獣医師、ペット栄養管理士が犬と猫の病気と食事について徹底解説しています!

カテゴリー

犬のアジソン病

【獣医師解説】犬のアジソン病を徹底解説|診断・治療・食事・緊急時対応まで

この記事では、犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)について診断・治療・食事・緊急時対応まで、獣医師が徹底解説します。アジソン病は「GreatPretender(偉大なる模倣者)」と呼ばれるほど症状が多彩で見逃されやすい疾患ですが、正しく診断・治療すれば元気な日常生活を取り戻せます。「うちの犬が元気なさそう・嘔吐が続く・急に倒れた」という飼い主さん、ぜひ最後まで読んでください。

犬のアジソン病とは?基本知識

アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、副腎皮質から分泌されるコルチゾール(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)の両方またはどちらかが不足する疾患です。副腎は腎臓の近くにある小さな臓器で、ストレス反応・水分・電解質バランスの維持に不可欠なホルモンを産生しています。

これらのホルモンが不足すると、体はストレスに対応できなくなり、ナトリウム・カリウムなどの電解質バランスが崩れ、様々な全身症状が現れます。最悪の場合は「アジソンクリーゼ」と呼ばれる急性副腎不全を起こし、命に関わる状態になります。

原因・発症メカニズム

一次性アジソン病(最多)

副腎皮質そのものが破壊される状態です。約90%が免疫介在性(自己免疫による副腎皮質の破壊)です。副腎の機能が75%以上低下して初めて臨床症状が現れるため、発見が遅れることが多いです。

二次性アジソン病

脳下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌不足により副腎が刺激されないため、コルチゾールのみが不足します(アルドステロンは保たれる)。長期ステロイド投与の急な中止で起きることもあります。

好発犬種・年齢・性別

アジソン病は以下の犬種での発症報告が多いです。

  • スタンダード・プードル(最多報告)
  • ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
  • グレート・デーン
  • ビアデッド・コリー
  • ポルトガル・ウォーター・ドッグ
  • ノバ・スコシア・ダック・トーリング・レトリーバー

発症年齢は4〜7歳の若〜中年齢が最も多く、犬種によっては2〜3歳での発症も珍しくありません。性別では雌犬での発症が雄の約2倍と報告されています。

症状チェックリスト

アジソン病の症状は多彩で非特異的なため、「典型的な症状」というものがなく診断が困難です。以下のような症状が慢性的・間欠的に見られる場合はアジソン病を疑う必要があります。

初期症状(慢性期・間欠的)

  • □ 元気がない・活動量の低下(波がある)
  • □ 食欲不振・体重減少
  • □ 嘔吐・下痢(繰り返す・治ったり悪化したりを繰り返す)
  • □ 震え・筋力低下
  • □ 多飲多尿(アルドステロン不足で起きる)
  • □ 脱水傾向(下痢・嘔吐が重なる)

進行時・慢性期の症状

  • □ 体重の著しい減少・筋肉の萎縮
  • □ 低血糖による虚弱・ふらつき
  • □ 腹痛(腹部圧痛)
  • □ 心拍数の低下・不整脈(高カリウム血症による)
  • □ 極度の疲労・運動不耐性

緊急受診が必要なサイン(アジソンクリーゼ)

以下の症状はアジソンクリーゼ(急性副腎不全)であり、直ちに救急病院を受診してください。

  • 突然のぐったり・虚脱・意識障害
  • 激しい嘔吐・下痢(血が混じることも)
  • ショック症状(粘膜蒼白・冷感・脈が弱い・速い呼吸)
  • 体温低下(低体温)
  • 腹部の激しい痛み

アジソンクリーゼは急性膵炎・中毒・腸閉塞と症状が似ており、見分けが難しいです。血液検査で電解質異常(Na低下・K上昇)が確認されれば強く疑います。

検査・診断の流れ

動物病院でやること

1. 身体検査・問診

間欠的な消化器症状・元気消失のエピソード・好発犬種・性別・年齢を確認します。「ストレスで悪化し休むと回復する」という特徴的なパターンも問診で拾えることがあります。

2. 血液検査(電解質が鍵)

アジソン病で最も特徴的なのがNa(ナトリウム)の低下・K(カリウム)の上昇です。Na/K比が25以下(正常27以上)であればアジソン病を強く疑います。

3. ACTH刺激試験(確定診断)

合成ACTHを注射し、副腎のコルチゾール分泌能力を確認します。刺激前後のコルチゾール値が基準値を大幅に下回る場合に確定診断されます。これがアジソン病のゴールドスタンダード(確定診断法)です。

4. 尿検査・画像検査

尿比重低下(多尿)・超音波検査での副腎の萎縮(アジソン病では萎縮することが多い)を確認します。

血液検査の見方

検査項目正常値アジソン病での変化
Na(ナトリウム)140〜155 mEq/L低下(130以下になることも)
K(カリウム)3.5〜5.5 mEq/L上昇(7以上になると心停止リスク)
Na/K比27以上25以下(強く疑う)
BUN(尿素窒素)7〜27 mg/dL上昇(脱水・腎機能低下)
血糖値70〜120 mg/dL低下(低血糖)
基礎コルチゾール1〜6 μg/dL1未満(強く疑う)

治療法の選択肢

アジソン病の治療はホルモン補充療法です。一生涯の投薬が基本ですが、適切に管理すれば普通の犬と変わらない生活を送ることができます。

急性期・慢性期別の治療方針

急性期(アジソンクリーゼ・入院治療)

  • 大量補液(生理食塩水)による電解質補正・脱水改善
  • 速効性ステロイド(デキサメタゾン・ヒドロコルチゾン)の静脈投与
  • 高カリウム血症の緊急処置(グルコース+インスリン投与など)
  • 心電図モニタリング(カリウムによる不整脈の監視)
  • 入院期間:2〜5日が目安

慢性期(在宅ホルモン補充療法)

  • DOCP(デスオキシコルチコステロン)注射:アルドステロン補充。25日おきの皮下注射。副作用が少なく長期管理に優れる
  • フルドロコルチゾン(経口):アルドステロンとコルチゾールの両方を補充できる内服薬。毎日投与
  • プレドニゾロン(経口):コルチゾール補充用。低用量で毎日投与

薬の種類と副作用

薬剤名補充するホルモン投与方法注意点
DOCP(Percorten-V)アルドステロン25日ごと注射コルチゾール補充別途必要
フルドロコルチゾン両方毎日経口体重増加・多飲多尿(過剰投与で)
プレドニゾロンコルチゾール毎日経口ストレス時は用量を2〜3倍に増やす(ストレスドーシング)

ストレスドーシング(重要)

アジソン病の犬はストレス(手術・重病・強い恐怖・長距離移動など)時に通常より多くのコルチゾールが必要になります。このような状況ではプレドニゾロンを平常時の2〜3倍に増量する「ストレスドーシング」が必要です。飼い主さんは必ずこの概念を理解し、獣医師と事前に計画を立てておきましょう。

食事管理の基本

アジソン病の食事管理で特に重要なのはナトリウム(塩分)の適切な摂取ストレスを避けることです。

食べていいもの・いけないもの

食事管理のポイント

  • ホルモン補充療法が安定している場合、特定の食材制限は基本的に不要
  • ナトリウム(塩分)を含む通常のドッグフードで問題なし(極端な低塩食は避ける)
  • DOCP注射を使用している場合は、動物病院の指示に従って塩分量を調整する
  • 低血糖を防ぐため1日2〜3回の規則正しい食事が推奨される

注意が必要な状況

  • 嘔吐・下痢で食事ができない時は低血糖・電解質異常のリスクが高まるため、すぐに動物病院へ
  • フルドロコルチゾン使用中に多飲多尿が著しい場合は投与量の調整が必要
  • 体重増加が著しい場合も薬の過剰投与を疑う

療法食・市販食の選び方

アジソン病専用の療法食は現在市販されていません。ただし合併症(腎臓病・糖尿病・膵炎)がある場合はその疾患に対応した食事管理が必要です。基本的にはバランスの取れた高品質なドッグフードを規則正しく与えることが大切です。

治療費・年間コスト

項目費用の目安
初診・ACTH刺激試験15,000〜40,000円
クリーゼ入院(2〜5日)50,000〜150,000円
DOCP注射(月1〜2回)5,000〜15,000円/回
フルドロコルチゾン(月)3,000〜8,000円
定期検診・血液検査(年4〜6回)40,000〜100,000円/年
年間合計(安定管理時)20〜50万円

よくある飼い主Q&A

Q1. アジソン病は一生治らないのか?

A. 現時点では一次性アジソン病の根本的な治療法はなく、一生ホルモン補充療法が必要です。ただし適切に管理すれば普通の犬と同様に元気に生活できます。多くの飼い主さんが「薬を飲ませながら旅行に行ったり、ドッグランで遊んだりしている」と報告しています。

Q2. DOCP注射を自分で打てるか?

A. 皮下注射なので技術的には可能です。ただし日本では通常、動物病院での実施が一般的です。在宅注射についてはかかりつけ医に相談してください。

Q3. ストレスドーシングはどんな時に必要か?

A. 手術・麻酔・重症感染症・骨折などの大きな身体的ストレス時はプレドニゾロンを2〜3倍に増量します。引っ越し・雷・花火など精神的ストレスでは軽度増量することもあります。何がストレスになるか不明な場合は獣医師に確認しましょう。

Q4. アジソン病の犬に手術は危険か?

A. 事前準備をしっかり行えば手術は可能です。手術前にストレスドーシング用の追加ステロンを投与し、麻酔科医・担当獣医師にアジソン病であることを必ず伝えます。緊急手術の際も同様です。アジソン病であることを示すIDタグや診察証明書を常に携帯することが推奨されます。

Q5. DOCP注射は何日おきに打つのが正しいか?

A. 標準的には25日おきです。ただし電解質バランス(Na・K)の検査結果に応じて25〜35日の範囲で調整します。最初の数回は2週後に血液検査を行い、適切な投与間隔を見極めます。

Q6. アジソン病とクッシング症候群は違うのか?

A. 逆の病気です。アジソン病は副腎ホルモンが「少なすぎる」状態、クッシング症候群は「多すぎる」状態です。症状も逆の方向に出ることが多く、混同しやすいため注意が必要です。まれに両方の疾患が合併することもあります。

Q7. アジソン病の緊急カードはどこで作れるか?

A. 診察証明書・治療内容の書かれた書類を動物病院で作成してもらい、ペット用IDタグと一緒に携帯することをお勧めします。「アジソン病・要ステロイド」と明記したタグも有効です。

関連記事一覧

📚 犬のアジソン病関連記事

アジソン病の長期管理:深掘りガイド

アジソン病は一生涯の管理が必要ですが、多くの犬が診断後も元気に長生きしています。長期管理を成功させるためのポイントを詳しく解説します。

フルドロコルチゾン vs DOCP:どちらを選ぶべきか

アジソン病の長期管理では「フルドロコルチゾン(経口毎日)」と「DOCP注射(25日おき)+プレドニゾロン」のどちらかが選択されます。

比較項目フルドロコルチゾンDOCP注射
投与方法毎日経口25日おき注射(病院で実施)
コントロール性用量調整しやすい安定した血中濃度
コスト通院回数少ない注射のたびに通院必要
副作用リスク過剰投与で多飲多尿比較的副作用が少ない

どちらを選ぶかは犬の状態・飼い主のライフスタイル・コストなどを考慮して獣医師と相談して決めます。

定期検診で何を確認するか

アジソン病の定期検診(3〜6ヶ月ごと)では以下を確認します。

  • 電解質(Na・K・Na/K比):ホルモン補充が適切かどうかの最重要指標
  • BUN・クレアチニン:腎機能のモニタリング
  • 血糖値:糖尿病合併の有無
  • 体重・体型評価:ステロイドによる体重増加・筋肉喪失がないか
  • 血圧測定:アルドステロン不足による低血圧のチェック

アジソン病のない(典型的でない)プレゼンテーション

アジソン病が「偉大なる模倣者」と呼ばれる理由は、典型的な電解質異常(Na低下・K上昇)を示さない「非定型的アジソン病」が存在するためです。

非定型的アジソン病とは

非定型的アジソン病では、コルチゾールのみが不足し(アルドステロンは正常)、Na/K比は正常範囲内です。そのため通常の血液検査では見逃されやすく、ACTH刺激試験でしか診断できません。

「原因不明の慢性的な消化器症状・元気消失」で何度も検査しても異常が見つからない場合には、ACTH刺激試験を実施することで非定型的アジソン病が見つかることがあります。

アジソンクリーゼの予防と備え

アジソンクリーゼは命に関わる緊急事態ですが、適切な備えで予防できます。

クリーゼを引き起こす可能性があるトリガー

  • 感染症(ウイルス・細菌)、特に嘔吐・下痢を伴う場合
  • 手術・全身麻酔
  • 重大な外傷・骨折
  • 極度の精神的ストレス(大きな環境変化・恐怖)
  • 薬(フルドロコルチゾン・プレドニゾロン)の急な中断
  • 食事不摂取が続く状態

クリーゼ予防のための在宅備え

  • 緊急用ステロイド(デキサメタゾン注射液)を処方してもらい、自宅に常備しておく(使用法を獣医師にトレーニングしてもらう)
  • 「アジソン病罹患」と明記したIDタグをつける
  • かかりつけ病院の緊急連絡先・近くの救急動物病院を確認しておく
  • 旅行・帰省時はアジソン病の診断書・薬を必ず持参

アジソン病と他のホルモン疾患の関係

自己免疫性多内分泌症候群

アジソン病は自己免疫疾患であるため、他の内分泌腺も自己免疫攻撃を受けるリスクがあります。特に甲状腺機能低下症・糖尿病・副甲状腺機能低下症との合併(自己免疫性多内分泌症候群)が報告されています。

アジソン病を診断された犬では定期的に甲状腺ホルモン(T4)・血糖値のチェックを行うことが推奨されます。

クッシング症候群との鑑別

アジソン病(副腎機能低下)とクッシング症候群(副腎機能亢進)は全く逆の疾患ですが、一部の症状が重なることがあります(多飲多尿・元気消失など)。鑑別には血液検査・ACTH刺激試験・低用量デキサメタゾン抑制試験が用いられます。

アジソン病の犬の生活の質(QOL)向上のための工夫

ストレス管理の重要性

アジソン病の犬はストレスへの対応能力が低下しているため、ストレスを最小限にする環境作りが重要です。

  • 急激な環境変化を避ける(引っ越し・新しいペットの導入は慎重に)
  • 花火・雷など音に敏感な場合は事前対策(防音・安心できる場所の確保)を行う
  • トレーニングは短時間で楽しく、強制的にならないように
  • 規則正しい生活リズム(食事時間・散歩時間)を維持する

運動と活動量の管理

治療が安定してホルモン補充が適切になれば、多くのアジソン病犬は通常の犬と同様に活動できます。ただし急激な激しい運動はストレスドーシングが必要になる場合があります。日常の適度な運動は維持しながら、「疲れたらすぐ休める」環境を整えてあげましょう。

アジソン病犬の飼い主体験談の要点

多くのアジソン病犬の飼い主さんから聞かれる経験談をまとめます。

  • 「診断前は何度も『原因不明の体調不良』で受診したが、ACTH刺激試験で一発で分かった」
  • 「最初は薬を毎日飲ませることが負担だったが、今は習慣になって苦にならない」
  • 「DOCP注射に切り替えてから管理が楽になった。月1回の通院で安定している」
  • 「クリーゼで一度救急搬送されてからは緊急ステロイドを自宅に常備するようにした」
  • 「アジソン病と診断されてから7年経つが、元気に生きている。正しく管理すれば怖くない」

まとめ:アジソン病の犬と長く歩むために

犬のアジソン病は「一生涯の管理が必要」と聞くと不安になりますが、適切なホルモン補充療法と定期検診を続けることで、多くの犬が通常の犬と変わらない元気な生活を送れます。

大切なのは以下の3点です。

  1. 正確な診断(ACTH刺激試験):電解質異常が正常でも非定型的アジソン病の可能性を念頭に
  2. ストレスドーシングの理解と備え:緊急時に適切に対応できるよう事前準備を
  3. 継続的な定期検診:ホルモン補充が適切かどうかを電解質検査で定期的に確認する

この記事と関連記事がアジソン病の愛犬と共に歩む飼い主さんのお役に立てれば幸いです。

アジソン病犬の実践的管理ガイド:日常生活編

毎日の薬の管理を習慣化するコツ

フルドロコルチゾンを毎日欠かさず飲ませることは、アジソン病管理の最重要事項です。飲ませ忘れが続くとアジソンクリーゼのリスクが高まります。

  • 毎朝・毎夜の食事の時に薬を混ぜる(食事と一緒に自然に食べさせる)
  • 薬の管理アプリを使って服薬記録をつける
  • 旅行・外出先でも必ず持参する
  • 錠剤が飲みにくい犬にはピルポケット・チーズ・バターに包む
  • 家族全員が薬の重要性を理解する

DOCP注射のスケジュール管理

DOCP注射は25日ごとに動物病院で実施します。予約のリマインダーを設定し、絶対に遅れないように管理しましょう。旅行中に注射日が来る場合は事前に調整するか、旅行先近くの動物病院で実施できるよう手配します。

アジソン病と年齢:若犬・高齢犬への対応

若犬(1〜3歳)でのアジソン病

若犬でのアジソン病診断は飼い主にとって特に大きなショックです。しかし早期診断・適切な治療開始により、長く健康な生活を送ることができます。若犬ではホルモン補充の用量が安定するまで数ヶ月かかることがあるため、特に最初の1年は定期的な電解質チェックが重要です。

高齢犬でのアジソン病

高齢犬(10歳以上)ではアジソン病の治療が他の老化関連疾患(腎臓病・関節炎・認知症)と重なることがあります。薬の相互作用・腎機能への影響に注意しながら管理します。高齢犬では体重減少・筋力低下が起きやすいため、タンパク質が十分に摂れる食事を心がけましょう。

アジソン病の飼い主同士で共有すべき知識

緊急カードの作成

アジソン病犬を連れて外出・旅行する際は、以下の情報を記した「緊急カード」を常に携帯することを推奨します。

  • 犬の名前・体重・年齢
  • 「犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)罹患」という明記
  • 現在使用している薬(DOCP・フルドロコルチゾン・プレドニゾロンなど)と用量
  • 緊急時には「デキサメタゾン0.1mg/kg 静脈内投与」が必要と明記
  • かかりつけ医の連絡先
  • 飼い主の緊急連絡先

ストレスドーシングの実施タイミング一覧

以下の状況では事前にかかりつけ医に相談してストレスドーシングの計画を立ててください。

  • 予定された手術・処置・麻酔(当日から数日前に増量を開始することも)
  • ワクチン接種(接種前後1〜2日間増量する場合も)
  • 長距離移動・引っ越し・新しい動物との同居開始
  • 花火大会・雷が多い季節
  • 感染症・消化器症状が起きた時

アジソン病診断後の生活変化:実際のケーススタディ

ケース1:4歳スタンダード・プードル「もも」ちゃんの事例

突然の嘔吐・元気消失でクリーゼを起こし救急搬送。血液検査でNa/K比が20と著しく低下、ACTH刺激試験でアジソン病と確定。入院4日間で安定後、DOCP注射+プレドニゾロンで管理開始。1年後には元気に公園で走り回っており、飼い主は「診断されて怖かったが、今は普通の生活を送れている」とのこと。

ケース2:2歳ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア「しろ」ちゃんの事例

「食欲にムラがあり、時々嘔吐する」という主訴で複数の病院を受診。原因不明と言われ続けたが、最終的にACTH刺激試験で非定型的アジソン病(Na/K比正常)と診断。プレドニゾロン開始後から嘔吐がなくなり、食欲も安定。「あの検査をしてもらってよかった」と飼い主は語る。

まとめ:アジソン病犬の生活を豊かに保つために

アジソン病の管理で最も重要なのは「情報と準備」です。緊急時に慌てないための準備(緊急ステロン・緊急カード・動物病院の確保)、ストレスドーシングの理解、定期検診の継続。これらを続けることで、アジソン病の愛犬と長く、安心して暮らすことができます。

一見複雑に見えるアジソン病の管理も、慣れると日常の一部になります。多くの先輩飼い主さんが「最初は不安だったが今は問題ない」と語っています。一人で悩まずに、獣医師・飼い主コミュニティと一緒に歩んでいきましょう。

アジソン病の診断から治療開始まで:詳細タイムライン

典型的な診断・治療の流れ

アジソン病の典型的な診断・治療経過を時系列で解説します。

受診当日(初診・クリーゼ時)

  1. 問診・身体検査(ショック症状・脱水・腹痛の確認)
  2. 緊急血液検査・尿検査(電解質Na低下・K上昇・低血糖)
  3. 速効性ステロイド(デキサメタゾン)の静脈投与
  4. 大量補液開始(生理食塩水0.9%)
  5. ACTH刺激試験(補液・ステロイド投与前に採血、またはデキサメタゾン使用後に実施)
  6. 電解質・心電図モニタリング開始

入院中(2〜5日間)

  • 持続輸液・電解質補正の継続
  • ACTH刺激試験結果でアジソン病確定
  • ステロイドをプレドニゾロン内服に切り替え
  • DOCP注射または経口フルドロコルチゾンの開始
  • 電解質・血圧の安定を確認

退院後(1〜2週間後に再診)

  • 電解質(Na・K)の確認
  • 薬の用量調整
  • ストレスドーシングについての飼い主教育

安定後(3〜6ヶ月ごと)

  • 定期的な電解質チェック
  • 体重・全身状態の評価
  • 薬の効果・副作用のモニタリング

アジソン病の食事管理:深掘りガイド

ナトリウムと食事の関係

アルドステロン不足によりナトリウムが尿中に失われるアジソン病では、適切なナトリウム摂取が重要です。フルドロコルチゾンまたはDOCPで適切に補充できていれば、通常のドッグフードのナトリウム量で問題ありません。

ただしDOCP注射のみ(プレドニゾロン使用しない場合)では、コルチゾール補充が不十分になることがあり、ストレスに対応できないことがあります。主治医の指示に従って必ずプレドニゾロンも適切に使用してください。

合併症がある場合の食事管理

腎臓病合併:低リン・低タンパク食(腎臓病療法食)とアジソン病管理の両立。ナトリウム制限が必要になることもある

糖尿病合併:低炭水化物・高タンパク食と電解質管理の両立。インスリン治療と薬の相互作用に注意

クッシング症候群合併:まれだが、低コルチゾール(アジソン)と高コルチゾール(クッシング)が同時に起きるケース。食事よりも薬の調整が優先

アジソン病と遺伝:繁殖についての考え方

一次性アジソン病は遺伝的要素が強く、好発犬種(スタンダードプードル・ポルトガル・ウォータードッグなど)では家系内での発症が見られます。アジソン病の犬の繁殖については、以下の点を考慮してください。

  • アジソン病の犬の仔犬は発症リスクが高い可能性がある
  • 好発犬種のブリーダーはアジソン病の検査・選択交配を実施することが望ましい
  • アジソン病の診断を受けた犬の繁殖は原則推奨されない(遺伝リスク・妊娠中のホルモン管理の複雑さ)

アジソン病犬のメンタルヘルス:犬も飼い主も

アジソン病犬の感情・行動

治療前のアジソン病犬は慢性的な体調不良・倦怠感・低血糖などから元気がなく、攻撃的になったり引きこもりがちになることがあります。ホルモン補充が適切に行われると多くの犬で性格・行動が明るくなります。

治療開始後に「別犬のように元気になった」という飼い主の声は非常に多いです。これはコルチゾール補充によりエネルギー代謝が改善し、コルチゾールが持つ気分・気力への好影響が発揮されるためです。

飼い主の不安と対処法

「薬を飲ませ忘れたらどうなるか」「旅行中にクリーゼが起きたら」という不安は多くの飼い主が感じます。以下の準備で不安を軽減できます。

  • 薬の予備を常にストック(最低2週間分)
  • 旅行先の動物病院リストの事前確認
  • 緊急ステロン(デキサメタゾン注射液)の自宅常備と使用法のトレーニング
  • 「1回飲ませ忘れた程度では急にクリーゼにはならない」という知識を持つ(ただし連続した飲み忘れは危険)

アジソン病の新しい治療アプローチ(研究段階)

現在、アジソン病の新しい治療アプローチが研究されています。

  • 副腎組織移植:実験的段階で、実用化には至っていない
  • 幹細胞療法:副腎細胞の再生を目指す研究が進められている
  • 遺伝子治療:自己免疫反応を止める・副腎細胞を保護する遺伝子治療の研究

現時点ではホルモン補充療法が唯一の有効治療ですが、将来的にはより根本的な治療法が登場する可能性があります。

アジソン病の診断・管理に関する学術的エビデンス

アジソン病の診断・管理に関する主要なガイドラインと研究知見をまとめます。

  • ECVIMの欧州犬の副腎疾患ガイドラインでは、ACTH刺激試験が確定診断のゴールドスタンダードと明記
  • DOCPは25日おきの投与がNa/Kバランスを最も安定させると複数の研究で示されている
  • プレドニゾロンの基礎投与量は0.2mg/kg/日が推奨されているが、個体差があり定期的な調整が必要
  • アジソン病犬の10〜40%が診断時にクリーゼを呈しているというデータもあり、早期診断の重要性が指摘されている

参考文献・参照ガイドライン

この記事は以下の文献・ガイドラインを参考に獣医師監修のもと作成されました。

  1. Scott-Moncrieff JC. Hypoadrenocorticism. In: Ettinger SJ, Feldman EC, eds. Textbook of Veterinary Internal Medicine. 7th ed. Saunders Elsevier; 2010:1847–1857.
  2. Klein SC, Peterson ME. Canine hypoadrenocorticism: part I. Can Vet J. 2010;51(1):63–69.
  3. Klein SC, Peterson ME. Canine hypoadrenocorticism: part II. Can Vet J. 2010;51(2):179–184.
  4. Lifton SJ, King LG, Zerbe CA. Glucocorticoid deficient hypoadrenocorticism in dogs: 18 cases (1986–1995). J Am Vet Med Assoc. 1996;209(12):2076–2081.
  5. Kintzer PP, Peterson ME. Treatment and long-term follow-up of 205 dogs with hypoadrenocorticism. J Vet Intern Med. 1997;11(2):43–49.

  • この記事を書いた人
アバター

DrVets

国公立大学獣医学科卒業。臨床経験10年以上。犬・猫の慢性疾患(腎臓病・膵炎・消化器疾患・内分泌疾患)と食事管理を専門とする現役獣医師が、科学的根拠に基づいた情報を監修しています。当サイトの全記事は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)・世界小動物獣医師会(WSAVA)等のガイドラインに準拠して監修しています。

-犬のアジソン病