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【獣医師解説】猫の腎臓病 自宅皮下輸液のやり方|準備・手順・頻度・注意点を徹底解説

猫の腎臓病が進行してくると、「自宅で皮下輸液をやってほしい」と獣医師から勧められることがあります。はじめは「自分にできるだろうか」と不安に感じる飼い主さんがほとんどですが、正しい手技と準備を身につければ、多くの方が自宅での輸液を続けられるようになります。この記事では、自宅皮下輸液の始め方から手順・注意点まで獣医師が詳しく解説します。

自宅皮下輸液を始めるタイミング(IRISステージ2〜3の目安)

自宅皮下輸液の導入を検討するタイミングは、主に以下の状況です。

IRISステージ2後半〜ステージ3が主な導入時期

  • クレアチニン値が1.6mg/dL以上(猫)で、軽度の脱水や食欲低下が見られる場合
  • 尿濃縮能の低下(尿比重1.020未満)が持続し、多飲多尿が著明な場合
  • 病院での点滴後に明らかに体調が改善する場合(点滴の効果があることが確認できている)
  • 通院のストレスが強い猫(病院に連れて行くだけで体調が悪化する場合)
  • 週2回以上の通院が必要な状態になってきた場合(飼い主さんの負担軽減のため)

ただし、自宅輸液の開始は必ず担当獣医師の判断・指示のもとで行ってください。ステージ1や軽度のステージ2では、過剰な輸液が逆効果になることがあります。

自宅輸液が特に適しているケース

  • 通院が猫にとって非常に大きなストレスになっている
  • 飼い主さんが仕事等で頻回の通院が難しい
  • 経済的な負担を軽減したい
  • 猫が比較的おとなしく、針を嫌がらない

必要な道具と準備|輸液バッグ・ライン・針の選択

自宅輸液を始める前に、必要な道具を揃えましょう。これらはすべて担当獣医師に処方・手配してもらいます。

輸液バッグの種類

  • 乳酸リンゲル液(ラクテック、ハルトマン液など):最も一般的に使用される。電解質バランスが良い。
  • 生理食塩水(0.9%NaCl):シンプルな組成。ナトリウムとクロリドを補充。
  • 酢酸リンゲル液(ソルアセトF):乳酸リンゲルの代替として使用されることがある。

どの輸液液を使うかは必ず担当獣医師が指定します。自己判断で変更しないでください。

輸液ラインの選択

  • 点滴ライン(一般的な輸液セット):ローラークランプで流量調節が可能。
  • 小動物用フィルター付き輸液セット:微粒子を除去できるため推奨されることがある。
  • 輸液ライン交換頻度:1〜2回使用ごとに交換が推奨されます。汚染防止のため。

針の選択(ゲージとサイズ)

  • 21G(グリーン):最も一般的。流速が速く、輸液時間を短縮できる。
  • 23G(ブルー):細い針で猫が嫌がりにくい。流速は遅めになる。
  • 25G(オレンジ):最も細い。嫌がりが強い猫や皮膚が薄い高齢猫に使用。

針は毎回新しいものを使用します(1回使い捨て)。使用済みの針は専用の「鋭利物廃棄容器」(シャープスコンテナ)に入れて、動物病院で引き取ってもらいましょう。

その他の必要物品

  • 輸液バッグを吊るすスタンドまたはフック(重力で自然落下させるため)
  • アルコール綿(刺入部位の消毒用)
  • 使い捨て手袋(任意だが感染リスク管理のため推奨)
  • 秤(はかり)(輸液量を重量で確認する場合)
  • 記録ノート(実施日時・輸液量・猫の様子を記録)
  • 鋭利物廃棄容器(シャープスコンテナ)

自宅皮下輸液の手順(ステップバイステップ)

初めて行う際は、必ず動物病院で実際に獣医師または動物看護師に教えてもらいながら練習してください。以下は手順の概要です。

【準備】輸液バッグとラインの接続

  • 輸液バッグのゴム栓(または差込口)を確認し、アルコール綿で拭く。
  • 輸液ラインのローラークランプを閉じた状態で、ラインの先端を輸液バッグに刺す。
  • バッグを逆さにして高い位置(スタンドなど)に吊り下げる。
  • エアー抜き:クランプを少し開けて輸液ラインの中に輸液液を満たし、気泡を完全に除去する。
  • クランプを閉じて待機。

【猫の保定と刺入部位の確認】

  • 猫が落ち着いている状態(食事後、眠そうな時など)に行うと成功しやすい。
  • 刺入部位:肩甲骨の間〜背中の皮膚(首の後ろ〜背中の「テント状」に持ち上げやすい部分)が最適。
  • 利き手でない方の手で皮膚を「テント状」に軽くつまみ上げ、皮下腔を広げる。

【刺入と輸液の開始】

  • 針のキャップを外し、斜面(ベベル)を上向きにして皮膚に対して15〜30度の角度で刺す。
  • 針が皮下に入ったことを確認したら(軽い「プスッ」という感触)、クランプを開けて輸液を開始する。
  • 針先が筋肉に入っていないか、輸液が皮膚の下で広がっているかを手で確認する。
  • 指定された量になったらクランプを閉じる。

【針の抜去とケア】

  • クランプを閉じてから針をゆっくりまっすぐ抜く。
  • 刺入部位をアルコール綿または清潔なガーゼで数秒押さえる(出血・液漏れ防止)。
  • 針を鋭利物廃棄容器に入れる(絶対に再利用しない)。
  • 猫を褒め、おやつを与えるなどポジティブな経験に結びつける。

1回の輸液量と頻度の目安|獣医師の指示に従う重要性

輸液量と頻度は、猫の体重・腎機能のステージ・脱水の程度・血液検査結果などに基づいて獣医師が設定します。以下はあくまで一般的な目安です。

体重1回の輸液量の目安週あたりの頻度の目安
3kg未満50〜80mL週2〜3回
3〜5kg80〜150mL週2〜5回
5kg以上150〜200mL週3〜7回

重要:上記はあくまで参考値です。実際の輸液量と頻度は必ず担当獣医師の指示に従ってください。多すぎる輸液は心臓や肺に負担をかけ、むくみや胸水の原因になります。

輸液量が適切かどうかの目安

  • 輸液後の皮下の膨らみ:輸液後は刺入部位周辺に「コブ」のような膨らみができます。これは正常で、数時間〜半日で吸収されます。
  • 翌日にコブが残る場合:吸収が遅れている可能性があり、輸液量を減らすことを検討してください。
  • 皮膚の弾力(スキンテント):輸液後に皮膚の弾力が改善しているか確認。

よくある失敗と対処法(針が抜ける・猫が嫌がる)

針が抜けてしまう・液が漏れる

  • 原因:猫が動いた、皮膚のつまみ方が浅かった、針を斜めに刺した。
  • 対処:まず液が正常に皮下に入っているか確認。皮膚表面に液が漏れている場合はいったん終了し、新しい針で再試行。漏れた部位を軽く押さえる。

液が落ちない・流れが遅い

  • 原因:クランプが閉まっている、針先が皮膚に対して角度が悪い、針が詰まっている。
  • 対処:クランプの開度を確認、針の角度を微調整、それでも改善しない場合は針を交換。

猫が嫌がって動き回る

  • 刺入前にフード(おやつ)を与える:食べている間に行うと成功率が上がります。
  • より細い針に変更する:23G→25Gに変更すると痛みが軽減されることがあります。
  • 輸液液を少し温める:冷たい輸液は不快感を与えます。人肌程度(37℃)に温めてから使用。
  • 場所を変える:毎回同じ部位だと硬くなることがあります。左右交互に刺入部位を変えましょう。
  • 二人で行う:一人が保定し、もう一人が輸液を担当すると安全です。

針を刺す勇気が出ない

多くの飼い主さんが最初に感じる「怖さ」です。動物病院で何度も練習させてもらい、動物看護師が横に付き添ってくれる中で自信をつけましょう。「猫のために必要な処置」と気持ちを切り替えることも大切です。ためらいながら刺す方がかえって猫に痛みを与えることがあります。

輸液の保管・廃棄・感染リスク管理

輸液バッグの保管

  • 直射日光・高温多湿を避け、室温で保管(冷蔵不要の場合が多い)。
  • 開封後(ラインを刺した後)は冷蔵庫で保管し、24〜48時間以内に使い切る
  • バッグに亀裂・変色・白濁がある場合は絶対に使用しない。
  • 有効期限を確認する。

輸液ラインの管理

  • 輸液ラインは1〜2回の使用ごとに交換が推奨されます。
  • 使用後はラインの先端にキャップをして冷蔵庫保管。
  • 白濁・汚染が見られた場合は即交換。

針の廃棄方法

  • 使用済みの針は必ず専用の鋭利物廃棄容器(シャープスコンテナ、またはペットボトルでの代用も可)に入れる。
  • 容器がいっぱいになったら動物病院に持参して処分を依頼する(多くの病院で対応)。
  • 家庭ごみや一般ゴミに針を混ぜることは絶対にしない(清掃員等の受傷リスク)。

感染リスク管理

  • 刺入前に手をよく洗う(石鹸と流水で30秒以上)。
  • 刺入部位のアルコール消毒を毎回行う。
  • 刺入部位に発赤・腫れ・熱感・硬結が見られた場合は、すぐに動物病院に連絡する(皮下膿瘍のリスク)。
  • 万一針を自分に刺してしまった場合は、流水で十分洗い流し、必要に応じて医療機関を受診する。

猫の腎臓病の自宅輸液に関連する情報として、猫の腎臓病と水分補給|飲まない猫への対策と皮下点滴の始め方猫の慢性腎臓病ステージ1〜4の症状・治療・食事の違いもあわせてご覧ください。

よくある質問

猫の皮下輸液は自宅でも本当にできますか?

はい、多くの飼い主さんが習得できます。最初は動物病院でしっかり指導を受け、動物看護師に立ち会ってもらいながら練習することが重要です。猫がおとなしい場合や、おやつを使って協力させられる場合は成功率が高くなります。

皮下輸液と静脈内点滴(IV)の違いは何ですか?

静脈内点滴は血管に直接投与するため効果が速やかで、主に急性期・入院中に使用されます。皮下輸液は皮下組織に投与し、ゆっくり吸収されます。自宅での実施が可能で、慢性期の維持管理に適しています。効果はやや緩やかですが、安全性が高く、猫へのストレスも少なめです。

輸液中に猫が動いてしまった場合はどうすれば良いですか?

まず針が抜けていないかを確認してください。輸液が皮膚表面に漏れている場合はいったん終了し、新しい針で部位を変えて再試行します。猫が激しく動く場合は2人で行うか、おやつを与えながら気を紛らわせる工夫をしてください。

輸液後に皮膚が大きくふくらんでいますが大丈夫ですか?

輸液後に皮下に「コブ」ができるのは正常です。皮下組織に輸液が溜まった状態で、通常数時間〜半日で吸収されます。翌日になっても残っている場合や、急速に広がっている場合は輸液量を減らすことを担当獣医師に相談してください。

自宅輸液で使った針はどう廃棄すればよいですか?

専用の鋭利物廃棄容器(シャープスコンテナ)に入れて保管し、いっぱいになったら動物病院に持参して処分を依頼してください。家庭ごみに混ぜることは受傷リスクがあるため絶対にしないでください。多くの動物病院では無料または低コストで引き取ってくれます。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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