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【獣医師監修】犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)完全ガイド|症状・原因・治療・食事管理

「うちの子のお腹が最近ぽっこりしてきた」「水をやたら飲むようになった」「背中の毛が薄くなってきた」——これらはクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の代表的なサインです。中高齢の犬に多く見られるこの病気は、診断から食事管理・長期ケアまで理解しておくべきことが多数あります。本記事では獣医師監修のもと、クッシング症候群のすべてを詳しく解説します。

クッシング症候群とはどんな病気か

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は副腎から分泌されるコルチゾール(ステロイドホルモン)が過剰になる内分泌疾患です。コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれ、適切な量では体の様々な機能を調節しますが、過剰になると体のあらゆる部位に障害を引き起こします。

好発年齢は平均7〜9歳の中高齢犬ですが、若い犬でも発症することがあります。犬種としてはプードル(特にミニチュアプードル・トイプードル)・ダックスフンド・ボクサー・ビーグル・ジャーマンシェパードで発症率が高い傾向があります。

主な原因の分類

1. 下垂体依存性(全体の約85〜90%)

脳の下垂体に小さな良性腫瘍(マイクロアデノーマ)ができ、副腎皮質刺激ホルモン(副腎を刺激するホルモン)が過剰分泌されます。その刺激を受けた副腎が肥大し、コルチゾールを過剰産生します。腫瘍は多くの場合小さく(直径1cm以下)、直接的な神経症状を引き起こすことは少ないですが、大型の腫瘍(巨大腺腫)では脳圧迫による神経症状が現れることがあります。

2. 副腎腫瘍(全体の約10〜15%)

副腎自体に腫瘍(良性の腺腫または悪性の癌腫)ができ、コルチゾールが自律的に過剰分泌されます。副腎腫瘍のうち約50%は悪性(副腎癌)とされており、外科的な切除が治療の選択肢になります。

3. 医原性クッシング症候群

長期間のステロイド薬(プレドニゾロンなど)の投与によって外から過剰なコルチゾールが供給されることで起こります。原疾患の治療としてステロイドを使用している犬で起こりえます。ステロイドを徐々に減量・中止することで改善しますが、急激な中止は危険です。

典型的な症状

多飲多尿(最も多い症状)

コルチゾールが腎臓でのバソプレシン(抗利尿ホルモン)作用を妨げるため尿量が増加し、それを補うための飲水量が増加します。1日の飲水量が体重1kgあたり100ml以上(体重5kgなら500ml以上)になることが多いです。

多食(食欲増進)

コルチゾールが食欲中枢を刺激するため食欲が著しく増加します。「いつもお腹を空かせている」「物欲しそうにする」などの変化が見られます。

腹部膨大(ポットベリー)

コルチゾールが腹部の脂肪分布を変化させ、腹筋を弱くするためたる型の特徴的な腹部になります。体重が増えていなくてもお腹だけ張ってくることが多いです。

左右対称性脱毛

ホルモンバランスの乱れから毛が抜け、体幹・腹部・尾の付け根を中心に左右対称に脱毛します。かゆみを伴わないのが特徴で、脱毛しても毛が再生しないことがあります。

皮膚の変化

  • 皮膚の菲薄化:コルチゾールがコラーゲン合成を阻害し皮膚が薄くなります。傷が治りにくくなります。
  • 皮膚の石灰化(カルシノーシスクティス):皮膚にカルシウムが沈着する犬特有の変化。白くザラザラした病変が背中・腹部・股間などに現れます。
  • 皮膚感染症の繰り返し:免疫機能の低下で細菌性皮膚炎を繰り返すことがあります。

活動性低下・筋肉量減少

コルチゾールが筋肉タンパクを分解するため筋肉量が低下し、運動を嫌がるようになります。後肢の筋肉量が落ち、階段の上り下りが難しくなることがあります。

診断方法

スクリーニング検査

症状からクッシング症候群が疑われる場合、以下のスクリーニング検査を行います。

検査名 特徴 感度・特異度
尿コルチゾール/クレアチニン比 自宅で採尿可能。スクリーニングとして有用 感度高・特異度やや低
低用量デキサメサゾン抑制試験 最もよく使われるスクリーニング検査 感度高・最もよく使われる
副腎皮質刺激ホルモン刺激試験 医原性との鑑別や治療効果確認に有用 感度中程度・特異度高

鑑別診断(下垂体依存性か副腎腫瘍か)

クッシング症候群と診断された後、原因を特定するための検査を行います。

  • 高用量デキサメサゾン抑制試験:下垂体依存性では抑制されるが副腎腫瘍では抑制されない
  • 副腎皮質刺激ホルモン(内因性)の測定:下垂体依存性では高値、副腎腫瘍では低値〜検出不能
  • 腹部超音波検査:副腎のサイズ確認(下垂体依存性では両側副腎が肥大、副腎腫瘍では片側のみ肥大)
  • 脳のMRI/CT検査:大型の下垂体腫瘍が疑われる場合に実施

治療法

内科的治療(最も一般的)

トリロスタン(アドレスタン):副腎でのコルチゾール合成を阻害します。現在最も一般的に使用される内服薬です。1日1〜2回の経口投与で、治療開始後1〜3ヶ月で症状改善が見られることが多いです。

  • 定期的な副腎皮質刺激ホルモン刺激試験で効果をモニタリングする必要あり
  • 過剰な抑制(副腎不全様状態)に注意が必要
  • 食事と一緒に投与することで吸収が安定する

ミトタン(o,p'-DDD):副腎皮質細胞を破壊する薬剤。以前は広く使用されていましたが、管理が複雑で副作用のモニタリングが必要なため、現在はトリロスタンが主流です。

外科的治療(副腎腫瘍・一部の下垂体腫瘍)

副腎腫瘍の場合、片側副腎の摘出術(副腎摘除術)が根本的な治療です。手術には相応のリスクがありますが、成功した場合は治癒が期待できます。手術リスクが高い場合や転移がある場合は内科的管理を行います。

食事管理のポイント

体重管理(最重要)

多食により肥満になりやすいため、カロリーコントロールが重要です。フードの量を毎日計量して与え、おやつを制限します。肥満はインスリン抵抗性を高め、糖尿病の合併リスクをさらに高めます。

低脂肪食の推奨

クッシング症候群は高脂血症を引き起こすことが多いため、低脂肪・低コレステロールの食事が推奨されます。脂肪分15%以下(乾物換算)のフードを選びましょう。

高品質のタンパク質の維持

コルチゾールが筋肉タンパクを分解するため、筋肉量低下を防ぐために消化性の良い動物性タンパク質を適切に摂取することが重要です。ただし腎臓への影響(タンパク尿など)があれば獣医師と相談の上で量を調整します。

糖尿病合併への食事対応

クッシング症候群は糖尿病を誘発することがあります。糖尿病を合併した場合は低血糖指数・高食物繊維の食事管理が必要です。血糖値の急激な上昇を抑えるため、食事回数を増やす(1日2〜3回に分ける)ことも有効です。

筋肉量維持のための運動

食事管理と並行して、無理のない範囲での適度な運動(短めの散歩など)を続けることで筋肉量の維持に役立ちます。ただし疲れやすい犬もいるため、体調に合わせてゆっくり行いましょう。

定期モニタリングの重要性

時期 検査内容 目的
治療開始後1ヶ月 刺激試験・血液検査 治療効果確認・用量調整
安定後3〜6ヶ月ごと 刺激試験・血液検査・尿検査 長期管理・合併症の早期発見
体調変化時 刺激試験・緊急血液検査 副腎不全・過剰抑制の確認

よくある誤解と正しい理解

誤解1:「太ってきただけで病気ではない」

中高齢犬でポットベリー・多飲多尿・脱毛が重なって現れる場合、クッシング症候群の可能性があります。「年のせいで太った」と放置しないで早めに血液検査を受けましょう。

誤解2:「薬を飲めばすぐ治る」

クッシング症候群は多くの場合生涯にわたる投薬・管理が必要です。症状が改善しても薬の中断は再発につながります。

誤解3:「ステロイド治療の副作用だから仕方ない」

医原性クッシングも適切に対応すれば改善できます。ステロイドを急に中止するのは危険ですが、担当獣医師と相談しながら徐々に減量することが重要です。

獣医師監修

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まとめ

クッシング症候群は中高齢の犬に比較的多い内分泌疾患です。多飲多尿・ポットベリー・脱毛・多食などの典型的な症状に気づいたら早めに動物病院を受診しましょう。適切な診断と内科的治療(主にトリロスタン)・食事管理・定期モニタリングを組み合わせることで、クッシング症候群の犬も質の高い生活を続けることができます。

参考文献・監修ガイドライン

  • Ettinger & Feldman: Textbook of Veterinary Internal Medicine, 8th ed.
  • Nelson & Couto: Small Animal Internal Medicine, 6th ed.
  • 日本獣医学会 学術誌掲載論文

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DrVets

国公立大学獣医学科卒業。臨床経験10年以上。犬・猫の慢性疾患(腎臓病・膵炎・消化器疾患・内分泌疾患)と食事管理を専門とする現役獣医師が、科学的根拠に基づいた情報を監修しています。当サイトの全記事は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)・世界小動物獣医師会(WSAVA)等のガイドラインに準拠して監修しています。

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