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犬のホルモン病

【獣医師解説】犬のホルモン病(内分泌疾患)まとめ|クッシング・甲状腺・アジソン・糖尿病を徹底解説

犬のホルモン病(内分泌疾患)は、体内のホルモンバランスが乱れることで全身にさまざまな症状をもたらす疾患群です。クッシング症候群・甲状腺機能低下症・アジソン病・糖尿病の「4大内分泌疾患」について、獣医師監修のもと症状・診断・治療法を詳しく解説します。

犬のホルモン病(内分泌疾患)とは?4大疾患の概要

内分泌疾患とは、内分泌腺(ホルモンを産生・分泌する臓器)の機能異常によって引き起こされる病気の総称です。犬において特に重要な内分泌疾患は以下の4つです。

疾患名異常のある臓器主な症状好発犬種・年齢
クッシング症候群副腎・下垂体お腹が膨らむ・多飲多尿・毛が抜ける中〜高齢・ダックスフンド・プードル等
甲状腺機能低下症甲状腺太る・元気がない・寒がる中〜高齢・ゴールデンレトリーバー・ラブラドール等
アジソン病副腎嘔吐・脱力・電解質異常若〜中年・標準プードル・グレートデーン等
糖尿病膵臓(インスリン)多飲多尿・体重減少・白内障中〜高齢・未避妊メス・肥満犬

これらの疾患は初期症状が「老化のせいかな」と見過ごされやすいため、定期的な血液検査によるスクリーニングが早期発見の鍵となります。

犬のクッシング症候群|お腹が膨らむ・毛が抜ける

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が過剰に産生される疾患です。犬において最も多い内分泌疾患の一つです。

主な症状

  • 多飲多尿(水をよく飲み、おしっこが多い)
  • 多食(食欲が非常に旺盛になる)
  • 腹部膨大(お腹が丸く垂れ下がる「タルコ腹」)
  • 左右対称性の脱毛(背部・体幹部の毛が抜ける)
  • 皮膚の菲薄化・色素沈着
  • 筋肉萎縮・四肢が細くなる
  • カルシノーシス(皮膚石灰化)
  • 元気の低下・運動不耐性

原因とタイプ

  • 下垂体依存性(PDH):約85%を占める。下垂体腫瘍がACTHを過剰分泌し副腎を刺激する。
  • 副腎腫瘍性(ATH):約15%。副腎の腫瘍がコルチゾールを過剰産生する。
  • 医原性(ステロイド誘発性):長期のステロイド薬使用が原因。

診断と治療

診断にはLDDS試験(低用量デキサメタゾン抑制試験)・HDDS試験・ACTH刺激試験・腹部超音波検査などを組み合わせます。治療の主体は内科療法(トリロスタン・ミトタン)で、副腎腫瘍では外科切除も選択肢となります。

犬の甲状腺機能低下症|太る・元気がない・寒がる

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモン(T3・T4)の産生・分泌が低下する疾患です。犬に最も多い内分泌疾患の一つで、特に中〜大型犬のシニア期に多く見られます。

主な症状

  • 体重増加・肥満(食事量が増えていないのに太る)
  • 元気の低下・嗜眠(よく眠る・動きたがらない)
  • 寒がる・体温が低い(低体温)
  • 徐脈(脈が遅い)
  • 脱毛・毛並みの悪化(尾の脱毛「ネズミの尾」が特徴的)
  • 皮膚の肥厚・乾燥・色素沈着
  • 顔がむくんでいる(粘液水腫様変化)
  • 高コレステロール血症・高トリグリセリド血症

診断と治療

血液検査でT4(サイロキシン)・fT4(遊離T4)・TSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定します。T4低値+TSH高値が典型的なパターンです。治療は甲状腺ホルモン補充療法(レボチロキシン)の生涯投与が基本です。適切な投薬量を見つけるまで数回の調整が必要です。

治療を開始すると多くの犬で体重が減り、元気が戻り、毛並みが改善します。ただし過剰投与は不整脈・多飲多尿などを引き起こすため、定期的な血中T4濃度の測定が必要です。

犬のアジソン病|嘔吐・脱力・電解質異常

アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、副腎皮質から分泌されるコルチゾール(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)が不足する疾患です。クッシング症候群とは「副腎ホルモンが多すぎる/少なすぎる」という真逆の疾患です。

主な症状

  • 嘔吐・下痢・食欲不振(消化器症状が主体)
  • 脱力・虚脱・ショック状態(急性アジソンクライシス)
  • 低ナトリウム血症・高カリウム血症(電解質異常)
  • 低血糖
  • 脱水
  • 徐脈(高カリウム血症による)

「アジソンクライシス」と呼ばれる急性副腎不全は、生命を脅かす緊急事態です。ストレス・感染・外傷などをきっかけに突然発症することがあります。

診断と治療

診断にはACTH刺激試験(コルチゾールの反応を確認)・電解質測定・Na/K比(正常は27〜40:低い場合にアジソン病を疑う)を用います。急性期は輸液・電解質補正・ステロイド静注による集中治療が必要です。慢性管理はフルドロコルチゾン(鉱質コルチコイド補充)とプレドニゾロン(必要時)の生涯投与が基本です。

犬の糖尿病|多飲多尿・体重減少・白内障

犬の糖尿病は、インスリンの産生不足または作用不足により血糖値が慢性的に高い状態が続く疾患です。犬の糖尿病はほとんどがインスリン依存型(1型に相当)で、インスリン注射による治療が必要です。

主な症状

  • 多飲多尿(大量に水を飲み、尿量が増える)
  • 多食(食欲旺盛なのに体重が減る)
  • 体重減少・筋肉量低下
  • 白内障(高血糖による水晶体混濁。犬では非常に早く進行する)
  • 元気の低下
  • 感染症にかかりやすくなる(膀胱炎・皮膚炎など)

好発犬種・リスク要因

  • 未避妊のメス犬(発情後・偽妊娠時のプロゲステロンがインスリン抵抗性を高める)
  • 肥満犬
  • 膵炎の既往(膵臓のβ細胞が破壊される)
  • ステロイド・プロゲスチン系薬の長期使用
  • 好発犬種:サモエド・ダックスフンド・プードル・キースホンドなど

治療

インスリン注射(1日2回・12時間おきが基本)が治療の主体です。血糖値をモニタリングしながらインスリン量を調整します。食事は食物繊維・複合炭水化物を含む低脂肪・高タンパクの糖尿病用フードが推奨されます。投薬は原則として毎日・同じ時間に行い、食事と一緒に管理することが血糖コントロールの安定につながります。

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)

未治療または治療が不十分な糖尿病では、脂肪の分解が進み過剰なケトン体が産生されるDKAが発生することがあります。嘔吐・食欲廃絶・脱水・意識障害など重篤な症状を示す緊急事態で、入院治療が必要です。

ホルモン病の診断方法(血液検査・ホルモン値)

内分泌疾患の診断は、症状の把握だけでなく特定のホルモン値測定・動的試験(刺激試験・抑制試験)・画像検査を組み合わせて行います。

内分泌疾患の主な診断検査一覧

疾患主な検査特徴的な所見
クッシング症候群LDDS試験・ACTH刺激試験・腹部超音波コルチゾール高値・副腎腫大
甲状腺機能低下症T4・fT4・TSH測定T4低値・TSH高値
アジソン病ACTH刺激試験・電解質(Na/K比)コルチゾール反応低下・Na/K比低下
糖尿病空腹時血糖・フルクトサミン・尿検査血糖高値・尿糖・フルクトサミン高値

一般的な健康診断の血液検査でも、高コレステロール血症・ALP高値・電解質異常・血糖値異常などの「ヒント」が見つかることがあります。年1〜2回の定期検査が早期発見につながります。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 犬のクッシング症候群は治りますか?

副腎腫瘍性の場合、外科手術で腫瘍を摘出することで治癒が期待できます。下垂体依存性の場合は根治は困難ですが、トリロスタンなどの内科療法でコルチゾール値をコントロールし、長期間QOLを維持することが可能です。

Q2. 甲状腺機能低下症の犬は一生薬を飲み続ける必要がありますか?

多くの場合、生涯にわたるレボチロキシンの投与が必要です。ただし適切な投薬により症状が大幅に改善し、通常の生活を送ることができます。定期的な血中T4濃度の測定で投薬量を調整していきます。

Q3. アジソン病の犬はストレスに弱いと聞きましたが?

そのとおりです。手術・感染症・旅行・来客など身体的・精神的ストレスがかかる場面では、ストレスドーズ(コルチゾールの増量)が必要になります。アジソン病の犬を飼う場合は、獣医師に「ストレス時の対応方法」を事前に確認しておくことが重要です。

Q4. 糖尿病の犬にインスリン注射を忘れた場合はどうすればいいですか?

少し時間が経った程度であれば通常通りの量を投与してください。ただし次の注射時間が近い場合や半分以上の時間が経過している場合は、その回は飛ばして次の決まった時間に通常量を投与します。「忘れた分を次回に二重投与」は低血糖の危険があるため絶対に行わないでください。

Q5. 犬のホルモン病は予防できますか?

多くの内分泌疾患は遺伝的素因・加齢が主な原因であり、完全な予防は難しいのが現実です。ただし肥満予防(糖尿病・クッシングのリスク低減)・ステロイドの不必要な長期使用を避ける(医原性クッシング予防)・メスの早期避妊(糖尿病リスク低減)は有効な対策です。定期的な血液検査による早期発見が最も重要です。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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