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犬の消化器疾患

【獣医師解説】犬の消化器疾患まとめ|膵炎・IBD・下痢・便秘・食道炎の症状と食事対策

「うちの犬、また下痢をした」「最近ご飯を吐くようになった」「膵炎と診断されたが何を食べさせればいい?」——犬の消化器疾患は、日常診療で最も多く見られる問題のひとつです。

消化器疾患は膵炎・IBD(炎症性腸疾患)・食道炎・便秘・慢性下痢・腸内環境の乱れなど多岐にわたります。この記事では、犬の消化器疾患を全て網羅し、獣医師監修のもとで症状・原因・治療・食事対策を解説します。

犬の消化器系の基礎知識

犬の消化管は口腔→食道→胃→小腸(十二指腸・空腸・回腸)→大腸→直腸→肛門で構成されます。このいずれかに問題が生じると、嘔吐・下痢・食欲不振・体重減少などの症状が現れます。

また膵臓・肝臓・胆嚢は「消化器付属臓器」として、消化酵素・胆汁の産生により消化を助けます。膵炎や肝臓病も消化器症状を引き起こします。

犬の消化器疾患の種類と症状一覧

疾患名主な症状緊急度
急性膵炎突然の嘔吐・腹痛・元気消失・前傾姿勢★★★ 高
慢性膵炎繰り返す嘔吐・食欲低下・軟便★★ 中
IBD(炎症性腸疾患)慢性的な嘔吐・下痢・体重減少★★ 中
逆流性食道炎空嚥下・嘔吐・流涎・食後の不快感★★ 中
慢性下痢軟便〜水様便が2週間以上続く★★ 中
便秘排便困難・いきみ・食欲低下★ 低〜中
腸内環境の乱れガス・軟便・皮膚トラブル・免疫低下★ 低

犬の膵炎:急性と慢性の違いと対処法

急性膵炎

急性膵炎は、膵臓が自己消化を起こす緊急性の高い疾患です。高脂肪食・肥満・特定薬剤(ステロイド等)が誘因になることがあります。

主な症状と診断

  • 突然の繰り返す嘔吐(食後に起きやすい)
  • 腹痛(おなかを触ると痛がる、前傾姿勢「祈りのポーズ」)
  • 元気消失・食欲廃絶
  • 発熱・脱水

診断は血液検査(犬膵リパーゼ cPLI 上昇)・腹部超音波(膵臓の肥大・周囲脂肪の輝度上昇)で確定されます。重症例では入院・点滴・鎮痛が必要です。

慢性膵炎

慢性膵炎は急性膵炎が繰り返されることで膵実質が線維化し、消化機能が低下した状態です。嘔吐・食欲低下・軟便が断続的に続くことが多く、外分泌膵機能不全(EPI)へと進行することがあります。

膵炎の食事管理

項目急性回復期慢性期
脂肪極低脂肪(10%以下)低脂肪(15%以下)
タンパク消化しやすい白身魚・鶏高消化性タンパク
繊維少量の可溶性繊維中程度
おやつ禁止低脂肪・少量のみ
推奨療法食Hills i/d Low Fatロイヤルカナン消化器サポート低脂肪

IBD(炎症性腸疾患)

IBDは小腸または大腸の粘膜に慢性炎症が生じる疾患群で、タンパク漏出性腸症(PLE)に進行すると、低アルブミン血症・腹水・浮腫が起きることがあります。

IBDの診断と治療

  • 除去食試験(加水分解フード・新規タンパク):食物アレルギーとの鑑別に不可欠
  • 内視鏡生検:確定診断のゴールドスタンダード。リンパ球・形質細胞浸潤を確認
  • コルチコステロイド:プレドニゾロン投与が第一選択
  • 免疫抑制薬:アザチオプリン・クロラムブシルなど
  • 食事療法:高消化性・低脂肪・繊維強化フードが中心

逆流性食道炎・食道炎

胃酸や消化液が食道に逆流して炎症を起こす疾患です。短頭種(フレンチブル・パグ等)や肥満犬に多く見られます。

症状と対処

  • 食後の空嚥下・草を食べようとする行動
  • 嘔吐(未消化物や黄色い液体)
  • 流涎・口臭
  • 食欲低下・食事を嫌がる

治療はプロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール)・スクラルファート(粘膜保護)の投与と、食事の小分け(1日3〜4回)・食後30分は横にさせない管理が効果的です。

犬の慢性下痢

2週間以上続く下痢は慢性下痢と定義され、以下の原因に分類されます。

原因分類具体例
食事性食物アレルギー・高脂肪食・食事の急変
寄生虫ジアルジア・鉤虫・回虫
感染症パルボウイルス・クロストリジウム
IBD慢性炎症性腸疾患(前述)
膵外分泌不全(EPI)膵消化酵素不足・ひどい軟便・体重減少
腸リンパ腫シニア犬の慢性下痢に注意

食物繊維(可溶性:サイリウム・不溶性:セルロース)の調整プロバイオティクスの補給が下痢改善に有効なことがあります。

犬の便秘

3日以上排便がない、または硬くて少量しか出ないのが便秘です。水分不足・食物繊維不足・運動不足・前立腺肥大(未去勢犬)が主な原因です。

軽度であれば水分摂取量増加・食物繊維追加(かぼちゃ・サツマイモ・サイリウム)・散歩増加で改善することが多いです。4〜5日排便がない場合は動物病院で浣腸や摘便が必要になることがあります。

腸内環境の改善:プロバイオティクス活用

犬の腸内細菌叢は全身の健康と深く関わっています。抗生物質投与後・ストレス・食事変化・IBDにより腸内環境が乱れます。

おすすめプロバイオティクス菌株

  • Lactobacillus acidophilus:小腸の乳酸菌。下痢の予防・改善に有効
  • Bifidobacterium animalis:大腸の改善。IBS様症状に有用
  • Enterococcus faecium SF68:犬猫で最も研究が多いプロバイオティクス菌株

市販品ではビオフェルミン(乳酸菌製剤)を犬に使う飼い主も多いですが、獣医師に相談してから使用することをお勧めします。

消化器疾患の食事療法まとめ

疾患低脂肪高消化性繊維強化除去食
膵炎(急性・慢性)△(可溶性)-
IBD(食物反応性)
食道炎--
慢性下痢
便秘--◎(不溶性)-
腸内環境改善-◎(プレバイオ)-

各疾患の詳細記事

よくある質問(FAQ)

Q. 犬が嘔吐しましたが、すぐに病院に行くべきですか?

A. 1回だけの嘔吐で元気・食欲がある場合は様子見も可能ですが、2〜3回以上繰り返す・血が混じる・腹痛がある・元気消失・食欲廃絶が伴う場合はすぐに受診してください。特に急性膵炎は早期治療が予後を左右します。

Q. 膵炎の犬に何を食べさせればいいですか?

A. 急性期は絶食後、高消化性・極低脂肪の療法食(脂肪10%以下)から少量ずつ再開します。回復後も低脂肪フードを維持し、高脂肪のおやつ・人間の食べ物は厳禁です。具体的なフード選びは担当獣医師に確認してください。

Q. 犬の下痢が1週間続いています。病院に行くべきですか?

A. はい、1週間以上続く下痢は必ず受診してください。IBD・寄生虫・腸リンパ腫・膵外分泌不全など、放置すると悪化する疾患が隠れている可能性があります。便を持参すると検査がスムーズです。

Q. 犬の腸内環境を改善するにはどうすればいいですか?

A. ①高消化性・低脂肪フードへの変更、②プロバイオティクス(Enterococcus faecium等)の補給、③食物繊維(プレバイオティクス)の追加、④ストレス軽減が基本です。抗生物質投与中・後はプロバイオティクスを積極的に補いましょう。

参考文献: Xenoulis PG. Diagnosis of Pancreatitis in Dogs. J Small Anim Pract. 2015 / Dandrieux JRS. Inflammatory Bowel Disease. J Small Anim Pract. 2016

犬の消化器疾患 症状別チェックリスト|早期発見のポイント

犬の消化器疾患は早期発見が予後を大きく左右します。以下のチェックリストを参考に、愛犬の状態を毎日観察する習慣をつけましょう。

すぐに動物病院を受診すべきサイン:①嘔吐が週2回以上続いている、または1日に複数回起きている場合。②血便・黒色便(タール便)が見られる場合(黒色便は消化管上部の出血を示す可能性があり特に危険です)。③1ヶ月で体重が5%以上減少している場合(体重10kgの犬なら500g以上の減少)。④食欲不振が3日以上続いている場合。⑤腹部が膨満している、または触ると痛がる場合。⑥嘔吐物・便に血液や寄生虫が混じっている場合。これらのサインが1つでも当てはまる場合は、様子を見ずに早めに受診することが重要です。「いつものこと」と見過ごさず、異変に気づいた段階で獣医師に相談してください。慢性化すると治療が長期間になりやすく、医療費も増大します。

消化器疾患の犬の食事管理と療法食の選び方

消化器疾患を抱える犬の食事管理は、治療と並んで非常に重要な要素です。適切な食事は症状の緩和と再発防止に直結します。

低脂肪・高消化性フードの重要性:消化器に負担をかけないためには、脂肪含有量が低く(ドライフードで乾物重量10%以下が目安)、消化率の高いフードが適しています。タンパク質源は鶏肉・白身魚・卵など消化しやすいものを選びましょう。食物繊維については、下痢には発酵性食物繊維(フラクトオリゴ糖・イヌリンなど)が有効な場合があります。自宅での食事管理のコツ:1日の食事を2〜3回に分けて少量ずつ与える、急激なフードの切り替えを避ける(1〜2週間かけて移行する)、食後30分は激しい運動をさせないことが大切です。市販療法食の選び方:ロイヤルカナン「消化器サポート」、ヒルズ「i/d(アイディー)」などが代表的な消化器系療法食です。療法食は必ず獣医師の指示のもとで使用し、自己判断での長期使用は避けてください。

消化器疾患の検査・費用の目安(初診〜確定診断まで)

消化器疾患の診断には複数の検査が必要になる場合があります。事前に費用の目安を知っておくと、ペット保険の活用や家計への備えができます。

主な検査と費用目安(目安であり動物病院により異なります):初診料・身体検査:1,000〜3,000円。血液検査(一般血液検査+生化学):5,000〜15,000円。腹部エコー検査:5,000〜15,000円。レントゲン検査(2方向):5,000〜10,000円。便検査(寄生虫・細菌):2,000〜5,000円。内視鏡検査(生検含む):50,000〜100,000円以上。確定診断までの総費用目安:軽症の胃腸炎であれば初診〜治療費で1〜3万円程度ですが、炎症性腸疾患(IBD)や消化管腫瘍が疑われる場合は内視鏡や病理検査が必要となり、10〜20万円以上になることもあります。ペット保険の活用:消化器疾患は通院が長期にわたることも多く、通院補償が充実したプランを選ぶことが重要です。すでに症状が出ている場合は加入できないことが多いため、健康なうちに検討しておきましょう。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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