
猫が突然大量のよだれを垂らし始めたら、「もしかして病気では?」と心配になりますよね。
犬と違って猫は普段あまりよだれを出さない動物です。食事前にお皿を前にして興奮したときや、リラックスしてゴロゴロ喉を鳴らしているときなどに少量のよだれを垂らすことはありますが、それ以外でよだれ過多になる場合は何らかの異常が起きている可能性があります。
本記事では、猫のよだれが止まらない原因として考えられる病気や心理的要因、症状の違いと見極め方、適切な対処法や予防法について、初心者の飼い主さんにもベテラン飼い主さんにもわかりやすく解説します。
猫がよだれを垂らす生理的・心理的な原因
まずは猫のよだれが必ずしも病気とは限らないケースについて説明します。猫は緊張や興奮、またはリラックス状態などで自律神経が刺激されたとき、一時的によだれが増えることがあります。例えば:
- 嬉しいとき・リラックスしているとき: 飼い主に甘えてゴロゴロ喉を鳴らしているときや、グルーミングして満足しているときには、副交感神経が優位になり唾液の分泌が促進され、ポタポタと透明なよだれが垂れることがあります。これは猫にとって緊急性の低い正常な反応で、心配いりません。
- 緊張・ストレス状態のとき: 動物病院へ向かう車の中やキャリーに入れられているときなど、猫が極度に緊張している場面では、交感神経が働いて一時的に唾液分泌が減少し口内が乾くため、ネバネバした少量のよだれを垂らすことがあります。このような場合も一時的なもので、緊張が解ければ治まります。ただし長時間よだれが止まらないような強いストレスは別の健康トラブルにつながる可能性もあるため、早めに環境を落ち着かせてあげましょう。
- 車酔いや軽い吐き気: 移動中のストレスや車酔いで気分が悪くなると、猫は吐く前兆としてよだれを垂らすことがあります。これも一時的な生理反応で、休ませてあげれば落ち着くケースが多いです。
上記のようなケースでは、猫のよだれは一時的で緊急性は低いでしょう。しかし、これ以外の状況で過剰によだれを垂らして止まらない場合は病気の可能性を考える必要があります。
猫がよだれを垂らす主な原因となる病気
猫の異常なよだれ過多の背後には、様々な病気やトラブルが隠れていることがあります。ここでは考えられる主な原因を挙げ、それぞれの特徴を説明します。
口腔内の病気(歯や口のトラブル)
- 歯周病: 歯周病は成猫から高齢猫によく見られる歯肉や歯を支える組織の炎症です。柔らかいフード中心の食生活だと歯垢・歯石がたまりやすく、それに含まれる細菌が歯ぐきに炎症を起こします。歯周病が進行すると口臭や膿を伴うよだれが出たり、口の痛みで食欲不振になったりします。放置すれば歯根に膿が溜まったり歯が抜け落ちることもあるため注意が必要です。
- 口内炎(慢性歯肉口内炎): 体力の低下した猫や高齢猫に多く、歯ぐきや舌など口の中の粘膜に炎症が起こる病気です。重度の歯周病が悪化して発症する場合もありますが、猫カリシウイルス感染症などウイルス性疾患の症状として起こることもあります。口内炎になると口内粘膜が赤く腫れたりただれたりし、強い痛みのために食事が困難になり、悪臭のあるよだれを垂らすようになります。場合によっては目ヤニやくしゃみなど風邪に似た症状も見られることがあります。
- 口腔内の腫瘍: 猫の口の中に腫瘍(できもの)ができていると、よだれが増える場合があります。例えば口内によく発生する扁平上皮癌や線維肉腫などの腫瘍では、口内にしこりが大きくなって口が閉じにくくなり、よだれが垂れ流しになることがあります。進行すると腫瘍が潰れて出血し、血の混じったよだれが出ることもあります。
全身の病気や内科的な原因
- 腎臓病(腎不全): 猫は腎臓の疾患が多い動物で、腎不全になると体内に尿毒素が蓄積し全身状態が悪化します。尿毒症状のひとつとして吐き気や食欲不振が起こり、その結果よだれを垂らすようになります。特に高齢の猫で何度も嘔吐し、口臭が強く、痩せてきたといった症状を伴う場合は腎不全の可能性が高いです。
- 胃腸の不調: 胃炎や消化管の腫瘍、重度の便秘など消化器系の異常も慢性的な吐き気をもたらし、結果としてよだれが増えることがあります。吐き気が続くと猫は口元に唾液を溜めやすくなり、ダラダラと垂らしてしまうのです。
- 感染症による発熱: 猫風邪(ウイルス感染症)などで高熱が出ているときも、口の渇きを補うためによだれを垂らすことがあります。特に口内に潰瘍ができるタイプのウイルス(例えば猫カリシウイルス)では口内炎症状とよだれが顕著になります。
中毒(有害なものの誤飲・誤食)
猫が家の中で有害な物質を舐めてしまった場合も、急によだれを垂らすケースがあります。例えば:
- 家庭用洗剤・漂白剤、殺虫剤などの化学物質を舐めた
- ユリ、ツツジ、ポインセチア、じゃがいもの芽など猫に有毒な植物をかじった
- タマネギやチョコレートなど猫にとって中毒を起こす食品を食べた
これらを摂取すると口内がただれて強い痛みが生じたり、神経症状で泡状のよだれが出たりします。中毒症状は摂取量によっては命に関わる危険性があるため、少しでも疑いがあれば早急に動物病院で処置を受ける必要があります。
熱中症
真夏の暑い環境に長時間いると、猫も熱中症になることがあります。熱中症になると体温調整が効かなくなり、苦しくて口を開けパンティング(荒いあえぎ呼吸)をしながらよだれを大量に垂らすのが特徴です。呼吸が速く荒くなり、場合によっては嘔吐やふらつきも見られます。そのまま進行すると意識障害やけいれん発作を起こし、最悪の場合命に関わる非常に危険な状態です。
てんかん発作
てんかん(癲癇)は脳の異常な放電によって起こる発作で、猫でも起こることがあります。発作時には意識が消失し、全身のけいれんとともに泡状のよだれを垂らすのが典型的な症状です。発作は通常数分で治まりますが、短時間に何度も繰り返したり5分以上続く場合は重積発作といって緊急事態です。てんかん発作そのものは飼い主が止めることはできないため、発作が収まったら速やかに獣医師の診察を受けてください。
外傷や神経の損傷
交通事故や高所からの落下によって顎の骨折や顔面の神経麻痺が生じた場合、口がうまく閉じられずによだれが垂れ流しになることがあります。このようなケースでは患部の痛みや腫れも伴うため、猫はご飯を食べられない、触ると痛がるなど明らかな異常が見られるでしょう。外傷の場合はいずれにせよ緊急治療が必要です。
よだれの状態や症状の違いによる危険度の見極め
猫のよだれが多いといっても、その状態(粘り気や色、混じっているもの)や一緒に見られる症状によって、緊急度や原因がある程度推測できます。以下によだれの種類と考えられる原因、危険度の目安を示します。
- サラサラとした透明なよだれ: リラックス時やご飯前の空腹時などに見られる唾液そのままのよだれです。単独で他症状がなければ緊急性は低く、様子見で問題ないでしょう。
- ネバネバしたよだれ: 興奮・緊張時に見られる粘性の高い唾液です。これも一時的なストレス反応で、緊張が解消すれば治まります。ただし長時間続く場合は体に負担がかかるため注意が必要です。
- 泡状のよだれ: 白っぽく泡立ったよだれを大量に垂らしている場合、危険度が高いです。けいれん発作(てんかん)や中毒症状で見られる典型的なよだれで、命に関わる緊急事態の可能性があります。迷わずすぐ動物病院へ連れて行きましょう。
- 血が混じるよだれ: 赤や茶色っぽい色の唾液が出ている場合、口内で出血が起きています。歯ぐきからの出血を伴う茶色のよだれは歯周病や口内炎が疑われ、口内の腫瘍が潰れて出血しているケースでは鮮血が混じることもあります。出血を伴う場合はいずれにせよ早急に受診が必要です。
- 緑色や黄色のよだれ: 膿が混じっている可能性があります。口内の重度の感染症で膿が出ている、または消化管からの胆汁が混ざるような激しい嘔吐をしている場合などに見られます。強い悪臭や痛みを伴うことが多く、深刻な状態のサインです。
また、よだれ以外に現れる症状にも注目しましょう。例えば口臭がひどい・歯ぐきからの出血・エサの食べにくさがあれば口腔内疾患の疑いが強く、息が荒い・口を開けっぱなしなら熱中症の可能性大です。嘔吐や下痢を伴えば中毒や消化器異常、けいれんを伴えばてんかんや中毒が考えられます。このように組み合わせで危険度を見極め、少しでも重篤な兆候があれば早めに対処しましょう。
猫がよだれを垂らすときの対処法
愛猫が急によだれを垂らし始めたとき、飼い主さんが取るべき対処法を段階的に説明します。
- 落ち着いて様子と状態を観察する: まずは猫の様子をよく観察しましょう。周囲に誤飲しそうなものや有毒な植物はないか、室温は適切か、猫は苦しそうかリラックスしているかなどを確認します。慌てて口に手を入れると猫が驚いて噛む恐れがあるので注意してください。
- 口の中をそっとチェックする: 猫が大人しく触らせてくれるようであれば、口周りを確認します。糸や紐などが歯や舌に引っかかっていないか、舌や歯ぐきの色がおかしくないか(白っぽい・紫色など)、出血や腫れがないかを見ます。もし紐状の異物が喉に引っかかっている場合、無理に引っ張るのは危険です(奥で絡まっている可能性があるため)。
- 応急処置が必要か判断する: 猫がぐったりしている、けいれんを起こしている、明らかに苦しそうにしている場合は一刻を争います。迷わず猫を毛布やバスタオルで包んで保定し、速やかに動物病院へ向かいましょう。移動中は吐いた物で喉を詰まらせないよう横向きに寝かせ、可能であれば窓を開けて新鮮な空気を入れます。
一方、意識がはっきりしていて動ける場合は、状況に応じて以下の対応をします。- 熱中症が疑わしい場合: 濡れタオルや保冷剤で体を冷やし、風通しを良くします。水を自力で飲めるなら飲ませ、速やかに病院へ。
- 中毒が疑わしい場合: 誤食した可能性のある物(植物や薬剤、食品など)の種類・量・時間をメモしておきます。吐かせようとせず、すぐ病院へ連絡し指示を仰いでください。
- 口の中の痛みが疑われる場合: 口内炎や歯の痛みでよだれが出ているときは、刺激の少ない柔らかい食事を与えます。痛み止めなどの処置が必要なので早めに受診しましょう。
- ストレスが原因の場合: 環境要因で緊張しているなら、静かな部屋に移す、ケージに布をかけて視界を遮るなど安心できる状況を作ります。落ち着けば自然とよだれも止まるでしょう。
- 動物病院に相談・受診する: 上記のように異常が疑われる場合や、判断に迷う場合は早めに獣医師に電話で相談しましょう。症状を伝え、受診すべきか指示を仰ぎます。よだれが何時間も止まらない時や他の症状を伴う時は基本的に受診が必要と考えてください。特に高齢猫では深刻な病気が隠れている可能性がありますから、「たかがよだれ」と放置せず早期受診が大切です。
猫のよだれ過多を予防する方法
日頃のケア次第で、よだれの原因となるトラブルを予防できる場合もあります。以下によだれ過多の予防策をまとめました。
- デンタルケア(口腔ケア): 口の中のトラブル予防には、日々のデンタルケアが欠かせません。理想は毎日の歯磨きですが、難しい場合は週に数回でもブラッシングやデンタルシートで歯垢を拭き取ってあげましょう。歯垢・歯石の蓄積を防ぐことで歯周病や口内炎のリスクを下げられます。
また、定期的に動物病院で歯石除去や口内検診を受けることも有効です。 - 適切な食事管理と水分補給: 猫の食事を見直すことも大切です。柔らかいウエットフードばかりだと歯垢がつきやすいため、適度にカリカリ(ドライフード)を噛む習慣をつけると良いでしょう。歯垢の蓄積を抑えるデンタルケア用のフード(例:ヒルズ t/dやロイヤルカナン オーラルケア)も活用できます。肥満や極端な空腹は体調不良を招くので、適正な給与量を守りましょう。新鮮な水をいつでも飲めるようにして脱水を防ぐことも重要です。
- 室内環境の整備: 猫が生活する環境を安全に保ちます。室温は夏場に高くなりすぎないようエアコン等で調節し、熱中症を予防します。観葉植物やひも状のおもちゃ、危険な薬品類は猫の届かない場所に置き、誤飲・中毒を防ぎましょう。
- ストレスを減らす工夫: 猫は環境の変化に敏感でストレスを感じやすいため、引っ越しや来客時はできるだけ猫に負担をかけないよう配慮します。普段から安心できる隠れ家(箱やキャットタワーの上など)を用意し、怖がりな子は知らない人に無理に会わせないことも大切です。移動に慣らす訓練や、リラックス効果のあるフェロモン製剤(フェリウェイなど)を使用するのも有効です。
- 定期的な健康チェック: 年に1〜2回は健康診断を受け、歯や内臓の状態をチェックしましょう。特にシニア猫では腎臓の数値や口腔内のチェックが重要です。ワクチン接種も怠らず、猫カリシウイルスなど口内炎の原因となる感染症から愛猫を守ってあげてください。
口内ケアやストレスケアに役立つおすすめ商品
最後に、獣医師の現場でも使用される信頼性の高いフードやサプリメントをご紹介します。日常ケアに取り入れて、よだれ過多の予防に役立てましょう。
- デンタルケアおやつ・ガム: 噛むことで歯垢を落とせる猫用歯磨きおやつは、歯磨きを嫌がる猫ちゃんに有効です。例えばライオンのPETKISS「歯みがきおやつ」や、グリニーズ(猫用)などは嗜好性も高く遊び感覚でオーラルケアできます。ただし与えすぎはカロリー過多になるため適量にしましょう。
- オーラルケアフード: 前述のヒルズ t/d(ティーディー)やロイヤルカナン デンタルケアなど、歯石蓄積を抑える処方食があります。普段のフードと置き換えて与えることで、食事しながら歯のケアが可能です。これらは動物病院で取り扱っていることが多いので、興味がある場合は獣医師に相談してみましょう。
- デンタルサプリ・ジェル: 歯磨き粉代わりに使える酵素配合の猫用歯磨きジェル(例えばビルバックのC.E.T.酵素歯磨き)や、飲み水に混ぜるだけで口腔内細菌の繁殖を抑える液体デンタルサプリなども市販されています。歯ブラシと併用するとより効果的です。
- ストレス緩和サプリ: 環境の変化や来客でよだれが出るほど緊張してしまう子には、猫用フェロモン製剤のフェリウェイ(拡散器やスプレー)がおすすめです。猫がリラックスするフェロモンを放出し、日常的な不安を和らげてくれます。また、ジルケーンなどの天然由来成分のサプリメントもストレス軽減に役立つとされています。いずれも薬ではないため副作用は少なく、継続しやすい方法です。
まとめ
猫のよだれが普段より明らかに多いとき、その原因には軽いストレスから重篤な病気まで様々な可能性があります。リラックス時の少量のよだれであれば心配いりませんが、よだれが止まらない状態が続いたり他の異変を伴う場合は早めに動物病院で診察を受けることが大切です。「たかがよだれ」と見過ごさず、日頃から口腔ケアや健康管理を徹底してあげることで、愛猫のトラブルを未然に防ぎましょう。万一異常が起きても落ち着いて対処し、早期発見・早期受診によって愛猫の健康と安全を守ってあげてください。