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【獣医師解説】猫の肛門腺が破裂した!お尻から膿が出たときの原因と治療法

猫がお尻を床にこすりつけたり、気にして舐めていたりすると、飼い主としてはとても心配になりますね。愛猫のお尻から血や膿(うみ)が出ているのを見るのはショックかもしれません。

しかし、肛門腺(こうもんせん)の問題は適切に対処すれば回復できるケースが多いです。本記事では、肛門腺が破裂した際の原因や進行する症状、治療の流れ、自宅ケアや予防法まで、初心者の方にもわかりやすく詳しく解説します。女性読者の皆さんにも安心して読めるよう、優しい語り口でまとめていますので、参考にしてください。

原因・リスク要因

猫の肛門腺炎や破裂には、いくつかの原因があります。肛門腺とは、肛門の左右にある袋状の器官で、独特のにおいのする分泌液(肛門腺液)がたまる場所です。本来は排便時に自然に排出されますが、次のような要因で目詰まりが起こると炎症につながります。

  • 分泌液の粘性が高い: 肛門腺液がドロドロと粘っているタイプは詰まりやすく、炎症を起こしやすいです。

  • 肥満や運動不足: 太った猫や高齢で筋力が低下した猫は、腺液がたまりやすい傾向があります。腸の動きが弱まると排泄の力が不足し、分泌液が溜まりがちになります。

  • 便秘や下痢: 便の状態が悪いと排便時に肛門腺が刺激されず、分泌液が溜まりやすくなります。特に硬い便や下痢が続くと自然排出されにくくなります。

  • 感染・外傷: ケンカなどで肛門周辺に傷ができると、そこから細菌が入り炎症を起こすことがあります。

  • その他の病気: 免疫力の低下や皮膚病(アレルギー性皮膚炎など)があると、感染に対する抵抗力が弱まりやすいです。

これらは個体差が大きい要因ですが、複数が重なると肛門腺炎が起こりやすくなります。炎症が悪化すると肛門嚢(こうもんのう)が破れて膿や血が漏れ出し、破裂につながることがあります。

症状の進行段階

肛門腺のトラブルは、段階を経て症状が進行します。以下の3段階で説明します。

初期症状

  • 猫がお尻を気にしてよく舐める、床にお尻をこすりつける(「お尻歩き」)などの仕草が見られます。

  • 排便時に痛がるようになったり、トイレを嫌がったりすることがあります。

  • お尻周りを軽く触ると嫌がるそぶりを見せます。

  • お尻からいつもと異なる強いにおいがすることがあります。

  • 便の表面に少し血が混じることがあります。

この段階ではまだ猫は元気そうなこともありますが、違和感や痛みでストレスを感じています。お尻や尾の付け根を気にする仕草が増えたら、肛門腺の詰まりや炎症を疑い始めましょう。

中期(炎症進行)症状

  • 肛門周辺の皮膚が赤く腫れてきます。腫れが熱を持ち、化膿が始まると膿がにじんできます。

  • 肛門やお尻の周辺が盛り上がって見え、しこりのような膨らみが現れることがあります。

  • 猫がお尻を床に強くこすりつけたり、座るのを嫌がるようになります。

  • 排泄時に鳴く、トイレに行きたがらないなどの異常が見られます。

  • 食欲が落ちたり、元気がなくなることがあります(痛みや感染による影響です)。

この段階では化膿が進んでいる可能性があります。膿がたまると症状が悪化しやすいため、できるだけ早く動物病院で診察・治療を受けることが大切です。

破裂(末期)症状

  • 肛門嚢に溜まった圧力で皮膚が裂け、お尻から膿や血が出てきます。

  • 患部は非常に痛々しく、赤く腫れて酷い場合は化膿が周囲の組織にも及びます。

  • 猫は痛みで激しく鳴く、うなるなどの様子を見せることがあります。

  • 発熱や衰弱、脱水など全身状態にも影響が出ることがあります。

肛門嚢が破裂すると早急な処置が必要です。飼い主さんも驚くかもしれませんが、適切な治療を受ければ回復できる可能性は高いので、落ち着いて動物病院を受診しましょう。

治療の流れ

肛門腺破裂の治療は基本的に動物病院で行います。一般的な治療の流れは次の通りです。

  • 診察・洗浄・排膿: 猫を鎮静して肛門腺の状態を確認します。細いカテーテルや手技で膿や分泌液を押し出して洗浄します。

  • 投薬: 抗生剤や消炎鎮痛剤を投与し、感染と炎症を抑えます。必要に応じて内服薬や注射を行います。

  • 切開排膿・縫合: 大きな膿瘍や破裂部位があれば皮膚を切開し、膿を出します。洗浄後に傷口を縫合し、場合によってドレーンを挿入します。

  • アフターケア: 退院後は処方薬を投与し、患部を清潔に保ちます。猫が舐めないようエリザベスカラーを装着し、安静に過ごさせます。

治療期間は症状の程度によって異なります。獣医師の指示を守って通院・投薬を続け、傷の治癒をサポートしましょう。

自宅ケア方法

治療と並行して自宅でできるケアも重要です。患部を清潔に保ち、症状の悪化を防ぎます。

  • 患部の清潔: 獣医の指示があれば、処方された軟膏や消毒液でお尻周りをやさしく拭きます。膿や血が付着した場合は、生理食塩水を含ませたガーゼで丁寧に拭き取りましょう。

  • 舐め防止: 猫が患部を舐めると感染が広がる恐れがあります。必要に応じてエリザベスカラーをつけて舐めさせないようにします。

  • 安静と保温: 患部が極端に冷えたり汚れたりしないようにし、落ち着ける環境で安静にさせます。

  • 便通チェック: 排便の状態を毎日確認し、便秘や下痢がないかをチェックします。体調に変化があれば早めに獣医師に相談します。

  • 水分・栄養管理: 高繊維のキャットフードを与え便通を整え、水分補給も心がけます。ウェットフードやお湯でふやかしたドライフードなどで水分を増やすと良いでしょう。

自宅ケアでは無理をせず、獣医師の指示を仰ぎながら行ってください。些細な変化でも見逃さないよう注意しましょう。

食事管理と予防

腸内環境と体重管理も肛門腺の健康に関わります。以下のような食事・生活習慣で予防に努めましょう。

  • 食物繊維の摂取: 繊維質の多いキャットフードや野菜(カボチャなど)を取り入れて便通を促します。水溶性食物繊維で便を柔らかく保ち、排出しやすくします。

  • 高タンパク・低脂肪: 肥満予防のため、筋肉維持に必要なタンパク質を確保し、脂肪分は控えめにします。運動も組み合わせて体重管理を行います。

  • 水分補給: 新鮮な水を常に用意し、ウェットフードで水分を補給します。脱水や便秘を防ぎます。

  • 腸内環境サポート: プロバイオティクスや整腸サプリメントで腸の健康を維持することも有効です。必要に応じて獣医師に相談して導入しましょう。

  • お腹マッサージ: お腹を軽くマッサージして腸の蠕動運動を促します。排便リズムが整うと肛門腺の自然排出が期待できます。

適切な食事管理で便の状態を良好に保ち、肥満を防ぐことが肛門腺トラブルの予防につながります。

予防チェックリスト

日常的に以下のポイントをチェックして、肛門腺トラブルを未然に防ぎましょう。

  • お尻周りの観察: トイレの後やブラッシング時に肛門周辺を確認。赤み、腫れ、膿の有無、異臭がないかチェックします。

  • 排便記録: 毎日の排便量や硬さ、血や粘液がないかを観察し記録します。異常があればすぐに対処します。

  • 体重管理: 月に1回は体重測定を行い、増減に注意します。急激な体重増加は肥満のサインです。

  • 運動・遊び: 日常的に運動や遊びでストレスを発散し、筋力維持を図ります。肥満防止にもつながります。

  • 定期健診: 年に1~2回は獣医師による健康診断を受け、肛門腺の溜まり具合も相談します。

  • 肛門腺ケア: 溜まりやすい猫は、月に1回程度を目安に獣医師やトリマーに肛門腺絞りを依頼します。自宅で行う場合は、獣医師にやり方を教わると安心です。

これらのチェックポイントを習慣化して、早期発見・早期対処を心がけましょう。

よくある質問(Q&A)

  • Q: 肛門腺の問題は猫に多い病気ですか?
    A: 犬ほど頻繁ではありませんが、高齢や肥満の猫で起こりやすいです。症状が出たら早めに対応しないと重症化する恐れがあります。

  • Q: 症状に気付いたら自宅でまず何をすればいい?
    A: 無理に触ったり絞ったりすると悪化します。まずは清潔なタオルで軽く患部を抑え、できるだけ早く動物病院を受診してください。

  • Q: 肛門腺は自宅で絞ってもいいの?
    A: 個体差が大きく、不慣れだと皮膚や腺を傷つけることがあります。まずは獣医師に手順を教わってから行いましょう。

  • Q: 破裂後は再発しますか?
    A: 適切な治療とケアで多くは治りますが、溜まりやすい体質の猫は再発することもあります。再発を繰り返す場合は肛門嚢摘出手術も検討されます。

まとめ

  • 猫の肛門腺炎は分泌物の目詰まりや感染が原因で起こり、悪化すると肛門嚢が破裂して膿や血が出ます

  • 初期はお尻を気にする仕草や異臭がサインです。進行すると痛みや膿が出て重症化します。早期発見が大事です。

  • 治療は腺の洗浄・排膿と抗生剤・消炎薬の投与が中心です。自宅では患部の消毒ケアや栄養管理でサポートします。

  • 食事管理では繊維質を増やして便通を整え、肥満を防ぎましょう。水分補給も忘れずに行ってください。

  • 日常チェック: お尻周りや排便の状態を確認し、気になる症状があればすぐ獣医師に相談しましょう。

以上のポイントを参考に愛猫の健康管理に役立ててください。小さな変化でも早めに行動することが大切です。

  • この記事を書いた人
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DrVets

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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