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【獣医師解説】犬のお漏らし(尿失禁)の原因と治療:高齢犬や避妊後のメス犬に起こることも

犬がトイレ以外の場所でおしっこをしてしまう場合、しつけの問題と思われがちですが、尿失禁(にょうしっきん)という生理的なトラブルが原因のことがあります。尿失禁とは、犬が自分の意志と関係なくおしっこを漏らしてしまう状態のことで、高齢の犬や避妊手術後のメス犬に起こりやすい傾向があります。

しかし、尿失禁は老化現象だけに限らず、ホルモンバランスの変化や泌尿器系の病気、神経障害など、さまざまな原因で生じる可能性があります。

本記事では獣医師監修のもと、犬のお漏らし(尿失禁)のメカニズムと考えられる原因、症状の種類と見分け方、動物病院での診断方法、内科・外科にわたる治療法、家庭でのケアや予防策、そして飼い主さんができるサポートと心構えについて解説します。最後に、早めに獣医師に相談する重要性もお伝えします。愛犬の尿トラブルに悩む飼い主さんは、ぜひ参考にしてください。

犬の尿失禁の原因とメカニズム

犬の尿失禁は、膀胱や尿道をコントロールする仕組みに何らかの異常が生じることで発生します。

通常、尿は膀胱に溜められ、尿道括約筋という筋肉が収縮することで排尿を我慢できます。いざ排尿する際には、脳からの指令で括約筋がゆるみ、膀胱が収縮することで尿が排出されます。この機構のどこかに問題が起こると、犬は自分の意思とは無関係に尿を漏らしてしまうのです。考えられる主な原因を見てみましょう。

加齢による筋力低下・認知機能の低下

シニア犬(高齢犬)では体全体の筋力が衰えるように、膀胱や尿道括約筋の機能も低下します。そのため尿を我慢する力が弱まり、ちょっとした刺激で漏れやすくなります。また、高齢になると犬の認知症(認知機能の低下)によりトイレの場所を忘れたり、排尿の感覚が鈍くなって失禁につながる場合があります。

避妊後のホルモン低下(エストロジェン反応性尿失禁)

避妊手術を受けたメス犬では、卵巣を摘出することで女性ホルモン(エストロゲン)が欠乏し、尿道括約筋の締まりがゆるくなって尿漏れを起こしやすくなります。この尿失禁は、避妊手術の数年後から症状が現れることが多いです。

泌尿器の疾患(膀胱炎・結石・腫瘍など)

膀胱や尿道の病気によっても、尿失禁や頻繁なお漏らしが起こります。たとえば、膀胱炎(尿路の細菌感染)になると強い尿意でトイレまで我慢できず失禁してしまうことがあります。また、膀胱や尿道に結石や腫瘍ができると尿の通りが部分的に妨げられ、尿漏れや頻尿の原因になります。

神経系の障害(脊髄の病気や外傷)

脳や脊髄の病変(椎間板ヘルニア、脊髄腫瘍、脳腫瘍など)で排尿を制御する神経が損傷されると、尿道括約筋や膀胱が正常に機能しなくなり尿が漏れることがあります。自力で排尿できなくなったり、逆に膀胱に尿が溜まりすぎてあふれるように漏れる場合もあります。神経障害の場合、麻痺など排尿以外の症状を伴うこともあります。

尿失禁の症状と種類:ケース別に見分けるポイント

犬の尿失禁は、いつ・どんな状況で起きるかによって原因の推測に役立ちます。以下に典型的なケースとその特徴を挙げますので、愛犬の様子と照らし合わせてみてください。

  • 寝ているときにお漏らしする: 愛犬が睡眠中やリラックス中に知らないうちにおしっこを漏らしてしまうケースです。犬自身が意識していない失禁で、特に高齢犬や避妊後のメス犬によく見られます。
  • 興奮したときや怖がったときに漏らす: 飼い主さんの帰宅時に嬉しくて少量おしっこをしてしまったり、雷などに驚いて漏らしてしまったりするケースです。子犬によく見られ、成長とともに改善しやすく、病的な尿失禁とは異なります。

このように尿漏れの仕方にはさまざまなパターンがあります。愛犬のお漏らしがどのタイプに当てはまるか観察し、獣医師に伝えることは診断の助けになります。ただし、最終的な原因の特定には専門的な検査が必要ですので、気になる症状があれば早めに動物病院で相談しましょう。

動物病院での診断方法

愛犬に尿失禁の症状が見られたら、できるだけ早めに動物病院で診察を受けましょう。問診と身体検査の後、尿検査・血液検査で感染症や腎臓病、糖尿病などの有無を調べます。必要に応じて超音波検査(エコー)やレントゲンで膀胱や腎臓の構造異常を確認し、神経障害が疑われれば神経学的検査やCT・MRIなど高度な検査を行います。こうした診察によって原因を突き止め、今後の治療方針が決定されます。

犬の尿失禁の治療法

内科的治療(薬物療法)

尿失禁の原因に応じて適切な内科治療を行います。

避妊後の尿失禁には女性ホルモンの補充や尿道括約筋の収縮力を高める薬を用い、感染症が原因なら抗生物質で治療します。神経障害による場合は膀胱収縮を助ける薬や逆に過剰な収縮を抑える薬で症状の緩和を図ります。また、多飲多尿を伴う病気があればその治療を優先します。

外科的治療(手術による改善)

内科治療で改善しない場合や構造的な問題が原因のときは、外科手術が検討されます。

先天性の異所性尿管は正常な位置に繋ぎ直す手術を行い、腫瘍が原因なら摘出します。椎間板ヘルニアなど神経の圧迫が原因なら外科的にそれを取り除きます。また、重度の尿道括約筋不全には尿道周囲への充填剤注入やスリング手術など特殊な方法が選択されることもあります。

自宅でできるケアと対処法

尿失禁のある犬と生活する場合、適切なケアと環境づくりによって愛犬の負担を軽減し、清潔さと快適さを保てます。家庭でできる主な対処法を紹介します。

  • トイレの頻度を増やし環境を整える: 散歩やトイレの回数を意識的に増やし、愛犬が尿を溜めすぎないようにしましょう。また、老犬や足腰の弱った犬には寝床からトイレまで行きやすいようマットやスロープを使うなど、トイレ環境も工夫します。
  • 犬用おむつやマナーベルトの活用: 家庭内での粗相対策にはペット用おむつや、オス犬であれば腹部に巻くマナーベルトが有効です。おむつは定期的に交換し、肌が蒸れないように注意しましょう。
  • 皮膚の清潔を保つ: 尿で被毛や皮膚が濡れたままだと皮膚炎の原因になります。お漏らし後はぬるま湯で下半身を洗うか、濡れタオルやペット用ウェットティッシュで優しく拭き取り、しっかり乾かしてあげましょう。

これらの対処によって愛犬も飼い主さんも過ごしやすくなります。ただし、おむつの使用などで症状を隠すだけでなく、根本原因の治療も並行して行うことが重要です。

尿失禁の予防法と日常生活で気をつけるポイント

加齢による尿失禁を完全に防ぐことは難しいですが、日頃から以下のポイントに注意することでリスクを下げたり、症状の進行を緩やかにできます。

  • 定期健診と避妊・去勢の相談: シニア期に入ったら年に1~2回は健康診断を受け、尿検査や血液検査で泌尿器や全身の異常を早期発見しましょう。また、メス犬の避妊手術は将来の病気予防のため有益ですが、術後の尿失禁リスクについても事前に獣医師と相談しておくと安心です。
  • 適切な体重管理と運動: 肥満は膀胱や関節への負担となり、尿失禁を悪化させる要因になります。食事管理で肥満を予防し、筋力低下を防ぐため適度な運動を心がけましょう。
  • トイレ環境を整える: 室内飼いの場合は好きな時に排泄できるよう広めのトイレエリアを用意しましょう。屋外排泄が習慣の犬でも、高齢期には室内トイレを併用し、排泄を我慢しなくて済む環境にします。

以上のような日常ケアで尿トラブルの発生リスクをできるだけ抑えつつ、万一症状が出ても被害を最小限に留められるよう備えておくことが大切です。

飼い主さんができるサポートと心構え

愛犬の尿失禁と向き合う上で、飼い主さんの精神的サポートと正しい心構えも大切です。次の点に気をつけて、前向きにケアに取り組みましょう。

  • 尿失禁は犬の意思と無関係: お漏らしを叱っても意味がなく、むしろストレスで悪化する可能性があります。失敗しても冷静に後始末し、いつも通り接して安心させましょう。
  • 焦らず根気強く向き合う: すぐに症状が改善しなくても焦らず治療とケアを続けましょう。飼い主さんが前向きに根気強く支えれば、愛犬も安心して治療に取り組めます。

飼い主さんのサポート次第で、愛犬は安心感を持って生活できます。必要に応じて獣医師など専門家の助けも借りつつ、愛情と根気を持って接し、一緒にこの困難を乗り越えていきましょう。

尿失禁に配慮したおすすめグッズ

犬の尿失禁対策には、便利なペット用品を活用するとお世話がぐっと楽になります。ここでは尿漏れ対策に役立つ代表的なグッズを紹介します。

  • 犬用おむつ・マナーベルト: いずれも装着することで尿漏れを吸収するグッズです。おむつはメス犬用・オス犬用がありサイズも豊富で、失禁対策に有効です。マナーベルト(腹巻タイプ)はオス犬の腰に巻いて使い、軽度の尿失禁対策に役立ちます。どちらも長時間つけっぱなしにせず、定期的に交換しましょう。
  • ペットシーツ・防水マット類: 室内トイレにペットシーツを広めに敷いたり、犬がよく居る場所に防水マットや防水カバーを使ったりしておくと、万一お漏らししても後片付けが簡単です。寝床も防水シーツ付きベッドを利用すれば中綿まで染み込まず清潔に保てます。

これらのグッズを上手に活用しながら生活環境を整えることで、飼い主さんの負担も軽減できます。ただし、グッズに頼りきりにせず根本的な治療やケアも並行して行い、総合的にサポートしてあげましょう。

まとめ:尿失禁に気づいたら早めに獣医師に相談を

犬の尿失禁は様々な要因で起こりますが、適切な治療とケアによって多くの場合改善可能です。お漏らしを見ても「年のせい」と決めつけず、早めに獣医師に相談しましょう。早期の対応が愛犬の健康と快適な生活につながります。

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DrVets

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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