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犬の膀胱炎・尿路感染症:原因・治療・再発予防

「血尿が出た」「頻繁にトイレに行く」「おしっこをするときに痛がる」——犬の膀胱炎・尿路感染症は、特に雌犬に多い疾患ですが、症状や治療法を正確に知らないと再発を繰り返したり、深刻な腎盂腎炎に進行したりすることがあります。本記事では、犬の下部尿路感染症(膀胱炎・尿道炎)の原因・症状・診断・治療・再発予防まで詳しく解説します。

犬の尿路感染症の分類

尿路感染症(UTI:Urinary Tract Infection)は、細菌が尿路内に侵入・増殖して引き起こす感染症です。解剖学的な部位により以下のように分類されます。

分類 感染部位 特徴
単純性UTI(下部尿路感染症) 膀胱・尿道 基礎疾患のない犬(特に若い雌犬)に起こる。抗菌薬治療に反応しやすい
複雑性UTI 膀胱・尿道 基礎疾患(尿路結石・解剖学的異常・糖尿病・クッシング・免疫抑制等)がある犬の感染。治療が難しく再発しやすい
上部尿路感染症(腎盂腎炎) 腎臓・腎盂・尿管 重篤。発熱・腰部痛・全身症状を伴う。慢性腎臓病への移行リスク
前立腺炎 前立腺(雄犬) 未去勢雄犬に多い。尿路感染を伴うことが多い
無症候性細菌尿(ABU) 膀胱 症状なく細菌が尿中に存在。治療が必要かどうかは個々の状況による

原因菌

細菌 頻度 特徴
大腸菌(E. coli) 約30〜50%(最多) 腸内常在菌。肛門周囲から尿道へ逆行性感染(雌犬の尿道が短いため起こりやすい)
ブドウ球菌(Staphylococcus) 約10〜15% 皮膚・粘膜からの感染
プロテウス菌 約10〜15% アルカリ性尿を産生→ストルバイト結石の形成に関与
クレブシエラ菌 約8〜12% 入院・カテーテル関連感染
腸球菌(Enterococcus) 約5〜10% 複雑性UTI・再発性UTIに多い
緑膿菌 約5% 難治性。多剤耐性のことが多い

感染経路と好発因子

なぜ雌犬に多いのか

雌犬の尿道は雄犬に比べて短く(約4〜6 cm)、外尿道口が肛門・外陰部に近いため、腸内細菌や皮膚細菌が逆行性に膀胱に侵入しやすい構造です。雌犬のUTI発症率は雄犬の約3倍とされています。

主なリスクファクター

  • 雌犬(特に避妊手術済み):尿道が短い・外陰部の皮膚が陰部に密着しやすい(外陰部皮膚ひだの問題)
  • 糖尿病:高血糖尿が細菌の培地となる・免疫機能低下
  • クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症):コルチゾール過剰による免疫抑制・多尿による膀胱の希釈・ステロイドの長期投与
  • 尿路結石:結石が膀胱壁を傷つける・結石の表面が細菌の温床になる
  • 解剖学的異常:外陰部の過剰な皮膚ひだ(外陰部皮膚炎)・尿道憩室・異所性尿管
  • 腎臓病(CKD):希釈尿による抗菌力低下・免疫機能低下
  • 尿路カテーテル使用歴:医原性感染リスク
  • 免疫抑制薬(ステロイド等)の使用

症状

下部尿路感染症(膀胱炎・尿道炎)

  • 頻尿:何度もトイレに行く・少量しか出ない
  • 排尿困難・努責:力んでもなかなか出ない
  • 排尿時の疼痛:排尿中に鳴く・しゃがんだまま動かない
  • 血尿:赤い・ピンク色の尿(特に排尿の終わりに多い)
  • 外陰部・陰茎包皮の過剰なグルーミング
  • 失禁:炎症による膀胱の刺激で漏れる
  • トイレ以外での排尿

上部尿路感染症(腎盂腎炎)のサイン(緊急)

  • 発熱(>39.5℃)
  • 元気消失・食欲不振
  • 腰部〜背部の疼痛(腎臓の触診で痛がる)
  • 嘔吐
  • 多飲・多尿(急性腎機能低下)

診断

尿検査

UTI診断の基本です。中間尿採取または膀胱穿刺(清潔な尿採取法として推奨)で採取します。

検査項目 UTI時の特徴
尿比重 様々(希釈尿→基礎疾患の示唆)
pH アルカリ性(プロテウス菌など)
尿タンパク 陽性(炎症・血液成分の混入)
白血球(膿尿) 高倍率視野で5個以上→感染・炎症を示唆
赤血球(血尿) 陽性(炎症による膀胱壁損傷)
細菌 沈渣で桿菌・球菌を確認。ただし汚染に注意

尿培養・薬剤感受性試験(重要)

UTI治療において尿培養と薬剤感受性試験は非常に重要です。「培養なしに抗菌薬を選ぶ」ことは、耐性菌の選択につながります。特に以下のケースでは培養が不可欠です:

  • 複雑性UTI(基礎疾患あり)
  • 再発性UTI(6ヶ月に3回以上、または2ヶ月に2回以上)
  • 治療に反応しないUTI
  • 腎盂腎炎の疑い
  • 施設内(入院・カテーテル)関連感染

超音波検査

  • 膀胱壁の肥厚・結石・ポリープ・解剖学的異常の評価
  • 腎盂腎炎:腎実質の変化・腎盂の拡張

血液検査

  • 腎盂腎炎・基礎疾患の評価:BUN・クレアチニン・血糖・コルチゾール
  • 全血球計算(CBC):好中球増加(感染・炎症の程度)

治療

単純性UTIの治療

  • 抗菌薬による治療。基本的に3〜7日間が推奨される(長期投与は耐性菌リスク)
  • 一般的に使用される抗菌薬:アモキシシリン-クラブラン酸・トリメトプリム-スルファメトキサゾール・エンロフロキサシン
  • 理想的には培養結果に基づいた治療が推奨されるが、単純性UTIでは経験的治療も行われる
  • 治療終了後1週間以内の尿培養で治癒確認を行うことが推奨される

複雑性UTIの治療

  • 必ず培養・感受性試験を実施してから選択する
  • 投与期間:4〜6週間(基礎疾患がある場合)
  • 基礎疾患の同時管理が必須(結石除去・糖尿病管理・クッシング治療など)
  • 治療終了後・終了後1ヶ月での尿培養が推奨

腎盂腎炎の治療

  • 入院・静脈内抗菌薬投与が基本
  • 輸液療法(脱水・電解質補正)
  • 投与期間:4〜6週間以上
  • 腎機能のモニタリング

無症候性細菌尿(ABU)の扱い

症状のない細菌尿は、免疫機能が正常で基礎疾患のない犬では治療しないことが推奨されています(ISCAID 2019ガイドライン)。無差別な抗菌薬投与は耐性菌の選択・正常な細菌叢の破壊につながります。ただし、免疫抑制状態・手術前・妊娠中などでは治療が推奨されます。

再発性UTIの管理

再発と持続感染の鑑別

  • 持続感染:治療中に細菌が除去されずに残存→抗菌薬の変更・投与期間の延長
  • 再感染(真の再発):一度除菌されたが別の菌(または同じ菌)が再侵入→基礎疾患・解剖学的問題を評価
  • スーパー感染:治療中に別の菌に感染

再発性UTIの評価

  • 詳細な身体検査:外陰部の形態・外陰部皮膚炎の確認
  • 超音波・レントゲン:結石・ポリープ・膀胱憩室・異所性尿管の確認
  • 内分泌検査:糖尿病・クッシング症候群の評価
  • 尿培養の定期実施と薬剤感受性に基づく治療

外陰部皮膚ひだの管理

避妊手術済みの肥満雌犬では、外陰部周囲に皮膚ひだが形成され、湿潤環境が細菌の温床となりUTIの原因となることがあります。外科的な皮膚ひだ切除術(会陰形成術)で再発UTIが著しく減少する場合があります。

日常管理と予防

  • 水分摂取の増加:希釈尿が細菌増殖を抑制。ウェットフード・水飲み場を複数設置
  • 排尿機会の確保:頻繁な排尿が膀胱を洗い流す。1日3〜4回以上の排尿機会を与える
  • 外陰部・包皮の清潔維持:定期的な清拭で細菌汚染を減らす
  • 体重管理:肥満は外陰部皮膚ひだの原因。適正体重維持
  • クランベリーエキス:大腸菌の膀胱壁への付着阻害作用が示唆されている。科学的エビデンスは限定的だが補助的に使用されることがある

まとめ

犬の尿路感染症は適切な診断と抗菌薬治療で多くの場合改善しますが、再発を繰り返す場合は必ず背景にある基礎疾患・解剖学的問題を評価することが重要です。「また膀胱炎か」と軽く考えずに、再発性UTIは専門的な評価を受けることをお勧めします。

犬の膀胱炎・尿路感染症について個別に相談したい飼い主様は、獣医師への個別相談もご活用ください。

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