陰部から血尿がポタポタ垂れてしまう、血尿が1週間以上は治らないと言う事はありませんか?
もしかすると愛犬は膀胱炎を引き起こしているかもしれません。
注意ポイント
膀胱炎の初期症状としては血尿のみですが、悪化していくと排尿困難を表し尿路閉塞を引き起こす可能性があります。
そうなるとおしっこが膀胱に溜まってしまい膀胱破裂や尿毒症を発症することもあります。
犬の膀胱炎は非常に厄介な病気で、適切な治療を行わなければ再発してしまう病気です。放っておくと、尿路閉塞や尿毒症、腎盂腎炎などといった命に関わる疾患につながる可能性があります。
今回は犬で起こりやすい泌尿器疾患である膀胱炎について獣医師が解説します。
犬の血尿の原因
血尿の最も多い原因は、膀胱の細菌感染による細菌性膀胱炎です。
体の外の大腸菌などの細菌が尿道から入り、増殖することで細菌性膀胱炎が起こります。
膀胱炎以外にも血尿の原因として、尿路結石や腎不全、生殖器の異常などが考えられます。
細菌感染による膀胱炎
膀胱炎には様々な原因がありますが、最も多い原因は大腸菌やブドウ球菌による細菌感染です。ウイルスや真菌(カビ)感染が怒ることはほとんどありません。
感染以外には尿路結石や膀胱腫瘍やポリープ、外傷が考えられます。未去勢のオスでは前立腺で炎症(前立腺炎)を引き起こし、細菌性膀胱炎になることもあります。
未避妊のメスでは、生理や膣・子宮での炎症による出血と膀胱炎の血尿を間違えることがあります。
細菌感染は膀胱炎の最も多い原因です、細菌が尿道口へ侵入し、膀胱へ登っていき、繁殖することで炎症を引き起こします。メスでは肛門と尿道が近いため、腸内細菌が感染し、膀胱炎が起こりやすいです。
放っておくと、細菌が尿管や腎臓まで登ってしまい、尿毒症や腎盂腎炎を引き起こすこともあります。
膀胱には細菌の感染を防ぐ働きが本来備わっていますが、ストレスなどにより体の免疫力が低下していたり、水分摂取量が少ないと細菌感染してしまうと考えられます。ですので、免疫力を上げる事や食事から水分を摂取することは膀胱炎の治療•予防にとって非常に重要です。
尿路結石
ストルバイト尿路結石やシュウ酸カルシウム尿路結石といった結石が泌尿器で形成されてしまうと、粘膜が傷ついてしまい血尿が出てしまいます。
尿路結石のできやすさは食事や遺伝的な体質が関係しているといわれています。結石ができやすい犬種としては、ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャテリア、アメリカン・コッカー・スパニエル、シーズーなどがあげられます。
尿路結石には膀胱にできる膀胱結石だけでなく、尿管でできる尿管結石や腎臓でできる腎結石といったものが存在し、どの部位に結石ができても血尿が出る可能性があります。
特に危険な結石は尿管結石と尿道結石です。
それぞれ尿管と尿道といった細い管に結石が詰まってしまうことですが、どちらの結石も尿の流れをとどめてしまうため、尿毒症を引き起こす可能性があります。
結石の中にはシュウ酸カルシウムのように一度できてしまうと溶けない結石も存在しますが、ストルバイトのように尿のpHが下がることで溶ける結石があります。
ストルバイトは細菌感染によりpHが上がる事で形成されるため細菌感染を治療することで治ることもあります。
膀胱腫瘍(移行上皮癌)・外傷
稀ではありますが、膀胱の中に腫瘍ができることで血尿が出ることがあります。頻尿などの血尿以外の症状は出ませんので、なかなか早期発見は難しいです。
またどこかから落ちたり、事故に巻き込まれ、膀胱に外傷が怒った場合は、膀胱炎を引き起こします。
腎不全
腎不全は、犬が患う病気の中でも比較的よく見られる疾患の一つです。
腎臓は体内の老廃物を排泄する重要な役割を持っていますが、腎不全によってその機能が低下し、血液中の老廃物が体内に留まることによって血尿が発生することがあります。
血小板減少症
血小板減少症は、犬の血液中の血小板の数が減少することによって発症します。
血小板は、血液凝固の重要な役割を持っているため、減少することで出血しやすくなり、血尿が出ることがあります。
未避妊メスの発情出血
未避妊メスの発情出血は、メス犬が発情期に入ったときに、子宮頸部から出血することです。
このとき、出血が多い場合には、犬の尿に血液が混じって血尿として現れることがあります。
未避妊メスの発情出血は、通常は自然に治まることが多いですが、出血量が多い場合には、獣医師に相談することが必要です。また避妊手術を行うことで、発情や血尿を予防することができます。
ストレス
猫ではストレスが原因の特発性膀胱炎(原因不明の膀胱炎)の原因であると考えられています。
一方、犬の特発性膀胱炎はまれですが、ストレスは確実に尿路の健康に影響を及ぼし、血尿を伴う尿路感染症を引き起こす可能性があります。
血尿ではないけど色が赤いおしっこがある?
実は赤いおしっこが全て血尿というわけではありません、血色素尿と呼ばれる赤血球の色素(ヘモグロビン)だけがおしっこに出てしまうこともあります。
- タマネギ中毒やアセトミノフェン中毒
- バベシア症などの感染症
が原因で赤血球が大量に壊され、肝臓や脾臓で処理しきれない状態になると赤血球中のヘモグロビンが尿中に出てきてしまうのです。
血尿と血色素尿は尿検査でのみ鑑別できますので、おしっこの見た目では判断ができません。
血尿の回復期間と自然治癒
膀胱炎が原因であれば、抗生剤などの投薬によって2〜3週間で治ることが多いです。
また、稀に軽度の膀胱炎であれば、しっかりと排尿することで細菌が排泄され、膀胱炎が自然治癒し血尿が治ってしまうこともあります。
しかし、腫瘍や血小板減少症などが原因であった場合、それらの疾患の管理がうまくできていないと、自然治癒することはなく血尿が治ることはありません。
膀胱炎による血尿を繰り返す場合は耐性菌に注意
一度膀胱炎が治ったとしても、膀胱炎を何度も再発する場合には耐性菌が感染しているかもしれません。
耐性菌とは、特定の抗生物質に対して強い抵抗力を示す菌のことで、効果のある適切な抗生物質を長期間投与しなければ、膀胱炎は治りにくく再発を繰り返してしまいます。
膀胱炎の初期・末期症状
膀胱炎になると、血尿以外の症状として
- ポタポタと尿が漏れる
- トイレ以外の場所で粗相をする
- 尿が白く濁ったり(膿尿)、血の塊が出る
- 何度も何度も繰り返しトイレに行く(頻尿)
- トイレに行きはするが、尿が出ない
- トイレでキャンと鳴き叫ぶ(排尿痛)
- 陰部をしきりに舐める
- 尿が出るまでに時間がかかる
といった症状を発症します。
膀胱炎の初期では、何度も繰り返しトイレに行く頻尿がある程度ですが、ひどくなると血尿やトイレをする際に痛みを伴います。
膀胱炎になると、尿の色は濃い黄色や白くなったり、濁ってしまいます。また結石が尿が出てくるとキラキラ光って見えるので、その場合は尿路結石症があると考えられます。
尿道で結石や炎症産物の塊が詰まってしまうと、尿道閉塞を引き起こしてしまい、完全閉塞してしまうと、尿を排泄する事ができず、尿毒症になってしまうことがあります。
また、膀胱で繁殖した細菌が尿管を通り、腎臓まで登っていくと、末期症状として腎盂腎炎を引き起こします。そうなると尿毒症だけでなく、発熱や強い炎症反応を引き起こしてしまい、命に関わります。
膀胱炎を放っておくとどうなるの?
愛犬の膀胱炎を放置しておくと、重症化して合併症を引き起こす可能性があります。
たとえば、膀胱炎を治療しないと、感染が広がっていき、腎臓の感染症につながることがあります。これは腎盂腎炎と呼びます。
腎盂腎炎は、腎臓に損傷を与え、腎不全を引き起こす可能性があります。
さらに悪化すると、尿毒症と呼ばれる末期の腎不全の状態となり命に大きく関わります。
膀胱炎の治療
膀胱炎の原因が細菌感染であった場合、抗菌薬を使用します。抗菌薬は最低でも2〜3週間投薬し、尿検査で菌がいなくなれば治療は終わりです。
万が一、耐性菌に感染していた場合には膀胱炎は再発しますが、その場合は薬剤感受性試験を行い、適切な抗菌薬が何なのか検査する必要があります。
また結石が原因となる膀胱炎の治療では、食事療法が重要です。ストルバイトの場合は、療法食により溶かすことができます。シュウ酸カルシウムは溶けることはありませんが、食事療法やパウチや缶詰のフード、手作りおじやなどで水分摂取量を増やすことで、今以上に大きくならないようにすることが重要です。
ただし、尿路結石があまりにも大きくなりすぎてしまい、尿道や尿管を塞いでしまっている場合には後述しますが、外科手術で取り除く必要があります。
腫瘍が原因となる膀胱炎では、第一に外科手術によって切除します。ただし、腫瘍ができている場所によっては手術できないこともあるため、その場合は抗がん剤を使用することもあります。
手術が必要な場合もあり!
細菌感染による膀胱炎だけが手術をする場合はほとんどありませんが、シュウ酸カルシウム結石が詰まってしまい、それによりひどい血尿や尿路閉塞を起こしている場合には外科手術を行う必要があります。
膀胱に結石がある場合は膀胱切開、尿管に詰まっている場合は尿管切開を行い、結石を取り出します。
また移行上皮がんやポリープによって血尿がでている場合にはそれらを取り除く場合もありますが、できている場所によっては取り除くことができない場合もあります。
膀胱や尿管結石を手術により取り除いた場合には、術後も血尿が出ることがありますので、こまめに動物病院に健診に行く必要があります。
本記事のまとめ
犬の膀胱炎は、主な原因は細菌感染です。
再発性膀胱炎は、頻尿、排尿時の痛みや緊張、尿中の血液などの症状を繰り返す膀胱の炎症であり、
この再発は治療後数週間以内の同じ種類の細菌による感染や異なる細菌による感染の形で現れます。
犬の再発性膀胱炎の原因としては、膀胱の結石や尿生殖器系のがん、尿道の異常、効かない抗生剤による治療、腎疾患、糖尿病などが挙げられます。
軽度の場合は2〜3週間の抗生物質療法が行われることが多く、重度の場合や腫瘍や結石が発見された場合には手術が必要となることもあります。