年をとってからというもの
愛犬の元気がなくなった、よく寝るようになった、そんなに食べていないのにどんどん太ってしまう、背中がはげてしまった...
などといったことはありませんか?
老犬になってから上記のような症状が出ている場合には、甲状腺機能低下症を患っているかもしれません。
"老化だから..."と片付けてしまいがちな上記のような症状は、甲状腺機能低下症が原因で発症している可能性があります。
甲状腺機能低下症は、代謝を活発にする役割を持つ甲状腺ホルモンの分泌量が低下してしまうホルモン病です。
甲状腺ホルモンが減少してしまうと、
- 皮膚や被毛の異常
- 心臓などの循環器の異常
- 神経の異常(震え、歩き方がおかしい)
といった様々な影響を全身に及ぼす病気なのです。
特に高齢犬で起こる肥満に関しては、甲状腺機能低下症が原因であることが非常に多いです。というのも甲状腺ホルモンが低下すると、代謝が悪くなってしまい、太りやすくなってしまいます。
例えば、食事量を以前と変えていないのに全然痩せることができない場合には甲状腺機能低下症が強く疑われます。
高齢犬で起こる肥満は甲状腺機能低下症が原因である事が多いです!
そのような場合はかかりつけ医で甲状腺ホルモン検査を行ってもらいましょう。
本記事では、高齢のワンちゃんで起こる甲状腺機能低下症の様々な症状や寿命について獣医師が詳しく解説しております!
甲状腺機能低下症って何?
甲状腺機能低下症は、視床下部-下垂体-甲状腺のいずれかの機能障害が原因となるホルモン病です。視床下部や下垂体は脳に存在しています。甲状腺とは喉の下付近の両側にあり、甲状腺ホルモンを分泌する働きがあります。
甲状腺ホルモンの分泌は脳にある下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されています。
血液中の甲状腺ホルモンが低下している場合、TSHが下垂体から分泌され、甲状腺にホルモンを分泌するよう命令しています。このような機構によって血液中の甲状腺ホルモンは常に正常範囲に保たれているのです。
甲状腺機能低下症は、サイロキシン(T4)およびトリヨードサイロニン(T3)ホルモンといった甲状腺ホルモンの欠乏を引き起こし、さまざまな臨床症状を引き起こします。
甲状腺ホルモンは、毛包の休止期、角化、皮脂の分泌を調整する作用があるため、甲状腺ホルモンが欠乏すると、脱毛・脂漏症などといった皮膚症状が出ます。
甲状腺機能低下症の原因
甲状腺機能低下症の原因としては、
•リンパ球性甲状腺炎
・特発性濾胞性萎縮
・甲状腺癌
があげられます。
リンパ球性甲状腺炎は、甲状腺で発生する自己免疫性(自分で自分の体を攻撃する)の炎症により、甲状腺機能低下症を引き起こします。
特発性濾胞性萎縮は、炎症は起こらず、甲状腺が変性することで甲状腺機能低下症を引き起こします。
他には甲状腺癌により甲状腺機能低下を引き起こすこともあります。
甲状腺機能低下症の好発犬種
甲状腺機能低下症を起こしやすい犬種は、ボクサー、ゴールデン・レトリバー、トイプードルなどで好発し、高齢で発症します。
特に中型〜大型犬で認められることが多いです。
甲状腺機能低下症の症状(初期症状・末期症状など)
甲状腺機能低下症では様々な症状が認められます。
初期症状としては、特に皮膚症状が多く認められ、甲状腺機能低下症を患っている犬の60〜80%で背部の対称性脱毛・感染症・脂漏症・色素沈着などの皮膚症状が出るといわれています。
また、フードの給餌量を増やしないのにもかかわらず肥満になってしまいます。
皮膚症状や肥満以外の様々な症状を以下に詳細を列挙しています。
- 無気力
- 低体温
- 鼻の上・背部・しっぽの脱毛(ラットテイル)
- 皮膚感染症(膿皮症)
- 皮膚の色素沈着(黒ずむ)
- フケがでる
- 粘液水腫(顔などがむくみ、悲しそうな顔に見えます)
- 慢性外耳炎
- 膿皮症などの皮膚感染症
- 脂漏症(皮膚がベタベタする)
- 咳が出る(気管虚脱)
- 末梢神経障害による震え・歩き方がおかしい
- 顔面神経麻痺
- てんかん
- 発情が来ない
- 角膜潰瘍
- ぶどう膜炎
- 徐脈・不整脈
上記のように皮膚症状以外に神経・眼・循環器・発情異常などといった身体の至る所で症状が認められます。
甲状腺機能低下症のような皮膚症状を示す似たような疾患として、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)と呼ばれるホルモン病があります。
クッシング症候群も中高齢の犬で発生するため、鑑別を行う必要があります。
末期症状について
無治療であったり、治療がうまくいっていない場合には、末期症状として粘液水腫性昏睡と呼ばれる重篤な昏睡状態に陥ってしまい、亡くなってしまう事があります。
甲状腺機能低下症の治療について
甲状腺機能低下症は治療可能ですが、完治はしません。
具体的な治療法としては、甲状腺ホルモン製剤を生涯投薬することになります。代表的な甲状腺ホルモン製剤としてはチラージンと呼ばれる薬があります。
ユーサイロイドシック症候群には注意
ユーサイロイドシック症候群とは、甲状腺機能低下症以外の病気で甲状腺ホルモン濃度が低下してしまうことです。
実際はユーサイロイドシック症候群なのに、甲状腺機能低下症と誤診されてしまうことがあるので注意が必要です。ユーサイロイドシック症候群であった場合、その病気を治療する事で甲状腺ホルモン濃度は正常まで戻ります。
クッシング症候群はユーサイロイドシック症候群の原因となりますので、甲状腺機能低下症と間違えやすい疾患です。
甲状腺機能低下症の予後と寿命
甲状腺機能低下症の治療を受けている犬は予後が良く、寿命は通常の犬と同じです。また完治することはありませんが、チラージンなどのホルモン薬で管理可能な疾患です。
臨床的な異常(皮膚のかさつき、脱毛、無気力)は、数週間から数ヶ月で治ることがあります。一方、震えや歩く時のふらつきなどといった神経症状は、チラージンの投薬を開始してから半年以上しないと良くならないです。
治療の必要性
しかし、治療をしていない甲状腺機能低下症の犬は体の代謝が異常を引き起こしてしまうため、寿命は短くなってしまいます。
犬の甲状腺機能低下症を治療しないとどうなる?
甲状腺機能低下症を放置すると、寿命に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
なぜなら、甲状腺ホルモンは体内のほぼ全ての臓器の代謝に影響を及ぼすからです。
甲状腺機能低下症の治療をしていない犬は、
- 高コレステロール
- 免疫機能の低下
- 心拍数の低下
- 神経症状
を発症します。これらの症状は犬の健康と生活の質を大きく下げるだけでなく、寿命を縮めてしまいます。
特に心臓病や神経障害といった深刻な合併症を引き起こす可能性があり、命を脅かす危険があります。
そのため、甲状腺機能低下症の兆候が見られた場合は、すぐに適切な治療を受けるべきです。
甲状腺機能低下症の食事について
甲状腺機能低下症の犬は、食事にも気をつける必要があります。
甲状腺機能低下症の犬では高脂血症を併発することがほとんどです、そのため脂肪分の多いフードを控えるようにし、なるべく低脂肪のフードをあげた方がよいでしょう。
高脂血症が悪化すると、動脈硬化を引き起こし、体の様々な場所で血栓ができてしまうことがあります。
低脂肪フードはダイジェストエイドがオススメ
ダイジェストエイドは、消化器疾患や甲状腺機能低下症などの高脂血症に対する革新的な食事療法食です。「低脂肪」かつ「低アレルゲン」の二つの要素を併せ持つということが最大の特長です。
食物アレルギーに配慮して、牛肉・鶏肉・羊肉・小麦・乳・卵など、一般的な6原料を一切使用していません。それでいて、美味しさにも妥協はありません。
フードの美味しさは、愛犬に続けて食べてもらうことが疾病管理に重要な要素ですから、ダイジェストエイドは何度も試作を繰り返して完成させました。
しかも、ダイジェストエイドは、国産の療法食です。研究から製造まで全て国内で行われています。日本の犬の飼育環境に合わせた研究が行われ、食べやすいように小粒に仕上げられています。
甲状腺機能低下症の犬が食べてはいけないもの
実は甲状腺機能低下症の犬が食べてはいけないものや与えるタイミングに注意しなければならない食品がいくつかあります。
そのような食品を与えてしまうと、甲状腺機能低下症の治療が上手くいかず、病態が悪化してしまうこともありますので、あらかじめ把握しておくことが重要です!
高脂肪食
肥満が問題となる甲状腺機能低下症の犬にとって、高脂肪食品は避けるべきです。体重増加を促し、症状を悪化させる可能性があります。
加工食品
保存料や添加物が含まれるハムやソーセージなどの加工食品は、犬にとってもあまり良くありません。なるべく無添加の食べ物を選びましょう。
ヨーグルト•牛乳などの乳製品
カルシウムを含むヨーグルト•牛乳などの乳製品は甲状腺機能低下症で用いるチラージンの吸収を妨げるため、チラージンと飲み合わせることは禁忌です。時間をずらして乳製品を与えることは問題ありません。
キャベツやブロッコリーなどのアブラナ科
アブラナ科の野菜に含まれるゴイトロゲンという成分が甲状腺の機能異常を引き起こすことがあると報告されていますが、それは過剰にキャベツやブロッコリーを毎日食べている場合です。ですので、適量であれば甲状腺に大きな影響が出ることはありません。
海藻や卵
海藻類にはヨウ素が含まれているため、甲状腺機能低下症の犬では制限する必要があります。
というのも過剰のヨウ素を摂取すると、甲状腺の組織が破壊され、甲状腺機能低下症が悪化する可能性があります。そのためワカメやヒジキや海苔などの海藻類は与えない方が良いでしょう。
また市販されているヨード卵にも多量のヨウ素が含まれているため、ヨード卵を甲状腺機能低下症を患う犬に与える事はやめましょう。
まとめ
甲状腺機能低下症は治る病気ではありません、しかしちゃんと治療を行えば甲状腺機能低下症が原因で亡くなることはまずありません。
ただし放っておくと肥満や皮膚の脱毛から始まり、末期症状として粘液水腫昏睡が起こります。
そのような状態になってしまう前に
老犬になってから元気がなくなってきたり、
震えや歩けなくなるようなことがあれば、かかりつけ医を受診するようにしましょう!