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犬の膵炎

【獣医師解説】犬の膵炎を徹底解説|急性から慢性まで症状・治療・食事の全て

この記事では、犬の膵炎について急性・慢性の違いから症状・治療・食事管理まで、獣医師が徹底解説します。「急に嘔吐・腹痛で動物病院に運ばれた」「膵炎と診断されてからの食事が分からない」「再発を防ぐにはどうすればいいの?」という飼い主さんの疑問にこの一本でお答えします。膵炎は適切なケアで回復・管理できますが、放置すると命に関わる疾患です。

犬の膵炎とは?基本知識

膵炎(すいえん)は、膵臓に炎症が起きる疾患です。膵臓は胃の近くにある細長い臓器で、食物を消化する酵素(リパーゼ・アミラーゼなど)を分泌する「外分泌腺」と、インスリン・グルカゴンを分泌する「内分泌腺」の両方の機能を持ちます。

通常、消化酵素は膵臓の外(十二指腸)で初めて活性化されますが、膵炎ではこれらの酵素が膵臓内で活性化してしまい、膵臓自身を消化・破壊してしまいます。これが膵炎の発症メカニズムです。

原因・発症メカニズム

犬の膵炎の原因は多岐にわたりますが、以下が代表的です。

  • 高脂肪食の急激な摂取:脂肪分の多い食事(特に人間の食べ物・残り物)を一度に大量に食べた後に発症することが多い。犬の膵炎の最多原因
  • 肥満:脂肪組織が多い犬は慢性的な炎症リスクが高い
  • 薬剤性:ステロイド・特定の抗菌薬・利尿薬・ブロメラインなど
  • 高脂血症(高コレステロール・高TG):ミニチュア・シュナウザーで特に多い
  • 甲状腺機能低下症・クッシング症候群:ホルモン異常が脂質代謝に影響
  • 特発性(原因不明):約50%は明確な原因が特定できない

好発犬種・年齢・性別

膵炎は全犬種で起きますが、以下の犬種で特に発症率が高いとされています。

  • ミニチュア・シュナウザー(最多):高脂血症との関係が深い
  • ヨークシャー・テリア
  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
  • コッカー・スパニエル
  • ビーグル

発症年齢は中高齢犬(5歳以上)に多く、雌雄差は顕著ではありませんが、避妊雌・中年齢・肥満犬での発症報告が多い傾向があります。

症状チェックリスト

初期症状

  • □ 急激な嘔吐(繰り返す)
  • □ 食欲廃絶(完全に食べなくなる)
  • □ お腹の痛み(お腹を丸める・触られるのを嫌がる・「祈りのポーズ」=前肢を伸ばしてお尻を上げる)
  • □ 元気消失・ぐったり
  • □ 発熱(38.5℃以上)または低体温
  • □ 下痢(水様性・時に血液混じり)
  • □ 脱水(皮膚をつまんでも戻りが遅い・歯茎が乾燥)

進行時の症状(重症・慢性)

  • □ 黄疸(目・皮膚が黄色く見える)
  • □ 腹水(お腹が膨れる)
  • □ 多臓器不全の兆候(DIC・腎不全・呼吸困難)
  • □ 慢性膵炎:周期的な軽度の嘔吐・食欲不振・体重減少が繰り返す
  • □ 糖尿病の発症(β細胞破壊による)
  • □ 消化不良(食物が消化されない:脂肪便・体重減少・栄養不良)

緊急受診が必要なサイン

以下の症状が見られたら直ちに動物病院・救急を受診してください。

  • 繰り返す嘔吐で水も飲めない
  • ショック症状(粘膜蒼白・冷感・呼吸困難)
  • 腹部の激しい痛みで動けない
  • 意識が朦朧としている・ぐったり
  • 24時間以上全く食べない・水を飲まない

検査・診断の流れ

動物病院でやること

1. 身体検査・問診

症状の経過・直前の食事内容(脂肪分の多いものを食べたか)・使用薬・既往疾患を確認します。腹部触診で痛みの部位・程度を確認します。

2. 血液検査

リパーゼ・アミラーゼの上昇が典型的ですが、特異性が低いため犬膵特異的リパーゼ(cPLI/Spec cPL)がより信頼性の高い検査です。Spec cPLが400μg/L以上であれば膵炎の可能性が高いです。

3. 超音波検査

膵臓の腫大・周囲の炎症・腹水・胆管閉塞などを評価します。膵炎の診断・重症度判定に非常に有用です。

4. X線検査

腸のガス像・異物(誤食)・腹腔内の変化を確認します。

5. SNAP cPLテスト(迅速検査)

院内で20分以内に結果が出る膵炎スクリーニング検査です。陽性であれば膵炎の可能性が高く、Spec cPL検査での確認が推奨されます。

血液検査の見方

検査項目正常値膵炎での変化
Spec cPL200μg/L以下400以上(高値ほど重症)
リパーゼ23〜212 U/L上昇(ただし特異性低い)
アミラーゼ409〜1203 U/L上昇(特異性低い)
ALT・ALP(肝臓)各正常範囲肝臓への波及で上昇
血糖値70〜120 mg/dL重症ではβ細胞破壊により上昇
トリグリセリド(TG)20〜112 mg/dL高脂血症の場合に上昇

治療法の選択肢

急性期・慢性期別の治療方針

急性膵炎(入院治療)

  • 輸液療法:脱水補正・電解質補正・循環維持が最優先
  • 絶食・絶水:膵臓を休ませるための処置(以前は「絶食が重要」とされたが、現在は早期経腸栄養が推奨される傾向)
  • 制吐剤(マロピタント・オンダンセトロンなど):嘔吐のコントロール
  • 鎮痛剤(ブプレノルフィン・メタドンなど):腹痛の緩和(重要)
  • 胃酸分泌抑制薬(オメプラゾール・ファモチジン):胃炎・潰瘍の予防
  • 抗菌薬:感染性膵炎・全身性炎症反応症候群(SIRS)の場合
  • 重症例:血漿輸血・コロイド輸液・ICU管理

慢性膵炎・回復後の管理

  • 低脂肪・高消化性食の徹底(生涯継続)
  • 肥満の場合は体重管理
  • 定期的なSpec cPL・血液検査でのモニタリング
  • 高脂血症がある場合は脂質改善食またはフィブラート系薬剤
  • 外分泌不全(EPI)が起きた場合は消化酵素補充療法

薬の種類と副作用

膵炎治療で使われる主な薬剤と注意点は以下の通りです。

  • マロピタント(セレニア):強力な制吐剤。副作用は少ない
  • ブスコパン/スコポラミン:腸管の痙攣緩和(痛みを軽減)
  • オピオイド系鎮痛薬:重症時の強い腹痛に使用。動物病院での管理下で使用
  • ステロイド:免疫介在性膵炎では有効な場合があるが、通常の急性膵炎には使用しない(悪化させる可能性あり)

食事管理の基本

膵炎の食事管理は再発予防に直結します。膵臓は脂肪分の多い食事で強く刺激されるため、生涯にわたる低脂肪食の徹底が最も重要です。

食べていいもの・いけないもの

膵炎で厳禁の食材・食べ方

  • 脂肪分の多い肉(牛バラ・豚バラ・ベーコン・鶏皮・ひき肉)
  • 揚げ物・油を使った調理食品
  • チーズ・バター・生クリーム・アイスクリーム
  • 人間の食事の残り物(特にクリスマス・正月などの豪華料理)
  • 過食(一度に大量に食べさせること)

推奨される食材・食べ方

  • 白身魚(タラ・かれい)・ササミ・皮なし鶏胸肉(脂肪分が少ない)
  • ご飯・うどん・じゃがいも(消化しやすい炭水化物)
  • 1日の脂肪分を総カロリーの10〜15%以下に抑える
  • 少量ずつ・1日3〜4回に分けた食事が膵臓への負担を減らす

療法食・市販食の選び方

膵炎犬の回復期・慢性期には以下の低脂肪療法食が推奨されます。

  • ロイヤルカナン消化器サポート(低脂肪):脂肪分8〜12%、高消化性で膵炎後の定番
  • ヒルズ i/d Low Fat:低脂肪・高消化性。膵炎・消化器疾患の標準療法食
  • ロイヤルカナン低脂肪レビュー(今回のタイトル記事):膵炎の犬に特化した低脂肪設計

市販食の場合、粗脂肪含有量が乾物換算で10%以下のものを選びましょう。原材料の最初に書かれているものが主成分なので、脂肪分の多い肉が先頭に来ていないか確認が必要です。

治療費・年間コスト

項目費用の目安
初診・検査費(Spec cPL含む)10,000〜30,000円
急性膵炎入院(3〜7日)50,000〜200,000円
低脂肪療法食(月)5,000〜12,000円
定期検診・血液検査(年3〜4回)20,000〜60,000円/年
年間合計(安定管理時)8〜25万円

急性膵炎の初回入院費用が最も高額になりがちです。ペット保険は膵炎発症前の加入であれば多くの場合補償対象となります。

よくある飼い主Q&A

Q1. 膵炎になったら一生低脂肪食を続けないといけないのか?

A. 慢性膵炎・繰り返す膵炎の場合は基本的に一生涯の低脂肪食管理が推奨されます。軽症の急性膵炎が1回だけで回復した場合は、低脂肪食を意識しながらも通常食に戻せることがあります。獣医師の指示に従って判断しましょう。

Q2. おやつは何なら与えられるか?

A. 低脂肪のおやつが選択肢になります。ゆでたサツマイモ・ニンジン・きゅうり・白身魚の蒸したもの・ロイヤルカナンやヒルズの低脂肪トリーツなどが適しています。市販のおやつは脂肪分の表示を必ず確認してください(乾物換算10%以下が目安)。

Q3. 膵炎と糖尿病が同時に起きることはあるか?

A. はい、慢性膵炎が長く続くとインスリンを作るβ細胞も破壊されて糖尿病を合併することがあります。膵炎と糖尿病を同時に管理する場合は、低脂肪かつ血糖コントロールにも配慮した食事が必要で、管理がより複雑になります。

Q4. 膵炎の再発を防ぐ最も大切なことは?

A. 最も重要なのは低脂肪食の徹底です。特に「ちょっとぐらいいいか」と思って脂肪分の多いおやつや人間の食べ物を与えることが再発のきっかけになることが非常に多いです。家族全員が低脂肪食の重要性を理解し、与えないルールを徹底することが最大の予防策です。

Q5. 膵炎の犬に絶対に与えてはいけない食べ物は?

A. 特に危険なのは「脂肪の多い食事を一度に大量に」食べることです。焼き鳥の皮・豚骨スープ・天ぷら・フライドチキン・チーズ・クリーム系のものは絶対に避けてください。「一口だけ」でも再発の引き金になることがあります。

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膵炎の詳細:病態生理と重症度の理解

膵炎の病態をより深く理解することで、なぜ低脂肪食が重要なのか、なぜ再発しやすいのかが分かります。

なぜ脂肪分で膵炎が起きるのか

脂肪分の多い食事を食べると、膵臓は大量の消化酵素(主にリパーゼ)を分泌します。通常この酵素は不活性型(前駆体)で分泌され、十二指腸で活性化されますが、何らかのトリガーにより膵臓内で早期活性化が起きると、膵臓自身を消化してしまいます(自己消化)。

炎症が進むとサイトカインが大量放出され、局所の炎症から全身性炎症反応症候群(SIRS)に発展することがあります。重症例では腎臓・肺・心臓など多臓器に影響が及び、命に関わります。

膵炎の重症度分類

犬の膵炎は軽症から重症まで幅があります。

  • 軽症膵炎:嘔吐・食欲不振が数日続く程度。外来治療で回復できることが多い
  • 中等症〜重症膵炎:脱水・黄疸・腹水を伴う。入院・集中治療が必要
  • 壊死性膵炎:膵臓組織が壊死する最重症型。死亡率が高く、多臓器不全のリスク

膵炎の食事再開プロトコル

急性膵炎発作後の食事再開は慎重に行う必要があります。以前は「膵臓を休ませるために長期絶食」が推奨されていましたが、現在の考え方は「早期に少量の消化しやすい食事から始める」ことが推奨されています。

回復期の食事再開ステップ

  1. 絶食期(入院中):嘔吐がコントロールされ、腹痛が改善するまで絶食。鼻チューブまたは胃チューブからの経腸栄養が早期から始められることも
  2. 水分摂取の開始:嘔吐が止まったら少量の水から開始
  3. 流動食・離乳食レベルから:白湯で薄めた離乳食・消化器サポート療法食の少量から。1日4〜6回に分けて
  4. 徐々に固形食へ:3〜5日かけて通常量に戻す
  5. 低脂肪療法食へ移行:以後は低脂肪療法食を継続

食事再開時の注意サイン

  • 食事後に嘔吐する→食事の量を減らす・より消化しやすいものに変える
  • 腹痛が再び出る→食事を中止してすぐに受診
  • 食欲がない→無理に食べさせない・点滴栄養に戻すことも

慢性膵炎の長期管理

慢性膵炎は「急性発作を繰り返す」または「常に低グレードの炎症が続く」状態です。急性膵炎と異なり、症状が軽微で見逃されやすいことが特徴です。

慢性膵炎のサイン

  • 食後の軽い嘔吐が時々起きる(「食後に毎回ではないが時々戻す」)
  • 食欲のムラ(良い日と悪い日がある)
  • 体重が徐々に減る
  • 活動量が少し低下している
  • 便がゆるいことが多い

慢性膵炎の合併症:外分泌膵不全(EPI)

長期の膵炎で膵臓の消化酵素分泌能力が90%以上失われると、外分泌膵不全(EPI)が起きます。食べているのに体重が減る・大量の軟便・栄養不良・毛並みの悪化が典型的な症状です。治療は消化酵素製剤(パンクレアチン)の食事への添加で、劇的に改善することが多いです。

膵炎と関連疾患:同時管理のポイント

膵炎と胆嚢疾患(胆泥・胆嚢粘液嚢腫)

膵炎・胆嚢疾患・肝臓疾患は解剖学的に近接しており、同時発症することが多いです(「三角症候群」とも呼ばれます)。膵炎犬では超音波検査で胆嚢の状態もあわせて確認することが重要です。

膵炎と糖尿病の関係

慢性膵炎による膵臓のβ細胞破壊は糖尿病を引き起こします。膵炎の治療中に血糖値が高くなった場合は、糖尿病合併の可能性を考慮します。糖尿病と膵炎の同時管理は非常に複雑で、専門的な対応が必要です。

膵炎と高脂血症(高コレステロール・高TG)

ミニチュア・シュナウザーを中心に、遺伝的に血中脂質が高い犬種があります。高脂血症は膵炎の発症リスクを高めます。血液検査でコレステロール・TGが高い場合は、超低脂肪食への変更またはフィブラート系薬剤による脂質管理が必要です。

膵炎犬のQOL(生活の質)維持のために

食事の工夫で楽しく低脂肪食を続ける

低脂肪食は「まずい」「食べてくれない」と感じる飼い主さんも多いですが、以下の工夫で食いつきを改善できることがあります。

  • 療法食を少量温める(においが立ちやすくなる)
  • 少量の低脂肪なスープ(無塩チキンブロス・野菜スープ)をかける
  • 数種類の低脂肪療法食を組み合わせて飽きさせない
  • 食器の材質・高さを変えてみる(浅い皿・陶器・高めのスタンドなど)

運動と膵炎の関係

急性膵炎発作後の回復期(1〜2週間)は安静を保つことが重要です。回復後は適度な散歩・軽い運動は問題ありません。むしろ運動は肥満防止・消化管の機能維持に役立ちます。激しい運動直後の大量の食事は膵炎リスクを高める可能性があるため、運動後は少量に分けて与えましょう。

飼い主がよく後悔すること:再発予防の教訓

膵炎の再発経験がある飼い主さんから多く聞かれる後悔のポイントをまとめます。

  • 「お正月に家族が天ぷらをひとかけ与えてしまった翌日に入院になった」
  • 「市販のトリーツが低脂肪と思っていたら意外と脂肪分が高かった」
  • 「体調が良くなったから普通の食事に戻してしまった」
  • 「おじいちゃんがこっそり焼き鳥をあげていた」
  • 「散歩中に草を食べたのが原因だったかもしれない(異物摂取)」

これらに共通するのは「少しくらいなら大丈夫」という油断です。膵炎は一度発症すると再発しやすい疾患です。家族全員が低脂肪食のルールを厳守することが最大の予防になります。

まとめ:膵炎犬との生活を豊かにするために

犬の膵炎は、適切な食事管理(低脂肪食の徹底)と定期的な検診により、多くの症例で再発を抑え、元気な生活を取り戻すことができます。

大切なポイントは以下の3点です。

  1. 低脂肪食の生涯継続:「1口くらい」という油断が再発を招く。家族全員でルールを守る
  2. 早期受診:「またいつものかな」と思っても嘔吐・腹痛・食欲不振が続く場合は早めに受診
  3. 定期検診とSpec cPLモニタリング:無症状でも慢性炎症が続いているケースがあるため、定期検診は欠かさずに

膵炎の愛犬と長く、美味しく・楽しく食事ができる生活を続けていくために、この記事と関連記事をご活用ください。

膵炎の予防:根本的なアプローチ

肥満管理が最も効果的な予防策

犬の膵炎予防において、適切な体重管理(肥満の解消)が最も重要な予防策の一つです。肥満の犬は血中脂質(コレステロール・トリグリセリド)が高くなりやすく、膵炎リスクが上昇します。

理想体重の確認方法:

  • 肋骨が手で軽く触れる程度が適正(見ただけで肋骨が見えるのは痩せすぎ)
  • 体型スコア(BCS)3〜4/5が理想範囲
  • 定期的な体重測定(月1回)で変化を追う

高脂血症のスクリーニング

特にミニチュア・シュナウザー・ビーグルでは、遺伝的な高脂血症(高トリグリセリド血症)が膵炎の主要リスクとなります。定期検診で血中脂質(TC・TG)を測定し、高値であれば低脂肪食への変更・フィブラート系薬剤の使用を検討します。

薬剤性膵炎の予防

ステロイド・特定の抗菌薬・利尿薬などが膵炎のリスクを高めることがあります。これらの薬を使用する場合は、必要最小限の量と期間にすること、定期的にSpec cPLをモニタリングすることが推奨されます。長期ステロイド使用犬では特に注意が必要です。

膵炎の総合的な評価:WSAVA(世界小動物獣医師会)ガイドライン

犬の膵炎の診断・管理に関しては、WSAVAが定期的にガイドラインを更新しています。最新のガイドラインでは以下が推奨されています。

  • Spec cPLによる診断(単独の血清リパーゼ・アミラーゼより信頼性が高い)
  • 超音波検査による膵臓の評価
  • 早期経腸栄養の推進(従来の長期絶食より短期間で再給餌開始)
  • 適切な鎮痛管理(痛みを甘く見ない)
  • 輸液療法による脱水・循環維持

膵炎に関するよくある誤解の解消

誤解1:「膵炎は一度かかったら治らない」

軽症の急性膵炎は適切な治療で完全回復できます。ただし膵臓組織がダメージを受けた場合(重症膵炎・慢性膵炎)は再発しやすくなるため、食事管理が生涯必要になることがあります。「治らない」のではなく「再発しやすい疾患のため管理が必要」が正確な表現です。

誤解2:「療法食は食べてくれないから普通の食事でいい」

療法食を嫌がる犬は確かにいますが、食いつきを改善する工夫(温める・スープをかける・少量から慣らす)で多くは食べるようになります。「食べてくれないから」という理由で普通食に戻すことは、再発リスクを高める危険な選択です。食いつきに問題がある場合は動物病院に相談してください。

誤解3:「少しの脂肪なら大丈夫」

膵炎の発症・再発は「少量の脂肪」でも起きることがあります。特に既に膵臓にダメージがある犬(慢性膵炎・過去に重症膵炎になった犬)では、ほんの少量の高脂肪食が引き金になります。「今日だけ」「特別な日だから」という例外を作らないことが重要です。

誤解4:「牛乳は膵炎にいい」

牛乳は脂肪分が比較的高く、膵炎犬に与えることは推奨されません。また乳糖不耐症の犬では下痢の原因にもなります。カルシウム補給が必要な場合は低脂肪・無糖ヨーグルト(少量)または獣医師推奨のカルシウムサプリメントを検討してください。

膵炎犬の入院時:飼い主が知っておくべきこと

入院の必要性と期間

中等症以上の急性膵炎では入院が必要になります。入院の目的は:

  • 持続的な輸液による脱水補正・電解質管理
  • 制吐剤・鎮痛剤の持続投与
  • 病状変化の24時間モニタリング
  • 必要に応じた経腸・非経口栄養管理

入院期間は3〜7日が目安ですが、重症例・合併症がある場合はそれ以上になることもあります。

入院中の面会・ケア

入院中の面会については動物病院のポリシーに従いますが、可能であれば毎日の面会が犬のストレス軽減(精神的な支え)に役立ちます。慣れたおもちゃ・使用済みのタオル(飼い主の匂いがする)を持ち込むと安心感を与えられることがあります。

退院後の在宅ケア:詳細プロトコル

退院後の最初の1〜2週間が再発予防の最重要期間です。

退院直後の1週間

  • 処方された薬(制吐剤・胃薬・鎮痛剤)を指示通り投与する
  • 食事は低脂肪療法食を少量・複数回に分けて与える
  • 嘔吐・食欲不振・腹痛のサインに敏感になる
  • 無理な運動・ストレスを避ける
  • 退院後3〜5日で再診(血液検査・Spec cPL再測定)

回復後の長期管理

  • 低脂肪療法食を生涯継続(特に重症だった犬・繰り返した犬)
  • 3〜6ヶ月ごとの定期検診とSpec cPL・血液検査
  • 体重管理の継続
  • 家族全員への食事ルールの徹底

膵炎の詳細:特定の状況での管理

ミニチュア・シュナウザーの膵炎管理

ミニチュア・シュナウザーは遺伝的な高トリグリセリド血症(血中の中性脂肪が非常に高くなる)を持つことが多く、膵炎の発症率が他の犬種よりはるかに高いです。

シュナウザーの膵炎予防で特に重要なこと

  • 定期的な血中脂質(TG・コレステロール)の測定(少なくとも年1〜2回)
  • TG300mg/dL以上では積極的な低脂肪食への切り替えが推奨される
  • TG500mg/dL以上ではフィブラート系薬剤(フェノフィブラート・ベザフィブラートなど)の使用を検討
  • 肥満を防ぐための適切なカロリー管理
  • 脂肪分の多いおやつ・テーブルフードは厳禁

老犬の膵炎管理

高齢犬(10歳以上)での急性膵炎は回復に時間がかかることがあります。また老齢による腎機能・肝機能の低下が治療を複雑にすることがあります。

  • 輸液量・速度の調整(腎機能・心機能に配慮)
  • 薬の用量調整(薬物代謝が低下していることが多い)
  • 栄養管理の重視(老犬は低栄養に陥りやすい)
  • 疼痛管理の徹底(老犬は痛みを行動で表現しにくいことがある)

膵炎の治療コスト詳細:症例別試算

軽症急性膵炎(外来治療)

  • 初診・診察料:3,000〜8,000円
  • 血液検査(Spec cPL含む):10,000〜20,000円
  • 超音波検査:5,000〜15,000円
  • 点滴(外来1〜2回):5,000〜15,000円/回
  • 内服薬(制吐剤・胃薬):3,000〜8,000円
  • 合計:約3〜7万円

中等症急性膵炎(入院3〜5日)

  • 入院費(1日):5,000〜15,000円
  • 検査・処置:20,000〜50,000円
  • 輸液・薬剤:10,000〜30,000円
  • 合計:約5〜15万円

重症急性膵炎(入院7日以上)

  • ICU管理・集中治療:50,000〜200,000円以上
  • 合計:10〜30万円以上

膵炎の鑑別診断:見逃してはいけない他の疾患

膵炎と症状が似ている疾患を除外することが正確な診断に重要です。

鑑別すべき主な疾患

  • 腸閉塞・腸重積:嘔吐・腹痛。腹部X線・超音波で確認
  • 胃拡張・捻転(GDV):特に大型犬。突然の腹部膨満・嘔吐未遂・虚脱。超緊急外科処置が必要
  • 腎不全(急性):嘔吐・元気消失・尿毒症。BUN・クレアチニン上昇
  • アジソン病クリーゼ:嘔吐・虚脱・低血圧。電解質異常(Na低下・K上昇)で鑑別
  • 肝臓疾患(急性肝炎・肝不全):嘔吐・黄疸。肝臓酵素(ALT・ALP)の著しい上昇
  • 子宮蓄膿症(未避妊雌):嘔吐・元気消失・多飲多尿。腹部超音波で子宮拡張を確認

膵炎犬の飼い主が作る「低脂肪生活のルールブック」

膵炎の再発を防ぐために、家庭内で共有できる「低脂肪生活のルールブック」を作成することをお勧めします。以下の内容を記載しましょう。

絶対禁止リスト(冷蔵庫に貼る)

  • 鶏皮・豚バラ・牛バラ・ベーコン・ハム・ソーセージ
  • チーズ・バター・生クリーム・アイスクリーム
  • 揚げ物・炒め物(大量の油を使ったもの)
  • 人間の食事の残り物(成分不明)
  • 脂肪分の多いドッグおやつ

与えていいもの(低脂肪おやつリスト)

  • ゆでたサツマイモ(少量)
  • ゆでたニンジン・ブロッコリー
  • 皮なし蒸し鶏胸肉(少量)
  • ゆでた白身魚(タラ・カレイ)
  • 低脂肪・無糖ヨーグルト(スプーン1杯)
  • 低脂肪の処方療法食トリーツ

家族・来客へのルール説明テンプレート

「○○(犬の名前)は膵炎という病気で、脂肪分の多い食べ物を食べると命に関わる可能性があります。人間の食べ物や市販のドッグおやつは与えないでください。与えていいものは冷蔵庫のリストにある食材のみです。ご協力をお願いします。」

膵炎犬と暮らす喜び:前向きなメッセージ

膵炎の診断を受けた時、多くの飼い主さんが「もう高脂肪のものを一切食べられないのか」「何かあるたびに不安になる」という気持ちになります。しかし、適切な管理さえできれば、多くの膵炎犬が数年〜それ以上元気に生きています。

低脂肪食に慣れた犬は、新しい食事を美味しそうに食べてくれるようになります。食事管理を丁寧に続けることで、「また入院になるかも」という不安が日に日に小さくなっていきます。

「正しい知識と継続的なケアが愛犬の人生を守る」。膵炎の管理は大変なこともありますが、それが愛犬への最大の愛情表現です。この記事がその一助になれれば幸いです。

参考文献・参照ガイドライン

この記事は以下の文献・ガイドラインを参考に獣医師監修のもと作成されました。

  1. Xenoulis PG, Steiner JM. Lipid metabolism and hyperlipidemia in dogs. Vet J. 2010;183(1):12–21.
  2. Hess RS, Saunders HM, Van Winkle TJ, et al. Concurrent disorders in dogs with diabetes mellitus: 221 cases (1993–1998). J Am Vet Med Assoc. 2000;217(8):1166–1173.
  3. Mansfield CS, Jones BR, Spillman T. Assessing the severity of canine pancreatitis. Res Vet Sci. 2003;74(2):137–144.
  4. Xenoulis PG. Diagnosis of pancreatitis in dogs and cats. J Small Anim Pract. 2015;56(1):13–26.
  5. Pápa K, Máthé A, Abonyi-Tóth Z, et al. Occurrence, clinical features and outcome of canine pancreatitis. Acta Vet Hung. 2011;59(1):37–52.

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DrVets

国公立大学獣医学科卒業。臨床経験10年以上。犬・猫の慢性疾患(腎臓病・膵炎・消化器疾患・内分泌疾患)と食事管理を専門とする現役獣医師が、科学的根拠に基づいた情報を監修しています。当サイトの全記事は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)・世界小動物獣医師会(WSAVA)等のガイドラインに準拠して監修しています。

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