愛犬の皮膚が臭う(カビ臭い)、しきりに腋・股・指の間などを痒がっている、暑くなってから皮膚を痒がり始めたといったことはありませんか??
上記のような症状が該当する場合、もしかするとマラセチアというカビに感染しているかもしれません!
マラセチアはもともと皮膚に住んでいる常在菌と呼ばれる真菌ですが、様々な原因によって過剰に増殖し、愛犬に激しい痒みや赤みを引き起こす厄介な皮膚病です。
特に皮脂分泌が増えやすい夏ではマラセチアが増殖しやすいため、マラセチア皮膚炎が発生しやすい季節です。
マラセチア皮膚炎ではどのような治療を行えば良いのでしょうか?
マラセチア皮膚炎の治療では、マラセチア皮膚炎の原因となる疾患の治療とシャンプーや保湿といったスキンケアを並行して行う事が重要です。
またマラセチア皮膚炎は再発しやすい皮膚病ですので、一度治ったからといってスキンケアを怠るなどするとすぐに再発するため注意が必要です。
今回は夏に悪化しやすい厄介な皮膚病であるマラセチア皮膚炎の原因や治療について獣医師が徹底解説します。
マラセチア皮膚炎の原因
マラセチア皮膚炎は、カビの一種であるマラセチアが原因となる皮膚炎です。マラセチアは犬の皮脂を栄養源として増殖する性質があります。
そして皮膚の上で過剰に増殖したマラセチア自身やマラセチアが排泄する代謝産物に対するアレルギー反応が原因といわれています。
特に皮脂は過剰になりやすい高温多湿な梅雨や夏、暖房を入れている冬などといった季節では、マラセチア皮膚炎が悪化します。
また、マラセチア皮膚炎の発症には
- アトピー性皮膚炎・食物アレルギーなどのアレルギー疾患
- 甲状腺機能低下症やクッシング症候群などのホルモン疾患
- 脂漏症
などといった原発疾患がが背景に存在しています。
そもそもマラセチアとは、皮膚に常在する酵母菌のことで、 環境中から移る感染症ではありません。むしろ、宿主側からの皮膚バリア機能の低下などといった要因によって、病原性を発揮する “日和見感染症” なのです。
マラセチア皮膚炎の部位と症状
マラセチア皮膚炎は蒸れやすい身体の部分で起こります。
例えば、
- 腋や鼠径
- 指の間
- 肛門周囲
- 口唇の周りや顎
- 皮膚のシワ(肥満の犬やパグの顔など)
- 耳
といった蒸れやすい場所ではマラセチアが繁殖し、強い痒みを引き起こします。
強い痒み以外の症状としては
- 皮膚が真っ赤になる
- カビくさい独特なにおいがする(脂漏臭)
- フケが多量に出る、皮膚がベタベタする
- 脱毛
- 色素沈着(黒くなっている)
マラセチア皮膚炎が慢性化すると、皮膚が黒く色素沈着し、皮膚が肥厚する苔癬化を引き起こします。
マラセチア皮膚炎は他の犬にうつるの?
マラセチアは他の犬に感染することはありません。マラセチア皮膚炎は宿主側にアレルギー性皮膚炎などの皮膚バリアを弱めるような疾患が隠れていることが原因です。また、人間にも感染する事はありません。(そもそも人間の皮膚に住んでいるマラセチアと犬のマラセチアの種類は異なります)
マラセチア皮膚炎の好発犬種
- シーズー
- ダックスフンド
- プードル
- 柴犬
- アメリカン・コッカー・スパニエル
- ウエスト・ハイランド・ホワイトテリア
といった様々な犬種で、マラセチア皮膚炎は認められます。
マラセチア皮膚炎の診断
マラセチア皮膚炎の診断は、病変部分の皮脂などを採取→染色→顕微鏡で観察し、マラセチアが過剰に存在するかどうかで判断します。(テープで病変部をペタペタしたり、スライドガラスを押し当てるなどして採材します)
また、膿皮症、皮膚糸状菌、ニキビダニ、疥癬といったマラセチア以外の感染の有無を確認することも重要です。
マラセチア皮膚炎の治療
マラセチア皮膚炎の治療は、マラセチア皮膚炎の原因となる基礎疾患の治療とシャンプーや保湿といったスキンケアを並行して行う事が重要です。
シャンプー
マラセチア皮膚炎の治療では、シャンプーにより物理的にマラセチアを皮膚から除去することが重要です。
シャンプーはミコナゾールとクロルヘキシジンと呼ばれる殺菌成分含有のシャンプーを使用します。(濃度はそれぞれ2%のシャンプーが推奨されます)頻度は週に2〜3回行い、殺菌成分を浸透させるためにシャンプーは5〜10分程度漬け置きすることが重要です。
殺菌成分入りのシャンプーは皮膚刺激が強いため、場合によっては、皮膚が乾燥することがあります。ですのでシャンプー後は乾燥から皮膚を守るためにしっかりとワンちゃん用の保湿剤で保湿を行いましょう。その際、セラミドと呼ばれる成分が入っているものを必ず使用しましょう。
また病変部の毛刈りを行うことで、シャンプーが地肌までしっかりと浸透し、より高い治療効果が望めます。
その他に気をつけることは、シャンプー時のお湯の温度は35℃以下にすること、ドライヤーを行う際は、必ず冷風で乾かすことなどがあります。というのも皮膚の温度が上昇してしまうと痒みが悪化してしまうため、なるべく皮膚の温度を上げないように工夫する必要があるのです。
外用薬
マラセチア皮膚炎が部分的で発生しており、病変部が小さい場合には抗真菌薬入りの外用薬(軟膏)を塗ると治りが早くなります。
内服薬
病変部が広く、重度にマラセチアに感染している場合には、抗真菌薬の内服を行います。
また痒みが酷い場合には痒み止めの作用があるアポキルを処方することもあります。
まとめ
マラセチア皮膚炎は単独で起こるよりも、アトピー性皮膚炎などといった原発疾患に併発することの多い病気です。
特に皮脂の分泌が多くなる夏はマラセチア皮膚炎が急増します。
マラセチア皮膚炎の治療において重要なことは、マラセチア皮膚炎の原因となっている疾患の治療やスキンケアを徹底的に行うことです。
しっかり治療を行わなければ、どんどん悪化してしまう事が多いので、マラセチア皮膚炎が疑われる場合には即座に治療を開始しましょう!