「愛犬の目が白くなってきた」「最近暗いところでよくぶつかるようになった」——これらは犬の白内障のサインかもしれません。犬の白内障は加齢や糖尿病などが原因で起こる目の病気で、進行すると失明に至ります。この記事では白内障の原因・進行ステージ・手術の費用・手術しない場合の管理まで詳しく解説します。
犬の白内障とは?水晶体が白く濁る原因
白内障とは、目の中にある「水晶体(レンズ)」が白く濁る病気です。水晶体はタンパク質(クリスタリン)と水分で構成されており、通常は透明です。何らかの原因でこのタンパク質が変性・凝集すると白く濁り、光が網膜に届きにくくなって視力が低下します。
犬の白内障の主な原因には以下があります。
遺伝性白内障は最も多い原因で、特定の犬種で若齢(1〜5歳)から発症します。好発犬種としてはアメリカン・コッカースパニエル、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、シベリアン・ハスキー、プードル、ミニチュア・シュナウザーなどがあります。
加齢性白内障は8〜10歳以上の高齢犬で見られます。ただし老犬に見られる「核硬化症(核性白内障)」は白内障と似た外見ですが視力低下が軽度で別の疾患です。核硬化症は瞳孔が白っぽく見えますが、光をあてると奥が見えます。
糖尿病性白内障は犬の白内障の重要な原因です。血糖値が高い状態が続くと水晶体内にソルビトール(糖アルコール)が蓄積し、浸透圧の変化で水晶体が急速に混濁します。糖尿病犬では診断後数週間〜数か月で白内障が発症することがあります(詳しくは後述)。
その他、外傷性白内障(眼への打撲・異物)、ぶどう膜炎後白内障(炎症による水晶体変性)、放射線照射後などでも白内障が起こります。
白内障の進行ステージ(初期〜成熟・過熟)
白内障は進行度合いによって4段階に分類されます。
- 初期白内障(incipient cataract):水晶体の混濁が全体の15%未満。視力への影響は軽微で、飼い主が気づかないことも多い。スリットランプなどの眼科検査でわかる
- 未熟白内障(immature cataract):混濁が15〜99%。視力は低下するが残存視力がある。水晶体がまだ部分的に透明な部分を持つ状態
- 成熟白内障(mature cataract):水晶体が完全に白く混濁し、視力はほぼ失われる。目が真っ白に見える状態
- 過熟白内障(hypermature cataract):水晶体タンパクが液化し、水晶体が縮小することがある。液化したタンパクが眼内に漏れ出してぶどう膜炎や緑内障を引き起こすリスクが高く、失明・眼球摘出につながることもある
初期・未熟白内障の段階で手術を検討することが、最もよい術後視力と術後合併症予防の点から推奨されます。成熟以降になると手術の難易度が上がり、術後の炎症リスクも高まります。
治療法|手術(超音波乳化吸引術)の適応と費用
白内障を根本的に治療できる唯一の方法は手術です。手術によって混濁した水晶体を取り除き、人工レンズ(眼内レンズ:IOL)を挿入することで視力の回復が期待できます。
超音波乳化吸引術(Phacoemulsification)は現在の標準術式で、超音波で水晶体を乳化・吸引して除去した後、折りたたみ可能な人工レンズを挿入します。切開が小さく回復が早い術式です。
手術の適応条件:
- 網膜機能が保たれていること(ERG:網膜電図で確認)
- 眼内炎症(ぶどう膜炎)がコントロールされていること
- 緑内障を発症していないこと
- 全身麻酔に耐えられる全身状態であること
手術の費用は片眼で20〜35万円程度、両眼で30〜50万円程度が目安です(病院・地域によって異なります)。術前検査(ERG・眼科検査・全身検査)で5〜10万円程度が別途かかることが多いです。手術後も点眼薬・定期検査が生涯続きます。
手術後の成績:手術直後の視力回復率は約90〜95%と高い数字ですが、術後管理(点眼)をしっかり続けることが重要です。術後合併症として網膜剥離、眼内レンズの脱臼、後発白内障、緑内障などがあります。
手術しない場合の管理|点眼薬・進行を遅らせる工夫
手術ができない場合(全身状態が悪い、費用が難しい、高齢で麻酔リスクが高いなど)でも、以下の管理で白内障の進行を遅らせ、QOLを維持することができます。
抗酸化点眼薬(N-アセチルカルノシン含有点眼薬など)が市販されており、酸化ストレスによる水晶体の変性進行を抑える効果が期待されています。完全な予防・回復はできませんが、初期白内障での進行抑制効果が期待されます。
ぶどう膜炎の管理は非常に重要です。白内障があるとぶどう膜炎が起こりやすく、ぶどう膜炎が白内障の進行を加速させるという悪循環があります。ステロイド点眼薬(プレドニゾロン点眼)やNSAIDs点眼薬でぶどう膜炎をコントロールすることで、白内障の進行を遅らせることができます。
生活環境の工夫として、家具の配置を変えない(視力が低下しても慣れた配置なら動ける)、角の鋭い家具にはカバーをする、外出時はリードを短めに持つ、口笛・音や触覚・嗅覚を使ったコミュニケーションを強化するなどの対応が役立ちます。視力が低下した犬は聴覚・嗅覚・触覚で補償できるため、よく慣れた環境なら意外と元気に生活できます。
糖尿病性白内障|血糖コントロールとの関係
犬の糖尿病は白内障の重要な原因のひとつです。糖尿病犬の約75%が診断後1年以内に白内障を発症するとの報告があります。これは人の糖尿病性網膜症とは異なり、犬では水晶体の変性(白内障)が主要な眼合併症です。
血糖値が高い状態が続くと、水晶体内の代謝経路(アルドース還元酵素経路)が活性化され、グルコースからソルビトールが産生されます。ソルビトールは水溶性が高いため水晶体内に蓄積し、浸透圧の変化で水が流入して水晶体繊維が膨張・崩壊します。この変化は非常に速く、数日〜数週間で成熟白内障に至ることもあります。
糖尿病性白内障の予防・管理の最大のポイントは血糖コントロールです。インスリン療法で血糖値を安定させることで、白内障の発症を遅らせることができます。すでに白内障になってしまった場合でも、手術前に血糖を安定させておくことが手術成功率・術後経過に影響します。