がんは人間と同じように、犬にとっても非常に恐ろしい病気です。
がんの治療は抗がん剤などの治療だけではなく、日々の生活、特に食事の管理が大きく関連します。
愛犬がガンを罹った場合、栄養管理は治療の成果に直結する重要な要素となります。
この記事では、がんに罹った愛犬の栄養管理の重要性と、具体的な食事対策について詳しく解説します。
犬の悪性腫瘍(ガン)
まず良性腫瘍と悪性腫瘍(ガン)の違いについてお話ししなければいけません。
良性と悪性の違いは転移するかどうかです。
悪性腫瘍は、転移によって他の臓器や組織に広がります。特にリンパ節に転移している場合は、かなり進行しており、寿命も短くなります。
それでは犬の悪性腫瘍にはどのようなものがあるのでしょうか?
リンパ腫
リンパ腫は血液細胞のリンパ球ががん化する病気です。
リンパ球はリンパ節のみならず、体の様々な部分に存在しているため、リンパ腫も体のあちこちにできてしまいます。
最も多く起こるリンパ腫は、リンパ節が腫れる多中心型リンパ腫です。基本的に手術をしても治ることはなく、CHOPなどと呼ばれる様々な抗がん剤を組み合わせて使用する治療を行います。
肥満細胞腫
犬の肥満細胞腫は最も多い犬の皮膚・皮下腫瘍で、全体の20%を占めています。
基本的に肥満細胞腫は悪性であり、早期に発見し切除すれば完治しますが、放っておくとリンパ節や内臓(胃腸、脾臓、肝臓)に転移してしまう厄介な腫瘍です。
肥満細胞は元来、免疫反応や炎症反応に関係する血液中の細胞で、たとえば花粉症などは肥満細胞によって引き起こされる化学反応です。この肥満細胞が腫瘍化すると肥満細胞腫になってしまいます。
肥満細胞腫が遠隔転移し、末期になると血液の凝固不全、アナフィラキシーショック、肺水腫などといった腫瘍随伴症候群を引き起こし、亡くなってしまうことがあります。
以下の記事で肥満細胞腫について総まとめしています。
メラノーマ
メラノーマは犬の全悪性腫瘍の7%を占めており、粘膜にできる腫瘍ですが、非常に浸潤性が高く、軟部組織や骨にまで広がることがあります。
皮膚にできるメラノーマはほとんどが良性腫瘍です。他には、口の中・目・足・爪床にできることがありますが、これらの部位にできた場合は多くの場合は悪性であることがほとんどです。
特に口の中にできたメラノーマの場合、余命は数ヶ月にも満たないことがほとんどです。
以下の記事でメラノーマについて総まとめしています。
炭水化物はがん細胞の餌
がん細胞はエネルギーとして糖分を使います。それによって、がんに罹った愛犬は炭水化物を消費し、体重が減ったり筋肉が萎縮したりすることがあります。
栄養管理としては、炭水化物の摂取を控えることが大切です。
その代わりに、脂肪分やたんぱく質を含む食事を増やし、エネルギーがたくさんある食事を選ぶことで、エネルギーが不足しないようにし、がん細胞の増加を抑制します。
特に、オメガ-3系不飽和脂肪酸を含む食事は、炎症を抑える効果があるとされています。
タンパク質とがん細胞
タンパク質は私たちの身体の大切な構成要素で、がん細胞の増殖にも関わります。
がんに苦しむワンちゃんは、治療や症状で食欲がなくなりやすいため、タンパク質をしっかりと摂取することが大切です。
バランスの良いタンパク質が含まれた食事は、免疫力の維持やお腹の健康に役立ち、がん細胞の増殖を抑える効果も期待できます。
脂質代謝とがんの関係
がんを患ったワンちゃんでは、脂質の代謝にも影響が出てきます。
体内の脂肪が分解されやすくなり、一方で新たな脂肪が作られにくくなるため、体脂肪が減少してしまいます。しかし、一部のがん細胞は脂質をエネルギーとして利用しきれないため、適切な脂質の摂取が必要です。
特に、オメガ-3系の不飽和脂肪酸が含まれた食事は、炎症を抑えたり免疫力を強化したりする効果があります。
一方、オメガ-6系の不飽和脂肪酸は、がん細胞の成長を促す可能性があるため、摂取量には気を付ける必要があります。ワンちゃんの健康を守るために、バランス良く脂質を摂取することを心掛けましょう。
がん悪液質の対策
がん性悪液質は、がんの影響で生じる重度の栄養失調の状態を指します。がんの治療や副作用により、食欲が低下し、栄養が不足することがあります。
これが免疫力の低下や創傷治癒の遅延につながり、がん治療への反応を弱めてしまいます。
このような状況を克服するためには、手作りの食事や経腸栄養法などが考えられます。
手作りの食事は、ワンちゃんの好みや体調に合わせて栄養バランスを調整できます。
また、経腸栄養法は食事の摂取が難しい場合でも栄養を補給できる効果的な方法となります。
獣医師の指導の下、ワンちゃんに合った方法を選び、しっかりと栄養を摂るようにしましょう。
ガンを患う犬への体重管理
がんにより体重が減少しがちなワンちゃんにとって、体重を適切に管理することはとても重要です。
体重が過度に減ると、治療の効果や生存率に悪影響を及ぼす可能性があります。
ですので、がんの場合にはエネルギーが豊富なフードを選ぶ必要があります。エネルギーが豊富なフードは、食事量が少なくても必要なエネルギーが摂取できます。
ドッグフードの栄養バランス
がんを患っているわんちゃんのご飯では、炭水化物、タンパク質、脂質のバランスが大切となります。
炭水化物が多いと、がんの細胞が活発になる一方で、わんちゃんの体力を奪ってしまいます。ですから、炭水化物の量は少なめにすることをお勧めします。
それに対し、脂質やタンパク質は、がんの細胞の活動を抑えて、免疫力を上げたり、体を修復する力を引き出します。
特に、オメガ-3系の不飽和脂肪酸は炎症を抑える働きがありますので、上手に取り入れましょう。
これらのバランスを考えたご飯をあたえることで、わんちゃんの体調管理と治療の効果を高めることが可能です。
ビタミンについて
ビタミンは、がんを抱えるわんちゃんの体を健康に保つために必要な栄養素です。
ビタミンAは細胞の増殖や免疫力に関与し、がん細胞の活動を抑えます。ビタミンEは体の免疫力を上げ、がん細胞の増えるのを抑える効果があります。
ただし、ビタミンを多すぎると逆に体に良くない影響を及ぼすこともあります。どのビタミンをどれくらい与えるかは、獣医さんのアドバイスを受けながら、適切なビタミン補助食品を選んであげてください。
サメの軟骨はガンに効く?
サメ軟得は、ガンが大きくなることを防ぐ効果があるとされていますが、実際のところどうなのでしょうか?
答えとしては、ガンに対する効果のメカニズムは不明で、犬や猫における抗腫瘍効果についてもエビデンスは全くありません。
そのため、サメ軟骨がガンに効くことは考えにくく、ガンを患う愛犬へ与えるメリットはありません。
食欲がないときの対策と手作りご飯
がんの治療や副作用で、食欲がなくなることがあります。そのようなときは、手作りのご飯がおすすめです。わんちゃんの好きなものや、体調に合わせて料理ができますので、食欲を引き出す助けになります。
わんちゃんが好きな食材を使って、栄養豊富なご飯を作ってあげることで、食欲が戻り、体力や免疫力を保つ助けとなります。また、経管栄養法を使うことで、食事を口から食べるのが難しいときでも、栄養をしっかりと摂ることができます。
経腸栄養法
経腸栄養法は、口から食べるのが難しいわんちゃんにとって、大変有効な栄養補助方法です。経腸栄養法を適切に活用するために、以下のポイントをおさえてみてください。
1. 獣医さんのアドバイスを聞く: 経腸栄養法は専門的な知識が必要なので、獣医さんからしっかりと指導を受けることが大切です。
2. ご飯の選び方: 経腸栄養法では、ご飯を水で希釈し、チューブに流し込みやすいようにします。わんちゃんの体調に合った、栄養価の高いご飯を選んでください。
3. チューブのメンテナンス: チューブを通じてわんちゃんが栄養を摂るため、清潔に保つことが大切です。
4. 生活の質(QOL)を大切に: 長い期間、経腸栄養法を行うことがあるので、わんちゃんのQOLを第一に考え、最適な方法を選んでください。
がん細胞の増殖を抑制する食べ物
がんの予防は治療法の中でも非常に重要なもので、まずはがんが発症する前に防ぐことが大切です。
その一環として、愛犬の食事に加えることでがんの予防に役立つ食品について考えてみましょう。
以下に紹介する食品は、愛犬が安全に食べることができ、さらにがんの予防に役立つとされています。
魚油
青魚に含まれる魚油は、健康な犬だけでなく、がんの予防にも役立つ素晴らしい食品です。
魚油にはオメガ3脂肪酸とビタミンD3が豊富に含まれており、これらは炎症を抑え、さらにはがん腫瘍の成長を遅らせる効果があるとされています。
また、健康な犬に対しては毛皮を艶やかにし、皮膚の乾燥を防ぐ効果もあります。
動物性タンパク質
タンパク質は、愛犬が元気に過ごすために欠かせない栄養素で、筋肉を保つだけでなく、免疫力を高める働きもあります。
がんがない状態の犬の食事でも重要な役割を果たしますが、もしもがんが発見された場合には、その重要性がさらに増します。
がん細胞は犬の体内のタンパク質を利用して成長します。だからこそ、がんを抑制するためには、犬に多くのタンパク質を与えることが大切なのです。
さらに、フルーツや野菜もお勧めです。
ブルーベリー/ブラックベリー
色の濃いベリー類、特にブルーベリーやブラックベリーには、抗酸化物質が豊富に含まれています。
これらの抗酸化物質は、がんの発症を予防する働きがあります。特にブラックベリーは、抗酸化物質を豊富に含む食品として、米国農務省(USDA)から高い評価を受けています。
ブロッコリー
ブロッコリーはとても健康的な野菜で、食物繊維、カルシウム、カリウム、タンパク質、ビタミンなどが豊富に含まれています。
これらの成分は抗炎症作用や抗微生物作用を持ち、また免疫システムを強化し、がん細胞と戦う助けにもなります。
カボチャ
カボチャはβ-カロテンとビタミンAが豊富で、これらは抗酸化作用を持っています。
つまり、体内で発生する有害な物質(自由ラジカル)によって引き起こされる心臓病や炎症、白内障、そしてがんなどのリスクを軽減する働きを持ちます。
ウコン
ウコンは、次第に健康食品として認識されてきた食材で、人間だけでなく動物にも良い影響を及ぼします。
特に注目すべきはウコンに含まれる「クルクミン」という成分で、これががんの発症を予防する働きがあるんです。さらにウコンとココナッツオイルを一緒に摂取すると、体内でのクルクミンの吸収が上がるとされています。
ココナッツオイル
ココナッツオイルは、犬が喜んで食べる健康的な脂肪源です。
良質な脂肪は、犬が他の食物から栄養を得るのを助ける働きがあり、特にココナッツオイルは植物由来のステロールを含んでいます。これはコレステロールの吸収を防ぐ助けとなるのです。
リンゴ
リンゴには、がん細胞が成長するのを防ぐ力があると言われています。
具体的には、新しい血管が作られるのを防ぎ、これががん細胞が増えるのを妨げるのです。リンゴに含まれる特殊な成分がこの作用を担っています。
これらの食物が愛犬の健康に良い影響を及ぼすことを理解し、犬の食事に組み入れることで、がんの予防や進行の抑制に役立てることができます。
本記事のまとめ
愛犬ががんに罹った場合、適切な栄養管理は治療成果を大きく左右します。
がん細胞のエネルギー源となる糖分を制限し、代わりに脂肪分やたんぱく質を摂ることで、がん細胞の増加を抑制し、体の修復を早めることが可能です。特に、オメガ-3系の不飽和脂肪酸は炎症を抑える効果があります。
また、ビタミンや適切なサプリメントの摂取も重要ですが、その摂取量は獣医師のアドバイスに基づいて選ぶべきです。
食欲が低下する場合も、手作りの食事や経腸栄養法などを利用することで栄養補給は可能です。