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犬の神経疾患

【獣医師解説】犬の神経疾患まとめ|椎間板ヘルニア・てんかん・水頭症の症状と治療を徹底解説

「突然後ろ足が立たなくなった」「けいれん発作を起こした」「急によろめいて歩けない」——犬の神経疾患は突発的に発症することが多く、飼い主さんにとって非常に心配な状況です。本記事では、犬に多い神経疾患(椎間板ヘルニア・てんかん・水頭症・前庭疾患など)の症状・治療・日常ケアについて詳しく解説します。

犬の神経疾患とは?脳・脊髄・末梢神経の違い

神経疾患とは、脳・脊髄・末梢神経のいずれかに異常が生じることで発症する疾患群です。神経系は大きく中枢神経系(脳・脊髄)と末梢神経系に分かれ、障害部位によって症状が異なります。

  • 脳疾患:けいれん・意識障害・行動変化・視覚障害・旋回運動など
  • 脊髄疾患:四肢の麻痺・不全麻痺・歩行異常・排尿排便障害など
  • 末梢神経疾患:特定の筋肉の麻痺・顔面神経麻痺・ホルネル症候群など

神経疾患の診断には神経学的検査(姿勢反応・脊髄反射・痛覚評価)が基本となり、画像診断(MRI・CT・X線)・脳脊髄液検査・電気生理学的検査などが組み合わされます。神経症状を示す犬の評価は二次診療施設(神経内科専門医)での精査が理想的です。

犬の椎間板ヘルニア(IVDD)|グレード分類と治療選択

椎間板ヘルニア(IVDD: Intervertebral Disc Disease)は犬に最も多い脊髄疾患のひとつです。椎骨の間にある椎間板(クッション役)が変性・突出して脊髄を圧迫することで神経症状を引き起こします。ダックスフンド・ビーグル・シーズー・コーギーなど軟骨異栄養性犬種に特に多く発症します。

Hansen分類

椎間板ヘルニアにはHansen I型(髄核の急性突出)とHansen II型(線維輪の慢性膨隆)があります。Hansen I型は若〜中齢の軟骨異栄養性犬種に多く急性発症し、Hansen II型は高齢犬の大型犬に多く慢性進行性です。

グレード分類(Frankel分類)

  • グレード1:疼痛のみ(麻痺なし)
  • グレード2:後肢の運動失調(歩行可能)
  • グレード3:後肢の不全麻痺(補助で歩行可能)
  • グレード4:後肢の完全麻痺(排尿機能は保持)
  • グレード5:後肢の完全麻痺+深部痛覚消失

治療選択

グレード1〜2の軽症例では、安静(ケージレスト4〜6週間)+消炎鎮痛薬(NSAIDs またはコルチコステロイド)による内科治療が行われます。グレード3以上、または内科治療に反応しない症例では外科手術(椎弓切除術・椎間板フェネストレーション)が推奨されます。グレード5の深部痛覚消失例でも、発症後48時間以内の手術であれば機能回復の可能性があります。

手術後のリハビリテーション(水中トレッドミル・理学療法・鍼治療)が回復を促進します。詳しくはIVDDリハビリの記事をご参照ください。

犬のてんかん|発作の種類・薬・長期管理

てんかんは犬の最も一般的な神経疾患のひとつで、反復性のけいれん発作を特徴とします。特発性てんかん(構造的原因のない遺伝性てんかん)と、脳腫瘍・炎症・代謝疾患などによる症候性てんかんに分類されます。

発作の種類

  • 強直間代発作(大発作):全身の筋肉が硬直した後に律動的な痙攣が起こる。意識消失を伴う。
  • 焦点発作(部分発作):顔の一部・特定の四肢の痙攣、自動症(口をくちゃくちゃする)など局所的な症状。
  • 欠神発作:一時的な意識消失・ぼんやりとした状態。犬では稀。

発作時の対処法

発作中は犬を抱き上げず、周囲の危険物を取り除き、静かに見守ります。発作が5分以上続く場合(てんかん重積状態)や、30分以内に2回以上発作が起きる場合は緊急受診が必要です。発作の様子(時間・症状)をスマートフォンで録画しておくと診断に役立ちます。

治療薬

特発性てんかんの標準的な抗けいれん薬はフェノバルビタールです。単剤で効果不十分な場合はカリウムブロマイドが第二選択となります。近年はレベチラセタム・ゾニサミドなども使用されています。

服薬は原則として終生継続が必要です。急な断薬は発作を悪化させるリスクがあります。定期的な血中濃度測定・肝機能検査が必要です。てんかんの長期管理についての詳細記事もご参照ください。

犬の水頭症|先天性vs後天性の症状と治療

水頭症とは、脳脊髄液(CSF)が脳室内・くも膜下腔に過剰貯留し、脳が圧迫される疾患です。先天性水頭症と後天性水頭症(脳腫瘍・炎症・出血・奇形などによる)に分けられます。

好発犬種と症状

先天性水頭症はチワワ・ポメラニアン・マルチーズ・パグ・ブルドッグなどの小型・短頭種に多く見られます。

  • ドーム型の大きな頭蓋・大泉門の開存(先天性)
  • 外斜視(両目が外側を向く)
  • 知能低下・学習困難・トイレトレーニングが入らない
  • けいれん発作
  • 視覚障害・歩行異常
  • 意識障害・昏睡(重症例)

診断と治療

MRI・CTで脳室拡大を確認します。治療には内科療法(コルチコステロイド・利尿薬による脳脊髄液産生抑制)と外科療法(脳室腹腔シャント術)があります。軽症例では内科療法で安定化できることもありますが、重症例では外科的なシャント術が必要です。

犬の前庭疾患(突然のよろめき・眼振)

前庭疾患は、平衡感覚を司る前庭系(内耳または脳幹)の異常により、突然の起立不能・よろめき・頭が傾く(斜頸)・眼振(目が速く動く)・旋回運動などを引き起こします。急性発症のため飼い主さんが非常に驚くことが多いですが、末梢性(特発性老齢犬前庭疾患)の多くは数日〜数週間で自然回復します。

末梢性vs中枢性の鑑別が重要

末梢性前庭疾患(内耳炎・特発性)は一般的に予後が良好ですが、中枢性前庭疾患(脳腫瘍・炎症・梗塞)は重篤な疾患を示します。獣医師による神経学的検査でどちらかを評価し、中枢性が疑われる場合はMRI検査が必要です。

急性期の管理

特発性老齢犬前庭疾患では支持療法(制吐薬・水分補給・介助歩行)が中心で、予後は良好です。ただし発症初期は中枢性との鑑別が難しいため、必ず獣医師に相談してください。食事・飲水の補助、滑り止めマットの使用、段差の解消などで安全な環境を整えましょう。

神経疾患の犬のリハビリと日常ケア

神経疾患から回復中の犬には、適切なリハビリテーションと日常ケアが回復を大きく左右します。

リハビリテーションの方法

  • 受動的関節可動域訓練(PROM):麻痺した四肢を手でゆっくり動かし、関節の拘縮や筋萎縮を予防する。
  • 水中トレッドミル(水中歩行):浮力により体重負荷を減らしながら歩行訓練ができる。神経再生と筋力回復に非常に効果的。
  • バランスボード・スタンディング訓練:固有感覚(proprioception)の回復を促進。
  • 鍼治療:神経再生・疼痛管理に一定の効果が報告されている。
  • レーザー療法:組織修復の促進・疼痛緩和。

日常ケアのポイント

  • 滑り止めマット・スロープの設置(段差の解消)
  • 床ずれ予防(褥瘡予防):低反発マット・定期的な体位変換(2〜4時間ごと)
  • 膀胱管理:排尿できない場合は用手排尿(膀胱を手で圧迫する)または導尿カテーテル
  • 車椅子(カート)の活用:後肢麻痺犬のQOL向上に大きく貢献
  • 皮膚の清潔維持:尿・便汚染による皮膚炎の予防

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犬の神経疾患についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 犬が突然歩けなくなったら何をすればいいですか?

まず犬を安静にし、むやみに動かさないようにしてください。脊髄損傷が疑われる場合は抱き上げる際に体を水平に保ちます。速やかに動物病院に連絡し、緊急受診してください。椎間板ヘルニアのグレード5(深部痛覚消失)は48時間以内の手術が回復の鍵です。

Q2. てんかん発作中に舌を飲み込む心配はありますか?

犬が舌を飲み込むことはありません。発作中は手を口に入れないでください。咬まれる危険があります。発作中は静かに見守り、周囲の危険物を除去し、発作時間を計測しましょう。5分以上続く場合は緊急受診が必要です。

Q3. 犬の椎間板ヘルニアは手術しないと治りませんか?

グレード1〜2の軽症例では内科治療(安静+消炎鎮痛薬)で回復するケースも多くあります。しかし内科治療の再発率は高く、グレード3以上では手術の方が長期的な予後が良好とされています。担当獣医師と相談の上、症例に合った選択をしてください。

Q4. 犬の神経疾患のリハビリはどこで受けられますか?

リハビリテーション専門の動物病院や、水中トレッドミルを備えた施設で受けることができます。大学付属動物病院の神経・リハビリ科に相談するのが最善です。自宅での受動的関節可動域訓練(PROM)も獣医師の指導のもとで有効です。

Q5. 犬の水頭症は治りますか?

軽症の先天性水頭症では内科療法でQOLを維持できる場合があります。重症例では脳室腹腔シャント術で症状改善が期待できますが、合併症リスクも伴います。後天性水頭症では原因疾患の治療が優先されます。いずれも早期診断・治療が重要です。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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