愛犬の皮膚が臭い、皮膚にかさぶたができている、皮膚を掻いている...といったことはありませんか?
上記のような症状がある場合には、わんちゃんで起こりやすい表在性膿皮症と呼ばれる感染症かもしれません!
表在性膿皮症は、皮膚にもともと生息しているブドウ球菌(Staphylococcus pseudintermediusなど)が過剰に増殖し、表皮や毛包に感染することで、様々な皮膚症状を示す病気です。
特に夏は気温の上昇により、ブドウ球菌による表在性膿皮症やマラセチア皮膚炎といった皮膚感染症が増える傾向にあります。
膿皮症やマラセチア皮膚炎といった皮膚感染症は、気温の上昇だけが原因となるわけではなく、もともと罹患しているアレルギー性皮膚炎などの基礎疾患や皮膚バリア機能の低下が原因となるため、再発しやすい皮膚病です。このように再発する膿皮症を再発性膿皮症といいます。
皮膚感染症を悪化・再発させないためには、基礎疾患の治療とスキンケア(シャンプー)が重要になります。
基本的に皮膚感染症で抗生剤を使用することはありません、というのも抗生剤を使用することで様々な副作用や耐性菌と呼ばれる抗生剤が効かない菌が出現してしまうためです。
本記事では、わんちゃんで起こりやすい皮膚感染症である膿皮症の原因や治療について獣医師が詳しく解説いたします!
膿皮症の原因
膿皮症は、ブドウ球菌などの元々皮膚に住んでいる常在菌が増殖し、増殖した細菌が皮膚に侵入することで引き起こされます。ただし、健康な皮膚では細菌が増殖して感染を引き起こすことはありませんので、膿皮症を発症する犬は皮膚のバリア機能を低下させるような以下の基礎疾患を持っていることが多いです。
- アレルギー性皮膚炎(アトピー性皮膚炎・食物アレルギー・ノミアレルギー性皮膚炎)
- 甲状腺機能低下症・クッシング症候群・糖尿病などのホルモン病
- 腫瘍(皮膚型リンパ腫・肥満細胞腫)
- 脂漏症
- 寄生虫
- 6ヶ月齢未満の免疫力の低い若齢の子犬
- フレンチブルドック・パグ・ボストンテリアなどの皺が多い短頭種
などといった様々な基礎疾患が膿皮症の原因です。通常、膿皮症はブドウ球菌によって引き起こされますが、緑膿菌や大腸菌が感染することもあります。
膿皮症はどの年齢でも起こりうる皮膚病で、免疫力の低い子犬であれば6ヶ月齢未満、アトピー性皮膚炎が基礎疾患としてあれば6ヶ月齢〜3歳未満、高齢犬で甲状腺機能低下症などのホルモン病があれば10歳を超えても膿皮症を発症します。
特にアトピー性皮膚炎などで皮膚を後肢で掻いたり舐め壊してしまうと、皮膚が傷ついてしまい、バリア機能がさらに低下してしまいます。
膿皮症は他の犬やヒトにうつるの?
うつることはありません。というのも膿皮症は感染しているワンちゃん自身に基礎疾患などの問題があるので、健康な他のワンちゃんにうつることはありません。
膿皮症の症状
細菌性膿皮症の一般的な症状は、
- ドーナツ状(環状)にフケが出る(表皮小環)、かさぶたができる
- 病変部を後肢でかゆがったり、舐めたりする
- 赤みや黒色の色素沈着
- 脱毛
- 湿疹
- ニキビのようなボツボツができる(丘疹)、膿が溜まった皮疹(膿疱)ができる
また、病変部は蒸れたような体臭とは異なる臭いがします。
膿皮症はどこでも起こる可能性はありますが、特に背中・腹部・首・腋・股(鼠径)・指の間といった様々な場所で発生します。膿皮症を放っておくと、病変は大きくなり、潰瘍(ただれてグチュグチュした状態)になってしまいます。
あまりにも痒みがひどくなってしまうと、性格が荒っぽくなったり、眠れなくなり、大きなストレスがかかってしまいます。
膿皮症の診断
膿皮症の診断は症状と皮膚検査に基づいて行われます。
皮膚病変部分をテープなどで採材し、顕微鏡で観察することで、大量のブドウ球菌や好中球を観察することができます。
膿皮症の治療
膿皮症の治療は基礎疾患に対する治療はもちろんのこと、細菌感染を治療するためスキンケア(シャンプー療法)を徹底して行うことが重要です。
具体的には、クロルヘキシジンなどの消毒成分を含有したシャンプーを使用します。またシャンプーは 10分ぐらい流さず漬けておき、しっかりとすすぐことがポイントです。というのも、シャンプーをすぐに流してしまうと、有効成分が皮膚へ浸透せず、効果が不十分なものとなってしまいます。すすぎの際にも36℃くらいのぬるま湯でシャンプー材をしっかりと落とし、フケや皮脂などをしっかりと落としましょう!
また、シャンプー後は乾燥してしまいますので、セラミドを含有した保湿剤でしっかりと皮膚を保湿してあげることも重要です。シャンプーは週に2回程度行い、1ヶ月は継続して行う必要があります。
また病変が部分的であれば、抗生剤や炎症止めの成分を含有した塗り薬を使用することもあります。
抗生剤治療と薬剤感受性試験について
シャンプーのみでは完治せず、局所ではなく広い範囲で病変が存在する場合や何度も再発する再発性膿皮症の場合には、抗生剤を使用します。
抗生剤は2〜3週間程度投薬します。
しかし、近年 抗生剤の乱用によって薬剤耐性菌が出現しています。そのような耐性菌が膿皮症の原因菌であった場合、臨床現場でよく使用される抗生剤では効果がないことがあります。そのような場合には、薬剤感受性試験や細菌培養検査を行い、どのような抗生剤が効果を示すのか調べる必要があります。
膿皮症を予防するためには?
膿皮症を予防するためには継続的なシャンプー療法を行い、皮膚のコンディションを整えることが重要です。
具体的には3日に1回程度でシャンプーを始めて、安定してくれば週に1回程度で継続できると良いでしょう。しかし、頻繁にシャンプーをして皮膚を洗いすぎると、皮膚が乾燥してしまい、皮膚バリア機能を低下させてしまうことがあるので、なるべく少ない頻度で、ただし皮膚を清潔に保てる頻度でシャンプーを行う必要があります。
ですのでシャンプーの頻度に関しては、獣医師としっかり相談した上で決定した方が良いでしょう。
また高温多湿である環境が膿皮症を悪化させることがありますので、空調などで除湿を行い、生活環境を整えることも大事です。
近年、腸活を行い腸内細菌叢を整えることにより皮膚の免疫力を強くすることができるといわれていますので、善玉菌などが含まれているサプリメントを積極的に摂取することも良いかもしれません。
膿皮症はどんな食事が良い?
膿皮症は皮膚バリア機能の低下により細菌が皮膚に侵入することが原因ですので、皮膚バリア機能を強くするような食事を選択することが重要です。
そのためにはオメガ3脂肪酸が含まれている食事を選ぶようにしましょう、オメガ3脂肪酸は皮膚バリア機能を高めてくれるだけではなく、皮膚の炎症を取り除く効果もあります。
おすすめはヒルズ プリスクリプション・ダイエット〈犬用〉オールスキンバリア 小粒です。
プリスクリプション・ダイエット〈犬用〉オールスキンバリア 小粒は、オメガ3脂肪酸を含有しており、アトピー性皮膚炎・食物アレルギーなどにも対応した皮膚用の特別療法食です。
まとめ
皮膚バリア機能を低下させるような基礎疾患の管理ができていないと何度も再発する皮膚感染症、それが膿皮症です。
再発を予防するためには基礎疾患の治療はもちろんのこと、シャンプーや塗り薬などのスキンケアを並行して行う必要があります。
膿皮症に気づかず悪化してしまうと、表在性膿皮症だけでなく、真皮まで病変が広がる深在性膿皮症を引き起こすこともあります。そのようなことにならないために、ご自宅でのスキンケアや皮膚のチェックを日々行うようにしましょう!