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高齢犬の病気

【獣医師解説】シニア犬(高齢犬)に多い病気まとめ|症状・早期発見・定期健診・日常ケアの全て

「最近うちの子、昼間ずっと寝ている」「食欲が落ちた気がする」「以前より咳をするようになった」——こうした変化は、シニア期に差し掛かった愛犬からのサインかもしれません。

犬は7歳を過ぎると急激に老化が進み、心臓病・関節炎・認知症・貧血・腎臓病・腫瘍など、さまざまな疾患のリスクが高まります。しかし早期に発見し、適切にケアすれば、愛犬が快適に過ごせる時間を大幅に延ばすことができます。

この記事では、獣医師監修のもと、シニア犬に多い病気の種類・初期サイン・検査・治療・日常ケアをすべて解説します。愛犬が何歳であっても、今日からできる対策が必ずあります。

シニア犬とは何歳から?老化のサインを見逃さない

犬の「シニア期」の定義

一般的に犬は7歳以上でシニア(高齢)犬と呼ばれますが、犬種・体型によって老化スピードは異なります。

体型シニア開始目安代表犬種
小型犬7〜8歳チワワ、トイプードル、ミニチュアダックス
中型犬7歳柴犬、ビーグル、ボーダーコリー
大型犬5〜6歳ラブラドール、ゴールデン、シェパード
超大型犬5歳グレートデン、セントバーナード

超大型犬は人間の1年が犬の約7年に相当するとも言われ、特に注意が必要です。

老化の初期サイン チェックリスト

  • □ 以前より散歩を嫌がる・すぐ疲れる
  • □ 階段の上り下りを躊躇する
  • □ 水をよく飲む(多飲)・尿量が増えた(多尿)
  • □ 夜中に鳴く・ぐるぐる歩く
  • □ 食欲にムラがある・体重が減っている
  • □ 咳をする・息が荒い
  • □ 毛並みがパサつく・抜け毛が増えた
  • □ 目やに・白内障のような濁りが出てきた
  • □ 歯茎が白っぽい・青っぽい

2つ以上当てはまる場合は、早めに動物病院で検査を受けることを強くお勧めします。シニア犬の多くの疾患は、早期発見で進行を大幅に遅らせることができます。

シニア犬に多い7大疾患

1. 僧帽弁閉鎖不全症(心臓病)

小型犬のシニア犬に最も多い疾患が僧帽弁閉鎖不全症(MVD)です。心臓の弁がうまく閉じなくなり、血液が逆流することで心臓に負担がかかります。

主な症状

  • 咳(特に夜間・早朝・興奮時)
  • 疲れやすい・運動を嫌がる
  • 呼吸が速い(安静時の呼吸数が1分間40回以上)
  • 腹部が膨らむ(腹水)
  • 失神する

診断・治療

心臓の雑音はACVIM分類でステージA〜Dに分けられます。ステージBからピモベンダン投与を開始することで、充血性心不全への進行を平均約15ヶ月遅らせることができます(ACVIM EPIC試験)。

治療薬は以下のようなものが使われます:

薬剤目的
ピモベンダン(ベトメディン)心臓の収縮力強化
フロセミド(ラシックス)利尿・浮腫軽減
ACE阻害薬(エナカード等)心臓への負担軽減
スピロノラクトン心臓リモデリング抑制

2. 変形性関節症(関節炎)

シニア犬の約80%が何らかの関節炎を持つと言われています。特に肘・股関節・脊椎に多く、慢性的な痛みが生活の質(QOL)を大きく低下させます。

主な症状

  • 朝起き上がる際にぎこちない(モーニングスティフネス)
  • 階段の上り下りを嫌がる
  • 特定の足をかばうような歩き方
  • 座るとすぐ伸ばす・横向きに寝られない
  • 触ると痛がる・唸る

治療と日常ケア

  • NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬):メロキシカム、カルプロフェンなど。定期的な血液検査が必要
  • グルコサミン・コンドロイチン:軟骨保護サプリ。長期投与で緩やかな改善
  • オメガ3脂肪酸(EPA/DHA):炎症抑制。魚油サプリが有効
  • 水中トレッドミル(水中リハビリ):関節への負担を減らした運動療法
  • 低床ベッド・スロープ:環境改善で痛みを軽減

3. 認知機能障害(犬の認知症)

犬の認知機能障害(CDS: Canine Cognitive Dysfunction Syndrome)は、人間のアルツハイマー病に類似した疾患です。15歳以上の犬の約68%が何らかの認知機能低下を示すとされています。

DISHAA症状チェック

D: Disorientation(見当識障害)家の中で迷子になる・家具にぶつかる
I: Interaction変化飼い主に対して無関心・過度に依存
S: Sleep変化昼夜逆転・夜中に鳴く
H: House soiling室内排泄・トイレを失敗する
A: Activity変化活動量減少・常に歩き回る
A: Anxiety増加分離不安・パニックになりやすい

治療・サポート

  • セレギリン(Anipryl):ドーパミン代謝改善薬。日本では犬への適応外だが獣医師処方で使用
  • MCTオイル(中鎖脂肪酸):脳の代替エネルギー源として認知機能を改善
  • DHA・ビタミンE・Cサプリ:酸化ストレス軽減
  • 環境の固定化:家具の配置を変えない、決まったルーティンを守る
  • 脳を使う遊び:嗅覚ゲーム・食べ物を探させる遊びで認知機能を刺激

4. 貧血

シニア犬の貧血は、腎臓病によるエリスロポエチン産生低下、腫瘍、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、慢性炎症など多くの原因から起こります。

貧血のサイン

  • 歯茎・舌が白っぽい・薄ピンク色(正常は鮮やかなピンク)
  • ぐったりしている・運動を嫌がる
  • 息が荒い・心拍数が速い
  • 食欲不振・体重減少

歯茎が白い・青い場合は緊急状態です。すぐに動物病院へ連れて行ってください。輸血が必要な場合もあります。

5. 慢性腎臓病(CKD)

シニア犬で非常に多い疾患が慢性腎臓病です。腎臓の機能が徐々に低下し、老廃物が体に蓄積されます。初期症状が出にくい「サイレントキラー」であるため、定期的な血液・尿検査が重要です。

症状(ステージ別)

IRISステージクレアチニン(犬)主な症状
ステージ1<125μmol/Lほぼ無症状。尿比重の低下
ステージ2125〜250μmol/L多飲多尿、軽度の食欲低下
ステージ3251〜440μmol/L体重減少、嘔吐、元気消失
ステージ4>440μmol/L尿毒症、昏睡、全身衰弱

6. 肝臓病(慢性肝炎・肝腫瘍)

シニア犬の肝臓病は、慢性肝炎・胆嚢疾患・肝細胞がんが主なものです。ALTやALPなどの肝酵素値が血液検査で上昇します。特に特定犬種(ベドリントンテリア等)に多い銅蓄積性肝炎は食事療法が重要です。

肝臓病の食事療法の基本は「高品質の中〜低タンパク・低銅・高エネルギー」です。肝臓サポート処方食(ロイヤルカナン消化器サポート低脂肪など)が有効なことがあります。

7. てんかん・神経疾患

シニア犬では、構造的てんかん(脳腫瘍・脳炎由来)や脊髄疾患が増えます。若い犬の特発性てんかんとは異なり、原因疾患の治療が優先されます。

突然の発作・後肢麻痺・歩行困難が見られた場合はすぐに受診してください。

シニア犬の定期健診:何をいつ検査するか

シニア犬は年2回(6ヶ月ごと)の定期健診が推奨されます。人間でいうと2〜3年分の健康変化を6ヶ月でたどることになるからです。

検査項目目的頻度
血液検査(CBC・生化学)腎臓・肝臓・貧血・血糖・電解質6ヶ月ごと
尿検査(尿比重・蛋白)腎機能・膀胱炎・糖尿病6ヶ月ごと
胸部X線心拡大・肺水腫・腫瘍年1〜2回
心エコー(超音波)弁の状態・心機能雑音あれば毎年
腹部エコー腹腔臓器の腫瘍・胆嚢年1〜2回
血圧測定高血圧・腎臓病6ヶ月ごと
甲状腺(T4)甲状腺機能低下症(特に中型〜大型犬)異常あれば随時

定期健診の費用は血液検査・尿検査セットで1〜2万円程度が目安です。年2回でも4万円以内に収まることが多く、早期発見による治療費節約を考えると非常に合理的です。

シニア犬の食事管理

年齢別・病態別の栄養ニーズ

健康なシニア犬と、病気のあるシニア犬では食事の方針が大きく異なります。

状態タンパク質カロリー注意点
健康なシニア犬高品質・適量(維持量)代謝低下分を調整筋肉維持のため低タンパクは不要
腎臓病あり(ステージ2以上)制限(療法食)十分確保低リン・低ナトリウムも必要
心臓病あり(B2以上)維持〜やや制限適正体重維持低ナトリウム・オメガ3強化
肝臓病あり中程度(高品質)十分確保低銅・亜鉛補給
関節炎あり適量肥満を避けるグルコサミン・EPA/DHA補給

シニア犬の食事で注意すること

  • 太らせない:肥満はすべての慢性疾患(関節・心臓・糖尿病)を悪化させます。BCS(ボディコンディションスコア)3/5を目標に
  • かといって痩せさせない:サルコペニア(筋肉量低下)は生活の質を著しく低下させます。体重が急に減った場合は受診を
  • 消化しやすい食材を選ぶ:老化で消化機能が低下するため、消化しやすいタンパク源(鶏・白身魚など)が適切
  • 水分を積極的に摂らせる:ウエットフード・スープをプラスするなど工夫する

シニア犬の日常ケアと環境づくり

体への負担を減らす住環境

  • フローリングにマット・カーペットを敷く:滑って関節・脊椎を傷めることを防ぐ
  • 段差をなくす:スロープ・ステップを設置してソファや玄関の段差を緩和
  • 低い食器台:首への負担を減らす。ただし大型犬は首を伸ばして食べることで食道への逆流を防ぐため要注意
  • 柔らかい寝床:床ずれ防止・関節の痛みを和らげる低反発マットを
  • 室温管理:体温調節が苦手なシニア犬は夏の熱中症・冬の低体温に注意。18〜25℃を維持

適度な運動と認知刺激

  • 無理のない短時間散歩:関節に優しい芝生や土の道を選ぶ。疲れたらすぐに引き返す
  • 嗅覚ゲーム:マットにおやつを隠す「ノーズワーク」は体への負担が少なく脳を刺激する
  • 毎日のルーティン:認知症のある犬は決まった時間の散歩・食事で不安を軽減

歯磨き・ブラッシングのケア

シニア犬は歯周病が進んでいることが多く、細菌が血流に乗って心臓・腎臓・肝臓にダメージを与えます。週3回以上の歯磨きが理想です。嫌がる場合はデンタルジェルや噛むタイプのデンタルケアグッズから始めましょう。

緩和ケアと看取り

重度の疾患を抱えたシニア犬では、治療よりも「痛みや苦しみを最小化し、残りの時間を快適に過ごす」緩和ケアに軸を移すことが飼い主と獣医師で検討されることがあります。

  • 疼痛管理:NSAIDs、トラマドール、ガバペンチンなどで慢性痛を緩和
  • 食欲刺激剤:ミルタザピン(猫・犬用)で食欲を維持
  • 往診獣医師の利用:移動のストレスを減らすために、在宅での診察を依頼できる往診専門の獣医師も増えています
  • 安楽死の選択:苦痛が緩和できない末期には、苦しみを取り除く手段として安楽死(安楽処置)を選ぶ権利もあります。飼い主の気持ちに寄り添った判断を

各疾患の詳細記事

シニア犬に多い各疾患の詳しい解説は、以下の専門記事を参照してください。

よくある質問(FAQ)

Q. シニア犬の定期健診はどのくらいの頻度で行くべきですか?

A. 7〜10歳の健康なシニア犬は年2回(6ヶ月ごと)が推奨されます。11歳以上または慢性疾患がある場合は3〜4ヶ月ごとの受診が望ましいです。「何もなければ来なくてもいい」ではなく、「何もない状態を確認するために行く」という考え方が大切です。

Q. 犬が急に食欲をなくしました。様子を見てもいいですか?

A. シニア犬の食欲低下は1日以上続く場合は受診を推奨します。腎臓病・肝臓病・腫瘍・口腔疾患など深刻な原因があることが多いです。特に体重減少・嘔吐・多飲多尿が伴う場合は緊急度が高くなります。

Q. 老犬に手術は危険ですか?

A. 年齢だけで判断するのは正しくありません。術前検査(血液・心エコー・胸部X線)で全身状態を評価し、麻酔リスクを個別に判断します。若い犬より麻酔リスクは高まりますが、腫瘍除去・骨折整復・緊急手術など命に関わる場合は手術が最善の選択肢になることも多いです。

Q. シニア犬に特別なドッグフードは必要ですか?

A. 病気がない健康なシニア犬であれば、「シニア用」フードが必ずしも必要というわけではありません。むしろ筋肉量を維持するために高品質のタンパク質が豊富なフードが有効なことがあります。ただし腎臓病・心臓病・肝臓病が診断されている場合は、必ず獣医師に処方された療法食を選んでください。

Q. 夜中に鳴き続けるようになりました。どうすれば?

A. シニア犬の夜鳴きは認知機能障害・痛み・不安・視力低下などが原因になります。まず動物病院で認知機能検査と疼痛評価を受けてください。認知症が確認されれば薬物療法とMCTオイル補給、環境改善(ナイトライト設置・飼い主の近くで寝かせる)が有効です。

参考文献: ACVIM Consensus Guidelines on Heart Disease in Dogs(2019)/ Landsberg et al. Canine Cognitive Dysfunction Syndrome(Veterinary Clinics 2012)/ Innes JF. Osteoarthritis in dogs(Vet Rec 2012)

  • この記事を書いた人
院長

院長

国公立獣医大学卒業→→都内1.5次診療へ勤務→動物病院の院長。臨床10年目の獣医師。 犬と猫の予防医療〜高度医療まで日々様々な診察を行っている。

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