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【獣医師監修|犬の肥満細胞腫】赤い皮膚のできもの•イボ|末期症状・進行速度・余命について獣医師が解説

【犬の肥満細胞腫】皮膚にできものができたら要注意!初期症状・進行速度・最新の治療法(チジラノールチグレート)について獣医師が解説

犬の肥満細胞腫は最も多い犬の皮膚・皮下腫瘍で、全体の20%を占めています。

基本的に肥満細胞腫は悪性であり、早期に発見し切除すれば完治しますが、放っておくとリンパ節や内臓(胃腸、脾臓、肝臓)に転移してしまう厄介な腫瘍です。

肥満細胞は元来、免疫反応や炎症反応に関係する血液中の細胞で、たとえば花粉症などは肥満細胞によって引き起こされる化学反応です。この肥満細胞が腫瘍化すると肥満細胞腫になってしまいます。

肥満細胞腫が遠隔転移し、末期になると血液の凝固不全、アナフィラキシーショック、肺水腫などといった腫瘍随伴症候群を引き起こし、亡くなってしまうことがあります。

今回は犬の皮膚に最もできやすい腫瘍である肥満細胞腫について最新の治療法を交えて獣医師が解説します。

肥満細胞ってなに?

肥満細胞とはアレルギー反応や炎症反応などといった外部からの生態防御機構に関わっている細胞です。

肥満細胞は体中のいたる所に存在しており、皮膚、肺、胃腸、肝臓などに分布しています。肥満細胞の中には、ヒスタミン、ロイコトリエン、ヘパリンなどのといった化学伝達物質物質が含まれています。

肥満細胞腫はこの肥満細胞が皮膚や皮膚下でしこりを作り、腫瘍化したものに他なりません。

この肥満細胞腫にもたくさんの化学伝達物質が含まれており、特にヒスタミンが肥満細胞腫から何らかの刺激により放出されてしまうと、しこり周囲がアレルギーを起こした時のように赤く腫れたり、痒くなったり、様々な炎症反応を引き起こすのです。

肥満細胞腫はどんな犬種や場所にできるの?

肥満細胞腫はどんな犬•場所にできるの?足

肥満細胞腫はゴールデンレトリバー・柴犬・パグ・ボストンテリア・ボクサーなどといった犬種で好発します。

犬種ごとで悪性度は異なり、パグにできる肥満細胞腫に関しては悪性度が低いが多いと報告されています。

肥満細胞ができる部位は様々ですが、手や足、陰部の周りなどによくできます。

陰部の肥満細胞腫は悪性度が高いことがほとんどで、外科手術や化学療法などを組み合わせたとしても、あまり長く生きることができません。

肥満細胞腫はガンなの?

肥満細胞腫は犬の皮膚ガンの中で最も発生頻度の高い悪性のガンです。早期に手術を行えば完治も目指せますが、少しでも放置しておくと、再発したり転移をすることがほとんどです。

一方で、猫の肥満細胞腫のほとんどはガンではなく良性の腫瘍であり、外科的な完全切除すれば完治します。

犬の肥満細胞腫の初期症状・末期症状(腫瘍随伴症候群)

犬の肥満細胞腫の初期症状・末期症状

犬の肥満細胞腫の初期症状と末期症状は何ですか?

犬の肥満細胞腫の初期症状と末期症状を知っておくことが重要です。というのも、症状を把握しておくことで、病気の早期発見につながり、治療成功率を上げることができます。

肥満細胞腫の初期症状

犬の肥満細胞腫の初期症状は、無症状であることが多いですが、皮膚や皮下に小さなしこりや腫れが現れることがあります。

初期の肥満細胞腫は目立たないことが多く、飼い主の方が気づかないこともあります。

また肥満細胞腫は様々な形態をしているため、これといって特徴的な肥満細胞腫の所見はありません。

そのため肥満細胞腫は早期発見が困難である場合が多いです。

しかし、病気が進行すると、腫瘍が大きくなり、痛みや炎症、出血などの症状が現れることがあります。

肥満細胞腫の末期症状

リンパ節や全身に転移してしまうと、全身のだるさ、食欲不振、呼吸困難、消化器官の不調などの症状が現れることがあります。

このように腫瘍と離れた体の場所で起こる症状を腫瘍随伴症候群といいます。

ポイント

腫瘍随伴症候群は、腫瘍の影響で体の遠く離れた場所に症状が現れる現象です。

発生原因ははっきりしていませんが、腫瘍が出す物質や、腫瘍に反応する抗体が他の組織と反応することが関係しています。

このような症状は腫瘍の存在を示唆するため、腫瘍の発見・診断手がかりとなることもありますが、腫瘍随伴症候群は肥満細胞腫の中期〜末期症状であるため、ある程度腫瘍が進行している可能性が高いです。

肥満細胞腫が大きくなると、ヒスタミンやヘパリンなどの炎症を引き起こす化学物質が放出されるため、肥満細胞腫の周りが真っ赤に腫れ、痒みや浮腫を引き起こすダリエ兆候胃潰瘍を引き起こすことがあります。

肥満細胞腫が末期になると、

  • 低血圧 
  • 血液の凝固不全
  • 肺水腫
  • 血栓塞栓症

などを引き起こし、急死してしまうことがあります。

肥満細胞腫の進行速度(転移)は早い?

肥満細胞腫の進行速度は早い?

犬の肥満細胞腫は、進行の速さや転移の仕方ができた体の場所やグレードによって異なります。

皮膚にできた肥満細胞腫は、成長がゆっくりなものもあれば、急に大きくなるものもあります。また小さくなることもあるため、腫瘍の大きさだけでは転移の有無を確認することは困難です。

しかし肥満細胞腫ができた場所によっては、進行が速いことが分かっています。特に、陰嚢や鼻の中にできる肥満細胞腫は、非常に進行が速く、転移しやすいことがわかっています。

また中悪性度(Patnaikグレード2)の肥満細胞腫は成長が速いことがあり、転移する確率は20%〜50%です。さらにグレードの高い高悪性度(Patnaikグレード3)の肥満細胞腫は、非常に転移が早く、転移する確率が80%〜96%と高いのです。

転移を確認するためには、リンパ節、肝臓、脾臓に転移することが多いので、そういう場所をエコー検査よく調べることが大切です。

肥満細胞腫の転移を見つけた際には外科手術で切除、あるいは化学療法を行い、さらなる転移を防ぐ必要があります。

診断とグレード(悪性度)分類

診断とグレード(悪性度)分類

肥満細胞腫の診断としては細い針で腫瘍を吸引する針吸引試験(FNA)を行います。FNAにより針で吸引した細胞成分を顕微鏡で観察し、肥満細胞の有無を確認します。

これを細胞診と呼び、細胞診は無麻酔で行うことができる簡単な検査ですので、安全性が非常に高いといえます。

グレードについて

治療方針を決定するには、グレードと呼ばれる悪性度のレベルを確認する必要があります。グレードを決定するには、手術で切除した肥満細胞腫を病理検査する必要があります。

肥満細胞腫のグレードは3つに分類され、数字が大きいほど悪性度が高いです。

グレード1:悪性度が1番低い肥満細胞腫です。大きさは1cm以下で手術により完全切除すれば問題ありません。

グレード2:中等度の悪性度の肥満細胞腫です。ほとんど転移することはありませんが、一部のグレード2の肥満細胞腫ではリンパ節や肝臓などといった部位に転移していることがあります。グレード1と同様に外科切除を行いますが、広い範囲で切除する必要があります。

グレード3:悪性度が非常に高い肥満細胞腫です。進行速度も非常に速く、すぐにリンパ節や内臓へ転移します。外科手術で切除したとしても完治は不可能な場合が多く、化学療法や放射線療法を併用します。

犬の肥満細胞腫の治療

外科手術

外科手術

肥満細胞腫は悪性度によって治療の組み合わせ方は様々ですが、まず外科手術により腫瘍を切除することが重要です。

切除する場合、腫瘍の周囲から2〜3cm以上広く、かつ筋層まで深く切除する必要があります。

というのもしこりのない部分にも細胞レベルで悪性腫瘍細胞が広がっている可能性があり、そのためにはしこりがある部分の周囲あるいは深部まで切除することが重要なのです。ですので、肥満細胞腫が小さいとしても、かなり大部分の皮膚を切除することになります。

肥満細胞腫を完全切除できれば再発する可能性はほとんどありませんが、不完全に切除してしまった場合は再発することがあり、その場合は再手術を行うことがあります。

また切除が難しい部位に関しては放射線療法を行うこともあります。

化学療法

手術で肥満細胞腫を完全に切除できない場合やグレードが3以上の場合は化学療法を使用することがあります。

例えばプレドニゾロン・ビンブラスチン・ロムスチンといった化学療法を使用します。

また最近では遺伝子(c-KIT)変異がある肥満細胞腫に効果的なトラセニブやイマチニブといった分子標的薬を使用することがあり、遺伝子変異があれば非常に効果的な治療法です。

最新!犬の肥満細胞腫の治療(チジラノールチグレート)

最新 犬の肥満細胞腫の治療(チジラノールチグレート)

最新の肥満細胞腫の治療としては、オーストラリアで生息しているトウダイグサ科などの種から抽出された成分であるチジラノールチグレートを腫瘍に注射することで、

犬の肥満細胞腫を退縮させる効果があると2020年に報告されています。(1)

適応部位は肘または膝に位置する切除不可能な肥満細胞腫です。

チジラノールチグレートは、腫瘍細胞の細胞死を引き起こすことで、腫瘍を取り除く作用があり、基底細胞癌・扁平上皮癌・メラノーマ・頭頸部腫瘍などにも有効である可能性が示唆されています。

具体的には犬の肥満細胞腫にチジラノールチグレートを注射した犬は8 日目までに 75%の完全奏効、84 日目までに 93%の犬で再発が認められなくなったと報告されています。海外ではすでにビルバック社より、STELFONTAという商品で製品化されています。

リンパ節切除を行うと余命が長くなる

外科切除を行う際に必ず局所リンパ節を切除しましょう

というのも高悪性度の肥満細胞腫を患う犬で局所リンパ節切除を行った場合、予後が良かった(長生きした)との報告があるためです。(2)

具体的に生存期間の中央値は、

リンパ節切除術を受けなかった犬は250日、

リンパ節切除術を受けた犬は371日という結果で、

リンパ節切除を行った犬の方が1.48倍も長生きでした。

これはリンパ節を切除することで、肥満細胞腫の転移を遅らせることができるためだと考えられます。

肥満細胞腫の予後(余命)

肥満細胞腫の予後(余命)

犬の肥満細胞腫の余命は、腫瘍の悪性度や治療方法、犬種によって大きく異なります。

基本的には、低悪性度の肥満細胞腫の犬のほとんどは、腫瘍がなくなれば寿命まで生きることができます。

一方、グレードの高い高悪性度では腫瘍が他の臓器やリンパ節に転移するリスクが非常に高く、治療がより困難になるため、寿命はかなり短いことが多いです。

具体的には、低グレード(グレード1や転移のないグレード2)の肥満細胞腫は、手術で良好な予後が期待でき、生存期間の中央値は2年以上と長いです。

一方、高グレードの場合は、放射線療法や化学療法などの治療法併用して治療にしても、再発や転移が急速に進んでしまうリスクが高く、中央生存値は4ヶ月程度と短くなります。

グレード3の余命は?

1番予後が悪い肥満細胞腫はグレード3で、積極的に治療を行っても6ヶ月程度の生存期間といわれています。

また、犬種によっても予後が異なり、ボクサー、パグ、ゴールデンレトリーバーは比較的予後が良いことが多いとされています。

獣医師によるまとめ

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肥満細胞腫は犬の皮膚腫瘍で最も発生率が高く、早期発見できれば、リンパ節などへの転移を防ぐことができます。

ですが様々な形状・大きさをとるため、日々愛犬の身体を触ってチェックしていなければ早期発見は困難です。

もし、赤いニキビのようなものやしこりが皮膚や皮下にできている場合は、様子を見ずに病院へ受診しましょう。

【参考文献】

(1)De Ridder, TR,  Campbell, JE,  Burke-Schwarz, C, et al.  Randomized controlled clinical study evaluating the efficacy and safety of intratumoral treatment of canine mast cell tumors with tigilanol tiglate (EBC-46). J Vet Intern Med.  2021; 35: 415– 429. https://doi.org/10.1111/jvim.15806

(2)Chalfon, C., Sabattini, S., Finotello, R., Faroni, E., Guerra, D., Pisoni, L., Ciammaichella, L., Vasconi, M.E., Annoni, M. and Marconato, L. (2022), Lymphadenectomy improves outcome in dogs with resected Kiupel high-grade cutaneous mast cell tumours and overtly metastatic regional lymph nodes. J Small Anim Pract, 63: 661-669. https://doi.org/10.1111/jsap.13525

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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