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【獣医師解説】犬が水を飲みすぎる原因とは?多飲多尿を引き起こす病気と対策

愛犬が急に水を飲む量が増えたり、おしっこの回数が多くなっていませんか?

犬の多飲多尿は、しばしば病気のサインです。

普段から「水の飲みすぎ」や「多飲多尿」の状態に気付いたら、早めに対策を始めましょう。

本記事では、多飲多尿の原因や症状、考えられる病気、診断・治療法、そして家庭でできるケアや予防策までを、初心者の飼い主さんにもわかりやすく解説します。できるだけ愛犬の変化に敏感になり、獣医師監修の視点を交えつつ、安心して読める内容をお届けします。

犬の多飲多尿とは

多飲多尿とは、犬が通常よりも多くの水を飲み、その結果としておしっこ(尿)の量や回数が増える状態を指します。一般的に犬は体重1kgあたり1日に約50~100mlの水を飲むのが目安とされ、これを超えると「多飲」、さらに頻繁に排尿が増えると「多尿」と考えられます。

例えば体重5kgの犬なら、1日500ml(一般的なペットボトル1本分)以上の水を飲むと多飲と判断されることがあります。

多飲多尿になると、飼い主さんが気づくきっかけはおしっこの量が増えてトイレの回数が多くなることが多いです。特に普段2~3回の排尿だったのに5~6回以上繰り返す場合や、一回の量が明らかに多い場合は要注意です。

水をたくさん飲むから尿が増えるのではなく、実際には体内で作られる尿の量が増えることで喉が乾くために多飲になるというメカニズムです。

そのため、飼い主さんが「水を減らしてみよう」と自己判断で与える水の量を制限すると、脱水を起こしてしまうことがあります​。

愛犬の多飲多尿に気付いたら、まずは原因を調べるため動物病院で検査を受けることが大切です。

原因

多飲多尿の原因はさまざまですが、多くは体の病気(疾患)が関係しています。主な原因としては、次のようなものが挙げられます​

  • 内分泌系の異常: ホルモンバランスの乱れ(糖尿病、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、尿崩症など)。
  • 腎臓・泌尿器の病気: 慢性腎不全(腎臓病)、尿路感染症、腎盂腎炎など、尿を作る・濃縮する機能の低下。
  • 女性犬特有の疾患: 子宮蓄膿症(中高齢の未避妊メス犬で起こる子宮内の感染症)。
  • 薬剤や食事: 長期ステロイド投与などの薬の副作用、高塩分の食事・誤食など。
  • その他: 熱射病や激しい運動など一時的な体調変化、ストレスなどが原因で一時的に多飲になる場合もあります。

これらの疾患はいずれも尿量を増加させ、結果的に喉の渇きを引き起こします。慢性的に多飲多尿が続く場合は、こうした病的な原因を疑いましょう。

主な症状

愛犬に多飲多尿の症状が出たとき、飼い主さんは以下のような変化に気付くことがあります

  • 水を飲む量・回数が増える: お皿の水がいつもすぐなくなる、散歩から帰ってくるとすぐに水をガブガブ飲む。
  • 頻繁な排尿: トイレに行く回数が増える(一日に5~6回以上)、ペットシーツがすぐ濡れる、夜中も何度もトイレに起きる。
  • 異常な喉の渇き: 就寝中も起きて水を飲む、蛇口や水瓶を探すしぐさ、乾いた舌を見せる。
  • 行動や元気の変化: 落ち着きなく水を探す、元気がなかったり、動きが鈍くなる。
  • その他の体調変化: 体重減少、食欲の増減(過食や食欲低下)、嘔吐、下痢、皮膚の乾燥や脱毛、お腹が膨れている感じなど。

これらは多飲多尿に伴って現れるサインです。特に「体重が減る」「元気がなくなる」「吐く・下痢をする」など症状が出てきた場合は、早急に動物病院で診てもらいましょう。メス犬で外陰部から膿が出ていたり(子宮蓄膿症の可能性)、夜間おもらししてしまうなどは緊急性の高いサインです。

こんな症状は要注意

  • 水を飲む量が短期間で急激に増えた
  • 体重が減っていく、食欲が落ちている
  • 嘔吐や下痢、ぐったりするなど元気がない
  • 排尿時に苦しそうにする、血尿が出る
  • メス犬で陰部から膿が出ている

上記のような症状が見られたら、すぐに動物病院へ相談してください。多飲多尿自体が命にかかわるわけではありませんが、原因となる病気は放置すると重症化します。

考えられる病気

多飲多尿を引き起こす代表的な病気について、症状や特徴を見ていきましょう。

慢性腎臓病(腎不全)

腎臓病は、腎臓の機能が徐々に低下する病気です。腎臓は体内の老廃物を濾過し、尿として排出する役割がありますが、機能が落ちると尿を濃縮できず大量の薄い尿が作られます。結果として体内の水分が失われやすくなり、それを補おうと犬は水を多く飲むようになります。

症状としては、多飲多尿のほかに脱水症状、食欲低下、体重減少、嘔吐、口臭、貧血傾向などが見られます。高齢犬では特に注意が必要で、初期は軽い多飲多尿のみのこともあります。診断は血液検査(BUNやクレアチニン、SDMAなど腎機能の数値)や尿検査(尿比重の低下)で行います。治療は点滴などで水分を補給しつつ、腎臓に負担の少ない低タンパク・低リンの食事療法を行うのが基本です。

糖尿病

糖尿病はインスリンというホルモンが不足または効きにくくなることで発症し、体内で血糖値が異常に高くなる病気です。血糖が尿へ漏れ出すと血液中の浸透圧が高まり、尿量が増加します。

これが「多尿」を引き起こし、結果的に喉が渇いて多飲になります。犬の糖尿病では多飲多尿のほかに、体重減少、食欲増加、疲れやすさ、白内障などの症状がみられます。

診断は血液検査による高血糖と尿検査での尿糖陽性で確定します。治療は毎日のインスリン注射と、食事の管理(低カロリー・低糖質食)です。適切な治療を続ければ、犬も元気に生活できますので、早期発見が大切です。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

副腎皮質から分泌されるコルチゾールが過剰になる病気で、クッシング症候群と呼ばれます。犬の多飲多尿が見られる代表的な病気のひとつです。

コルチゾール過剰は脳や腎臓での水分調節を妨げ、多尿となってしまいます。症状としては多飲多尿のほかに、多食、腹部がぽっこり膨らむ(臨月腹)、皮膚や被毛の異常(皮膚が薄くなる、脱毛)、筋肉量減少、感染症にかかりやすいなどがあります。

診断は血液検査でコルチゾール値を調べたり、副腎の大きさをエコーで確認します。治療にはトリロスタンなどの薬物治療が一般的で、腫瘍が疑われる場合は手術も検討されます。

子宮蓄膿症(未避妊のメス犬)

子宮蓄膿症は、避妊手術をしていない中高齢のメス犬がかかりやすい、子宮内に細菌感染と膿が溜まる病気です。

細菌から出る毒素が血中に回ることでホルモンバランスが崩れ、「多尿」となりその結果「多飲」になります。典型的な症状は陰部からの膿の排出ですが、排膿が外に出ない場合も多く、だるさ、食欲低下、嘔吐、発熱など全身症状として現れます。

非常に重篤化しやすく、発見が遅れると敗血症になることもあるため緊急性が高い病気です。診断は外陰部からの排膿や超音波検査での子宮内膿の確認、血液検査などで行います。治療は子宮と卵巣を摘出する緊急手術が基本で、術後は抗生物質などを使います。未避妊のメス犬は発症リスクが高いため、予防策としては避妊手術が有効です。

尿崩症(中枢性・腎性)

尿崩症はバソプレシンというホルモンの異常で起こる病気です。中枢性尿崩症では脳の下垂体がホルモンを作れず、腎性尿崩症では腎臓がホルモンに反応しなくなります。いずれも水分の再吸収ができず、大量の薄い尿が出ます。

症状は喉の渇きが異常に強く、とにかく大量に水を飲みます。原因は脳腫瘍や外傷、腎臓の先天異常などが挙げられますが、犬では比較的まれです。

診断は専門的なホルモン検査や塩分負荷試験などで行います。治療は中枢性の場合はバソプレシン製剤(デスモプレシン)の投与、腎性の場合は原因となる腎疾患の治療が検討されます。

尿路感染症・腎盂腎炎

膀胱や腎臓など尿路に細菌感染が起こると、頻尿や排尿時の痛みなどが現れます。場合によっては頻繁に少量の尿を出す「頻尿」、膀胱の炎症による刺激で多飲となることがあります。感染が腎臓に達すると腎機能も低下し、多尿を伴うこともあります。主に泌尿器系が弱い高齢犬や糖尿病の犬で起こりやすいです。

診断は尿検査で細菌や白血球を確認し、必要に応じて尿培養検査を行います。治療は抗生物質を用い、飲水量を確保して排尿しやすい環境を作ることが大切です。

副腎皮質機能低下症(アジソン病)

アジソン病は副腎皮質ホルモンが不足する病気です。重篤化すると嘔吐や元気消失、ショックなどを引き起こしますが、初期には多飲多尿を示すこともあります。ホルモン不足でナトリウムが減少し、尿量が増えて水を多く飲むようになるためです。若齢のコッカー・スパニエルやスタンダード・プードルに多いとされています。

診断はACTH刺激試験などで行い、治療は不足しているホルモン(副腎皮質ホルモン)を補充する薬物療法をします。

薬剤性(ステロイド投与など)

ステロイド(副腎皮質ホルモン製剤)は、炎症やアレルギー治療で使われる一方で多飲多尿の副作用があります。長期投与や量の多い投与で、犬は多尿多飲になることがあります。これらの薬を服用している場合は獣医師に相談しながら減量・中止を検討します。

その他の要因

日射しの強い夏場や激しい運動後には、一時的に水をよく飲むことがあります。塩分の多い食事や誤って塩分を含む物を摂取してしまった場合も渇きが増します。また、肥満によって糖尿病などリスクが高まる場合があるので、体重管理も間接的な予防になります。

診断・治療法

多飲多尿の原因を特定するには獣医師の診察と各種検査が必要です。一般的な診断の流れは次のとおりです:

  • 問診・身体検査: 飲水量や排尿頻度、体重変化など日々の様子を獣医師に伝えます。おしっこが採取できれば持参するのが望ましいです。
  • 血液検査: 腎機能(BUN, クレアチニン)、血糖値、電解質、コルチゾール値などを調べ、糖尿病や腎不全、クッシングなどをチェックします。
  • 尿検査: 尿比重(濃縮能の確認)、尿糖や細菌の有無、細胞成分などを確認します。尿糖陽性なら糖尿病、比重が低ければ濃縮障害が考えられます。
  • 画像検査: 腹部エコーやレントゲンで腎臓、副腎、子宮などの異常を調べます。子宮蓄膿症や腫瘍が疑われる場合は欠かせません。
  • 専門検査: 必要に応じてACTH刺激試験(副腎機能検査)、尿崩症の診断試験、ホルモン負荷試験などを行うこともあります。

これらの検査により原因が特定されたら、治療法はそれぞれの病気に応じて行います。具体例を挙げると:

  • 慢性腎不全: 点滴や皮下補液で水分補給を行い、腎臓用療法食で腎負担を軽減。
  • 糖尿病: インスリン注射と低糖質・高繊維の療法食で血糖コントロール。
  • クッシング症候群: コルチゾール生成抑制薬(トリロスタン、ミトタンなど)の内服。
  • 子宮蓄膿症: 緊急の卵巣子宮摘出手術と抗生物質による治療。
  • 尿崩症: 中枢性の場合はホルモン薬(デスモプレシン)投与、腎性の場合は基礎疾患の対処。
  • 尿路感染症: 適切な抗生物質治療と水分補給。
  • アジソン病: 副腎皮質ホルモン補充療法。
  • 薬剤性: 可能であれば原因薬剤の減量・中止。

どの場合も、早期の診断と治療開始が予後を大きく左右します。自己判断で治療を試みず、必ず獣医師の指示に従いましょう。

家庭でできるケア

多飲多尿の対応には、家庭での日頃の観察とケアが役立ちます。以下のポイントを参考に、愛犬の様子を記録しましょう:

  • 飲水量の記録: ペットボトルや容器で1日に飲んだ水の量を測りましょう。目安として体重1kgあたり100ml以上は多飲です。
  • 排尿の観察: 排尿の回数や量、色やにおいの変化に注意します。シーツの重さを測る、もしくは回数をノートに書き留めると参考になります。
  • 体重・食欲のチェック: 毎日体重を量り、食欲や体調の変化(吐いたり下痢をしていないか)を確認します。体重減少や食欲低下は病気のサインになることが多いです。
  • 清潔な飲み水の常時提供: いつでも新鮮な水を与え、脱水を防ぎます。容器は洗って清潔に保ち、複数箇所に水飲み場を用意するとよいでしょう。
  • 環境の整備: 暑さや冷えに配慮し、快適な室温を保ちます。ストレスが多い環境(騒音・過密状態など)は避け、落ち着ける場所で過ごさせましょう。
  • 適切な食事管理: 獣医師から指示があれば腎臓病用フードや療法食に切り替えます。普段からタンパク質やリンが適度なバランスの食事を心掛け、肥満も防止しましょう。
  • 服薬・治療のサポート: 獣医から処方された薬や注射は、自己判断せず指示通りに与えます。食後・食前の指定があれば守り、投薬が難しい場合は獣医に相談してください。

なお、水分制限はしないでください。多飲多尿に気づいたときに飼い主さんが「おしっこが多いから水を減らそう」と判断しがちですが、これは脱水を招く危険な行為です。症状が気になるときはむしろこまめに水を飲ませ、動物病院での診断を優先しましょう。

予防策

多飲多尿の原因になる病気の多くは予防が可能です。以下の対策を参考に、愛犬の健康維持に努めましょう。

  • 定期健診の受診: 年に一度の健康診断や血液検査で、腎機能や血糖、ホルモン値の異常を早期に発見します。特にシニア期に入ったら半年に一度の検診も検討してください。
  • バランスの良い食事管理: 肥満は糖尿病やクッシング症候群のリスク要因になります。カロリー・栄養バランスに気をつけ、適正体重を維持しましょう。
  • 飲水の監視: いつもと違う水の飲み方(過剰飲水、逆に飲まなくなる)に気付いたら獣医師に相談を。常に新鮮な水を用意しつつ、異常がないかチェックします。
  • 避妊手術: メス犬は子宮蓄膿症の予防になるため、繁殖予定がない場合は避妊手術を検討しましょう。
  • 薬剤管理: ステロイドなど長期投与が必要な場合は獣医師と相談し、最小有効量を守ります。また副作用で多飲多尿が出ていないか注意深く観察します。
  • 適度な運動とストレスケア: 運動は血糖管理や全身の健康維持に有効です。ただし過度な運動は熱中症のもと。季節に応じた運動量で、ストレスを溜めない生活環境を整えましょう。

まとめ

犬の多飲多尿は、普段の何気ない行動の変化に隠れた病気のサインであることが多いです。愛犬が「水飲みすぎ」「おしっこが多い」と感じたら、早めに対応しましょう。日頃から飲水量や排尿の様子、体重や食欲の変化を観察し、以下の点を心がけてください:

  • 多飲多尿は病気のサイン。変化に気づいたら早めに獣医師に相談。
  • 飲水量・排尿回数・体重などを記録し、異常値(目安:1kgあたり100ml以上の飲水)があれば早めの対処を。
  • 高齢犬や心配な持病のある犬は、定期検診で隠れた疾患をチェック。
  • 原因が判明したら獣医師の指示に従い、適切な治療とサポートを行う。
  • 清潔な水の提供や適正体重管理を通じて、愛犬の健康を守りましょう。

多飲多尿の原因は一つではありませんが、飼い主さんの早めの気付きと動物病院での診察が、愛犬のQOL(生活の質)を守る第一歩です。本ガイドを参考に、愛犬の健康管理にぜひお役立てください。

  • この記事を書いた人
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DrVets

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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