『最近、愛猫の顔周りや体幹部に小さなイボを見つけた』、『前からイボはあるが大きさはあまり変わらない』ということはありませんか?
もしかするとそのイボは猫の皮膚腫瘍の中で最もできやすい肥満細胞腫の可能性が高いです。
肥満細胞腫は、名前から察するよりもずっと複雑な病気で、猫の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
本記事を読めば分かる事
- 肥満細胞腫の種類
- 肥満細胞腫の初期•末期症状
- 肥満細胞腫は放置しても大丈夫なのか?
- 肥満細胞腫は自然治癒することはあるのか?
- 肥満細胞腫の余命と治療法
本記事では、肥満細胞腫の症状や余命などについて獣医師が解説します。
肥満細胞腫とは
肥満細胞腫は血球系の細胞(肥満細胞)が腫瘍化したものです。
肥満細胞腫は、猫の脾臓や皮膚、腸などにできる腫瘍です。
ポイント
特に皮膚の腫瘍として最も一般的であり、猫の皮膚腫瘍全体の8〜21%が肥満細胞腫と報告されています。
肥満細胞腫は肥満とは関係なく、名前の由来は細胞の姿が肥満を連想させることから来ています。
したがって、肥満細胞腫は血球系の細胞である肥満細胞が腫瘍化した病気であることを覚えておいてください。
肥満細胞腫の種類
肥満細胞腫には主に皮膚型と内臓型の2つがあり、その性質や予後は異なります。
皮膚型
皮膚型は皮膚の表面に腫瘍が発生し、内臓型は脾臓や腸といった内臓に腫瘍が発生します。
皮膚型肥満細胞腫は、猫の皮膚腫瘤の約20%を占め、そのほとんど(90%近く)が良性です。
一般的には頭部(耳やおでこ)や首にできることが多く、小さくて硬く、盛り上がっており、脱毛していることが特徴です。
かゆみを伴うこともありますが、脾臓などの内臓に転移する可能性もあるため、注意が必要です。
内臓型
内臓型肥満細胞腫は、脾臓や消化管などの内臓にできる腫瘍です。ヒスタミンの分泌により胃酸が過剰に分泌され、胃潰瘍などが生じることがあります。
症状としては食欲不振、体重減少、嘔吐などがみられます。消化管型の場合、予後が悪いとされています。
肥満細胞腫はその発生部位により皮膚型と内臓型に分けられ、それぞれの症状も異なりことを理解しましょう。
肥満細胞腫の初期症状
肥満細胞腫の初期症状は、猫の皮膚の変化や体調の変化を観察することで気付くことができます。
特に皮膚型肥満細胞腫では、皮膚の表面にできものが形成されるため、脱毛やしこりや皮膚の赤みなどの異常が見られます。
脱毛
猫の肥満細胞腫が皮膚に発生する場合、脱毛が発生することが一般的です。これは、腫瘍部分の皮膚が炎症を起こすために起こります。
特に、頭部や耳の根元は発症しやすい部位とされています。
赤み
腫瘍化した肥満細胞が壊れると、その部位では赤みや炎症を引き起こします。これは肥満細胞から放出されたヒスタミンなどの物質によるもので、猫が痒みを感じる原因ともなります。
かゆみ
肥満細胞腫は、壊れた細胞からヒスタミンなどの物質を放出するため、皮膚に強いかゆみを引き起こします。猫はこのかゆみに反応して、該当部位を舐めたり掻いたりすることがあります。
むくみ
肥満細胞腫が壊れてヒスタミンなどの物質が放出されると、皮膚にむくみや発赤が生じることがあります。
したがって、初期の肥満細胞腫は猫の行動や体調の変化に注意し、皮膚に異常が見られたらすぐに獣医師に相談することが重要です。
肥満細胞腫の末期症状
肥満細胞腫が進行すると、病気の症状は明らかになり、元気消失、体重減少、食欲不振などの症状が出現します。
特に内臓型肥満細胞腫では、嘔吐や下痢などの消化器症状や貧血、胸水などが見られ、全身に影響を及ぼします。
嘔吐
肥満細胞腫が内臓に発生すると、ヒスタミンの過剰分泌により胃酸が過剰に分泌され、胃潰瘍が生じる可能性があります。
これが原因で嘔吐を引き起こすことがあります。
血便
内臓型肥満細胞腫は消化器症状を引き起こすことがあります。
特に、腫瘍が腸内に存在する場合、腸の出血により血便が見られることがあります。
貧血
内臓型肥満細胞腫は腫瘍が広範囲に広がり、消化器系からの出血により貧血を引き起こすことがあります。
貧血は、猫の元気消失や体重減少などの症状と関連していることがあります。
胸水、腹水
肥満細胞腫は、全身に転移すると腹水や胸水を引き起こすことがあります。
これは、腫瘍がリンパ系を圧迫することで体液の排出が妨げられ、体液が胸や腹部に溜まるためです。
ショック(低血圧)
腫瘍が壊れて肥満細胞からヒスタミンが大量に放出されると、血管拡張により急激な低血圧を引き起こし、猫はショック状態に陥ることがあります。
したがって、肥満細胞腫が進行すると猫の体調の急激な変化を引き起こし、全身に影響を及ぼすことを理解しましょう。
放置しても大丈夫?
肥満細胞腫は放置すれば進行し、さらに深刻な状況を招く可能性があります。
早期発見、早期治療が予後を大きく左右します。したがって、肥満細胞腫は放置せず、症状が見られたらすぐに獣医師に相談することが重要です。
肥満細胞腫の余命
肥満細胞腫の余命は、腫瘍のタイプと進行度に大きく依存します。
皮膚型肥満細胞腫の余命
皮膚型の肥満細胞腫は内臓やリンパ節へと転移してしまうと余命は短くなってしまいます。また、皮膚型の肥満細胞腫は、手術で完全に取り除けたとしても再発する可能性があります。
低悪性度の肥満細胞腫は手術で取り除くことができた場合、寿命を全うすることができますが、一方高悪性度の肥満細胞腫は手術が成功したとしても生存期間中央値は349日と報告されています。
皮膚型肥満細胞腫の再発の確率は24%であり、全身への転移の可能性は22%です。再発が起こる場合は通常、6ヶ月以内に再発するとされています。
内蔵型(脾臓・消化器)肥満細胞腫の余命
皮膚型よりも内臓型の肥満細胞腫では、余命が短くなってしまう傾向にありますが、脾臓が原発なっている肥満細胞腫は脾臓の摘出手術により生存期間を12〜19ヶ月延ばすことができる良好な結果が得られています。
ただし、消化管型の場合は転移が多く見られ、予後は非常に悪いです。というのも消化器型は高度に悪性であり、しばしば早い段階で全身に転移するためです。
手術が可能な場合でも、腫瘍の周りを約5cm余分に切除する必要があります。
結論として、肥満細胞腫の余命は、その種類と進行度、及び適切な治療の有無により大きく変わると言えます。
自然治癒して消えることはある?
猫の肥満細胞腫が自然治癒する可能性は一部存在しますが、これは非常に稀なケースです。
皮膚型肥満細胞腫の一部、特に若齢の猫の肥満細胞腫は、時に自然に縮小することが報告されています。
しかしながら、肥満細胞腫が、自然治癒することは稀であり、適切な治療が必要です。
従って、自然治癒を期待するよりは、早期に獣医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが最善の対策と言えます。
肥満細胞腫の治療
肥満細胞腫の治療は主に外科手術による腫瘍切除となります。
手術が可能な場合でも、周囲の健康な組織と共に腫瘍を広範囲に切除することが重要となります。最近では、外科手術に加えて化学療法や放射線療法も用いられることがあります。
治療方法は猫の全般的な健康状態や腫瘍の種類、位置、大きさなどにより異なります。
まとめ
猫の肥満細胞腫は、腫瘍が発生する細胞によってその特性と予後が変わります。
最も多いタイプは皮膚に発生するもので、一部は自然に消えることもありますが、進行すると全身に転移する可能性もあります。
内臓に発生する肥満細胞腫は通常、より悪性度が高く、治療は困難であり予後は良くありません。
治療法としては、手術と化学療法が最も一般的で、治療の成功率は病状と腫瘍の位置に大きく依存します。