愛猫の歯が抜けるのを見つけると、「どうして?」と驚いて不安になりますよね。
しかし、原因を知り適切に対策すれば安心してケアができます。この記事では、獣医師が猫の歯が抜ける主な原因から症状、治療法、予防策、さらにはおすすめのフードやサプリメントまで、初心者さんにもわかりやすく解説します。
猫の歯が抜ける主な原因
子猫の乳歯から永久歯への生え変わり
生後2~6ヶ月頃の子猫は、乳歯が抜けて永久歯に生え変わる時期です。この時期に家の中で白い小さな歯(乳歯)を見つけたり、食べ物をよく落としたりすることがありますが、成長過程としては自然なことです。ただし、乳歯が抜けずに残っている「乳歯遺残」があると、歯並びが悪くなったり歯石が溜まりやすくなるため、動物病院で抜歯を検討する場合もあります。
歯周病や歯肉炎などの口腔内の病気
成猫で歯が抜けてしまうもっとも多い原因は、歯周病(歯肉炎や歯周炎)です。歯周病は、歯垢(プラーク)や歯石に含まれる細菌が歯肉に炎症を引き起こし、進行すると歯を支える歯槽骨を溶かしてしまいます。初期症状として歯肉の赤みや出血、口臭の悪化が見られ、進行すると歯がぐらついたり抜け落ちることがあります。
また猫特有の「歯頸部吸収病巣(破歯細胞性吸収病巣)」も要注意です。これは歯と歯茎の境目から歯質が溶け始め、進行すると歯が欠けたり神経が露出して痛みが出る病気です。原因ははっきりわかっていませんが、早期発見と治療が大切です。
事故・外傷
落下事故や交通事故、猫同士のケンカなどで顎や口に強い衝撃が加わると、歯が折れたり抜けたりすることがあります。猫の場合、硬いおもちゃなどで歯を折るよりも、高いところから落ちて口を打つ、交通事故で顔面に外傷を受ける、といった外的な衝撃で歯が傷むケースが多いです。事故直後だけでなく、しばらくしてから痛みや不調が現れる場合もあるため、思い当たる原因がある場合は早めの獣医師受診をおすすめします。
口腔内腫瘍
口の中や顎の骨に腫瘍(できもの)ができると、歯を支える組織が侵されて歯が抜けることがあります。口腔内腫瘍はあまり頻度は高くありませんが、発見が遅れると骨を壊してしまうことがあるため、口元にしこりや出血、異常な口臭などが見られたら獣医師に相談しましょう。
歯が抜け始めたときの症状・サイン
- 口臭の悪化: 歯垢・歯石の蓄積や炎症によって、独特の悪臭が漂います。
- 歯茎の腫れ・出血: 歯周病が進行すると歯茎が赤く腫れ、触ると出血することがあります。
- よだれや食べこぼし: 口内の痛みや違和感でよだれが増え、食事中に食べ物を落としやすくなります。
- 食欲の低下・体重減少: 痛みにより食べるのを嫌がったり、食事量が減って体重が落ちることがあります。
- 見た目の変化: 抜けた歯や折れた歯の破片が落ちている、歯と歯の間に隙間ができている、歯がぐらぐらしているなど、目に見える変化があります。
これらのサインに気づいたら、なるべく早めに動物病院で診察を受けましょう。口腔内の問題は進行が早いこともあるため、早期発見・早期治療が愛猫の痛みを軽減し、健康維持につながります。
治療法:獣医師の診察とケア
歯の異常が見つかったらまずは獣医師に相談します。診察では全身麻酔をかけて口腔内の詳しい検査を行い、必要に応じて歯のレントゲン撮影で歯根や歯槽骨の状態を確認します。その後、以下のような治療やケアが行われます。
- 歯石除去・歯垢清掃: 専用機器を使ってプラークや歯石を除去し、歯周ポケットを洗浄します。
- 抜歯: 歯周病や吸収病巣などで元の状態に戻せない歯は、全身麻酔下で慎重に抜歯します。抜いた後は歯肉を縫合し、痛み止めや抗生物質を使用することがあります。
- 抜歯後のケア: 処置後は柔らかい食事に切り替えて口内を休ませ、投薬や歯磨きでケアします。多くの場合、抜歯後も猫は噛まずに丸飲みできるので、食事は問題なく取れます。
- 投薬・経過観察: 痛み止めや抗生剤で治療し、数日から数週間は経過観察します。回復状況に応じて定期的な通院が必要です。
歯周病や口内炎を含む口腔トラブルは長引くことが多いですが、適切な処置で痛みは軽減し、食欲や元気を取り戻せます。獣医師の指示に従いながら、焦らずしっかり治療を行いましょう。
予防策:日々のデンタルケア
猫の歯を守るためには日頃からのケアが大切です。習慣的にできる予防策をご紹介します。
歯磨き(ブラッシング)
歯磨きは最も基本的なケアです。猫用の歯ブラシや歯磨きペーストを使い、毎日か少なくとも数日に一度は歯を磨く習慣をつけましょう。最初は嫌がるかもしれませんが、少量のごはんやおやつで慣れさせたり、1本ずつ短時間ずつ行ったりと、焦らず少しずつ練習するとよいでしょう。歯磨きは歯垢除去にとても効果的で、歯周病の予防に直結します。
デンタルケアおやつ・おもちゃ
歯磨きが難しい子には、デンタルおやつや噛むおもちゃも役立ちます。噛むことで歯の汚れを物理的に削り落とし、歯肉への刺激にもなります。ただし、あくまで補助的なケアですので、長く噛ませる場合は歯折れなどに注意し、適度に与えましょう。
定期的な病院でのチェック
定期的に動物病院で歯のチェックを受けることも重要です。少なくとも年に1回は健康診断を兼ねた口腔チェックを行い、歯石の付着や歯肉の状態を確認してもらいましょう。早期に問題が見つかれば、軽い処置で済む場合も増えます。
食事面での工夫
食事も歯の健康に影響します。歯垢を落としやすい噛みごたえのあるドライフード(特に歯科予防効果をうたった専用フード)を与えると、食事中に多少歯垢が削れます。ただし猫はドライフードを丸飲みすることもあるため、ウェットフードも併用してしっかり水分を摂るのがおすすめです。与えすぎや繰り返し与えることは避けつつ、ウェットとドライをバランスよく活用しましょう。
推奨フード・サプリメント
口腔ケア専用に作られたフードやサプリメントを活用するのも一つの方法です。
デンタルケア用フード
動物病院で扱う療法食や、市販のデンタルケア対応フードがあります。例えば、ヒルズの「t/d(ティーディー)キャット」、ロイヤルカナンの「ベビーキャット オーラルケア」などは、噛むことで歯垢を落としやすい形状や成分になっています。こうした専用フードはあくまでも補助的ですが、日常的に取り入れることで歯の健康維持に役立ちます。
オーラルケアサプリメント
歯みがきジェルや口にふりかけるタイプのサプリメントも人気です。
例えば、ペットキッスの「デンタルケアペースト」や市販の口腔内ケアサプリは、乳酸菌や酵素、緑茶抽出物などを配合し、口腔内の細菌バランスを整え、歯石や口臭を抑えるとされています。水に溶かすタイプのサプリやウェットフードに混ぜるパウダータイプもあり、猫が好む味なら簡単に取り入れられます。併用することで歯みがきが難しい日にもケアできます。
飼い主としてできること
飼い主さんにできることは、日々の観察とこまめなケアです。愛猫が口を痛がっていないか、食事の様子や行動に変化はないか、毎日チェックしてあげましょう。特に高齢になると歯周病のリスクが上がるため、年齢に応じてより注意深くケアしてください。
デンタルケアは継続が大切です。最初は嫌がっても、少しずつ慣らし、成功したらたくさん褒めてあげましょう。トレーニング方法については当ブログの他の記事でもご紹介していますので、参考にしながら楽しく習慣化してください。
また、歯が抜けてしまっても慌てず対応しましょう。多くの場合、歯が抜けた後の口内は痛みが取れて食欲が戻り、ドライフードを丸飲みして体重が増えるケースもあります。もちろん適切な治療を受けることは重要ですが、抜歯自体は猫にとって大きなストレスではありません。飼い主さんが冷静にケアすることで、愛猫は安心して回復してくれます。
まとめ
猫の歯が抜ける原因は、生え変わりから病気、事故までさまざまですが、どれも適切な対応で対策できます。
大切なのは「早めの発見」「日々のケア」「獣医師との相談」です。今回ご紹介した内容を参考に、愛猫のお口の健康を守ってあげましょう。歯のケアは最初は大変かもしれませんが、習慣化することで猫との信頼関係も深まりますし、病気予防にも役立ちます。どうぞ焦らず、ひとつずつ始めてみてください。