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犬の泌尿器疾患

【獣医師解説】犬の泌尿器疾患まとめ|膀胱炎・尿路結石・腎臓病・尿毒症の症状と治療

「血尿が出た」「何度もトイレに行くのに少ししか出ない」「水をたくさん飲むようになった」——犬の泌尿器トラブルは命に関わるものから日常的な問題まで多岐にわたります。

この記事では膀胱炎・尿路結石・腎臓病・尿毒症・尿道閉塞など、犬の泌尿器疾患全体を獣医師監修で網羅し、症状・緊急度・治療・食事管理まで解説します。

犬の泌尿器系の仕組み

犬の泌尿器系は腎臓→尿管→膀胱→尿道から構成されます。腎臓は血液をろ過して老廃物を尿として排出し、水分バランス・電解質・血圧を調整します。いずれかの部位に問題が生じると、頻尿・血尿・多飲多尿・排尿困難などの症状が出ます。

犬の泌尿器疾患の緊急度マップ

疾患緊急度すぐに病院が必要なサイン
尿道閉塞(結石・腫瘍)★★★ 緊急排尿が全くできない・痛みで鳴く・嘔吐
急性腎不全★★★ 緊急突然の嘔吐・食欲廃絶・尿量減少
尿毒症★★★ 緊急ぐったり・震え・口臭が異様に強い
尿路結石★★ 高血尿・排尿困難・頻尿
膀胱炎★★ 中頻尿・血尿・排尿時に痛がる
慢性腎臓病(初期)★ 低〜中多飲多尿・体重減少・食欲低下(ゆっくり進行)

膀胱炎(細菌性)

犬の膀胱炎はメス犬に多く、尿道が短いため細菌が侵入しやすい構造が原因です。E.coli(大腸菌)が最多原因菌で、排尿時に痛がる・血尿・頻尿・失禁が主な症状です。

膀胱炎の診断と治療

  • 尿検査(沈渣・培養):細菌・白血球・赤血球の確認
  • 抗生物質:培養感受性試験に基づき7〜14日間投与
  • 水分増加:ウエットフード・ブロスを追加し尿を薄める

繰り返す膀胱炎は解剖学的異常(膣前庭狭窄)・結石・腫瘍・糖尿病が背景にあることが多く、根本原因の精査が必要です。

尿路結石(ストルバイト・シュウ酸カルシウム)

犬の尿路結石はストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)シュウ酸カルシウムが二大主流です。結石の種類によって治療法・食事療法が異なります。

結石の種類溶解食療法再発予防食多い犬種
ストルバイト◎ 可能(Hills s/d等)低マグネシウム・低リンビーグル・コッカー
シュウ酸カルシウム✕ 不可(手術のみ)低シュウ酸・適切カルシウムミニチュアシュナウザー
尿酸塩△ 一部可能低プリン体ダルメシアン

慢性腎臓病(CKD)

慢性腎臓病は腎機能が徐々に低下する進行性疾患で、シニア犬に最も多い疾患のひとつです。一度失われた腎機能は回復しないため、進行をいかに遅らせるかが治療の目標になります。

腎臓病のIRISステージと対応

ステージクレアチニン(犬)治療方針
1<125μmol/L定期モニタリング・水分確保
2125〜250μmol/L腎臓病食・血圧管理・リン制限
3251〜440μmol/L積極的医療管理・補液・EPO投与
4>440μmol/L緩和ケア・食欲刺激・QOL維持

腎臓病の食事管理

  • タンパク制限:BUN上昇を抑制。ただしステージ1では過度の制限は不要
  • リン制限:腎臓病進行の主因のひとつ。腎サポート処方食の多くは低リン設計
  • ナトリウム制限:血圧管理・体液過剰防止
  • 水分十分に:ウエットフード・水飲み場を複数設置。1日体重1kgあたり60〜80mLが目標
  • 推奨療法食:ロイヤルカナン腎臓サポート・Hills k/d・Prescription Diet

尿毒症

腎臓の機能が著しく低下し、老廃物(尿素窒素・クレアチニン等)が血中に蓄積した状態が尿毒症です。口臭が強い(アンモニア臭)・嘔吐・食欲廃絶・神経症状(痙攣・震え)・昏睡が末期症状です。

急性腎不全による尿毒症は積極的な輸液療法で回復することがありますが、慢性腎不全末期の尿毒症は予後不良です。苦痛を最小化する緩和ケアが中心になります。

前立腺疾患(未去勢オス犬)

未去勢オス犬は前立腺肥大症になりやすく、排尿困難・血尿・便秘を引き起こします。去勢手術により大幅に改善します。前立腺がんは去勢済みでも発生することがあり要注意です。

各疾患の詳細記事

よくある質問(FAQ)

Q. 犬に血尿が出ました。どうすれば?

A. 血尿はすぐに動物病院を受診してください。膀胱炎・尿路結石・腫瘍・腎臓病など様々な原因があります。尿を採取(起き抜けの中間尿が理想)して持参すると診断がスムーズです。排尿が全くできない場合は尿道閉塞の可能性があり救急扱いです

Q. 犬が水をたくさん飲むようになりました。病気ですか?

A. 多飲多尿(体重1kgあたり100mL以上/日が目安)は慢性腎臓病・糖尿病・クッシング症候群・副腎疾患などのサインになることがあります。必ず血液検査・尿検査を受けてください。夏の暑さや運動後は自然に増えますが、それ以外で増えた場合は要注意です。

Q. 腎臓病の犬に手作り食を与えてもいいですか?

A. 獣医師の指導のもとであれば可能ですが、リン・タンパク・ナトリウムの管理が非常に難しいです。栄養バランスを崩すリスクがあるため、まずは腎臓病用療法食(ロイヤルカナン腎臓サポート・Hills k/d等)から始めることを強くお勧めします。

Q. 膀胱炎は自然に治りますか?

A. 軽度の場合は水分摂取増加で自然軽快することもありますが、細菌性膀胱炎は抗生物質が必要です。放置すると腎盂腎炎(腎臓への感染波及)に悪化する可能性があり、適切な治療を受けてください。

参考文献: IRIS Staging of CKD(2023年改訂版)/ Lulich JP et al. ACVIM Consensus Recommendations on Diagnosis and Treatment of Urolithiasis in Dogs and Cats(2016)

犬の泌尿器疾患 排尿チェック表|毎日確認すべき4項目

犬の泌尿器疾患は、日常の排尿を注意深く観察することで早期発見につながります。毎日のトイレタイムを「健康チェックの機会」と捉え、以下の4項目を確認しましょう。

①排尿の頻度:成犬の排尿回数は1日3〜5回が目安です。急に頻尿になった(何度もトイレに行くのに少量しか出ない)場合は膀胱炎や尿道炎の可能性があります。逆に排尿回数が減った場合も腎機能低下のサインになり得ます。②尿の色と透明度:健康な尿は薄黄色〜黄色で透明です。赤色・ピンク色の場合は血尿(膀胱炎・尿石症・腫瘍)、茶色〜オレンジ色の場合は肝臓疾患、白く濁っている場合は細菌感染の疑いがあります。③排尿時の様子:いきんでいる・排尿時に鳴く・途中で止まるなどの様子が見られたら、尿道閉塞や尿石症の可能性があります。特にオス犬は尿道が細いため閉塞リスクが高く、排尿できない状態は数時間で命に関わります。④1日の尿量:体重1kgあたり20〜45mlが正常範囲の目安です。多飲多尿(水をよく飲み尿量も多い)は腎臓病・糖尿病・副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)などのサインです。

犬の尿石症(ストルバイト・シュウ酸カルシウム)療法食の違い

犬の尿石症でよく見られる結石は「ストルバイト結石」と「シュウ酸カルシウム結石」の2種類です。この2つは性質が全く異なるため、食事管理のアプローチも正反対になります。

ストルバイト結石:アルカリ性尿で形成される結石で、細菌感染との関連が深いです。メスに多く見られ、療法食で尿pHを酸性寄り(6.0〜6.5)に調整することで溶解できる場合があります。低マグネシウム・低リンのフードが推奨されます。代表的な療法食:ヒルズ「s/d(エスディー)」、ロイヤルカナン「ユリナリーS/O」など。シュウ酸カルシウム結石:酸性尿で形成されやすく、一度できると療法食では溶解できないため手術や内視鏡での除去が必要です。オスの高齢犬に多い傾向があります。予防には尿を中性〜弱アルカリ性(6.5〜7.0)に保ち、カルシウムとシュウ酸の摂取バランスを整えることが重要です。ビタミンCの過剰摂取は体内でシュウ酸に変換されるため注意が必要です。重要:どちらの結石かは尿検査・X線・エコーで診断する必要があり、自己判断での療法食選択は逆効果になる場合があります。必ず獣医師の診断に基づいて食事を選びましょう。

泌尿器疾患の予防に大切な水分補給とトイレ習慣

犬の泌尿器疾患の多くは、適切な水分補給と規則的なトイレ習慣で予防・再発防止が可能です。日常生活でできる対策を実践しましょう。

水分補給の重要性と目標量:犬が1日に必要な水分量は体重1kgあたり約50〜70mlです(運動量・気温により変動)。十分な水分摂取により尿が希釈され、細菌の増殖を抑え、結石成分の濃縮を防ぎます。水を自発的に飲まない犬には、飲み水の容器を複数箇所に置く、常に新鮮な水を用意する、ぬるま湯を与えるなどの工夫が有効です。ウェットフードの活用:ドライフードの水分含有量は約10%ですが、ウェットフードは約70〜80%を含みます。泌尿器疾患のリスクが高い犬や、水を飲む量が少ない犬には、ドライフードにウェットフードを混ぜる、または少量のぬるま湯をかけてふやかして与える方法が効果的です。トイレ習慣の整備:尿を長時間ためることは膀胱炎のリスクを高めます。1日3〜4回以上のトイレの機会を確保しましょう。特に在宅時間が長い場合はペットシートを活用し、いつでも排尿できる環境を整えることが重要です。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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