です。

市販のカロリー・ミネラルが標準化されたドッグフードに比べ、手作りではリンやナトリウム量の把握が難しく不足や過剰が起こりやすいです。例えば肉類(タンパク源)を多く使いすぎると腎臓に大きな負担となります。

もし手作り食にする場合は、塩分は一切使わず、リンが少ない食材を中心にします。リンが少ない食材にはサツマイモ、かぼちゃ、キャベツ、白米などがあります。これらをベースに、必要に応じてカルシウム剤やビタミン剤を加え、獣医師の指導を仰いでください。また、手作り食は衛生管理も大切で、常に清潔な状態で与え、食中毒にも注意しましょう。

療法食への切り替え方法

療法食に切り替える際は、焦らず徐々に行うことが大切です。まず従来のフードに少量の療法食を混ぜ、毎日比率を少しずつ高めていきます。

目安は1~2週間かけて全量を療法食にすることですが、食いつきが悪い場合はもっとゆっくり進めます。フードをぬるま湯で温めて香りを強くする、無塩の煮干しや鰹節をふりかけるなどの工夫も効果的です。一度に全部を替えず、愛犬の反応や体調を見ながら獣医師と相談して調整しましょう。

食いつき対策

腎臓病の療法食は独特の味や香りがするため、犬によっては食いつきが悪くなることがあります。工夫としては、ドライフードをぬるま湯でふやかして香りを立たせたり、ウェットフードに切り替えてみるのが有効です。

ジャガイモやサツマイモのすりおろし、無塩の煮干し・鰹節を少量トッピングすることもおすすめです。ただし、これらのトッピングでも肉類のように高タンパク・高リンになるものは控えめにしてください。それでも食べない場合は、獣医師に相談して食欲促進剤を併用する方法も検討します。

予防法

犬の腎臓病を完全に防ぐのは難しいですが、発症リスクを下げたり早期発見につなげたりする対策があります。以下の習慣を心掛けましょう。

  • 定期的な健康診断:7歳以上になったら年1回以上の血液検査・尿検査で腎機能(CRE、BUN、SDMAなど)をチェックする。
  • 十分な水分補給:新鮮な水を常に用意し、室内の複数箇所に水飲み場を設けるなどして腎臓の負担を軽減する。
  • 適正体重の維持:肥満は腎臓にも負担をかけるので、適切な体重と運動で健康を維持する。
  • 危険物質の管理:腎臓にダメージを与えるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)や中毒性の食べ物(ブドウ、玉ねぎなど)を与えない。
  • 口腔・尿路管理:歯周病や膀胱炎などの慢性炎症は腎臓にも悪影響を及ぼすので、歯磨きや清潔なトイレ環境で早期治療する。
  • ワクチン接種:レプトスピラ症など腎障害を引き起こす感染症へのワクチン接種を検討する。

これらに加え、日頃から愛犬の飲水量や排尿量の変化、食欲の状態をよく観察し、異常があれば早めに獣医師に相談することが大切です。

まとめ

犬の腎臓病は進行性の疾患で、早期発見・早期対応が重要です。初期は症状が分かりづらいため、シニア期に入ったら定期的に血液・尿検査を受けましょう。治療の中心は食事療法と支持療法であり、特に腎臓病用の療法食を与えることで腎臓への負担を大幅に減らせます。

療法食は寿命延長に寄与する唯一の具体的手段と考えられますので、食いつきに不安があっても工夫を重ねて継続することが大切です。

継続的な治療と予防的ケアにより、愛犬のQOL(生活の質)を高めることができます。定期的に獣医師による検査・診察を受け、必要に応じて薬物療法や輸液を組み合わせてください。

腎臓病が疑われる場合はすぐに動物病院を受診し、早めに療法食を準備してあげましょう。愛犬の健やかな毎日のため、飼い主さんもできる対策を始めてください。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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