獣医師、ペット栄養管理士が犬と猫の病気と食事について徹底解説しています!

カテゴリー

感染症 犬のホルモン病 犬の肝臓疾患 高齢犬の病気

【獣医師監修|クッシング症候群】太った•震える老犬は要注意|末期症状・余命・食べてはいけないものについて解説

(最終更新日:

高齢の愛犬が急に太ったり震えたりするならクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)のサインかもしれません、症状や末期症状、余命、食べてはいけないものを現役獣医師が最新エビデンスに基づき詳しく解説し、治療法やおすすめフードも紹介します。

愛犬が年を取ってから水をたくさん飲むようになったり、食欲が増えて太ってきたり、最近震えが見られたり...そんな変化はありませんか?これらは中高齢の犬に多いホルモン異常の病気クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の兆候かもしれません。クッシング症候群では副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が過剰に分泌され、全身に様々な悪影響を及ぼします。一見、加齢による変化に見える症状も病気のサインかもしれません。

初期のクッシング症候群では目立った異常がないため見逃されがちですが、そのまま進行すると発作や血栓症(血の塊による突然死)など致命的な末期症状を引き起こすリスクがあります。実際に、クッシング症候群の犬の平均余命は治療開始後約1.5年(※約521日)と報告されており、発見が遅れると寿命を縮めてしまう病気です(*1)。愛犬の健康長寿のためにも、クッシング症候群を正しく理解し早期発見・治療につなげましょう。

犬のクッシング症候群とは?

クッシング症候群とは、副腎という臓器から分泌されるコルチゾール(副腎皮質ホルモン)が過剰になることで起こる内分泌疾患です。犬では比較的よく見られる病気で、1000頭に2〜3頭(0.2〜0.3%)の発生率とも報告されています。副腎は左右の腎臓の近くにある小さな臓器で、コルチゾールは体の代謝やストレス反応、免疫調節などに重要なホルモンですが、過剰になると身体に不調をきたします。

犬のクッシング症候群の原因は主に3つあります。

下垂体性(下垂体腫瘍): 脳の下垂体に良性の腫瘍ができてACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が過剰分泌され、その指令で副腎が刺激され続けるタイプ(全体の約80〜90%)。

副腎性(副腎腫瘍): 副腎に腫瘍(良性または悪性)ができてコルチゾールを過剰分泌するタイプ(全体の約10〜20%)。

医原性: ステロイド薬の長期投与により外部から過剰なコルチゾール作用が加わったタイプ(※治療による副作用)。

クッシング症候群の好発犬種・年齢

クッシング症候群はシニア期(7〜8歳以上)の犬によく見られます。特に発症が多い犬種として、プードル、ミニチュア・シュナウザー、ダックスフンド、ビーグル、シーズー、ボストンテリアなどが知られています。小型犬に多い傾向がありますが、中〜大型犬でも起こりえます。雄雌で発症率に有意な差はないとされています。

クッシング症候群の症状

クッシング症候群ではコルチゾール過剰により全身の様々な症状がゆっくりと進行します。初期段階では「歳のせいかな?」と思われがちな症状が多いですが、病気が進むと深刻な末期症状も現れます。

初期症状

多飲多尿: 水を飲む量・尿の量が増える(ポリディプシア/ポリウリア)。特に多飲多尿は約90%の症例で見られる典型的な症状です。1日の飲水量が体重1kgあたり100ml以上であれば多飲の可能性があります。おしっこの回数増加や失禁、尿が薄くなることも多尿のサインです。

食欲亢進・体重増加: 食欲が異常に高まり、常にご飯を欲しがるようになります。食べても食べても空腹感が満たされず、盗み食いやゴミ箱を漁る行動が見られることも。結果として脂肪が付きやすくなり、体重増加・肥満傾向になります。

腹部膨満(ポットベリー): お腹周りの筋肉が萎縮して内臓を支えきれず、お腹がポッコリ膨らんできます。いわゆる「ビール腹」のようなお腹になります。

左右対称の脱毛: 胴体や背中を中心に左右対称の脱毛が見られます。「年を取って毛が抜けてきたのかな」と見過ごされがちですが、治療してもなかなか治らない皮膚炎や皮膚の色素沈着(皮膚が黒ずむ)も見られるため注意が必要です。

末期症状

クッシング症候群を放置して末期まで進行すると、生命に関わる深刻な症状が現れることがあります。主な末期症状として以下のようなものが報告されています。

重度の感染症: コルチゾール過剰により免疫力が低下し、尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎)、深刻な皮膚炎、肺炎など様々な感染症に罹りやすくなります。治療に反応しない感染症や敗血症は命に関わります。

発作(痙攣)・神経症状: 下垂体腫瘍が大きくなり脳を圧迫すると、発作や旋回、視力障害などの神経症状が出る場合があります。重篤な場合、昏睡状態や麻痺が生じることもあります。

血栓塞栓症(肺血栓): 血液が凝固しやすくなる影響で、体内で血栓(血の塊)ができやすくなります。特に肺の血管で詰まる肺血栓塞栓症は呼吸困難や粘膜のチアノーゼ(紫色になる)を引き起こし、突然死の原因となります。

さらに現れる合併症: 高脂血症の影響で急性膵炎を発症したり、高血糖の持続により糖尿病が重度化するケースもあります。

このようにクッシング症候群は放置すると非常に危険な病気です。初期から末期までの症状に注意を払い、少しでも疑わしい場合は速やかに検査・治療を行いましょう。

クッシング症候群の診断方法

診断にはまず飼い主への問診や身体検査で症状の有無を確認します。その上で以下のような検査を組み合わせて総合的に判断します。

血液検査: 一般的な血液検査で肝酵素(ALT, ALP)の上昇や高血糖、高コレステロール血症・高トリグリセリド血症が見られることがあります。ただしこれだけでは確定できず、他の疾患でも起こり得る所見です。

腹部超音波検査: 超音波で副腎の大きさを観察し、副腎腫大や腫瘍の有無を評価します。

ホルモン負荷試験: ACTH刺激試験や低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDS)でコルチゾール分泌の異常反応を確認し、確定診断に役立てます。

画像検査(CT/MRI): 副腎や下垂体に腫瘍がある場合、CTやMRIで位置や大きさを詳しく調べます。特に手術を検討する際に有用です。

これらの結果を総合して診断します。場合によっては再検査や専門医の協力のもと、慎重に診断を確定することもあります。

犬のクッシング症候群の治療法

クッシング症候群と診断されたら、症状のコントロールとQOL維持のため治療を行います。主に内科治療(薬物療法)が選択されますが、状況によって外科治療や放射線治療が検討されることもあります。

内科療法(トリロスタンなど)

現在もっとも一般的な治療薬はトリロスタン(商品名: アドレスタン®など)です。トリロスタンは副腎でのコルチゾール合成を阻害する薬で、1日に1〜2回、犬の体重に合わせた適切な用量を生涯にわたり投与します。投与後は定期的にホルモン検査を行い、効果と副作用をモニタリングしながら用量を調整します。

副作用への注意: 薬が効きすぎるとコルチゾールが不足し、アジソン病に似た症状(食欲不振、嘔吐・下痢、脱力、ショックなど)が現れることがあります。治療中は定期検査を欠かさず、もし上記のような症状が見られたらすぐ獣医師に相談してください。

獣医師のアドバイス: 内科治療開始後は愛犬の様子をよく観察しましょう。特に治療初期は過剰効果による副作用を見逃さないことが大切です。「なんとなく元気がない」「嘔吐や下痢が続く」「食欲が落ちた」などの変化があればすぐ受診し、必要なら薬の減量等の対応を取ります。

外科療法・その他の治療

クッシング症候群の原因となる腫瘍に対して、外科的摘出や放射線治療が検討されることもあります。ただし高度な技術と管理を要しリスクも高いため、一般には内科療法で症状管理を行い、必要に応じて専門施設での外科的治療を検討します。

犬のクッシング症候群の余命・寿命

飼い主さんにとって愛犬の余命は気になるポイントです。予後(治療後の経過・生存期間)は腫瘍の種類や大きさ、治療開始の時期、合併症の有無によって大きく左右されます。

ある研究報告では、治療を行った犬の平均生存期間は約521日(約1年5か月)で、治療を行わなかった犬では約178日(約6か月)だったとされています(*1)。また、治療を継続しても4年以上生存できるケースは全体の1割程度とされます。

しかしあくまで統計上の数字であり個体差があります。腫瘍が小さく薬で良好にコントロールできている場合には健康な犬と変わらない寿命を保てるケースもあります。一方、腫瘍が大きく脳を圧迫する場合などは余命が短くなり、認知機能の低下や発作が生じて1〜2年以内に介護が必要になることもあります。また、副腎腫瘍で手術が可能な場合は摘出によって完治が期待できるケースもあります。

クッシング症候群の犬が食べてはいけないもの

クッシング症候群と診断された愛犬では食事管理も重要です。適切な食事により肥満や合併症のリスクを抑え、治療効果の維持をサポートできます。まずクッシング症候群の犬に与えない方が良い食品を確認しましょう。

高脂肪の食品: 脂肪分の多い食べ物は厳禁です。クッシング症候群の犬は高コレステロール血症・高脂血症になりやすく脂肪代謝に問題を抱えています。揚げ物、バター、大量の肉の脂身、チーズなどの乳製品は避けましょう。脂肪分の過剰摂取は急性膵炎を招く恐れもあります。

糖分の多いおやつ・高炭水化物: クッシング症候群の犬は糖尿病を併発しやすいため、過剰な糖質は禁物です。砂糖たっぷりのビスケットやケーキ、人間用の甘い菓子はもちろん、白米やパンなど高GI値の主食、果物の与えすぎにも注意が必要です。

塩分過多の食品: クッシング症候群では高血圧を併発することもあります。塩分の多い食品(チーズ、味付けジャーキー、人間用のハム・ソーセージやスナック菓子など)は避けましょう。塩分過多は飲水量をさらに増やし多飲多尿を悪化させる可能性もあります。

人工添加物の多い加工食品: 保存料や着色料など添加物を多く含む加工食品もなるべく避けてください。ハム・ソーセージ等の加工肉、味付き総菜、人間のジャンクフードなどは肝臓に負担をかけます。できるだけ無添加のナチュラルな食材・フードを選びましょう。

以上の食品はクッシング症候群の犬に与えてはいけないものです。愛犬の健康管理のため、日々の食事やおやつを見直してみてください。

クッシング症候群の犬に適した食事選びのポイント

次に、どのようなドッグフードを選べば良いかを解説します。クッシング症候群自体に専用フードはありませんが、栄養面で以下のポイントを満たす食事がおすすめです。

低脂肪&適度な繊維質: 脂肪分が少なく食物繊維を適度に含むフードを選びましょう。低脂肪・高繊維の食事は満腹感を与えつつ肥満防止に役立ちます。

高消化性の良質タンパク質: 消化に良い高品質な動物性タンパク源を使ったフードを選びましょう。

低ナトリウム(減塩): 減塩設計のフードを選びましょう。シニア用など塩分控えめの表示が目安です(手作りの場合も塩や醤油などは使わないでください)。

おやつは基本控えましょう。どうしても与えたい場合は茹でたニンジンなど低カロリーのものをごく少量にとどめます。定期的に体重を測定し、適正体重を維持できるよう管理してください。

クッシング症候群の愛犬におすすめのドッグフード3選

最後に、クッシング症候群の愛犬に配慮したおすすめのドッグフードを3つ紹介します。いずれも低脂肪で栄養バランスに優れたフードなので、ぜひ参考にしてください。

商品名和漢みらいのドッグフード
特別療法食(膵臓用)
ヒルズ プリスクリプション・ダイエット
w/d
ロイヤルカナン
減量サポート(満腹感サポート)
タイプヘルスケアフード処方食(消化・体重・糖尿病管理)処方食(肥満犬用)
脂質含有量約7%(超低脂肪)低脂肪設計7%台(超低脂肪)
主要特徴・89種の和漢植物配合
・発酵素材使用
・鹿肉・魚由来タンパク質
・無添加
・高繊維・低脂肪設計
・L-カルニチン配合
・糖尿病管理対応
・食物繊維たっぷり
・高タンパク(30%以上)
・満腹感重視設計
こんな愛犬に最適・脂肪制限が必要
・膵炎を併発
・添加物に敏感
・食いしん坊
・肥満傾向
・糖尿病併発
・ストレスなくダイエット希望
・肥満傾向
・食欲旺盛
・満腹感を重視したい
メリット✅ 免疫力・代謝バランス改善
✅ 慢性疾患の体調維持
✅ 食いつき良好
✅ 和漢ハーブで自然派
✅ 満腹感でストレス軽減
✅ 脂肪代謝・筋肉維持サポート
✅ 糖尿病管理も可能
✅ 市販療法食の定番
✅ ストレスフリーダイエット
✅ 嗜好性が高い
✅ 筋肉量維持
✅ 満腹感抜群
注意点膵臓用だがクッシング症候群にも適応繊維が多いため痩せ気味の子には不向き痩せている子にはカロリー不足のリスク
おすすめ度⭐⭐⭐⭐⭐
(総合バランス重視)
⭐⭐⭐⭐
(糖尿病併発時に特に有効)
⭐⭐⭐⭐
(肥満対策に特化)

選び方のポイント

🔹 脂肪制限重視 → 和漢みらいのドッグフード
🔹 糖尿病も併発 → ヒルズ w/d
🔹 肥満が主な悩み → ロイヤルカナン 減量サポート

いずれも低脂肪で栄養バランスに優れており、クッシング症候群の愛犬の健康管理に配慮された処方となっています。愛犬の症状や体型に合わせて最適なフードを選択し、定期的な体重測定と獣医師への相談を併せて行うことが重要です。

1. 和漢みらいのドッグフード 特別療法食(膵臓用)(ヘルスケアフード)

クッシング症候群の管理に獣医師がおすすめする療法食が和漢みらいのドッグフード「特別療法食(膵臓用)」です。名前の通り膵臓ケア用の処方ですが、低脂質・低糖質・無添加などクッシング症候群の犬にも適した特徴を備えています。

89種の和漢植物や発酵素材を配合し、鹿肉や魚由来の良質タンパク質を使用。脂質はわずか7%程度と超低脂肪で、免疫力や代謝バランスを整える機能性成分が豊富です。

低脂肪・低糖質のため高脂血症や高血糖のリスク管理に役立ちます。無添加かつ和漢ハーブ配合で慢性疾患を抱える子の体調維持にも配慮。食いつきの良さも飼い主から好評です。

脂肪制限が必要な食いしん坊の子、膵炎を併発している子、添加物に敏感な子などに向いています。

2. ヒルズ プリスクリプション・ダイエット w/d(消化・体重・糖尿病の管理)

市販療法食の定番であるヒルズ社の処方食からは、w/d(ダブリューディー)をご紹介します。肥満傾向や糖尿病の管理を目的としたフードで、クッシング症候群の体重コントロールにも役立ちます。

高繊維・低脂肪設計で、食物繊維が満腹感を与えつつカロリーを抑えます。L-カルニチン配合で脂肪代謝と筋肉維持をサポートし、糖尿病管理にも配慮された処方です。

太りやすい愛犬の体重管理に適しています。高繊維で満腹感を得られるためストレスなくダイエット可能です。糖尿病を併発している子にも安心です。

肥満傾向や糖尿病を併発した犬に適しています。ただし繊維が多いため、痩せ気味の子や食が細い子には不向きな場合があります。

3. ロイヤルカナン 減量サポート(満腹感サポート)

ロイヤルカナンの療法食からは、肥満犬用の減量サポート(満腹感サポート)をおすすめします。肥満気味になりがちなクッシング症候群の愛犬に適した、低カロリーで満腹感を得やすいフードです。

食物繊維たっぷりで満腹感が得られる超低脂肪フードです。脂肪は7%台と抑え、タンパク質を30%以上含む高タンパク低脂肪設計で、減量中も筋肉量を維持できるよう考慮されています。

満腹感が得られるのでストレスなくダイエットでき、嗜好性も高いため食いつきも良好です。

肥満傾向で食欲旺盛なクッシング犬に適しています。ただし痩せている子にはカロリー不足となるため使用しないでください。

以上、クッシング症候群の基礎知識から食事管理、おすすめフードまで解説しました。クッシング症候群は完治が難しい病気ですが、適切な治療とケアで愛犬の穏やかな生活を守ることができます。飼い主さんの気配りと獣医師のサポートにより、愛犬と少しでも長く健やかな時間を過ごせるよう願っています。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

-感染症, 犬のホルモン病, 犬の肝臓疾患, 高齢犬の病気