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犬のがん・腫瘍:種類・症状・診断・治療の選択肢

「しこりが見つかった」「急に体重が落ちた」「お腹が張っている気がする」「元気・食欲が急に落ちた」——犬の腫瘍・がんは、犬の死亡原因の第1位とされており(米国の統計では犬の死亡の約45〜50%が腫瘍関連)、特に10歳以上の中高齢犬で増加します。しかし、正確な診断と早期治療で、多くの腫瘍で生存期間と生活の質を改善できます。本記事では、犬の主な腫瘍の種類・症状・診断・治療選択肢まで詳しく解説します。

犬の腫瘍の疫学

  • 犬は全動物の中で最も腫瘍の自然発生率が高い動物のひとつ
  • 犬の腫瘍の約50%が良性(benign)で、適切な診断なしに「がん」と決めつけるのは禁物
  • しかし残りの約50%が悪性(malignant)であり、早期発見・早期治療が重要
  • 10歳以上の犬の約50%はがんで死亡するというデータがある(Morris Animal Foundation)
  • 特定の犬種でがんの発症率が高い(ゴールデン・ロットワイラー・ボクサー・バーニーズ等)

犬の代表的な腫瘍の種類

皮膚・皮下腫瘍

腫瘍名 性質 好発犬種・特徴
肥満細胞腫(マスト細胞腫) 悪性(様々なグレード) ボクサー・ラブラドール・ゴールデン・シーズー等に多い。犬の皮膚腫瘍で最多。グレードによって予後が大きく異なる
脂肪腫 良性 中高齢の肥満犬に多い。柔らかく可動性がある。多発することが多い
組織球腫 良性(多くは自然退縮) 若い犬(3歳未満)に多い。ボタン状の赤い隆起。数週間〜数ヶ月で自然退縮することが多い
扁平上皮癌 悪性 紫外線曝露部位(耳・鼻・口唇)。色素が薄い犬種に多い
メラノーマ(悪性黒色腫) 口腔内→悪性が多い・皮膚→予後良好なことが多い 口腔内は悪性度が高く転移が早い
軟部組織肉腫 悪性(様々なグレード) 皮下の線維肉腫・末梢神経鞘腫瘍など。局所再発傾向が強い

内臓腫瘍

腫瘍名 好発犬種・特徴 重要なポイント
血管肉腫(Hemangiosarcoma) ゴールデン・ラブラドール・シェパード・ボクサーに多い 脾臓・肝臓・右心房に発生。破裂→腹腔内出血で突然死亡することがある。非常に予後不良(中央生存期間:手術のみ1〜2ヶ月・手術+化学療法で4〜6ヶ月)
脾臓腫瘤(悪性vs良性:1/3の法則) 中高齢犬 脾臓腫瘤の約1/3が血管肉腫・1/3が他の悪性・1/3が良性。画像のみでは鑑別困難→手術摘出・病理検査が確定診断
リンパ腫(悪性リンパ腫) ゴールデン・ラブラドール・ボクサー・バセットハウンドに多い 犬で最も多い血液悪性腫瘍。リンパ節腫大・全身症状が特徴。化学療法に反応が良く(CHOP療法で約85%が寛解)、予後良好なタイプあり
骨肉腫(Osteosarcoma) 大型犬〜超大型犬(グレートデン・セントバーナード・ロットワイラー・アイリッシュウルフハウンド) 肢端の長管骨に多い。断脚+化学療法が標準治療。肺転移が早く、中央生存期間:断脚+化学療法で約10〜12ヶ月
移行上皮癌(膀胱癌) スコティッシュテリア・シェットランドシープドッグ・エアデール・ビーグル・ウェルシュコーギー。雌犬に多い 血尿・頻尿・尿閉塞。スコティッシュテリアは特に発症リスクが高い(20倍)。除草剤との関連が示唆されている

乳腺腫瘍(雌犬)

  • 犬の雌の腫瘍で最も多い(特に未避妊雌)
  • 未避妊雌の乳腺腫瘍の発生リスクは避妊済み雌の約200倍
  • 初回発情前に避妊手術→乳腺腫瘍リスクが0.5%に低下。初回発情後→8%。2回発情後→26%(Schneider et al.の古典的データ)
  • 犬の乳腺腫瘍の約50%が悪性

精巣腫瘍(未去勢雄犬)

  • 未去勢雄犬の高齢での多発腫瘍(セルトリ細胞腫・精上皮腫・間質細胞腫)
  • 潜在精巣(停留睾丸)がある場合、腫瘍化リスクが13倍以上
  • 多くは精巣摘出で治癒

症状:がんを疑う10のサイン

米国獣医がん学会(Veterinary Cancer Society)が提唱する、がんを疑う10のサインです:

  1. しこり・腫れの持続または増大(特に成長が速いもの)
  2. 治りにくい傷・潰瘍
  3. 原因不明の体重減少
  4. 食欲低下
  5. 出血・分泌物(口・鼻・陰部・肛門等からの出血)
  6. 悪臭(口臭・体臭の急な変化)
  7. 食べにくそう・飲みにくそう
  8. 運動不耐性・元気消失・疲れやすさ
  9. 持続的な跛行・歩行異常
  10. 排尿・排便困難の持続

診断

細胞診(FNAB:細針吸引生検)

細い針(22〜23G)を腫瘤に刺して細胞を吸引し、顕微鏡で観察します。

  • 迅速・低侵襲・低コスト
  • 皮膚・皮下腫瘍・リンパ節・体表の腫瘤の一次評価に有用
  • 限界:細胞のみを評価→組織の構造は評価できない。偽陰性率があり(特に低細胞性腫瘍・壊死を伴う腫瘍)
  • 確定診断には組織生検が必要

組織生検

  • 切除生検:腫瘤全体を切除して病理検査に提出(小さな腫瘤・良性が疑われる場合)
  • 切開生検:腫瘤の一部のみ採取(大きな腫瘤・手術前の診断)
  • パンチ生検:皮膚用の円形刃でコア状に採取
  • コア針生検:内臓腫瘤の針生検(超音波ガイド下)

画像診断(ステージング)

悪性腫瘍と診断されたら、「どこまで広がっているか(転移の有無)」を評価するステージング検査が治療方針の決定に必要です。

検査 目的
胸部レントゲン(3方向) 肺転移の評価。多くの悪性腫瘍の最初の転移部位
腹部超音波 リンパ節・肝臓・脾臓・腎臓への転移・腹腔内腫瘤の評価
CT(全身) 最も詳細なステージング。手術計画にも有用
MRI 脳・脊髄腫瘍・鼻腔腫瘍の評価
骨スキャン(シンチグラフィ) 骨転移の評価(骨肉腫等)
骨髄検査 リンパ腫・白血病の骨髄浸潤の評価

血液・尿検査

  • 全血球計算(CBC):貧血・白血球異常(腫瘍随伴症候群)
  • 血液生化学:肝機能・腎機能・カルシウム(悪性腫瘍関連高Ca血症)
  • 凝固検査:血管肉腫・リンパ腫でのDICリスク評価

治療の選択肢

外科手術

固形腫瘍の治療の基本です。特に固形腫瘍では「十分なマージン(切除断端余白)を確保した一期的な切除」が最も重要な予後因子です。

  • 根治的切除:腫瘍と周囲の正常組織を十分なマージンで切除
  • 減量手術(Debulking):根治切除が困難な場合に腫瘍量を減らす。化学療法・放射線療法との併用を前提
  • 断脚:骨肉腫に対して。根治的治療の基本(四肢機能が失われるが多くの犬が3肢で良好に生活できる)

化学療法(抗がん剤)

  • リンパ腫:CHOP療法(ビンクリスチン・シクロフォスファミド・ドキソルビシン・プレドニゾン)が標準。完全寛解率約85%・中央生存期間12〜18ヶ月
  • 骨肉腫(断脚後):カルボプラチン+ドキソルビシン。生存期間を有意に延長
  • 血管肉腫(術後):ドキソルビシン±シクロフォスファミド
  • 犬は人と異なり、化学療法への副作用(嘔吐・好中球減少)は概して軽度〜中等度。ほとんどの犬は良好なQOLを維持しながら治療を受けられる

放射線療法

  • 切除困難な固形腫瘍(鼻腔腫瘍・脳腫瘍・口腔腫瘍)の治療
  • 術後の補助的放射線療法(マージンが不十分な場合など)
  • 骨肉腫の疼痛緩和(緩和的放射線療法)
  • 実施可能な施設が限られる(日本では大学病院等)

分子標的治療

  • トセラニブ(Palladia):チロシンキナーゼ阻害薬。肥満細胞腫(グレードII〜III)・転移性肥満細胞腫の治療に承認されている
  • マシチニブ:肥満細胞腫への分子標的薬

緩和・支持療法

根治が困難な場合や飼い主様が根治治療を選択しない場合でも、QOLの維持が最優先です。

  • 疼痛管理:NSAIDs・オピオイド・ガバペンチン・アミトリプチリン
  • 食欲刺激薬:ミルタザピン(猫に特に有用)・カプロモレリン(犬に承認)
  • 抗炎症薬:プレドニゾロンは多くの腫瘍で一時的な症状改善をもたらす
  • トイレ・食事・移動の補助:機能低下した犬のQOL維持

定期健診による早期発見

  • 7歳以上の犬:半年ごとの身体検査・血液検査・尿検査
  • しこりの自己チェック:月1回全身を触って新しいしこりがないか確認。大きさ・硬さ・可動性を記録
  • 体重チェック:月1回の体重測定。理由不明の体重減少は早めに受診

まとめ

犬のがん診断は飼い主様にとって非常に辛い知らせですが、「がんと診断されたら余命わずか」ではありません。腫瘍の種類・ステージ・治療の選択によっては、長期的な生存と良好なQOLが実現可能です。まず正確な診断(細胞診・組織生検・ステージング)を受け、専門的な知識を持つ獣医師(獣医腫瘍専門医・腫瘍科)に相談することが最初のステップです。

犬の腫瘍・がんについて個別に相談したい飼い主様は、獣医師への個別相談もご活用ください。

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