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犬のてんかん発作:症状の見分け方・抗てんかん薬の比較・発作時に飼い主がすべきこと

「突然倒れてガタガタと震えた」「泡を吹いて意識がなくなった」「発作が何分も続いている」——犬のてんかん発作は飼い主様にとって最も恐ろしい経験のひとつです。しかし、てんかんは適切な診断と治療により、多くの犬で発作コントロールが可能な疾患です。本記事では、てんかんの種類・発作の分類・診断・抗てんかん薬の詳細・緊急対応まで、臨床的エビデンスに基づいて解説します。

てんかんとは

てんかんとは、脳の神経細胞が過剰に異常放電することにより、繰り返す発作(けいれん・意識消失・自律神経症状など)を引き起こす疾患です。1回だけの発作では「てんかん」とは診断されず、24時間以上の間隔をおいて2回以上の非誘発性発作がある場合に「てんかん」と診断されます(IVETF定義)。

犬のてんかんの有病率

犬の全体的な有病率は約0.5〜5.7%とされています。特定の犬種では有病率が著しく高く:

  • ベルジアン・テルビュレン:約9.5%
  • ラブラドール・レトリーバー:約3〜4%
  • ボーダー・コリー:約4〜5%
  • ゴールデン・レトリーバー:約1〜3%
  • シェトランド・シープドッグ:約2〜4%
  • ジャーマン・シェパード:約3〜4%

てんかんの分類:原因による3つのタイプ

タイプ 原因 特徴 好発犬種・年齢
特発性てんかん(IE) 原因不明。遺伝的素因が関与 脳の構造異常なし・代謝異常なし。MRI・CSF正常。最も多いタイプ 1〜5歳で発症することが多い。特定の犬種で高頻度
構造的てんかん 脳腫瘍・脳炎・水頭症・脳梗塞・外傷など脳の構造的病変 MRIで異常所見あり。発作以外の神経症状(性格変化・行動異常・運動障害)を伴うことが多い 5歳以上の発症・急速な進行は構造的てんかんを疑う
反応性てんかん(症候性) 代謝異常(低血糖・肝性脳症・低Ca・尿毒症)・中毒(キシリトール・農薬・鉛) 原因を除去すれば発作は止まる。脳自体の問題ではない 年齢問わず。基礎疾患の症状を伴う

発作の分類(IVETF改定分類 2015)

焦点性発作(部分発作)

脳の一部から始まる発作。局所的な症状から始まり、全身に広がることもあります。

  • 焦点性発作(意識保持):顔面の痙攣・一側肢の痙攣・咀嚼動作・眼球運動・自律神経症状(流涎・嘔吐・瞳孔散大)。意識は保たれる
  • 焦点性発作(意識障害を伴う):ぼんやりする・変な行動・徘徊・虚空を見つめる。意識が変容する
  • 焦点性→両側性強直間代発作(二次性全般化):焦点性発作が全身の大発作に発展する

全般発作

両側の脳から始まる発作。

  • 強直間代発作(grand mal):最も一般的。体が硬直(強直期)→四肢がガタガタと動く(間代期)→弛緩。意識消失・流涎・失禁を伴うことが多い。通常1〜3分
  • 強直発作:体が硬直するのみ(間代期なし)
  • 間代発作:ガタガタした動きのみ
  • 欠神発作:一瞬意識がなくなる・止まる。犬では人と異なり稀
  • ミオクローヌス発作:瞬間的な筋肉のびくつき

発作の3相

  • 前兆期(Aura):発作直前。不安・落ち着かない・飼い主様に密着・震える・唾液が出るなど。数秒〜数分
  • 発作期(Ictal phase):実際の発作が起きている時間。通常1〜3分。5分以上はてんかん重積
  • 発作後期(Post-ictal phase):発作後の回復期。ぼんやり・失明様(一時的)・失調・過食・過眠。数分〜数時間(まれに24時間以上)

緊急事態:てんかん重積(Status Epilepticus)

発作が5分以上続く場合(単一発作)または、意識回復なしに複数の発作が繰り返す場合(群発発作)はてんかん重積であり、生命を脅かす緊急事態です。

  • 体温が急上昇(42℃以上)→脳への不可逆的ダメージ
  • 低血糖・低酸素血症
  • 横紋筋融解症→腎不全
  • 神経細胞の壊死

自宅での対処:

  • 犬の周囲の危険物を除ける(家具・段差・水)
  • 犬の口の中に手を入れない(窒息しない・噛まれる危険)
  • タオルなどで体を包んで保温(体温低下防止)
  • 発作時間を計測する
  • 動画を撮影する(獣医師への情報提供に有用)
  • 発作が5分以上続く・発作が2回以上連続する場合は直ちに救急病院へ

診断

詳細な問診(発作の特徴把握)

  • 発作の頻度・持続時間・発作の様子(動画があれば最良)
  • 発症年齢・犬種・性別・血統(特発性か遺伝性かの評価)
  • 発作間欠期の神経症状の有無
  • 食事内容・薬物・毒物への曝露歴
  • 既往歴・家族歴

血液・尿検査(反応性てんかんの除外)

  • 血糖値:低血糖(インスリノーマ・幼若犬)の除外
  • 肝機能検査(ALT・ALP・NH3・胆汁酸試験):肝性脳症の除外
  • 腎機能(BUN・クレアチニン):尿毒症の除外
  • カルシウム・マグネシウム・ナトリウム:電解質異常の除外
  • 甲状腺ホルモン(T4):甲状腺機能低下症(代謝性てんかんの原因となりうる)の除外
  • 尿検査:総合的な代謝評価

MRI(最も重要な画像診断)

構造的てんかんの評価に不可欠です。以下の場合にMRIが強く推奨されます:

  • 5歳以上での発症
  • 1歳未満での発症
  • 発作間欠期に神経症状がある
  • 抗てんかん薬で発作コントロール不良
  • 急速に症状が進行する
  • 焦点性発作(脳の局在病変を示唆)

脳脊髄液(CSF)検査

MRI後に実施。脳炎・髄膜炎・免疫介在性疾患(GME・壊死性髄膜脳炎)の診断に有用です。

脳波検査(EEG)

犬の臨床現場でのEEGは麻酔下での実施が必要なため、日本では一般的ではありませんが、専門施設では実施されることがあります。

治療:抗てんかん薬(AED)による長期管理

治療開始の基準

以下のいずれかを満たす場合に抗てんかん薬の開始が推奨されます:

  • 発作頻度:6ヶ月以内に2回以上、または1ヶ月に1回以上
  • てんかん重積・群発発作の既往
  • 発作後期が重篤・長い
  • 構造的・代謝性てんかんと診断
  • 飼い主様が強く希望する

主な抗てんかん薬の比較

薬剤名 用量(目安) 特徴・利点 主な副作用 モニタリング
フェノバルビタール(PB) 2〜4 mg/kg 1日2回 第一選択薬。最も長い使用歴・コスト低い・約60〜80%で発作コントロール 多食・多飲・多尿・鎮静・運動失調(初期)・肝毒性(長期)・多血症 血中濃度(目標:20〜35 μg/mL)・肝機能を定期的に
臭化カリウム(KBr) 30〜40 mg/kg 1日1回(PBと併用) フェノバルビタールと併用で効果増強。腎排泄のため肝障害の犬に有利 多食・多飲・多尿・鎮静・後肢虚弱・嘔吐・膵炎(特に猫では禁忌) 血清臭素濃度(目標:1000〜2000 μg/mL)
レベチラセタム(LEV) 20 mg/kg 1日3回(通常)または30〜60 mg/kg 1日2回(徐放性) 副作用が少ない・肝毒性なし・フェノバルビタールとの相互作用少。1日3回投与が必要 鎮静・嘔吐(まれ)・行動変化(まれ) 血中濃度モニタリングの必要性低い
ゾニサミド(ZNS) 5〜10 mg/kg 1日1〜2回 日本で比較的利用しやすい。副作用が少ない。肝毒性のリスク低い 食欲低下・嘔吐・鎮静・尿路結石(まれ) 血中濃度(目標:10〜40 μg/mL)
ガバペンチン 10〜20 mg/kg 1日2〜3回 神経性疼痛・てんかん補助。副作用少ない 鎮静・運動失調 特になし
プレガバリン 3〜4 mg/kg 1日2〜3回 ガバペンチンの改良版。吸収がより安定している 鎮静・体重増加 特になし

緊急薬(群発発作・重積発作時)

  • ジアゼパム(直腸内投与):自宅での緊急使用。1〜2 mg/kg を直腸内に投与。発作中の病院への移動中に使用可能。冷蔵保存不要
  • ジアゼパム静脈内投与(病院):0.5〜1 mg/kg ゆっくり静注
  • ミダゾラム(口腔粘膜・鼻腔内):0.2 mg/kg。自宅での代替として有用
  • フェノバルビタール(IV):ジアゼパムで止まらない場合
  • プロポフォール(全身麻酔):重積状態の最終手段

薬物モニタリング

フェノバルビタールの血中濃度測定

  • 治療開始2週間後:定常状態に達したかを確認(目標:20〜35 μg/mL)
  • その後は3〜6ヶ月ごと
  • 用量変更後2週間
  • 発作がコントロール不良の場合

肝機能評価(フェノバルビタール使用時)

  • 治療開始6ヶ月後:肝酵素(ALT・ALP)・胆汁酸測定
  • その後6ヶ月〜1年ごと
  • ALP上昇はフェノバルビタール誘導で軽度上昇することがある(臨床的意義の評価が必要)
  • 顕著な肝障害:薬剤の変更を検討

難治性てんかん(薬物抵抗性)

2種類以上の適切に使用した抗てんかん薬で発作コントロールができない場合、「薬物抵抗性てんかん」と定義されます。全てのてんかん犬の約20〜30%が薬物抵抗性とされています。

この場合の対応:

  • MRIによる構造的原因の再評価
  • 他の抗てんかん薬(イミノスチルベン、フェルバメート等)の追加
  • ケトジェニック食(脂肪を多くした食事療法):一部で有効という報告あり
  • 脳深部刺激療法(DBS):研究段階
  • 外科的切除(焦点性の場合):専門施設のみ

特定の犬種における遺伝性てんかん

ラグレイアン(Lafora病)

ミニチュア・ワイアーヘアード・ダックスフンドや一部のビーグルに見られる遺伝性進行性ミオクローヌスてんかん。フラッシュ光・音・触覚に反応した発作(刺激感受性てんかん)が特徴。NHLRC1(EPM2B)遺伝子変異による。現在遺伝子検査が可能。

ボーダー・コリーのてんかん

生後6〜18ヶ月に発症することが多い。遺伝的素因が強く示唆されている。

ベルジアン系の遺伝性てんかん

ベルジアン・テルビュレン・マリノワ・グローネンダールで高頻度。LGI2遺伝子変異との関連が報告されている。

日常生活と管理

飼い主様が記録すべきこと(発作日誌)

  • 発作の日時・時間帯(昼・夜・睡眠中)
  • 持続時間
  • 発作の様子(前兆・様子・発作後期の状態)
  • 発作前後の特記事項(食事・運動・ストレスイベント)
  • 1ヶ月の発作回数

スマートフォンのアプリ(てんかん日誌アプリ)を活用すると、受診時に正確な情報を提供できます。

日常生活での注意

  • 水辺に注意:発作時に溺れる危険。無監視での水泳・入浴は避ける
  • 階段・段差の管理:発作時の転落事故防止
  • 過度の興奮・疲労を避ける:発作の誘因となりうる
  • 薬の飲み忘れをなくす:フェノバルビタールは急な中断で反跳性発作を起こす危険
  • 体重管理:フェノバルビタール・KBr使用の犬は多食になりやすく肥満に注意

てんかんと共に生きる:予後について

特発性てんかんの犬の予後は、一般的に良好とされています。

  • 約60〜80%の犬でフェノバルビタール単独で発作コントロール可能
  • 約20〜30%は難治性(多剤併用が必要)
  • 発作が完全にコントロールされれば通常の生活の質を維持できる
  • てんかん発作のみが原因で死亡することはほとんどない(てんかん重積は例外)
  • 薬が必要なくなることは稀(2年以上発作がない場合に減薬を試みることがある)

ただし、構造的てんかん(脳腫瘍・脳炎など)は基礎疾患の予後に依存し、より慎重な見通しが必要です。

まとめ

犬のてんかんは適切な診断・治療・モニタリングにより、多くの犬で発作をコントロールし良質な生活を送ることができます。重要なのは:

  • 発作の詳細な記録(動画・発作日誌)
  • 原因の正確な分類(特発性か構造的か反応性か)
  • 抗てんかん薬の規則正しい投与と血中濃度モニタリング
  • 緊急発作(5分以上・連続発作)への対応を事前に準備する

犬のてんかん発作・薬物管理について個別に相談したい飼い主様は、獣医師への個別相談もご活用ください。

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