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【獣医師解説】犬の腎臓病(慢性腎臓病・CKD)完全まとめ|症状・食事・余命・治療法を徹底解説

愛犬が「腎臓病」「CKD」と診断されたとき、飼い主さんは何から調べればいいのか途方に暮れることがあります。このページでは、犬の慢性腎臓病(CKD)について、症状・診断・治療・食事・余命まで獣医師監修のもと網羅的に解説します。

犬の腎臓病とは?CKDの定義とIRISステージ分類

犬の慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)とは、腎臓の機能が3か月以上にわたって低下した状態を指します。腎臓は血液をろ過して老廃物を尿として排出するだけでなく、血圧調整・赤血球産生促進ホルモン(エリスロポエチン)の分泌・カルシウム・リンのバランス維持など多くの重要な機能を担っています。

腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、機能が70〜75%失われるまで明確な症状が現れないことが多く、気づいたときには相当進行しているケースも珍しくありません。そのため早期発見・早期介入が予後を大きく左右します。

IRISステージ分類とは

国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)は、血清クレアチニン値およびSDMA値をもとに犬のCKDを4つのステージに分類しています。

ステージクレアチニン(mg/dL)SDMA(µg/dL)状態の目安
ステージ1<1.4<18腎機能低下の兆候あり、症状ほぼなし
ステージ21.4〜2.818〜35軽度の腎機能低下、軽い症状の可能性
ステージ32.9〜5.036〜54中等度の腎機能低下、症状が顕在化
ステージ4>5.0>54重度の腎機能低下、尿毒症リスク大

さらにIRISでは、尿タンパク(UPC比)による「サブステージング(タンパク尿区分)」と収縮期血圧による「高血圧サブステージング」も行い、治療方針の決定に活用します。

SDMAはクレアチニンよりも早期に腎機能低下を検出できるバイオマーカーとして近年注目されており、SDMA値が上昇し始めた段階(腎機能が25〜40%低下した時点)から介入できる可能性があります。

犬の腎臓病の症状チェックリスト|初期・中期・末期の違い

腎臓病の症状は進行度によって大きく異なります。以下のチェックリストを参考に愛犬の状態を確認してください。

初期症状(ステージ1〜2相当)

  • 水をよく飲む(多飲)
  • 尿の量が増える(多尿)
  • 尿の色が薄い(薄黄色〜ほぼ透明)
  • 食欲がわずかに落ちる
  • 体重が少しずつ減少している

初期はこれらの変化が緩やかなため、「老化のせいかな」と見過ごされやすいのが特徴です。7歳以上のシニア犬では年1〜2回の血液検査・尿検査を習慣化することが重要です。

中期症状(ステージ2〜3相当)

  • 食欲不振が明確になる
  • 嘔吐・下痢が増える(老廃物蓄積による消化器症状)
  • 口臭が強くなる(アンモニア臭・尿毒症性口臭)
  • 元気がなく横になっている時間が増える
  • 体重減少が顕著になる
  • 被毛のツヤがなくなる

末期症状(ステージ4・尿毒症)

  • ほとんど食べない・飲まない
  • 頻繁な嘔吐・吐き気
  • ふらつき・歩行困難
  • けいれん(尿毒症性脳症)
  • 口の中に潰瘍が生じる
  • 貧血(歯茎・結膜の蒼白)
  • 尿量が極端に減る(乏尿)または止まる(無尿)

末期の症状が出た場合はすぐに動物病院への受診が必要です。入院・集中的な点滴治療が必要になることがほとんどです。

犬の腎臓病の診断方法|血液検査・尿検査・エコーの見方

腎臓病の診断は複数の検査を組み合わせて行います。一つの数値だけで判断するのではなく、総合的に評価することが重要です。

血液検査で確認する項目

  • クレアチニン(Cre):筋肉代謝の産物。腎臓でろ過・排泄されるため、腎機能低下で上昇する。ただし筋肉量が少ない犬では低く出ることがある。
  • BUN(血液尿素窒素):タンパク質代謝の産物。腎機能のほか食事タンパク量・脱水にも影響される。
  • SDMA(対称性ジメチルアルギニン):腎機能の早期マーカー。筋肉量の影響を受けにくく、より早期から上昇する。
  • リン(P):腎機能低下で排泄が低下し上昇する。腎臓病の進行と相関が高い。
  • カリウム(K):腎臓病では低下することが多い(低カリウム血症)。
  • HCT(ヘマトクリット)・赤血球数:腎性貧血の評価に使用。

尿検査で確認する項目

  • 尿比重:腎臓の濃縮能力の指標。1.030未満(犬)は濃縮障害を示唆。1.008〜1.012付近(等張尿)は重度の機能低下を示す。
  • UPC比(尿タンパク/クレアチニン比):0.5以上でタンパク尿と判定。腎臓のダメージを反映。
  • 尿沈渣:円柱・細胞成分を確認。

画像検査(超音波・レントゲン)

腹部超音波検査では腎臓の大きさ・形・エコー輝度・腎盂拡張の有無などを確認します。CKDでは腎臓が萎縮し、皮質と髄質の境界が不明瞭になる「高輝度腎」が見られることがあります。腎結石・水腎症・腫瘍の除外にも重要です。

犬の腎臓病の治療法|薬・皮下点滴・食事療法

現在のところ、慢性腎臓病を根本的に治す方法はありません。治療の目的は「腎機能の低下速度を遅らせること」「症状をコントロールして生活の質(QOL)を維持すること」の2点です。

薬物療法

  • リン吸着剤(炭酸ランタン、水酸化アルミニウムなど):食事中のリンを腸で吸着し、血中リン上昇を抑制。ステージ2以上で使用されることが多い。
  • 降圧薬(エナラプリル等ACE阻害薬・テルミサルタン等ARB):タンパク尿を減らし腎保護作用がある。高血圧合併例に特に有効。
  • 制吐薬・胃腸薬(マロピタント、オメプラゾールなど):尿毒症による嘔吐・食欲不振の緩和。
  • エリスロポエチン製剤(ダルベポエチン):腎性貧血に対して使用。重度の貧血(HCT 20%以下が目安)で検討。
  • カリウム補給(グルコン酸カリウムなど):低カリウム血症がある場合に補給。
  • 腸管リン吸収抑制薬・活性炭(クレメジン):尿毒症物質を腸内で吸着。

輸液療法(皮下点滴・静脈点滴)

腎臓病の犬は水分を多く失いやすく、脱水が腎機能をさらに悪化させます。脱水の改善・維持には輸液療法が非常に有効です。

  • 静脈点滴(入院):急性増悪時・重度の脱水・尿毒症クライシス時に行う集中的な治療。
  • 皮下点滴(自宅):ステージ3〜4になると自宅での皮下輸液を推奨されることが多い。100〜200mLを週2〜5回程度実施。慣れれば飼い主さんが自宅でできるようになる。

食事療法

食事管理は腎臓病治療の柱の一つです。腎臓病用処方食を活用し、タンパク質・リン・ナトリウムを制限することで腎臓への負担を軽減します(詳細は次のセクションで解説)。

腎臓病の犬の食事管理|低タンパク・低リン食の基本

腎臓病の食事療法において最も重要なのは「リン制限」と「適切なタンパク質制限」です。

なぜリン制限が重要なのか

腎機能が低下すると、余分なリンを尿として排泄できなくなり、血中リン濃度が上昇します(高リン血症)。高リン血症は二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こし、骨からカルシウムが溶け出すことで腎臓をさらに傷つける悪循環(腎性骨異栄養症)をもたらします。リン制限は腎臓病の進行を遅らせる最も有効な食事介入の一つです。

目標血中リン濃度は、IRISステージ1〜2で2.7〜4.6 mg/dL、ステージ3で2.7〜5.0 mg/dL、ステージ4で2.7〜6.0 mg/dLとされています。

タンパク質制限の考え方

タンパク質を過剰に摂取すると代謝産物(BUNなど)が増加し、腎臓への負担が増します。しかし制限しすぎると筋肉量・免疫機能の低下につながるため、「高品質なタンパク質を適切な量」摂取することが重要です。腎臓病用処方食は生物価の高いタンパク質を使用しながらも量を調整しています。

市販の腎臓病用処方食の例

  • ロイヤルカナン 腎臓サポート(ドライ・ウェット)
  • ヒルズ k/d(Kidney Care)
  • ユーカヌバ 腎臓病用
  • アニモンダ インテグラ プロテクト 腎臓ケア

処方食への切り替えは急激に行わず、1〜2週間かけて徐々に移行することで食欲低下を防ぎます。食欲が落ちている場合は、まず食べてもらうことを優先しながら処方食への移行を試みます。

水分摂取の重要性

腎臓病の犬は常に脱水リスクがあります。ウェットフードの活用・複数箇所への水皿設置・自動給水器の使用・ぬるま湯をフードにかけるなどで積極的に水分摂取を促しましょう。

犬の腎臓病の余命・予後|IRISステージ別の目安

腎臓病と診断されたとき、飼い主さんが最も気になるのが「あとどれくらい生きられるのか」という点でしょう。ただし、余命はステージだけでなく犬種・年齢・合併症・治療への反応など多くの要因に左右されます。あくまでも目安としてご理解ください。

IRISステージ別の予後目安

  • ステージ1〜2:早期発見で適切な管理を行えば、数年単位で安定した生活が可能なケースも多い。定期的なモニタリングと食事管理が鍵。
  • ステージ3:数か月〜1〜2年程度が目安とされることが多いが、治療・食事管理・皮下輸液によりQOLを維持しながら過ごせるケースも少なくない。
  • ステージ4:数週間〜数か月の場合が多いが、積極的な治療により状態が改善し余命が延びることもある。

大切なのは「余命」という数字より、残された時間の「質」です。痛みや不快感を最小限にしながら、食べたい・遊びたい・家族と過ごしたいという欲求を満たしてあげることが緩和ケアの核心です。

予後を改善するためにできること

  • 定期的な通院・血液検査(月1回〜3か月に1回)
  • 腎臓病用処方食の継続
  • リン吸着剤・降圧薬などの投薬を欠かさない
  • 自宅での皮下輸液(獣医師の指示のもと)
  • 体重・飲水量・尿量の記録
  • ストレスを減らし安定した環境を維持する

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犬の腎臓病についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。


【専門家監修】犬の腎臓病 完全対策LP|診断から在宅ケアまで — より詳しいケア方法・Q&Aはこちらの特設ページをご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 犬の腎臓病は完治しますか?

慢性腎臓病(CKD)は現在の医学では完治が難しい病気です。ただし、適切な治療と食事管理により進行を遅らせ、長期間にわたってQOLを維持することは十分に可能です。急性腎障害(AKI)は原因を除去することで機能が回復するケースもあります。

Q2. 犬の腎臓病はどのくらいの頻度で検査が必要ですか?

IRISステージによって異なりますが、ステージ1〜2では3〜6か月ごと、ステージ3〜4では1〜3か月ごとの検査が推奨されます。体調の変化があればすぐに受診しましょう。

Q3. 腎臓病の犬に手作り食を与えてもいいですか?

手作り食は可能ですが、リン・タンパク質・ナトリウムの量を正確にコントロールする必要があり、かなりの知識と手間が必要です。獣医師や獣医栄養士に相談しながら行うことをおすすめします。まずは腎臓病用処方食からスタートするのが安全です。

Q4. 皮下点滴は自宅でできますか?

獣医師の指導のもと、多くの飼い主さんが自宅での皮下点滴を行っています。最初は病院でやり方を教わり、器具・消耗品を処方してもらいます。愛犬が嫌がらない体制を作ることがコツで、慣れると5〜10分程度で完了します。

Q5. 腎臓病の犬に市販のおやつを与えてもいいですか?

一般的なおやつはリン・タンパク質・塩分が多く含まれているため、腎臓病の犬には原則として避けるべきです。どうしてもおやつをあげたい場合は、腎臓病対応のおやつを獣医師に相談して選びましょう。白米の炊いたものや白身魚の蒸し煮など低リン・低タンパクのものを少量与える飼い主さんもいます。

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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