愛犬が糖尿病と診断されると、毎日のインスリン注射や食事管理など、やることがたくさんあって大変ですよね。
でも、糖尿病そのものだけでなく、その先に待ち受ける「合併症」についても知っておくことが、愛犬の健康を守るうえでとても大切です。
合併症とは、ある病気が原因となって引き起こされる別の病気や体の不調のことです。
糖尿病の犬では、血糖値が高い状態が続くことで、目・肝臓・腎臓・神経など、体のさまざまな部分がダメージを受けやすくなります。
早めに知識を持っておくことで、「あれ、いつもと違う」というサインに気づきやすくなり、早期発見・早期治療につなげることができます。
この記事では、犬の糖尿病でよく見られる合併症を一つひとつわかりやすく解説し、日常生活でできる予防策についても詳しくご紹介します。
愛犬と長く元気に過ごすために、ぜひ最後まで読んでみてください。
糖尿病の合併症が起きる仕組みを知っておこう
💡 ポイント
慢性的な高血糖は血管・神経・臓器を傷つけます。糖が細胞内に蓄積したり、細小血管が詰まったりすることで、全身のさまざまな臓器に合併症が起きます。良好なコントロールが合併症予防の最大の手段です。
血糖値が高い状態が続くと何が起きるのか
糖尿病は、血液の中にあるブドウ糖(血糖)の量をうまくコントロールできなくなる病気です。
健康な体では、すい臓から出るインスリンというホルモンが、血糖を細胞の中に取り込むよう働きかけます。
しかし糖尿病になると、インスリンが足りなくなったり、うまく働かなくなったりするため、血液の中に糖が溜まり続けてしまいます。
この「高血糖」の状態が長期間続くと、血管や神経にじわじわとダメージが蓄積されていきます。
特に細い血管(毛細血管)は糖のダメージを受けやすく、目・腎臓・神経など、細かい血管が多い場所で障害が起きやすいとされています。
犬の糖尿病で合併症が起きやすい理由
犬の場合、糖尿病になるとほぼ必ずインスリン注射が必要になります。
毎日決まった時間に注射を打ち、食事量やカロリーを一定に保つことが求められます。
しかし実際には、体調の変化や食欲のムラ、ストレス、感染症などの影響で血糖値が不安定になることがあります。
血糖値のコントロールが乱れる期間が長くなるほど、合併症のリスクも高まっていきます。
また、犬は自分の体の不調を言葉で伝えることができないため、合併症が進んでから気づくケースも少なくありません。
だからこそ、飼い主さんが合併症の知識を持ち、日頃から注意深く愛犬を観察することが非常に重要なのです。
どんな犬が合併症になりやすいのか
合併症のリスクが高くなる要因として、まず「血糖コントロールがうまくいっていない状態が長く続いている」ことが挙げられます。
血糖値が高い状態と低い状態を繰り返すような不安定な管理も、体に負担をかけます。
また、糖尿病になった年齢が高いほど、他の病気と重なりやすくなります。
肥満の犬、避妊手術をしていないメス犬、慢性的なストレスを抱えている犬なども、合併症が出やすい傾向があります。
さらに、定期的な血液検査や尿検査をしていないと、合併症の初期サインを見逃してしまうことがあります。
合併症を防ぐために大切な考え方
合併症は「なってしまったら仕方がない」ものではなく、日常管理によって発症を遅らせたり、重症化を防いだりすることができます。
そのためには、獣医師と連携しながら血糖値をできるだけ安定させることが基本中の基本です。
同時に、毎日の観察を通じて「いつもと違う」サインをできるだけ早く察知することも大切です。
「何かおかしいな」と感じたときは迷わず動物病院に相談することを最優先にしてください。
白内障:糖尿病犬に最も多い合併症
💡 ポイント
糖尿病犬の約75%が診断後1年以内に白内障を発症すると言われます。目のかすみ・夜間の視力低下・物にぶつかる行動が見られたら眼科検査を受けましょう。早期に対応すれば手術で視力を回復できる可能性があります。
白内障とはどんな状態か
白内障は、犬の糖尿病合併症の中で最も多く見られるものの一つです。
目の中にある「水晶体」というレンズの役割を果たす部分が白く濁ってしまう病気です。
水晶体は本来透明で、外からの光を網膜(目の奥にある光を感じるシート状の部分)に届ける働きをしています。
これが白く曇ってしまうと、光がうまく届かなくなり、視力が低下したり、最終的には見えなくなったりします。
健康な老犬でも加齢性の白内障は起きますが、糖尿病の犬では非常に早いスピードで進行することが知られています。
なぜ糖尿病で白内障が進みやすいのか
水晶体の中には「ソルビトール」という物質が溜まりやすい性質があります。
血糖値が高くなると、水晶体の中でブドウ糖がソルビトールに変換される量が増えます。
ソルビトールは水晶体の外に出にくいため、どんどん蓄積されていきます。
その結果、水晶体の中に余分な水分が引き込まれ、繊維構造が壊れて白く濁っていきます。
犬は人間よりもこの変換が起きやすいため、糖尿病と診断されてから数ヶ月以内に白内障が急速に進行するケースも珍しくありません。
糖尿病犬の多くが診断から1〜2年以内に何らかの程度の白内障を発症すると言われています。
白内障の症状と進行のサイン
白内障の初期は、瞳の中が少しぼんやりと白っぽく見える程度で、犬自身もあまり不便を感じないことが多いです。
しかし進行するにつれて、夜や薄暗い場所で物にぶつかることが増える、階段を怖がるようになる、おもちゃや投げたボールを目で追わなくなるなどの変化が見られます。
さらに進行すると、白目と黒目の境が消えたように見えたり、瞳全体が真っ白になったりすることがあります。
完全に失明してしまうと、愛犬は生活環境を覚えることで日常を送りますが、急に家具を移動させると混乱してしまいます。
白内障の治療:手術という選択肢
白内障の根本的な治療は手術(水晶体摘出術)です。
濁った水晶体を取り除き、人工レンズを入れる方法で、視力を回復させることができます。
ただし、糖尿病の犬に全身麻酔をかけるにはリスクがあるため、血糖コントロールが安定していることが手術の前提条件となります。
また、手術を受けるためには眼科専門の動物病院に紹介してもらう必要があることが多く、費用もかなり高額になる場合があります。
白内障が疑われる場合は、できるだけ早めに獣医師に相談し、手術の適応かどうかを判断してもらいましょう。
白内障から二次的な問題が起きることも
白内障が進行すると、濁った水晶体から漏れ出したタンパク質が免疫反応を引き起こし、目の炎症が起きることがあります。
目が赤くなる、涙が多くなる、目をしきりにこする、光をまぶしがるといった症状が見られます。
さらに悪化すると、目の中の圧力が高まる「緑内障」に発展することもあります。
緑内障は非常に強い痛みを伴い、失明のリスクも高まるため、白内障の進行とともに目の状態にも注意が必要です。
糖尿病性ケトアシドーシス:命に関わる緊急状態
⚠️ 注意
嘔吐・食欲廃絶・ぐったり・甘酸っぱい口臭(ケトン臭)が現れたら糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の可能性があります。24時間以内に適切な治療を受けないと命に関わります。迷わず夜間救急も含めて受診してください。
ケトアシドーシスとはどんな状態か
糖尿病性ケトアシドーシスは、体がエネルギーを作り出せなくなり、脂肪を急いで燃やそうとした結果、血液が酸性に傾いてしまう状態です。
健康な体では、インスリンが働いてブドウ糖を細胞に取り込み、エネルギーとして使います。
しかし糖尿病でインスリンが不足すると、細胞はブドウ糖をエネルギーとして使えなくなり、代わりに脂肪を分解し始めます。
この脂肪の分解によって「ケトン体」という酸性の物質が大量に作られ、血液がどんどん酸性に傾いていきます。
ケトアシドーシスが起きやすいタイミング
ケトアシドーシスは、糖尿病の管理が長期間うまくいっていないときや、別の病気(感染症・膵炎・ホルモン異常など)が重なったときに起きやすいです。
また、インスリンの投与を忘れてしまった、量を間違えた、食事を抜いたなどのアクシデントがきっかけになることもあります。
ケトアシドーシスは急速に悪化することがあり、数日以内に命に関わる状態になることもあります。
ケトアシドーシスの症状を見逃さないために
ケトアシドーシスの初期症状は、糖尿病そのものの症状(多飲・多尿・体重減少)と重なる部分があるため、見逃されやすいです。
より進行した状態では、食欲がほとんどない状態が続く、嘔吐を繰り返す、ぐったりして元気がなくなる、呼吸が早くなる、口から甘酸っぱいにおいがするといった変化が見られます。
これらの症状が複数重なっている場合は、迷わず今すぐ動物病院を受診してください。
ケトアシドーシスの診断と治療
ケトアシドーシスは血液検査・尿検査・電解質検査などで診断されます。
治療は入院して行われることがほとんどで、点滴による水分と電解質の補充、少量のインスリンを少しずつ投与する方法などが行われます。
重症の場合は数日間の集中的な管理が必要になります。
自宅でできるケトン体チェック
市販の尿検査キット(人間用の糖尿病検査キット)を使えば、自宅でケトン体の有無を確認することができます。
愛犬のおしっこに試験紙をつけて色の変化を確認するだけの簡単な方法です。
愛犬が食欲不振のとき、嘔吐があるとき、元気がないときなどは、自宅での確認が早期発見につながります。
ただし、自宅検査はあくまでも「疑いを持つためのもの」であり、陽性が出たら必ず獣医師に相談してください。
尿路感染症:糖尿病犬に繰り返しやすい感染症
💡 ポイント
高血糖環境は細菌が増えやすく、頻尿・血尿・排尿時の痛みが繰り返し起こることがあります。症状がなくても尿検査で細菌が検出されることがあるため、定期的な尿検査が重要です。
なぜ糖尿病の犬は尿路感染症になりやすいのか
尿路感染症は、おしっこの通り道(腎臓・尿管・膀胱・尿道)に細菌が入り込んで炎症を起こす病気です。
糖尿病の犬では、この尿路感染症を繰り返しやすいことが知られています。
その主な理由は、尿の中に糖が出ること(尿糖)にあります。
血糖値が高くなると腎臓で糖をろ過しきれず、尿の中に糖が流れ出てしまいます。
糖分を含む尿は細菌にとって非常に増えやすい環境になるため、膀胱や尿道で細菌が繁殖しやすくなります。
尿路感染症の症状
尿路感染症では以下のような症状が見られます。
- おしっこの回数が増える
- 少量のおしっこを何度もしようとする
- おしっこのときに痛がる(鳴く、低い姿勢になるなど)
- 血尿(おしっこがピンクや赤っぽく見える)
- おしっこの色や濁りが気になる
糖尿病の犬はもともと多飲多尿の傾向があるため、「おしっこの回数が増えた」という変化を糖尿病のせいだと思い込んで見逃してしまうことがあります。
尿路感染症が腎臓まで広がるリスク
膀胱の感染(膀胱炎)が適切に治療されないと、感染が腎臓にまで広がることがあります。
腎臓の感染症(腎盂腎炎)になると、発熱・食欲不振・嘔吐・背中や腰の痛みなど、全身的な症状が出てきます。
腎臓にダメージが蓄積すると、腎臓病に発展するリスクもあります。
糖尿病の犬はただでさえ腎臓に負担がかかりやすいため、尿路感染症は軽視せずに早めに治療することが重要です。
尿路感染症の診断と治療
尿路感染症の診断には、尿検査と尿培養検査(どんな細菌がいるかを調べる)が行われます。
治療は抗生剤の投与が基本で、細菌の種類に合った薬を選んで使います。
糖尿病の犬では感染が再発しやすいため、抗生剤の治療が終わった後も再検査が重要です。
自己判断で薬をやめてしまうと、菌が残って薬が効きにくくなる可能性もあるため、獣医師の指示通りに最後まで服薬を続けてください。
尿路感染症の予防に日常でできること
水をしっかり飲ませることは、尿路感染症の予防に効果的です。
水分が多い尿は細菌を洗い流す効果があり、膀胱内の細菌が増えにくくなります。
おしっこをできるだけ我慢させないようにすること、散歩の回数を確保することも大切です。
定期的な尿検査(3ヶ月に1回程度)を受けることで、無症状の細菌感染を早期に発見することができます。
肝臓への脂肪蓄積(肝リピドーシス)
💡 ポイント
インスリン不足で脂肪の代謝が乱れると、肝臓に脂肪が蓄積します(脂肪肝)。腹部超音波検査で発見でき、適切なコントロールで改善が期待できます。定期的な肝機能検査を受けましょう。
糖尿病と肝臓の関係
糖尿病の犬では、肝臓にも大きな負担がかかっています。
肝臓は体の中で最も多くの代謝(物質の変換・処理)を担っている臓器です。
しかし糖尿病でインスリンが不足すると、肝臓は体の各部分から大量の脂肪を受け取り、処理しきれなくなってしまいます。
その結果、肝臓の細胞の中に脂肪が溜まっていく「肝脂肪症(肝リピドーシス)」が起きやすくなります。
肝リピドーシスの症状と診断
肝リピドーシスの初期はほとんど症状が出ないことが多いです。
進行すると、食欲の低下、嘔吐、下痢、体重減少などの症状が現れてきます。
さらに悪化すると「黄疸(おうだん)」が出ることがあります。
黄疸とは、皮膚や白目が黄色く見える状態で、肝臓の機能が著しく低下しているサインです。
診断には血液検査(肝酵素の上昇などを確認)と腹部エコー(超音波)検査が使われます。
肝臓の健康を守るための管理
肝リピドーシスを防ぐためには、まず血糖値を安定させることが最も重要です。
インスリンの投与を正確に行い、食事の量とタイミングを一定に保つことで、肝臓への負担を減らすことができます。
適切な体重管理も重要で、肥満は肝臓に余分な脂肪を蓄積させる原因になります。
定期的な血液検査で肝酵素の値を確認し、早めに変化を察知することが大切です。
膵炎との関係も忘れずに
糖尿病犬では、膵炎(すい臓の炎症)と肝臓疾患が重なって起きることがよくあります。
膵炎は糖尿病の原因になることもありますし、糖尿病の管理中に膵炎が再発することもあります。
膵炎になると、激しい嘔吐・腹痛・食欲不振などの症状が出て、血糖コントロールも乱れやすくなります。
低脂肪の食事を心がけることが膵炎の予防に役立ちます。
神経障害:足の感覚や動きがおかしくなる
💡 ポイント
長期の高血糖は末梢神経を傷つけ、後肢の筋力低下・かかとをついて歩く「プランティグレード姿勢」などが現れます。神経障害が起きても血糖コントロールを改善することで回復することがあります。
糖尿病と神経のダメージ
血糖値が高い状態が続くと、神経にもダメージが蓄積されていきます。
神経は細い血管によって栄養と酸素を供給されていますが、高血糖によって血管が傷つくと、神経への供給が滞ってしまいます。
こうした神経へのダメージを「糖尿病性神経障害」と呼びます。
人間の糖尿病では神経障害が非常によく知られていますが、犬でも起こることが確認されています。
犬の糖尿病性神経障害の症状
犬の糖尿病性神経障害で最も特徴的な症状の一つは「後ろ足のかかと部分が地面に近づいて、足全体をべたっとつけて歩くような状態」です。
これは、神経障害によって筋肉の緊張が失われることで起きます。
他にも、後ろ足がもつれる、スリップしやすくなる、立ち上がりにくくなる、歩きたがらないといった症状が見られることがあります。
神経障害のリスクを下げるには
糖尿病性神経障害を防ぐ最善の方法は、血糖コントロールをしっかり行うことです。
長期的に血糖値を適切な範囲に保つことが神経への負担を減らすことにつながります。
すでに神経障害の症状が出ている場合でも、血糖コントロールを改善することで症状が和らぐケースもあります。
愛犬の歩き方や立ち方に変化がないか、日々注意して観察することが早期発見につながります。
後ろ足の変化に気づいたときの対応
後ろ足のふらつき、べた足歩き、スリップなどのサインに気づいたら、早めに動物病院で相談してください。
滑りにくい床材(カーペットやラグ)を使うことで、愛犬が転倒するリスクを下げることができます。
段差の多い場所へのアクセスを制限したり、スロープを用意したりするなど、生活環境を整えることも大切です。
神経障害が進んでいる場合でも、適切な生活環境の工夫で生活の質を維持することは十分可能です。
腎臓病との関係:糖尿病が腎臓に与える影響
💡 ポイント
糖尿病と腎臓病は互いに悪化させ合う関係にあります。腎機能が低下すると食事のたんぱく質制限が必要になり、インスリン代謝にも影響します。3〜6ヶ月ごとの腎機能検査が合併症の早期発見に役立ちます。
糖尿病が腎臓にかける負担
腎臓は血液をろ過して不要な物質をおしっこに流す、体のフィルターのような臓器です。
糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、腎臓のろ過装置(糸球体と呼ばれる毛細血管のかたまり)にダメージが蓄積されていきます。
腎臓の機能が低下すると、老廃物をうまく排出できなくなり、体に毒素が溜まっていきます。
腎臓は一度傷ついてしまうと再生しにくいため、できるだけ早い段階でダメージを防ぐことが大切です。
腎臓病の症状と注意すべきサイン
腎臓病の初期には、ほとんど目に見えた症状が出ないことが多いです。
中期以降では、多飲多尿、食欲低下、嘔吐、体重減少、口臭(アンモニア臭のような独特の臭い)などの症状が出てきます。
さらに進行すると、むくみ、貧血(歯茎が白くなる)、尿の量が極端に減るまたは出なくなるなどの症状が見られます。
これらのサインが出たときは、速やかに動物病院を受診してください。
糖尿病と腎臓病の管理を両立するために
糖尿病と腎臓病が重なると、管理がより複雑になります。
腎臓病ではタンパク質の制限が必要になる場合がありますが、糖尿病管理のために高タンパク・低炭水化物の食事が推奨されることもあり、バランスの取り方が難しくなります。
このような場合は、獣医師と相談しながら、個々の状態に合った食事プランを作ることが重要です。
水分をしっかり摂らせることは、腎臓の負担を減らすうえで非常に有効です。
定期的な腎臓機能チェックが大切
糖尿病の犬では、3〜6ヶ月に1回程度の定期的な血液検査と尿検査が推奨されています。
腎臓の機能を調べる血液検査の項目としては、尿素窒素・クレアチニン・腎臓の早期マーカーなどがあります。
尿検査ではタンパク質の漏れ(タンパク尿)を確認することが重要で、タンパク尿は腎臓の糸球体ダメージのサインになります。
定期検査を欠かさず受けることが、腎臓病の早期発見と進行防止の最善策です。
合併症を防ぐための日常管理:飼い主さんができること
💡 ポイント
合併症予防のために飼い主さんができることは、①毎日の血糖記録、②食事の一定化、③定期受診の遵守、④変化への素早い気づきです。小さな変化を見逃さない観察力が愛犬を守ります。
血糖コントロールの安定が最大の予防策
合併症を防ぐための最も重要なことは、血糖値を安定させることです。
そのために、インスリンの投与を毎日決まった時間に正確に行うことが基本中の基本です。
インスリンの量は獣医師の指示に従い、自己判断で増減しないようにしましょう。
注射を打ち忘れた場合の対処法も、事前に獣医師に聞いておくと安心です。
食事管理:量・内容・タイミングを一定に
食事管理は血糖コントロールに直結する重要な要素です。
毎日同じ量の同じフードを、同じ時間に与えることが基本です。
食事の量が増えると血糖値が上がりやすくなり、逆に食べなかったのにインスリンを打つと低血糖を引き起こす危険があります。
糖尿病の犬には食物繊維が多く、消化がゆっくりなフードが血糖値の急上昇を抑えるために効果的です。
おやつは獣医師が許可したものだけにし、人間の食べ物は与えないようにしましょう。
適度な運動を毎日続ける
適度な運動は血糖値を下げる効果があり、糖尿病の管理に役立ちます。
毎日同じくらいの量・強度の運動(散歩など)を行うことで、血糖値のコントロールが安定しやすくなります。
ただし、激しすぎる運動や急な運動量の増加は血糖値を大きく変動させる原因になるため、注意が必要です。
散歩の時間や距離はできるだけ毎日一定にするよう心がけましょう。
家庭でできるモニタリング
血糖コントロールの状態を把握するために、家庭でのモニタリングがとても役立ちます。
家庭用の血糖測定器を使って、定期的に血糖値を測ることができます。
また、毎日の体重・食欲・飲水量・おしっこの量と回数を記録しておくことも、変化の早期発見に役立ちます。
「ペットの健康日記」のようなノートをつけておくと、愛犬の変化を振り返りやすくなります。
定期検診を欠かさず受ける
動物病院での定期検診は、合併症の早期発見において非常に大切です。
毎回の検診では、血液検査・尿検査・体重測定・全身の身体検査が行われます。
目の状態確認(白内障のチェック)、腎臓の機能チェック、肝酵素の値なども定期的に確認してもらいましょう。
「先生、最近こういう変化があって気になっています」と積極的に伝えることで、見逃しを防ぐことができます。
感染症の予防を意識する
糖尿病の犬は免疫力が低下しているため、感染症にかかりやすく、かかったときに重症化しやすいです。
定期的なワクチン接種とノミ・ダニ・フィラリアなどの予防薬を欠かさず使用することが重要です。
皮膚の傷や炎症を放置しないようにし、傷を見つけたらすぐに消毒して経過を観察しましょう。
歯周病も全身の感染症リスクを高めるため、定期的な歯磨きと歯石ケアも大切です。
合併症が起きたときの早期発見サインと受診のタイミング
⚠️ 注意
目の急な白濁・繰り返す嘔吐・急激な元気消失・後肢のふらつき・頻尿・血尿が見られたら早めに受診してください。特に嘔吐と食欲廃絶が重なった場合はDKAを疑い、夜間でも受診を検討してください。
見逃してはいけない「緊急サイン」
以下の症状は緊急性が高く、すぐに動物病院を受診する必要があります。
- ぐったりして立てない、または意識がもうろうとしている状態
- 激しい嘔吐・下痢が続いており水が飲めない状態
- 全く食べない状態が1日以上続いている
- 口からアセトン(甘酸っぱい)臭がする(ケトアシドーシスの疑い)
- けいれんを起こしている
- 呼吸が明らかに苦しそうな場合
これらの症状が出たときは、かかりつけの動物病院に電話で状況を伝えながら、急いで向かってください。
早めに受診した方がよい「気になるサイン」
緊急ではないものの、数日以内に動物病院に相談すべきサインもあります。
- いつもより明らかに食欲がない日が2日以上続く
- 水をいつもより多く飲んでいる、体重が急に減っている
- おしっこの回数が明らかに増えた、色が変わった(ピンク・赤・濁りなど)
- 目がいつもより濁って見える、ぶつかることが増えた
- 後ろ足がもつれる、歩き方がおかしい、立ち上がりを嫌がる
変化を早期発見するための観察ポイント
毎日愛犬を観察するときのチェックポイントを整理しておきましょう。
- 食べ具合と飲み水の量(いつもの量を食べているか、水の消費量が増えていないかを確認)
- おしっこの様子(回数・量・色・臭いに変化がないかを確認)
- 目の見た目(瞳が白っぽくなっていないか、目ヤニや充血が増えていないかを確認)
- 体重(毎週同じ時間に体重を測り、急な変化がないかをチェック)
- 歩き方と元気(いつも通り元気に歩いているか、歩き方に変化がないかを観察)
動物病院とのコミュニケーションを大切に
糖尿病の管理は、飼い主さんと獣医師のチームワークで成り立ちます。
何か気になることがあったら、「大したことではないかも」と自己判断せずに、気軽に相談する姿勢を持つことが大切です。
愛犬の日常の変化を記録したノートやスマートフォンのメモ・写真は、診察時に非常に役立ちます。
低血糖の症状も知っておこう
合併症とは少し異なりますが、インスリン治療中の犬では「低血糖」も命に関わる緊急事態になりえます。
低血糖は、インスリンの量が多すぎた、食事を食べなかった、予想以上に激しい運動をした、などのときに起きやすいです。
症状としては、ふらつき・震え・ぐったり・ぼーっとした表情・けいれんなどがあります。
万が一、低血糖が疑われる場合は、意識があれば砂糖水やはちみつを少量口の中の粘膜(歯茎)に塗り付けてから、すぐに動物病院に連絡してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 糖尿病の犬に白内障は必ず起きますか?
糖尿病のすべての犬で必ず白内障が起きるわけではありませんが、非常に高い確率で発症することが知られています。
糖尿病犬の多くが診断から1〜2年以内に何らかの程度の白内障を発症すると報告されています。
血糖値を長期的に安定させることで、発症を遅らせたり進行を緩やかにしたりできる可能性はありますが、完全に防ぐことは難しいとされています。
白内障が進み始めたら、早めに眼科専門の動物病院に相談し、手術の適応かどうかを判断してもらうことをおすすめします。
Q2. ケトアシドーシスになったら助からないのですか?
ケトアシドーシスは命に関わる状態ですが、早期に発見して適切な治療を行えば回復できることがほとんどです。
ただし、重症化してから治療を始めると、回復に時間がかかったり、治療が困難になることがあります。
食欲不振・嘔吐・ぐったりが続いているとき、口からアセトン臭がするときは、迷わずすぐに動物病院に連れて行ってください。
早期発見・早期治療が、愛犬の命を救う最大の鍵です。
Q3. 糖尿病の犬は腎臓病にも必ずなりますか?
糖尿病があれば必ず腎臓病になるわけではありませんが、長期的な高血糖は腎臓にダメージを与えるリスクがあります。
血糖コントロールを適切に行い、定期的な検診で腎臓の状態を確認することで、腎臓病の発症リスクを下げたり、発症しても早期に対処したりすることができます。
腎臓病の初期は症状が出にくいため、定期的な血液検査・尿検査を欠かさず受けることが早期発見のカギです。
Q4. 合併症が出てしまったら、もう良くならないですか?
合併症が出た後でも、適切な治療と管理によって状態を改善したり、進行を止めたりすることは十分に可能です。
例えば、神経障害は血糖コントロールを改善することで症状が和らぐことがあります。
白内障は手術によって視力を回復させることができます。
尿路感染症は抗生剤で治療でき、再発防止のための管理も可能です。
「合併症が出た=もう手遅れ」ということはありません。
早めに気づいて早めに対処することが、愛犬のQOL(生活の質)を守るうえで最も大切です。
諦めずに獣医師と相談しながら、一つひとつ対処していきましょう。
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