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【獣医師解説】猫の高血圧|突然の失明・痙攣を防ぐ症状・治療・測定方法を徹底解説

「突然、猫の片目または両目が見えなくなった」「ふらついてぐるぐる回る」「急に元気がなくなり頭を壁につけている」——これらは猫の高血圧が引き起こす緊急症状かもしれません。猫の高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれ、長期間無症状で進行し、突然重篤な合併症を引き起こす怖い病気です。

猫の高血圧とは?正常値と高血圧の基準

猫の高血圧(全身性高血圧症)は、血管内の血圧が持続的に異常高値を示す状態です。猫の収縮期血圧の正常値は140mmHg未満とされており、ACVIM(米国獣医内科学会)のガイドラインでは以下のように分類されます。

  • 正常:120〜140mmHg未満
  • 前高血圧:140〜159mmHg(臓器障害リスク低い)
  • 高血圧:160〜179mmHg(臓器障害リスク中等度)
  • 重篤な高血圧:180mmHg以上(臓器障害リスク高い)

猫の高血圧は動物病院での測定時に興奮・緊張によって血圧が上昇する「白衣高血圧」の問題もあり、1回の測定だけでなく複数回の平均値で評価することが推奨されます。測定は落ち着いた状態で行い、5分以上安静にさせてから複数回測定します。

高血圧の有病率については、シニア猫(10歳以上)の約13〜87%が何らかの高血圧を示すとの報告があり、特に腎臓病・甲状腺機能亢進症を持つ猫では頻度がさらに高くなります。

高血圧の症状|突然の失明・眼底出血・痙攣・行動変化

猫の高血圧は「臓器障害」が現れるまで無症状(または非常に気づきにくい症状)のことが多いため、発見が遅れる傾向があります。「SHHH(Silent, Hypertension, Hypertrophic heart, High risk)」と表現されることもあります。

眼症状(最も多い緊急症状):

  • 突然の失明:網膜剥離または眼底出血によって起こります。片眼または両眼。「突然、物にぶつかるようになった」「瞳孔が大きく開いたまま光に反応しない」などのサインが現れます
  • 眼底出血:眼科検査で網膜の血管からの出血が確認されます
  • 前房出血:眼球の前部に血液がたまって赤く見える
  • 瞳孔散大(ミドリアシス):光に当てても縮まない固定散瞳

神経症状:

  • 旋回(ぐるぐる回る)・失調(フラフラ歩く)
  • 痙攣・発作
  • 突然のぐったり・意識消失
  • 頭を壁に押し付ける(頭位異常)

心臓症状:

  • 心雑音(左心室肥大による)
  • 呼吸困難(肺水腫・胸水)

腎臓への影響:

  • 高血圧は腎臓の糸球体を傷め、腎機能低下を加速させます
  • 多飲多尿(腎機能低下のサイン)

高血圧の原因|腎臓病・甲状腺機能亢進症との関係

猫の高血圧のほとんど(80〜90%)は他の疾患に続発する「二次性高血圧」です。

慢性腎臓病(CKD)は猫の高血圧の最多原因です。腎機能が低下するとレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)が活性化し、血圧が上昇します。同時に高血圧が腎臓の糸球体にさらなるダメージを与えるという悪循環が生まれます。CKD猫の約61%が高血圧を合併するとの報告があります。

甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンの過剰分泌により心拍数・心拍出量が増加し、血圧を上昇させます。甲状腺機能亢進症猫の約87%に高血圧が見られるとの報告もあります。甲状腺機能亢進症の治療後も高血圧が持続する場合は、潜在していた腎臓病が顕在化していることがあります。

副腎皮質機能亢進症(クッシング)はコルチゾールの過剰産生により血圧が上昇しますが、猫では比較的稀です。糖尿病肥満も高血圧リスクを高めます。原因不明の特発性高血圧は猫では約13〜20%を占めます。

診断方法|血圧測定(ドップラー法・オシロメトリック法)

猫の血圧測定には2種類の方法があります。

ドップラー血流計による測定は前足(または後足)に小さなカフを巻き、超音波プローブで動脈の血流音を聴きながら測定する方法です。猫の収縮期血圧を正確に測定できることから、ドップラー法が現在最も信頼性の高い方法とされています。測定部位は主に前足の橈骨動脈または後足の尾動脈です。

オシロメトリック法は人間の自動血圧計と同様の原理で、カフの圧脈波を検出する方法です。操作が簡便で動物病院で広く使われていますが、猫では過小評価されやすいという報告もあり、ドップラー法との併用や繰り返し測定が推奨されています。

測定時のポイントとして、白衣高血圧を避けるために診察室に入ってから5〜10分安静にさせること、5回以上測定して平均を取ること、猫をテーブルに置かず飼い主の膝の上や慣れた状態で測ることで精度が上がります。

高血圧の確認後は、背景疾患の検索として血液検査・尿検査(腎機能・甲状腺ホルモン)、腹部エコー(腎臓・副腎の評価)、眼科検査(眼底・網膜)を行います。

治療薬|アムロジピン・テルミサルタンの効果と副作用

猫の高血圧治療の目標は、収縮期血圧を140mmHg未満(理想的には120〜140mmHg)に下げ、臓器障害を予防・進行抑制することです。

アムロジピン(カルシウム拮抗薬)は猫の高血圧治療の第一選択薬です。血管平滑筋のカルシウムチャネルを阻害して末梢血管を拡張させ、血圧を下げます。1日1回の経口投与で、猫では0.625mg〜1.25mg/日が一般的です。効果は高く、約80〜90%の猫で有効な血圧低下が得られます。主な副作用としては歯肉肥大(長期使用)や、稀に過度の血圧低下があります。

テルミサルタン(アンジオテンシンII受容体拮抗薬:ARB)はRAASを阻害することで血圧を下げるとともに、腎臓の糸球体圧を下げる腎保護効果も持ちます。猫の慢性腎臓病合併高血圧に特に適しています。アムロジピンに追加または単独で使われます。猫用の液剤製品(セミントラ)が利用可能で、1日1回投与で管理しやすい薬です。

エナラプリルなどのACE阻害薬も使われますが、猫ではアムロジピンに比べて降圧効果がやや劣るとされています。腎臓病との合併例では初期に腎機能が一時的に悪化することがあるため注意が必要です。

治療開始後は1〜2週間後に血圧再測定を行い効果を確認します。血圧が安定したら1〜3か月ごとのモニタリングを継続します。失明した場合でも、速やかに血圧を下げることで網膜が再接着して視力が回復することがあるため、緊急での受診が重要です。

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院長

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国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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