人間用の薬を愛犬が誤って口にしてしまったら、飼い主さんはどう対処すればよいのでしょうか?身近な例では、床に落とした薬を犬がパクリと食べてしまった、テーブルの上に置いていた薬をいつの間にか飲んでしまった、など日常に潜む危険があります。
本記事では、愛犬が人間用の薬を誤飲してしまった場合に現れる可能性のある症状、すぐに取るべき初期対応、動物病院での処置、誤飲を防ぐための予防策についてわかりやすく解説します。また、愛犬の健康を守る日頃のフードやサプリメント選びのポイントや、よくある質問への回答も紹介します。万が一の時に落ち着いて対処できるよう、ぜひ参考にしてください。
原因:なぜ犬は人間の薬を誤飲してしまうの?
犬が人間用の薬を誤飲してしまう原因の多くは、飼い主さんの不注意や犬の好奇心によるものです。家族が服用している薬をうっかり床に落としてしまったり、テーブルの上に薬を置きっぱなしにして目を離した隙に犬が口にしてしまったりと、日常の中で起こりうる些細なミスが大きな事故につながります。
特に子犬や若い成犬は好奇心旺盛で、見慣れない物を見つけるとすぐに口に入れて確かめようとします。飼い主さんが薬を手に取っている様子を見て「自分も欲しい」と思ってしまうケースや、薬の匂いや形状によってはおやつと勘違いして飲み込んでしまうこともあります。実際、ある調査では犬の急性中毒事故の原因の2位が医薬品であり、誤飲事故は0歳~1歳の子犬に特に多く報告されています(※10歳以上の高齢犬でも一定数の事故が起きています)。このように年齢に関係なく、犬には人間の薬を誤飲してしまうリスクが常に存在すると言えるでしょう。
また、飼い主さん自身が病気で薬を服用中の場合、普段より注意力が落ちて薬の管理が疎かになりがちです。いつもはしっかりと片付けているのに、体調が悪い時に限って薬をテーブルに置きっぱなしにしてしまい、犬がいたずらしてしまう…という事例もあります。このような原因を踏まえ、次章では万が一愛犬が薬を飲んでしまった際に現れる症状について、薬の種類別に見ていきましょう。
薬別の症状:飲んだ薬によってこんな違いが!
犬が誤飲した薬の種類によって、現れる症状や影響は異なります。以下では代表的な人間の薬をいくつか取り上げ、それぞれを愛犬が飲んでしまった場合に起こりうる主な症状をご紹介します。
解熱鎮痛薬(NSAIDs)を誤飲した場合
人間の発熱や痛み止めに使われる、市販でも手に入りやすい薬です。代表的なものにイブプロフェンやアスピリン、ロキソプロフェンなどがあり、「イブ」「バファリン」「ロキソニン」などの商品名で知られています。これらの薬は犬が少量を摂取しただけでも副作用を起こしやすいとされています。
- 食欲不振(ご飯を食べなくなる)
- 嘔吐
- 下痢
- 腹痛(お腹が痛くて丸くなる、うなるなど)
- 出血傾向(血が止まりにくくなる)
消化管の粘膜がただれて出血したり、血液が固まりにくくなる作用があるため、吐血や血便が見られることもあります。また、長期的に見ると腎臓にも負担がかかり、腎不全を引き起こす場合もあります。
アセトアミノフェンを誤飲した場合
アセトアミノフェンは子どもの解熱剤や風邪薬によく含まれる成分です。犬がアセトアミノフェンを飲み込むと、次のような症状が現れることがあります。
- 顔や足がむくむ(浮腫)
- 元気がなくなる、ぐったりする
- 嘔吐や食欲低下
- 肝臓の障害(黄疸が出る、血液検査で肝酵素の異常値)
- 重症の場合、呼吸困難やチアノーゼ(粘膜が紫色になる)など酸素不足による症状
アセトアミノフェンは犬の体内で分解される過程で肝臓に深刻なダメージを与えます。早ければ摂取後数時間で上述のような症状が出始め、進行すると貧血や呼吸困難を起こし命に関わる状態に陥ることもあります。
プソイドエフェドリンを誤飲した場合
プソイドエフェドリンは鼻づまりなどに使われる市販の風邪薬・鼻炎薬に含まれることがある成分です(例:「パブロン鼻炎カプセル」など)。犬が摂取すると興奮状態になり、以下のような異常が現れます。
- 体温が上がる(熱っぽくなる)
- 血圧が上昇する
- 落ち着きがなくなり興奮する
- 呼吸が荒く速くなる(パンティング)
プソイドエフェドリンはごく少量でも危険な物質です。目安として体重1kgあたり約10mgの摂取で命の危険があると言われています。市販薬の中にはカプセル1個に30mg程度のプソイドエフェドリンを含むものもあり、小型犬が1粒でも飲み込めば非常に深刻な中毒症状に陥る可能性があります。
血圧を下げる薬(降圧薬)を誤飲した場合
人間の高血圧治療に使われる降圧薬も、犬には危険な場合があります。種類にもよりますが、ACE阻害薬(エース阻害薬)は元々犬の治療に使われることもある薬とはいえ、人間用は用量が多すぎて犬には過剰となります。またβ遮断薬(ベータブロッカー)はごく微量でも犬に強く作用しやすいので要注意です。愛犬がこれらの薬を飲んでしまうと、次のような症状がみられます。
- 血圧低下によるふらつき、めまい
- 虚脱(ぐったりして反応が鈍くなる)
- 嘔吐・下痢や強い吐き気
- 心拍数の低下(脈が遅く弱くなる)
降圧薬の種類によって症状の出方は異なりますが、いずれも心臓や血圧に作用する薬のため、重度の場合は意識消失や昏睡状態に陥る危険もあります。少しでも早く適切な処置を受けることが重要です。
初期対応:愛犬が薬を飲んでしまった直後にすべきこと
愛犬が人間用の薬を誤飲してしまった場合、まずは慌てずに落ち着いて対応することが大切です。時間との勝負でもあるので、以下のような初期対応を素早く行いましょう。
- すぐに獣医師に連絡する。
かかりつけの動物病院に電話し、状況を伝えて指示を仰ぎます。夜間や休日で連絡がつかない場合は、近隣の夜間救急動物病院や動物中毒相談窓口にすぐ問い合わせましょう。 - 獣医師に伝える情報を整理する。
電話をする際に伝えるべきポイントをあらかじめ整理しておきます。- 愛犬の年齢・体重・性別(避妊去勢手術の有無)や持病の有無
- 誤飲してしまった薬の名前や種類(市販薬か処方薬か、用途など)
- 誤飲した推定量(例:「錠剤を◯錠」「カプセルを◯個」など)
- 誤飲したおおよその時間(◯時頃など)
- 現在の愛犬の様子(元気がない、吐いた、ふらついている等の具体的な症状)
できるだけ正確に伝えることで、獣医師も適切な判断を下しやすくなります。
- 獣医師の指示に従い行動する。
電話で指示を受けたら、その指示に従って対応します。すぐに連れてくるように言われた場合は、飲み込んだ薬のパッケージや説明書、処方箋などがあれば一緒に持参しましょう。動物病院へ向かう際は、安全に移動できるようキャリーケース等を使い、愛犬の様子を見守りながら速やかに向かいます。 - 自己判断で無理に吐かせない。
飼い主さんの判断でオキシドール(過酸化水素)や食塩水を飲ませて吐かせようとするのは危険です。誤って吐瀉物を気管に吸い込んでしまう(誤嚥する)恐れがあり、かえって状態が悪化することもあります。獣医師から指示がない限り、自宅で無理に吐かせようとしないでください。
なお、愛犬が痙攣(けいれん)を起こしている場合は、無理に押さえつけたり口の中に手を入れたりしないようにしましょう。周囲の物をどかして安全な場所に寝かせ、可能であればスマートフォン等で発作の様子を録画しておくと、後で獣医師が状態を把握する助けになります。
動物病院での処置:どんな治療が行われるの?
病院に到着したら、獣医師が愛犬の状態や飲み込んだ薬の種類・量、経過時間に応じて適切な治療を行います。想定される主な処置は次の通りです。
- 催吐処置: 胃の中に残っている薬を吐かせるための処置です。専用の催吐薬を注射して嘔吐を促し、まだ消化されていない薬物を体外に出します。誤飲から時間があまり経っていない場合に有効です。
- 胃洗浄: チューブを使って胃の内容物を洗い流す処置です。催吐剤が使えない状況や、吐かせても十分に除去できなかった場合、大量に薬を飲んでしまった場合などに行われます。犬の胃の中を生理食塩水などで洗浄し、残存する薬物を可能な限り取り除きます。
- 活性炭の投与: 活性炭を飲ませて、体内の有害物質を吸着させる処置です。活性炭は薬の成分を吸着し腸からの吸収を抑える効果があります。催吐後や胃洗浄後に、まだ残っている毒物の吸収を減らす目的で実施されることが多いです。
- 解毒剤・拮抗薬の投与: 飲み込んだ薬の種類によっては、その毒性を中和する解毒剤や作用を打ち消す拮抗薬が存在する場合があります。可能であればそうした薬剤を投与して、中毒症状の進行を防ぎます。
- 点滴・輸液: 静脈点滴による輸液治療です。解毒を促進するために利尿剤を併用して腎臓からの薬物排泄を促したり、下痢や嘔吐がある場合は不足した水分・電解質を補正したりします。全身状態を安定させるために必要に応じて行われます。
上記の他にも、症状に応じて血圧や心拍の管理、酸素吸入、痙攣発作があれば抗痙攣薬の投与など、様々な救急処置が講じられます。また、重篤な場合は数日間の入院治療となるケースもあります。治療費は内容や動物病院によって異なりますが、夜間や緊急の場合は割増料金となることが多いです。日頃からペット保険への加入や、治療費の目安を確認しておくといざという時に安心でしょう。
予防法:誤飲事故を未然に防ぐためにできること
何より大切なのは、愛犬が人間の薬を誤飲しないように普段から環境を整え、しつけを行い、注意を払うことです。以下に、日常で実践できる予防策をまとめました。
- 薬は犬が届かない場所に保管する: テーブルや床など、犬の届く所に薬を置きっぱなしにしないよう徹底しましょう。服用中の薬もその都度フタ付きのピルケースや引き出しに入れ、使用後はすぐ片付けます。バッグに入れて持ち歩いている薬も、バッグごと放置せず犬が触れない場所に保管してください。
- 飼い主が薬を服用するときも注意: 飼い主さん自身が薬を飲む際は、愛犬がそばにいない状況で行う習慣をつけましょう。うっかり錠剤を落としてしまった場合でも、犬が近くにいなければ即座に拾って事故を防げます。特に錠剤をアルミ包装から出すときなど、落としやすいシーンでは細心の注意を払い、必要なら犬を別室に待たせておくと安心です。
- 「出して(離して)」のしつけをしておく: 愛犬が口にくわえた物を「出して」や「離せ」のコマンドで放せるよう、普段からトレーニングしておきましょう。おもちゃで遊んでいるときにわざと「出して」と言って放させ、放したらすぐに褒めてご褒美を与える、といった練習を繰り返すと効果的です。こうしたしつけは誤飲しそうになった瞬間に「離せ!」と指示して事故を防ぐのに役立ちます。
- 拾い食いをさせない環境作り: 犬は地面に落ちている物をつい口にしてしまう習性があります。家の床に小さな物(ピルケースから落ちた錠剤など)が落ちていないか日頃から点検し、散歩中も地面の物を口にしないようリードコントロールを徹底しましょう。もし犬が何か口に入れてしまったときは、飼い主さんが大声で驚いたり追いかけたりしないこともポイントです。慌てると犬は余計に興奮して「取られまい」と飲み込んでしまう恐れがあるため、落ち着いて対処してください。
- 緊急時に備えておく: 万が一の誤飲事故に備え、緊急連絡先をあらかじめ確認しておきましょう。かかりつけの動物病院の電話番号はもちろん、夜間救急専門の動物病院や地域の動物中毒相談窓口の連絡先をメモしておくといざという時に慌てずに済みます。家族みんながすぐ見られる場所(冷蔵庫に貼る等)に緊急連絡先リストを用意しておくのもおすすめです。
健康を守るためのフードとサプリ選び
愛犬の健康を日頃から維持しておくことも、万一の中毒に負けない強い体作りにつながります。まず基本はバランスの良い食事です。年齢や体格に合った総合栄養食のドッグフードを与え、良質なたんぱく質やビタミン・ミネラルをしっかり摂取させましょう。特に肝臓や腎臓は体内の解毒を担う臓器なので、これらの臓器に負担をかけない適切なカロリー管理や塩分管理も大切です。
また、必要に応じてサプリメントを活用する方法もあります。市販の犬用サプリには、肝臓の働きを助けるものや抗酸化作用で体を守るもの、腸内環境を整えるものなど様々な種類があります。例えばウコン(クルクミン)やオオアザミ由来のシリマリンといった成分は肝臓の解毒機能をサポートすると言われており、ビタミンC・ビタミンEなどは抗酸化作用で細胞のダメージを軽減する効果が期待できます。
ただし、サプリメントはあくまで健康補助の位置づけで、与えれば絶対安心というものではありません. 過剰に与えるとかえって健康を害する恐れもあります。また、人間用に作られたサプリを犬に与えるのは危険です。サプリメントを利用したい場合は必ず獣医師に相談し、愛犬の状態に合った安全な製品を選ぶようにしましょう。
Q&A:人間の薬の誤飲に関する疑問
Q. 犬が人間の薬を少し舐めただけなら様子を見ても平気?
A. いいえ、たとえ少量であっても油断は禁物です。犬にとって人間の薬はごくわずかな量でも中毒症状を引き起こすことがあります。舐めただけで元気そうに見えても、後になってから体調が急変する可能性もあります。少しでも薬を口にしてしまったら、必ず獣医師に連絡して指示を仰いでください。 症状が出ていなくても、早めに適切な対応をすることで重篤化を防げます。
Q. 家庭で犬を吐かせた方がいい場合もありますか?
A. 基本的に自己判断で愛犬を吐かせる行為は危険です。前述の通り、オキシドール(過酸化水素)や食塩を無理に飲ませて吐かせようとすると、吐いたものを喉に詰まらせたり、食道・胃を傷つけてしまう恐れがあります。吐かせる処置が必要かどうかは飲んだ物や時間経過によって異なり、獣医師が状況を判断して適切な方法で処置します。 飼い主さんは自己流の処置は避け、速やかに獣医師に任せましょう。
Q. 犬に人間用の薬を与えても大丈夫なケースはありますか?
A. 一部の人間用医薬品は犬の治療に流用されることもありますが、必ず獣医師の指示のもとで使用する必要があります。例えば子ども用の胃薬や整腸剤など、人と犬で共通して使える薬もありますが、適切な種類・用量は専門家でなければ判断できません。 市販の頭痛薬や風邪薬などを「少しなら平気だろう」と自己判断で犬に与えるのは大変危険です。人間に無害な薬でも犬には有害な成分が含まれる場合があります。愛犬に薬を与える際は、たとえ人用の薬でも必ず獣医師に相談し、指示に従ってください。
Q. 誤飲後、症状が出るまでどのくらい時間がありますか?
A. 薬の種類や摂取量、犬の体格によって異なりますが、早ければ30分以内に初期症状が出ることもあります。例えば興奮剤のような成分であれば比較的すぐに落ち着きのなさや呼吸の変化として現れるでしょう。一方で、肝臓や腎臓に負担をかけるタイプの薬では数時間経ってから嘔吐や食欲不振などが出始めるケースもあります。いずれにせよ、症状が現れるのを待つのは危険です。誤飲に気付いたら症状の有無に関わらず即座に対処を始めましょう。
まとめ
人間用の医薬品は犬にとって少量でも非常に危険で、場合によっては命に関わる重篤な症状を引き起こします。万が一、愛犬が薬を誤飲してしまったら、できるだけ早くかかりつけの動物病院に連絡し、獣医師の指示を仰いで適切な対処を行ってください。自己判断での応急処置(吐かせる等)は状況を悪化させる可能性があるため避けましょう。
日頃から誤飲事故を防ぐために、薬の保管場所や扱いに注意し、愛犬へのしつけや環境整備を徹底することが大切です。飼い主さん自身も、愛犬の前で薬を扱う際には細心の注意を払い、決して油断しないようにしましょう。また、愛犬の健康管理をしっかり行い、強い体作りをしておくことで万一の事態にも対処しやすくなります。
愛犬の健康と安全を守れるのは、飼い主さんであるあなたしかいません。正しい知識と日頃からの備えで、大切な愛犬を危険から遠ざけ、安心して暮らせる環境を整えてあげてください。