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犬の貧血:原因・症状・治療と輸血の適応

「歯茎が白い」「元気がない・ぐったりしている」「息が荒い」「運動を嫌がる」——犬の貧血は単独の疾患ではなく、様々な基礎疾患が引き起こす「症状」です。貧血の原因を正確に特定することが治療の出発点であり、原因によって治療法は大きく異なります。本記事では、貧血の種類・診断・治療・輸血まで臨床的に詳しく解説します。

貧血とは

貧血(Anemia)とは、赤血球数・ヘモグロビン濃度・ヘマトクリット値(Ht/PCV)が正常値を下回る状態です。赤血球は全身の組織に酸素を運ぶ役割を担っており、貧血になると組織への酸素供給が不足し、様々な症状が現れます。

犬の貧血の診断基準(目安)

指標 正常値(成犬) 貧血の定義 重度貧血
ヘマトクリット(PCV/Ht) 37〜55% 37%未満 20%未満(輸血検討)
赤血球数(RBC) 5.5〜8.5 × 10⁶/μL 5.5未満
ヘモグロビン(Hb) 12〜18 g/dL 12未満 7未満

貧血の分類:3つの主なメカニズム

1. 出血性貧血(失血性貧血)

赤血球が体外に失われる。

  • 急性失血:外傷・手術出血・内出血(血管肉腫破裂等)・重度の消化管出血
  • 慢性失血:消化管出血(潰瘍・腫瘍・NSAID投与)・ノミ・寄生虫感染・腎出血(腎腫瘍)・膀胱出血

2. 溶血性貧血(赤血球破壊)

赤血球が異常に早く壊される。

  • 免疫介在性溶血性貧血(IMHA):最も多い溶血性貧血。自己免疫により自分の赤血球を攻撃
  • 犬バベシア症:ダニ媒介性原虫感染(Babesia canis)。赤血球内で増殖し溶血
  • 中毒:タマネギ・ニンニク(ハインツ小体貧血)・アセトアミノフェン・亜鉛(硬貨の誤飲)
  • 遺伝性赤血球異常:ピルビン酸キナーゼ欠損症(バセンジー・ビーグル等)・フォスフォフルクトキナーゼ欠損症(コッカースパニエル)
  • 低リン血症:再給餌症候群・肝臓病
  • マイコプラズマ(ヘモプラズマ)感染:猫に多いが犬にも見られる

3. 非再生性貧血(造血障害)

赤血球の産生が不十分。

  • 慢性疾患による貧血:慢性腎臓病・慢性炎症・悪性腫瘍(最も多い非再生性貧血の原因)
  • 腎性貧血:腎臓でのエリスロポイエチン(EPO)産生低下→骨髄での赤血球産生低下
  • 鉄欠乏性貧血:慢性出血による鉄の枯渇(二次的な非再生性)
  • 免疫介在性造血障害(PRCA・再生不良性貧血)
  • 薬物・化学物質:化学療法薬・ケトコナゾール・クロラムフェニコール・エストロゲン過剰
  • 骨髄疾患:骨髄腫・白血病・骨髄異形成・骨髄壊死

症状

貧血の重症度と症状の関係

Ht(%) 重症度 主な症状
30〜37 軽度 ほぼ無症状〜わずかな疲れやすさ
20〜30 中等度 元気消失・運動不耐性・息が切れやすい・食欲低下
15〜20 重度 安静時でも呼吸促迫・脱力・粘膜の蒼白・頻脈
15未満 最重度 虚脱・意識変容・ショック状態。輸血が必要な緊急状態

粘膜の色の変化(最重要な臨床所見)

  • 蒼白(青白い):出血性貧血・非再生性貧血に多い
  • 黄染(黄疸):溶血性貧血(ビリルビン産生増加)・肝臓病
  • チェリーレッド(赤すぎる):一酸化炭素中毒・一部の中毒
  • 通常はピンク色:正常

粘膜(歯茎・目の結膜・外陰部粘膜)を見て白・黄色の場合は速やかに受診が必要です。

診断

Step 1:再生性か非再生性かを評価

貧血の診断で最初に評価すべきことは「骨髄が赤血球を産生しようとしているか(再生性)」「産生できていないか(非再生性)」です。

  • 網状赤血球数(Reticulocyte count):最重要。若い赤血球(網状赤血球)が増加している→再生性。増加していない→非再生性
  • 再生性の判定基準:網状赤血球絶対数 >80,000〜100,000/μL(犬)
  • 注意:急性失血や急性溶血では、骨髄の応答に48〜72時間かかるため、最初は非再生性に見えることがある

Step 2:形態学的評価(血液塗抹検査)

  • 球状赤血球(Spherocyte):IMHA(免疫介在性溶血性貧血)の強い証拠
  • ハインツ小体:タマネギ・亜鉛中毒
  • バベシア原虫:赤血球内の小型梨形・双梨形の原虫
  • 赤血球凝集:IMHA(自己凝集)
  • フラグメント(破砕赤血球):微小血管症性溶血(DIC・HUS)
  • 小球性低色素性赤血球:鉄欠乏性貧血

追加検査

  • クームス試験(DAT):IMHA診断。赤血球表面の抗体・補体を検出。感度65〜90%
  • 血清鉄・フェリチン・TIBC:鉄欠乏性貧血の評価
  • バベシア抗体価・PCR:バベシア症の確定診断
  • 血液生化学(腎機能・肝機能):腎性貧血・慢性疾患貧血の評価
  • 腹部超音波:脾臓腫大(溶血・造血)・腫瘍・内出血の評価
  • 骨髄検査:非再生性貧血で原因が不明の場合。骨髄穿刺・生検

治療

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の治療

IMHAは犬で最も多い溶血性貧血で、急性に重篤化しうる緊急疾患です。

  • 免疫抑制療法(第一選択):プレドニゾロン(2〜4 mg/kg/日)で始め、徐々に減量
  • 二次免疫抑制薬(追加):アザチオプリン・シクロスポリン・ミコフェノール酸モフェチル(プレドニゾロン単独で不十分な場合)
  • 血栓予防:IMHA犬は血栓症(特に肺塞栓)リスクが高い。アスピリン低用量・クロピドグレル・ヘパリンなどが使用される
  • 輸血:Ht<20%・急速な悪化・症状が重篤な場合
  • 原因の除去:誘発因子がある場合(薬物・感染等)

腎性貧血の治療

  • エリスロポイエチン製剤:ダルベポエチンアルファ(週1回皮下投与)。目標Ht:30〜40%
  • 鉄補充:鉄欠乏がある場合(特にEPO製剤使用時)
  • 基礎疾患(CKD)の管理:腎臓病の進行を遅らせることが根本

バベシア症の治療

  • イミドカルブ(Imidocarb dipropionate):バベシア原虫に対する特異的治療薬。皮下または筋肉内注射
  • 支持療法:輸液・輸血(必要に応じて)
  • 予防:ダニ予防薬の定期的使用(アフォキソラナー・サロラネー等)

鉄欠乏性貧血の治療

  • 出血源の特定と止血
  • 硫酸第一鉄(経口)または鉄デキストラン(非経口)による鉄補充

輸血療法

輸血の適応

  • Ht<20%(目安)かつ臨床症状(頻脈・頻呼吸・虚脱)がある
  • 急速な出血でのショック状態
  • 手術前の貧血補正

犬の血液型(DEA)

犬の主要血液型はDEA(犬赤血球抗原)で分類されます。

  • DEA1(旧:DEA1.1):最も重要。約40〜60%の犬が陽性。輸血前の血液型検査・クロスマッチが推奨
  • 理想的には血液型適合輸血。緊急時はDEA1陰性血液を使用

輸血の種類

  • 全血輸血:赤血球と血漿成分(凝固因子・タンパク等)を同時に補給
  • 濃厚赤血球(pRBC):赤血球のみを濃縮。溶血性貧血・出血性貧血に
  • 新鮮凍結血漿(FFP):凝固因子の補充(出血傾向・DIC)

まとめ

犬の貧血は「歯茎が白い・元気がない」という症状から気づかれることが多い重要なサインです。貧血の種類と原因を正確に特定することが、適切な治療への第一歩となります。特にIMHAや急性出血は緊急性が高く、早期受診が予後を左右します。

犬の貧血・IMHA・腎性貧血について個別に相談したい飼い主様は、獣医師への個別相談もご活用ください。

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