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【獣医師解説】犬のよだれが多い…よだれ過多の原因となる病気と対処法を獣医師が解説

犬のよだれについて

愛犬のよだれが普段よりも多いと、「うちの子、大丈夫かな?」と心配になりますよね。犬はもともと人より唾液(だえき)が多い動物で、食べ物を見たり匂いを嗅いだりすると生理的に唾液がたくさん出ます。

例えば、ご飯の前やおやつの時間に口元からよだれが垂れるのは正常な反応です。また、犬は汗をかいて体温調節ができないため、ハァハァと舌を出して呼吸するパンティング(浅速呼吸)でも唾液が増えます。ですから、犬のよだれが多いこと自体は必ずしも異常ではありません。

とはいえ、明らかによだれ過多(よだれが異常に多い状態)になるのは、何か原因があるかもしれません。

中には病気のサインとなるケースもあります。この記事では、獣医師の視点から犬のよだれが多い原因を詳しく解説し、異常なよだれから考えられる病気や自宅でできる対処法、そして動物病院に行くべきサインや予防策についてご紹介します。不安になりすぎず、愛犬の様子を正しく見極めるポイントを一緒に学んでいきましょう。

原因:犬のよだれが多い理由とは?

まず、犬のよだれが増える主な理由について整理してみましょう。よだれが多い原因は大きく分けて生理的なもの(正常な反応)と心理的なもの(緊張・ストレス)、そしてそれ以外の要因に分類できます。

  • 生理的な原因: 犬のよだれが多いシチュエーションの多くは生理現象です。食べ物の匂いを嗅いで興奮したときや、空腹時に胃酸が出て胃がムカムカしたとき、口内に食べ物が入ったときなどに唾液分泌が活発になります。その結果、口からよだれが垂れることがあります。また、運動後や暑い日の体温調節のためのパンティングでも唾液が増えます。これらは正常な生理反応なので基本的に心配いりません。
  • 心理的な原因: 犬は緊張やストレスを感じても唾液が増えることがあります。たとえば、苦手な動物病院に行ったときや、初めての場所・環境で不安を感じているときなどです。ストレス下では自律神経の働きで口が渇いたり唾液が増えたりします。これも一時的なもので、リラックスすれば治まることがほとんどです。
  • その他の要因: 車酔い(乗り物酔い)をしたときや、苦い薬を飲んだとき、刺激の強い匂いを嗅いだときにも一時的によだれが増えることがあります。また、犬種による違いもあり、セントバーナードやバセットハウンドなど唾液腺が発達している犬、大型犬や短頭種(パグやフレンチブルドッグ等)は生理的によだれが出やすい傾向があります。こうした場合も、よだれ自体は犬の体の正常な反応と言えるでしょう。

以上のように、犬のよだれが多い理由の多くは生理的・心理的なものです。これらの場合は慌てずにまず落ち着いて様子を見守り、愛犬をリラックスさせてあげてください。しかし、よだれ過多の裏に病気が潜んでいるケースもあるため、次に考えられる病気について見ていきましょう。

考えられる病気や異常

異常なほどよだれが多いときに考えられる病気には、様々なものがあります。単なる生理現象ではなく、以下のような病気や異常が原因でよだれ過多になることがあります。

  • 口腔内の病気(口内炎・歯周病など):口の中に炎症があると痛みや不快感で唾液が増えます。例えば歯周病(歯ぐきの疾患)や口内炎、虫歯、折れた歯、舌や頬の傷などです。口の中に腫瘍(しこり)ができている場合もよだれが増えることがあります。
  • 異物の誤飲・中毒:誤って異物を飲み込んだり、口に刺さったりしていると、体が異物を排出しようとしてよだれがたくさん出ます。また、家庭内の薬品や植物など有毒なものを口にした場合、苦味や中毒症状によりよだれや嘔吐が起こることがあります。例えばタバコやチョコレート、中毒性のある植物を食べた場合などです。
  • 喉・消化器の病気(咽頭炎・胃炎・膵炎など):喉や消化管に炎症があると唾液が増えることがあります。咽頭炎(いんとうえん)は喉の炎症、胃炎は胃の粘膜の炎症です。これらになると吐き気やムカつきが生じ、吐く前触れとしてよだれが増えることがあります。また、膵炎(すいえん)(すい臓の炎症)や重い腎臓病・肝臓病でも、体の代謝異常により嘔吐やよだれが見られることがあります。
  • 熱中症:暑い環境で体温が上がりすぎると、犬は激しいパンティングとともに異常な量のよだれを流します。やがて体温調節が追いつかなくなると、ぐったりして虚脱状態に陥り、命に関わる危険な状態です。特に夏場の車内や炎天下で起こりやすいので注意が必要です。
  • 胃拡張・胃捻転症候群:大型犬に多い緊急疾患で、食後などに胃が異常に膨れてねじれてしまう病気です。胃がねじれると中のガスや内容物が出せなくなり、強い吐き気はあるのに嘔吐できず、代わりによだれが大量に出ます。お腹がパンパンに張り、落ち着きなく歩き回った後に急激にショック状態(ふらつきや倒れる)に陥ることが多く、発生したら一刻を争う緊急手術が必要です。
  • 神経系の異常:脳や神経のトラブルでもよだれが増えることがあります。代表的なのはてんかんで、発作の前兆としてよだれが出たり、口をくちゃくちゃする動きが見られます。発作中は全身の痙攣(けいれん)に加え、口から泡を吹くようによだれが出ることもあります。また、非常にまれですが顔面神経麻痺などで顔の筋肉が麻痺すると、口が閉じにくくなり唾液が垂れやすくなる場合もあります。

以上が主な考えられる病気や異常の例です。このほかにも、唾液腺そのものの炎症や嚢胞(のうほう:液がたまった袋)ができる「唾液腺疾患」など、細かな原因は多数あります。

ただしよだれ単独で病気を特定することは難しいため、他の症状も合わせて総合的に判断する必要があります。次の項目で、よだれ過多と併せて現れやすい症状や、自宅でできる応急処置について説明します。

自宅でできる対処法と応急処置

愛犬のよだれが急に増えたとき、飼い主さんが自宅でできる対処としてまず落ち着いて状況確認をすることが大切です。以下のポイントを参考にしてください。

  • 口の中をチェック: 安全を確保した上で犬の口を開け、歯や舌、喉の奥に異物が挟まっていないか確認します。おもちゃの破片や骨のかけらなどが刺さっている場合、無理のない範囲で取り除きます。ただし、無理に取ろうとして犬に噛まれたり、奥に押し込んでしまう恐れがある場合はやめておきましょう。
  • 楽な姿勢と換気: 呼吸が荒い場合は首輪を緩め、新鮮な空気を送り込みます。涼しい場所に移動させ、楽な姿勢で休ませてください。特に熱中症の疑いがある場合は、エアコンの効いた室内や日陰に移し、水を飲ませ体を冷やします。氷嚢や濡れタオルで脇の下や内股を冷やすのも有効です。
  • 水分補給:よだれが多いときは脱水のリスクもあるため、新鮮な水を用意し自由に飲めるようにします。
    暑さや運動が原因の場合、水を飲むことで落ち着くことが多いです。もし自分で飲めないほど衰弱している場合は、スポイトやシリンジで少しずつ口の端から飲ませてあげてもよいでしょう。ただし、意識がはっきりしない時は誤嚥(ごえん:飲み物が気管に入ること)に注意が必要です。
  • 安静にする: 明らかに興奮やストレスが原因でよだれが出ている場合は、刺激を避け静かな環境で休ませます。飼い主さんも慌てずにリラックスしましょう。飼い主の緊張は犬にも伝わるため、穏やかな声で話しかけ安心させてあげてください。
  • 症状の記録: よだれ以外にどんな症状が出ているか観察し、メモしておきます。可能であればスマートフォンで動画撮影しておくと、いざ病院で説明する際に非常に役立ちます。実際、動物病院に着いた頃にはよだれが治まってしまうケースもあるため、記録があると獣医師が状況を把握しやすくなります。

これらの応急処置を行っても改善しない場合や、後述するような緊急のサインが見られる場合は、速やかに動物病院へ連れて行きましょう。特に胃拡張・胃捻転症候群重度の熱中症が疑われる場合は一刻を争いますので、迷わず緊急対応をしてください。

動物病院に行くべきサインとは?

では、どのような状態になったら「病院に行くべき」なのでしょうか。以下のようなサインが見られたら要注意です。

  • よだれ以外の深刻な症状: 泡を吹く、吐き気が収まらない、嘔吐物に血が混じる、ぐったりして立てなくなる、ふらついて歩けない、といった症状が見られたら緊急性が高い可能性があります。胃捻転や重度の中毒、熱中症など命に関わる状態かもしれません。
  • よだれが長時間止まらない: 明らかに異常な量のよだれが出続ける場合は、何らかの問題が起きているサインです。通常、刺激が去ればよだれは自然に治まるものですが、それが何十分も止まらない場合は早めに受診しましょう。
  • 口の中の異常: よだれに血が混じっている、口臭がきつい、口の中を痛がって食事を拒否するといった場合は、口内の傷や歯周病、腫瘍の可能性があります。放置すると痛みが増したり感染が広がったりするため、早めに診察を受けてください。
  • 神経症状を伴う: 呼びかけに反応しない、意識がもうろうとしている、身体の一部が麻痺している様子がある、といった場合も危険です。脳炎や中毒、発作状態など重大な異常の可能性が考えられます。

上記のようなサインが見られた時は、迷わず動物病院へ行くことをおすすめします。特に複数の症状が重なっている場合や、飼い主さんから見て「明らかにおかしい」と感じるときは緊急性が高いと判断できます。夜間や休日でも受診できる救急病院を調べておくと、いざという時に慌てず対応できるでしょう。

予防と日常ケアのポイント

日頃からのケアによって、よだれ過多のトラブルを防ぐことも可能です。以下はよだれが多くなる原因への予防策と日常ケアのポイントです。

  • デンタルケアを徹底する: 毎日の歯磨きやデンタルガムの活用で口腔内を清潔に保ちましょう。歯周病や口内炎を予防することで、痛みによるよだれ増加を防げます。定期的に歯科検診を受け、歯石除去や口の中のチェックをしてもらうのもおすすめです。
  • 誤飲事故を防ぐ: 家の中を見直し、犬が誤って飲み込みそうな小さな物や危険な物(針、糸、おもちゃの部品など)は手の届かない場所に片付けましょう。また、散歩中も地面の物を口にしないようしつけておくことが大切です。誤飲の多くは飼い主の注意で防ぐことができます。
  • 有害なものを遠ざける: 犬にとって有毒な食品(チョコレート、玉ねぎ、キシリトール入り食品など)や植物(ユリ、ポインセチア等)、薬品類は絶対に与えない・口にさせないよう徹底します。誤って摂取すると大量のよだれや嘔吐、痙攣など深刻な症状を引き起こすため、保管場所に注意しましょう。
  • 暑さ対策を万全に: 夏場は熱中症予防が何より重要です。室内ではエアコンや扇風機で適温を保ち、外出時は朝夕の涼しい時間帯を選びます。散歩中はこまめに水分補給をし、犬用の冷却グッズ(クールベストや冷感マットなど)も活用しましょう。短頭種やシニア犬は特に注意が必要です。
  • 食事と運動の管理: 一度に大量の食事を与えない、食後すぐ激しい運動をさせないなど、胃捻転のリスクを減らす工夫をします。食事は落ち着いた環境でゆっくり噛んで食べさせ、早食いする子には早食い防止ボウルを使うと良いでしょう。食後は最低1時間、安静に過ごさせます。
  • ストレスを軽減する: 日頃から十分な運動とスキンシップをとり、精神的な安定を図ります。怖がりな子は無理に人混みや他の犬のいる場所へ連れて行かず、ゆっくり社会化トレーニングを行いましょう。車酔いしやすい場合はドライブに少しずつ慣らし、必要に応じて酔い止め薬を獣医師に相談すると安心です。

これらのケアを心がけることで、よだれ過多の原因となる多くのトラブルを未然に防ぐことができます。万一異常が起きても早期に気づき対応できるよう、日頃から愛犬の様子を注意深く観察しておきましょう。

まとめ:犬のよだれが多い時の見極めと対応

今回は犬のよだれが多い場合の原因と対処法について、獣医師の解説として詳しくご紹介しました。犬のよだれは生理現象や心理的な反応で増えることも多く、それ自体は必ずしも異常ではありません。食事や運動、暑さや緊張といった場面で一時的によだれが増えるのは犬にとって自然なことです。

しかし、明らかによだれの量が多すぎたり、他の症状を伴う場合は注意が必要です。「よだれ+ぐったり」「よだれ+吐き気」などの組み合わせは緊急性のサインと捉えて、早めに動物病院を受診しましょう。判断に迷うときは、無理せず専門家に相談することが一番の安心材料です。

飼い主さんが冷静に対処し、必要に応じて適切なタイミングで受診すれば、大事に至らず愛犬を救えるケースがほとんどです。普段からのケアと観察、そして「おかしいな?」と思ったら早めに獣医師に相談する姿勢が何より大切です。愛犬の健康を守るために、ぜひ本記事の内容を参考にしていただき、安心・納得の上で適切な行動をとってくださいね。

  • この記事を書いた人
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DrVets

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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