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【獣医師監修|猫の肥大型心筋症】症状(肺水腫•血栓症)、寿命・余命•長生きの秘訣について解説

【獣医師監修|猫の肥大型心筋症】症状(肺水腫•血栓症)、寿命・余命•長生きの秘訣について解説

老猫でよく起こる心臓病"肥大型心筋症"という病気を知っていますか?

肥大型心筋症とはネコちゃんの心臓の筋肉が厚くなってしまう病気で、なんと10%以上もの猫が肥大型心筋症になると報告されています。 

肥大型心筋症は初期症状がなく、気づいた時には進行しており末期症状である肺水腫や胸水、突然死を引き起こす血栓塞栓症を発症してしまうとても恐ろしい病気です。

この記事では肥大型心筋症の詳細な解説から、初期・末期症状、治療法、そして寿命についてまとめています。

猫の肥大型心筋症について

肥大型心筋症とは、ネコちゃんの心臓の筋肉が厚くなってしまう病気のことを指します。

心臓の左側(時々右側も)の筋肉が大きくなると、心拍数が増えたり、リズムが乱れたり、左心室の圧力が上がったりして、左心不全などの病気を引き起こすことがあります。

肥大型心筋症は、猫の心臓の病気の中でも最もよく見られ、約2/3を占めています。

発症する年齢は、5〜7歳齢が多く、雄猫の方が雌猫よりも発症率が高い事が分かっています。

また、健康な猫103匹に心エコー検査をしたところ、約15%で心臓の筋肉(心室壁)が厚くなっていることが分かっており、発症する年齢や性別はさまざまで、症状がない猫も多いのです。

ラグドールなどの品種と心筋症について

ラグドールやメインクーンなどの品種では遺伝子に異常があるため、肥大型心筋症が起こりやすいことがわかっています。

心筋症と遺伝子の変異

というのも肥大型心筋症は、ヒトでも400種以上の遺伝子変異がこの病気の原因となることがわかっており、猫でも特定の遺伝子変異が関係することが分かっています。

特にラグドールやメインクーンという猫ちゃんでは、特定の遺伝子の変異が肥大型心筋症の発症と関連しています。

ですが、遺伝子が変異しているからといって必ずしも病気になるわけではありません。

肥大型心筋症の初期症状

この病気では、心臓の筋肉が厚くなることで、血圧が上がったり、心拍数が乱れたり、心臓の左側が機能しなくなることがあります。

これらの症状が進行すると、心筋の力が極端に低下し、筋肉が厚くなった状態から症状が進行すると呼ばれます。

肥大型心筋症の猫は、症状が出にくい病気で、診察で心音が変だと感じた時に初めて気づくことが多いです。

すべての肥大型心筋症の猫で明らかな心音の異常が見つかるわけではないので、早期発見が難しい病気なのです。

肥大型心筋症の末期症状

肥大型心筋症が進行すると、肺に水がたまるために呼吸が苦しくなったり、呼吸が早くなることがあります。このように肺に水が溜まることを肺水腫といいます。

肺水腫について

肺水腫は、心臓が血液をうまく送り出せなくなるために起こる症状です。他にも胸やお腹に水が溜まる事があり、胸水や腹水と呼ばれます。

特に病気が急に悪化した時には、体のあらゆる部分(特に後ろ肢)に血栓ができる事があります。これを血栓塞栓症と呼びます。

血栓塞栓症になった場合、多くの猫の余命は非常に短い事が分かっており、突然死することがあります。具体的な寿命は、61〜184日と予後は非常に悪いです。

肥大型心筋症の治療

この病気の治療の目的は、心臓の筋肉が太りすぎるのを抑えたり、心臓が正常に働かなくなるのを遅らせることです。

しかし、病気の原因は1つだけではないので、全ての猫に効果的な治療方法があるわけではありません。

無症状の場合

肥大型心筋症の猫における治療目標は心筋肥大の抑または改善、心不全への進行抑制などがあげられます。

無症状の場合でも薬を使用する事があり、

カルシウムチャネル搭抗薬、ACE 阻害薬などが使用されることがあります。

ACE阻害薬

ACE阻害薬はアンジオテンシンⅡが作られるのを防ぎ、血管を広げて、血圧を下げ、心臓や腎臓の負担を減らしてくれるお薬です。

具体的には、心筋の肥大や繊維化を抑制し、不整脈も予防するという目的で使用されます。

また腎臓や心臓、血管、脳などの臓器保護作用が認められているため、肥大型心筋症の猫で使用する事があります。

アテノロール

アテノロールという薬は、心臓の働きを改善し、不規則な鼓動を防ぐ効果があるため、治療に役立つと考えられています。

しかし、最近の研究では、症状が出ていない肥大型心筋症の猫にアテノロールを使っても、5年後まで生きる確率が上がらないと報告されています。

ポイント

また、無症状であっても左房拡大が認められる場合には、左心不全のみならず血栓症のリスクもあることから、血栓予防治療が必要になります。

症状があるorあった場合(慢性心不全)

ピモベンダン

ピモベンダンは、心臓の収縮力を強めるお薬で、主に心不全の治療に用います。 具体的には心臓のCaイオン感受性の増大やPDE3を阻害することで、弱った心臓の機能をサポートするお薬です。

心筋症により心臓のポンプ機能が低下すると、血液や水分の循環が悪くなりますが、ピモベンダンによって心臓の収縮力を強めることで、循環を良くしてくれる作用があります。

ピモベンダンは犬の心臓病で使われる強心薬ですが、最近では猫でも使用されます。

利尿剤(フロセミド、ルプラック)

肥大型心筋症が末期になると、心臓の動きが悪くなるため体に水分が溜まってしまい、その結果、肺水腫や胸水が溜まってしまうわけです。

利尿薬は体に溜まった水分を尿に出すことによって、うっ血を改善し、肺水腫や胸水の症状を軽くします。

注意ポイント

また猫では利尿剤であるフロセミドの投与後に腎機能の悪化が認められる症例が多いです。

そのため猫でフロセミドの最初の投薬時や食欲に変化があったとき、用量を増量したときには、必ず血液検査でBUNやクレアチニンといった腎機能を確認すべきです。

血栓症の予防

左房拡大が認められる肥大型心筋症の猫では血栓症を引き起こす可能性が高いため、以下のように抗血栓薬を使い分けて使用します。

抗血栓薬の種類って?

✔︎ クロピドグレル:18.15mg、経口投与、1日1日

✔︎ アスピリン:5mg、経口後与、3日に1回

✔︎ ダルテバリン:1000/kg 皮下段与、1月2回

肥大型心筋症の猫の生存率

猫は約14.5%が肥大型心筋症になるといわれていますが、大部分の猫は約2年(約700日)ほど生きることができます。

ただし、心臓に負担がかかる症状や血栓症が出た場合は、生存期間が短くなります。

具体的には、

肥大型心筋症の余命

✔︎ 症状が出ていない場合は約3-5

✔︎ 心臓に負担がかかる症状が出た場合は約3ヶ月〜1.5

✔︎ 血栓症が出た場合は約2ヶ月〜半年

となります。

ラグドールで肥大型心筋症を発症した場合、他の品種の猫よりも生存率は著しく低いことも分かっています。

肥大型心筋症で長生きするためには?

猫が肥大型心筋症になったとして、どうすれば長生きできるのでしょうか?お薬はもちろんですが、もう1つ重要な治療として食事があります。

ここでは、特に食事の管理がどのように重要であるのか、分かりやすく説明します。

体重

まずは体重の管理について考えてみましょう。

肥満は一見、心臓にとっての負担になりそうですが、実際にはやや違います。栄養状態が悪いと「心臓性悪液質」が起きる可能性があるのです。

悪液質とは?

悪液質とは心臓病が進行すると引き起こる栄養障害で、筋肉の消耗や体重の減少、食欲不振などが見られます。この状態は予防することが重要で、症状が出てしまった場合、不可逆的になり寿命が短くなります。

したがって、心臓性悪液質を引き起こさないためには、適切な栄養状態を保つことが求められます。

塩分の制限

次に、ナトリウム、つまり塩分の管理について考えてみましょう。

慢性心臓病の猫にとって、低ナトリウム食(減塩食)が基本となります。ナトリウムが多くなると、それが水分を体内に留め、循環血液量が増えて心臓の負担が増大します。

ナトリウムが制限されたフードは、腎臓でのナトリウムの再吸収量と水分の量を減らすことができます。

これにより、体内の水分過多、すなわちうっ血状態を軽減することが可能です。進行した心臓病をもつ猫では、食事中のナトリウムを厳格に制限することが重要であり、適切なナトリウム摂取量を維持することが求められます。

人間の食事には比較的塩分が多く含まれているため、人間の食事を猫に与える場合には特に注意が必要です。

カルニチンとタウリン

そして、カルニチンとタウリンという二つの栄養素にも目を向けてみましょう。

カルニチンは心筋や骨格筋に存在し、脂肪酸をエネルギーに変える役割を果たします。カルニチンが不足すると心機能に影響が出る可能性があります。

一方、タウリンは猫の体内ではほとんど合成できず、食事から摂取する必要があります。

タウリンが不足すると心筋症を引き起こすことがあります。しかし、現在の市販の総合栄養食には十分な量が含まれているため、これらの問題が起きることは少ないです。

水分補給

最後に、水分摂取について説明します。

一般的に、慢性心疾患の犬や猫は水を自由に飲ませることが推奨されています。

水分摂取がうっ血症状を悪化させる証拠はありません。

さらに、心疾患の猫では腎臓病を併発しやすく、そのリスクは水分摂取が不足するとさらに高まります。特に利尿薬を使用中の猫は脱水しやすいので、十分な水分を与えることが重要です。

本記事のまとめ

肥大型心筋症は猫の心臓病の中でも一般的なもので、特にラグドールやメインクーンなど特定の品種では発症しやすいことが知られています。

初期症状はほとんど見られず、病気が進行すると肺水腫や血栓塞栓症などの厳しい症状を引き起こします。

そして、症状の有無や進行度によって生存期間は大きく変動します。

治療としては、心筋肥大の抑制や心不全への進行抑制で、多様な薬物治療が利用されます。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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