「血液検査でALTが高いと言われた」「肝臓が悪いと診断されたが何を食べさせればいい?」「特定の犬種は肝臓病になりやすいと聞いた」——肝臓疾患は犬で非常に多く見られますが、症状が出にくいため発見が遅れがちです。
この記事では慢性肝炎・銅蓄積性肝炎・肝細胞がん・肝臓数値の見方・食事療法まで、犬の肝臓疾患全体を獣医師監修で解説します。
肝臓の役割:なぜ重要なのか
肝臓は体内最大の臓器で、以下の多くの機能を担っています:
- 解毒:薬剤・アンモニア・有害物質の無毒化
- タンパク合成:アルブミン・凝固因子・免疫タンパクの産生
- 胆汁産生:脂肪の消化を助ける胆汁の分泌
- 代謝:糖・脂肪・アミノ酸の代謝と貯蔵
- グリコーゲン貯蔵:血糖バランスの維持
肝臓は再生能力が高く、かなり障害が進んでも症状が出にくい(肝臓は「沈黙の臓器」)ため、定期的な血液検査が早期発見の鍵です。
血液検査の見方:ALT・ALP・GGT・ビリルビン
| 検査値 | 正常範囲(犬) | 上昇が示す問題 |
|---|---|---|
| ALT(GPT) | 10〜100 U/L | 肝細胞障害(炎症・壊死) |
| ALP | 23〜212 U/L | 胆汁うっ滞・骨疾患・ステロイド投与 |
| GGT | 0〜11 U/L | 胆道疾患・肝臓病 |
| ビリルビン | 0〜0.3 mg/dL | 黄疸(溶血・肝疾患・胆道閉塞) |
| アルブミン | 2.3〜3.5 g/dL | 低下→重度の肝障害・タンパク喪失 |
| 血中アンモニア | 0〜98 μmol/L | 上昇→肝性脳症のリスク |
ALTは肝細胞が壊れるときに血中に漏れ出る酵素で、最も感度が高い肝臓マーカーです。正常値の5倍以上は積極的な精査が必要なサインです。
犬の肝臓疾患の種類
1. 慢性肝炎
最も多い肝臓疾患で、免疫介在性・感染性(レプトスピラ)・薬剤性・代謝性・特定犬種の遺伝性など多くの原因があります。初期は無症状ですが、進行すると黄疸・腹水・肝性脳症が現れます。
主な症状
- 食欲低下・体重減少
- 嘔吐・下痢
- 多飲多尿
- 黄疸(白目・歯茎・皮膚が黄色くなる)
- 腹部膨満(腹水)
- 行動変化・ふらつき(肝性脳症)
2. 銅蓄積性肝炎
銅蓄積性肝炎は肝臓に銅が異常蓄積して障害を起こす疾患で、ベドリントンテリア・ウェスティ・ドーベルマン・コッカースパニエルなどに好発します。
診断は肝生検(銅染色)で確定し、治療はD-ペニシラミン(銅キレート薬)・亜鉛補充(銅吸収阻害)・低銅食が中心です。
3. 門脈体循環シャント(PSS)
生まれつき門脈と全身循環が異常に吻合した状態で、小型犬(ヨークシャーテリア・マルチーズ)に多い。血液が肝臓を通らず解毒されないため、肝性脳症・発育不良・尿酸塩結石が起きます。
4. 肝細胞がん・腫瘍
シニア犬の大型肝臓腫瘤の多くが悪性腫瘍です。肝細胞がん・胆管がん・転移性腫瘍(脾臓がん等からの転移)があります。早期手術(肝葉切除)により長期生存できる例も多く、早期発見が重要です。
肝臓病の食事療法
基本原則
| 栄養素 | 目標 | 理由 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 高品質・中程度(過剰は禁) | アンモニア産生増加を防ぐ。筋肉維持も必要 |
| 脂肪 | 適量(胆汁うっ滞あれば低脂肪) | カロリー確保のため制限しすぎない |
| 炭水化物 | 消化しやすいものを | エネルギー源として肝臓を補助 |
| 亜鉛 | 補充推奨 | 銅吸収を阻害・抗酸化作用 |
| 銅 | 制限(銅蓄積性肝炎では厳格制限) | 肝臓への銅の蓄積を防ぐ |
| ビタミンE・C | 抗酸化補充 | 酸化ストレスによる肝細胞障害を軽減 |
肝臓病に良い食材・悪い食材
| 良い食材 | 悪い食材 |
|---|---|
| 白身魚(タラ・サーモン)、鶏ひき肉、豆腐 | レバー・内臓類(銅・ビタミンA過剰) |
| 白米・うどん・さつまいも | ソーセージ・加工肉(塩分・添加物過多) |
| かぼちゃ・ブロッコリー(少量) | 玉ねぎ・ぶどう・チョコレート(毒性) |
各疾患の詳細記事
- 犬の肝臓の数値が高い原因|ALP・ALT・GGT別の見方と食事・治療法
- 犬の慢性肝炎・肝臓病の食事療法|肝臓を守るドッグフードの選び方
- 犬の肝臓に良い食べ物・悪い食べ物一覧
- 犬の銅蓄積性肝炎|症状・原因・治療・銅制限食の徹底解説
- ロイヤルカナン消化器サポート低脂肪レビュー|膵炎・胆嚢炎・肝臓病の犬に
よくある質問(FAQ)
Q. ALTが正常値の3倍でした。すぐに治療が必要ですか?
A. ALTが正常値の3倍程度は中等度上昇です。一時的な肝臓へのストレス(激しい運動・薬剤等)でも上昇することがあります。まず腹部エコー検査と2〜4週後の再検査で経過を確認してください。繰り返し上昇している場合は肝生検が必要になることがあります。
Q. 肝臓病の犬にレバーを与えてもいいですか?
A. 避けることを推奨します。レバーは銅・ビタミンAが非常に豊富で、銅蓄積性肝炎の犬には特に禁忌です。また過剰なビタミンAは骨格異常を引き起こす可能性があります。白身魚・鶏ひき肉・豆腐などの低銅タンパク源を選んでください。
Q. 犬の黄疸はどんな病気のサインですか?
A. 黄疸(白目・歯茎・皮膚が黄色くなる)は①溶血性貧血(赤血球が壊れる)②肝細胞障害③胆道閉塞のいずれかが原因です。いずれも緊急度が高く、すぐに動物病院を受診してください。
Q. 肝臓病でサプリメントは使えますか?
A. SAMe(アデノシルメチオニン)・シリマリン(ミルクシスル)は肝細胞保護効果があるとされ、獣医師の指導のもとで使用されることがあります。ただし、すべてのサプリメントは肝臓で代謝されるため、必ず獣医師に相談してから使用してください。
参考文献: Webster CRL et al. ACVIM Consensus Statement on the Diagnosis and Treatment of Chronic Hepatitis in Dogs(2019)/ Richter KP. Liver Disease in Dogs(Vet Clinics 2003)
犬の肝臓疾患の初期症状と受診タイミング
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなり障害が進むまで明確な症状が出にくい特徴があります。だからこそ、初期のサインを見逃さないことが重要です。
注意すべき初期症状:①食欲不振・元気消失:最も初期から現れやすい症状で、「なんとなく元気がない日が続く」という状態が数日間続く場合は要注意です。②多飲多尿:水をよく飲み、排尿量も増える場合は肝機能低下の可能性があります。③嘔吐・下痢:特に空腹時の嘔吐(黄色い胆汁の嘔吐)が続く場合は肝臓・胆嚢疾患を疑います。進行時の症状(すぐに受診):黄疸(皮膚・白目・歯茎が黄色くなる)は肝臓や胆管に重大な問題があるサインです。腹水(お腹がぽっこり膨らむ)は重篤な肝硬変や低タンパク血症を示します。肝性脳症(ふらつき・意識がぼんやりする・発作)は肝臓の解毒機能が著しく低下したサインで、緊急治療が必要です。定期検査の重要性:犬が7歳を過ぎたら、症状がなくても年1〜2回の血液検査で肝臓の数値(ALT・ALP・GGT・ビリルビン)を確認することを強くおすすめします。
肝臓病の犬の食事管理|タンパク質の質と量の調整
肝臓病の犬の食事管理は、病気のステージや症状によって異なります。誤った食事管理は症状を悪化させる可能性があるため、必ず獣医師の指示のもとで行いましょう。
タンパク質の質と量の調整:肝臓はタンパク質の代謝に深く関わっているため、肝機能が低下すると不完全に代謝されたアンモニアが脳に悪影響を与える肝性脳症のリスクがあります。ただし、タンパク質を過度に制限すると筋肉量の低下や免疫機能の低下につながるため、「質の高いタンパク質を適切な量で」が基本です。消化しやすく生物価の高い卵・鶏肉(皮なし)・白身魚などが推奨されます。肝臓への負担を減らす食事戦略:脂肪は肝臓に負担をかけるため低脂肪食が基本です。食物繊維(特に発酵性食物繊維)は腸内でのアンモニア産生を抑える効果があります。少量頻回(1日3〜4回)の食事にすることで代謝の負担を分散できます。抗酸化成分(ビタミンE・C)や亜鉛・銅のバランスも重要です(銅蓄積症のある犬では銅制限食が必要)。推奨療法食:ヒルズ「l/d(エルディー)」、ロイヤルカナン「ヘパティックHF16」などが代表的です。
肝臓の数値(ALT・ALP・GGT)の見方と基準値
血液検査で肝臓の状態を確認する際に使われる主な指標について、それぞれの意味と正常範囲を理解しておくと、獣医師との相談がスムーズになります。
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):肝細胞が傷ついたときに血液中に漏れ出す酵素で、肝臓障害の最もポピュラーな指標です。正常値は犬で10〜100 U/L程度(検査機関により異なります)。ALTが正常値の3倍以上になった場合は積極的な検査が必要です。薬物(ステロイドなど)でも上昇することがあります。ALP(アルカリフォスファターゼ):肝臓・胆管・骨・腸などに存在する酵素で、正常値は犬で20〜150 U/L程度。胆管疾患・副腎皮質機能亢進症(クッシング)・骨疾患でも上昇します。成長期の子犬では生理的に高くなることがあります。GGT(γ-グルタミルトランスフェラーゼ):胆管障害の敏感な指標で、正常値は0〜7 U/L程度。ALPとともに上昇している場合は胆管・胆嚢疾患の可能性が高まります。フォローアップ検査の頻度:肝臓疾患と診断された場合は治療開始後1〜2ヶ月で再検査を行い、数値の推移を確認することが一般的です。数値が安定している場合でも3〜6ヶ月ごとのモニタリングを続けることが重要です。